俺は後悔した 『壁画はどうだった?』
俺はザイオンの小屋でお叱りを受けた。
その帰りに勇者召喚で使われる祭壇近くで、メンバーと合流した。
どうやらサボったことはバレていないようだ。
シルヴィアは疑っていたが……さすが俺の馬鹿友だ。
似た思考を持つ俺のことを良く知っていらっしゃる!
まあ、何か言ってもロクなことにならないだろう……
相手をせずに放っておくことにした。
「壁画はどうだった?」
「勇者の歴史がわかって面白かったです!」
イリアは壁画の説明を思い出して少し興奮しているようだ。
あの退屈な説明を面白いとは……ここまでイリアは勇者が好きだったのか。
「あの説明をしてくれた人達の演技は本当に凄かったと思う」
「確かにな」
コーネリアの意見にラゼルが賛同した。
説明してくれた人の演技が凄かった? 演技じゃなくて説明だろ?
「どんな説明だったんだ?」
「ええと……3人で魔法を使ったりしながら、とにかく凄かったです!」
「魔王を倒す場面で使った魔法は凄くきれいだったわね」
「はい! 思わず拍手をしてしまいました」
イリアとコーネリアとで凄く盛り上がっているのだが、俺の時と何かが違う。
俺の時は髭を生やしたご老人が延々と歴史を説明していたのだが……
「なあ、聞いているとショーを見たような感じなんだが……」
「凄い演劇を見させて頂きましたよ」
「このような村で、あれほど完成度の高い演技が見られるとはな」
凄いパフォーマンスだったと嬉しそうに語るイリア。
完成度の高い演技だと言うガリウス。
二人の顔には最高の芸術に触れたかのような満足感が見られる。
どんなに凄い壁画の説明だったんだ?
むしろ、イリア達が行ったのは壁画の説明だったのかを問いたい。
「それ、本当に壁画の説明だったのか?」
「見られなくて残念だったわね。本当に、あの劇は凄かったんだから!」
「……そうか」
コーネリアの顔にもまた最高の芸術に触れたかのような満足感が見られた。
俺が壁画の説明を受けたのは130年前。
130年の間に壁画を説明する時の方針を変えたのかもしれない。
娯楽要素を取り入れて見ている人間の印象に少しでも多く残す方向に……
悪いことは出来ないものだな。
俺がザイオンに叱られている間に、みんなは楽しんでいたわけだ。
心底、サボったことを俺は後悔した。
もうズルイことをするのはやめようと、心の中で俺は誓った。
~引き続き 勇者召喚の祭壇近く~
壁画の説明……いや、壁画の演劇を見られなかったのは残念だ。
しかし、時が巻き戻ることはないので、俺は諦めて頭を切り替えることにする。
今は正午を少し過ぎた時間帯だ。
明日の出発まで自由時間ということになるが集団での観光が良いだろう。
これは俺の前世での知識だが……
始まりの村に住む人間は大半が早い時間に眠る。
このため、少し暗くなる時間になると遊ぶ場所はなくなる。
だが、日中は珍しい物などを見ることが出来る。
修業のために来た人間が多い村であるため、世俗的な街や村とは違う文化が育まれているからだ。
「この後は、観光とかどうだろう?」
「ワシは、賛成だ」
ガリウスは賛成してくれたが、他はどうだろうか?
気になった俺が他のメンバーの方を見ても、反対意見はないようだ。
「行ってみたい場所はあるか?」
「じゃあ、北にある教会に行かない?」
「教会……か」
「珍しい形の教会があるみたいなの」
「……行ってみるか」
俺達はシルヴィアの提案を受けて来たの教会に向かった。
だが、そこにあるのは教会ではなく……
「これは初めて見るな」
「このような教会があるのですね」
ガリウスとイリアは声を出して驚いている。
「これは赤い門?」
「縄か?」
ラゼルとセレグは、珍しい教会の造りに驚いている。
それぞれが、珍しい造りの教会を物珍しげに見ていた。
だが俺にとっては見なれた形の教会だ。
いや、教会ではない──神社だ!
俺は物凄く嫌な予感がした。
神社について教えてもらおうと、賽銭箱の前にいるシルヴィアに話しかけた。
「……なあ」
「なに?」
「この教会を建てたのって召喚された勇者か?」
「よく分かったわね。壁画の説明をしてくれた人に聞いたんだけど、勇者の1人が自国の教会だって村の人に教えたみたいなの」
「……そうか」
勇者の1人が、やらかしたらしい。
俺が召喚された時に神社は無かったから、俺の後輩勇者だと思う。
俺も馬鹿だから分かる。
こういうことをする馬鹿は、一度うまく行くと味を占める。
詳しく調べれば、世界のいたるところで、やらかしているハズだ。
──本当に1人だけか?
俺の脳裏に嫌な可能性がよぎった。
この神社を見た召喚された勇者が馬鹿だったら何を考えるのか?
俺なら自分の存在を世界に残すために色々とやらかすと思う。
「クレス、どうしました?」
「! ……イリアか。少し考え事をしていたんだ」
「そうですか。少し顔色が悪かったようなので……」
「だ、大丈夫だ」
俺はイリアが近づいてきたことにすら気が付かなかった。
それ程までに考え込んでいたのだろう。
前世の俺ですら日本の食べ物なんかの文化を流入させるのは躊躇した。
新しい知識が、どんな影響を世の中に与えるのか分からないからだ。
それを堂々と行うとは、羨ましいヤツめ!
俺は後輩勇者に軽いライバル心を抱きながら、教会を眺め続けた。
………
……
…
この後、ザイオンのもとへと俺は向かう。
そして神社以外に召喚された勇者がもたらした物はないか尋ねると……
『スバル様の魔法が、世界の魔法技術に革新をもたらしましたね』
──そう言えば、仲間に異世界の魔法を教えたな。
更にザイオンは付け加える。
『あの教会は、スバル様が魔法で革新を行ったと聞き、羨ましがった勇者様が伝えた物です』
ようするに俺のやらかした事を羨ましがった後輩が何かを残そうと考えた。
その結果、神社を残すことを考えたと……
どうやら、最初にやらかしたのは俺だったらしい。
俺は馬鹿と言われるが、魔法についてはチートがあってワリと凄い。
だから異世界の魔法を仲間に教えられたんだ。




