俺は砂船の乗り心地を懐かしんだ 『空が眩しいな』
俺達は砂の上を走る砂船に乗り白い砂漠を走っている。
130年ぶりになる砂船の乗り心地は……最悪だった。
「ぬおっ」
「きゃあっ」
ガリウスとシルヴィアが悲鳴を上げた。
悲鳴の理由は俺達が乗った砂船が襲われているためだ。
乗った砂船を襲っているのは鯨だ。
その鯨は高層ビル並み大きさで体が岩で出来ている。
「挟まれたぞ!」
「しっかり掴まっていろ」
俺は砂船に魔力を込めて一時的にスピードを上げた。
スピードアップは船体が持たないから一時的にしかできない。
「なっ」
「跳び上がりましたよ!」
上空を見上げるガリウスとセレグ。
2頭の鯨は空高くへと跳びあがり、砂船はヤツらの影に呑み込まれた。
跳び上がった物は、重力に引かれるわけだから……
「急いで!」
「くっ」
シルヴィアは迫りくる脅威から逃れるために俺を急かす。
俺は落下する鯨から逃れるため、限界まで魔力を砂船に込める。
そして一層スピードを上げた。
「間に合った……って!」
砂の中から上空高くへと跳んだ2頭の鯨。
ヤツらは重力に引かれて爆音を立てながら砂の上へと落ちた。
俺達は落下する巨体に潰されずに済んだが……爆音と共に強い風が巻き起こる。
そして鯨が生じさせた衝撃と風により大量の砂が津波のように俺らを襲った。
「マスターアース」
「風よ」
シルヴィアは風を操り、俺は砂を操る。
こうして、なんとか津波のような砂を防ぐことができた。
「お兄ちゃん! 前世で何をしたの!!」
「俺は何も……あっ!」
俺は前世でも今世でも何もしていない。
だが、死の砂漠を渡るのにするべきこともしていなかった。
「『あっ』て何だ!!」
「何したのっ!」
ラゼルとコーネリアが悲鳴にも似た声で俺を責め立ててきた。
もう俺は泣きそうだ。
「シルヴィア! 変われ!」
「ちょっと!」
砂船の中央にあるマストに魔力を流す役割をシルヴィアに押し付けた。
そして俺はアイテムBOXから横笛を取り出す。
「こんな時に何をしているのですか!」
「音楽を流しながら死の砂漠は渡らなければ襲われるんだ!」
イリアに言ったように、ココでは魔力を込めた音楽を流し続ける必要がある。
音楽を流すことで、鯨などを遠ざけられるからだ。
俺が横笛を吹くと……
「しゅー ふー しゅー」
「「「「「…………」」」」」
音が出なかった。
「ふざけてないで吹かんか!!」
「苦手なんだよ!」
怒鳴ったガリウスに俺は反論した。
俺は音楽センス0だ。
そんな俺が横笛など吹けるはずもない。
「貸して!」
怒鳴ったコーネリアが俺から横笛を奪った。
そして……
「~♪ ~~~♪ ~~♪」
コーネリアが横笛を使って見事な演奏を始めた。
彼女が演奏を始めると、鯨達は大きな音を立てながら去って行った。
「……間接キス」
イリアが悲しそうに何か言ったようだ。
だが去っていく鯨達が生じさせる爆音に、彼女の声はかき消された。
………
……
…
俺達は疲れ果てていた。
だがコーネリアには、ずっと横笛を吹いてもらっている。
「近くに鯨はいないから、休んでも良いぞ」
「うん」
彼女は横笛から口を離した。
「…………」
「…………」
誰も話をしようとはしない。
いつもは、ここぞとばかり俺は叱られるのだが……それだけ疲れたのだろう。
「すまん」
「…………」
俺は先手を打って謝ることにした。
早めに謝っておけば、後でのお叱りも少しで済みそうだから。
だが謝罪をしても他のメンバーは、少しだけ視線を俺に向けるだけだった。
俺は許してはもらえなかったようだ。
彼らに後で何を言われるのだろうか?
(空が眩しいな)
俺が自分の精神を守るために出来るのは現実逃避しかなかった。




