俺はサボった 『サボりましたね』
壁画見学を俺はサボった。
ザイオンに用事があるという名目で……
壁画を見るときには、勇者について説明する人間が一緒に来る。
その説明がとても長く、前世で召喚された時は眠らないのが最初の試練となった。
説明される内容は、勇者が突然生まれるようになったとかだ。
勇者は強く多くの脅威を世界から取り除いた。
だが勇者以上に強い存在が生まれるようになる。
その存在が魔王。
魔王は、これまでに存在しなかったほど大きな脅威だった。
もちろん魔王は、勇者や仲間の手によって倒されるのだが問題が起こる。
問題というのは、更に強力な力を持った魔王が生まれたこと。
この魔王により多くの勇者が倒され、軍隊を送りこんでも壊滅させられる。
そんな中で生まれたのが勇者召喚の儀式。
この儀式は、異世界から勇者の素質を持った人間を呼び寄せる物。
もちろんチート能力付きでだ。
勇者召喚の儀式が誕生したことにより、この魔王は倒される。
その後も強力な魔王が生まれるたびに勇者召喚が行われ続けた。
こんな内容だったと思う。
ちなみに勇者召喚の儀式は、強力な魔王が生まれた時にしか成功しない。
勇者と魔王の力の差が大きく開きすぎたときにしか儀式は使えないわけだ。
説明には『始まりの勇者』とか色々と出てきた気がするが覚えていない。
いや、眠気との戦いに必死で聞いていなかったとハッキリと言っておこう。
だから、これ以上の壁画に関する知識を俺は持っていない。
壁画見学をさぼった俺だが、アリバイ作りのためザイオンと会っている。
聖杯製作の状況を確認を名目にして……
昨晩、聖杯の制作を依頼したばかりなので、まだ出来ているハズはない。
「サボりましたね」
「な、なにをだ?」
「相変わらず……」
ザイオンは、俺がスバルが転生したのだと知ってから毒を吐くようになった。
この世界に初めて来た俺は、勇者召喚を行う一族の長と少しの間、旅をした。
毒を吐くのは、その長がザイオンの中に自らの意識を封じた影響だろう。
「他の皆さんは、壁画の方に行っているというのにサボるとは……」
「聖杯が出来ていないか気になったんだ」
「私をサボる口実にしないで下さい」
「……すまん」
「スバル様は、御自分の考えが浅いということを、もっと自覚なされた方が……」
俺は、しばらくザイオンのお説教を聞くハメになった。
どうやらアリバイを作る方法を間違えたようだ。
………
……
…
2時間ほど経ち、俺はザイオンが住む小屋から出た。
ザイオンの体を整備するため、墓地の近くに彼の小屋が用意されている。
俺は説教に耐え抜き、やっと解放された。
少しウトウトしていたら、彼が『スバル様……』と言って黙ってしまった。
あのとき感じた無言の圧力はキツかったぞ。
解放された俺は墓地から出て勇者召喚の儀式の祭壇前にまで来た。
この祭壇は村の中央部にあり、借りている空き家に帰るためには必ず通ることになる。
祭壇の近くに見なれた顔ぶれが見えた。
どうやら、俺が説教されている間に壁画見学が終わったようだ。
──素直に壁画見学に行けば良かった。
俺は心の底からサボったことを後悔し、零れそうになった涙を必死にこらえた。




