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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-C 凄い勇者は旅行をする
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俺は死の砂漠を超える 『出発だ』

『始まりの村』は岩山に囲まれた地域にある。

 さらに岩山を超えても次は死の砂漠と呼ばれる難所が待っている。

 

 死の砂漠というのは名前の通り危険な場所だ。


 白い砂が広がる美しい場所ではある。

 だが死の砂漠の砂には幻を見せる働きなどがあり、多くの死者が出ているんだ。


 そんな恐ろしい場所だが俺達にとっては、さほどの脅威はない

 

 まず岩山は転移方陣を使えば簡単に超えることが可能だ。

 死の砂漠に関しても砂の上を走る船に乗るという攻略方法が存在する。

 

 今、俺達は転移方陣で岩山を超えて死の砂漠の前に来ていた。

 

 そういえば、これが初めて全員での遠出だったな。

 少しワクワクしているのは秘密だ。

 

 

 ~~

 

「この先に始まりの村がある」

 

 俺は目の前に広がる白い砂漠を、指で指さしながら他のメンバーに伝えた。

 

「本当に白いのですね」

「気をつけろよ。見た目はキレイだが、幻を見せたりして危険な場所だからな」

 

 この砂漠は幻を見せる。

 更に体力や魔力をどんどん奪って行くから危険性が恐ろしく高い。

 

「ここから砂の上を走る船に乗るのよね」

「そうだ」

「どこにあるの?」

 

 シルヴィアは声を抑えクールな雰囲気で船について尋ねてきた。

 だがクールな声とは裏腹にソワソワしているのが分かる。

 

 よほど船に乗るのが楽しみだったのだろう。

 この子どもめ!

 

「船は大精霊の力を借りて作ることになる」

「大……精霊……」

 

 イリアの表情が一気に暗い物へと変わった。

 虚像の大精霊のトラウマがまだ残っていたのか。

 

「イリア! 力を借りるのは大地の大精霊からだ!」

「……ハ、ハイ」

 

 イリアは、震えながら俺を見ると無理矢理笑顔を作り答えた。

 

 自分の殻に閉じこもろうとするイリア。

 俺は彼女の心を引きとめることに成功したようだ。

 

 俺がイリアと話していると、後ろでヒソヒソと話声が聞こえた。

 

「イリアと大精霊の間に何があったんだ?」

「分からない。……でも聞かない方が良さそうだよ」

「……そうかもな」

 

 ラゼルはセレグに尋ねるも望む答えは帰ってこなかった。

 だがイリアの様子を見て人間として聞いてはいけないことだと感じたのだろう。

 イリアが抱く心の傷をえぐる質問はしなさそうで少し安心した。

 

 それにしても未だに虚像の大精霊のことを忘れられないとは……本当にスマン。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ」

 

 イリアが少し疲れているようにも感じるが、一仕事してもらわねばならない。

 

「悪いが、こいつに大地の上位精霊を呼び込んでくれないか?」

「はい」

 

 俺はイリアに『大精霊のネックレス』というペンダントを渡した。

 

 先程まで怯えていたイリアに頼むのは少し罪悪感がある。

 だが大精霊のネックレスで船を作るには勇者の素質を持った人間が必要だ。

 

 勇者の素質はラゼルよりもイリアの方が開花が進んでいる。

 俺に関しても勇者の素質を抑えているから今回のような使い方はできない。

 だから彼女に任せるのが最善だろう。

 

「始めます」

「ああ」

 

 イリアは意識を集中させ、大精霊のペンダントに精霊を呼びこむ。

 

 すると砂漠の砂が意思を持っているかのようにウネウネと動き始める。

 そして5分ほどで船を作りだした。


「クレス……趣味が悪いわよ」

「俺のせいじゃない!」

 

 シルヴィアは、先ほど砂がウネウネ動いていたことを言っているのだろうか?

 それとも目の前にある船のデザインのことを言っているのだろうか?

 

「さすがにコレは……なあ」

「うむ……」

 

 苦笑いをしながらのスマイルが眩しいラゼル。

 そして顔を引きつらせながら頷いたガリウス。


「お兄ちゃん……」

「クレスさん……」

 

 コーネリアとセレグは、何故か悲しそうな目で俺を見ている。

 

「文句なら、コイツを最初に作った大精霊に言ってくれ!」

 

 出来上がった船は、かつて大精霊が作った物だ。

 もの凄く毒々しい色をしている上に、魔王御用達でも通用する形状でもある。

 前世の俺ですら初めてみたときにドン引きしたほどのデザインだ。

 

 俺がデザインの責任を押し付けられているとイリアが目を開けた。

 彼女にも何か言われるのではと俺が身構えていると……

 

「……カッコいい」

「「「「「えっ」」」」」

 

 イリアは、凄く嬉しそうな目で船を見ながら呟いた。

 そう言えば彼女は、常軌を逸したデザインセンスを持っていたな。

 

「ま、まあ、感性は人それぞれだよな」

「そ、そうよね」

 

 ラゼルがイリアのセンスに顔を引きつらせながらフォローを入れた。

 そしてシルヴィアもまたラゼルの言葉に賛同の意を表している。

 

「コイツは砂船させんと言って、砂の上を走れるんだ」

「これで、村まで行くの?」

 

 俺はイリアのセンスを深く追求してはいけないと感じ、砂船について説明した。

 コーネリアも空気を呼んだのだろう、俺の話に乗ってきた。

 

「では、乗るとしよう」

「ああ」

 

 ガリウスもまたイリアが作った空気に耐えられなかったのだろう。

 砂船に乗ることを提案してきたので、俺は賛成した。

 

 イリアは……恍惚こうこつとした表情で船を見ている。

 彼女の至福の時を邪魔して良いものか悩むところだな。


 しかし彼女手を引き強引に砂船へと乗せることにした。

 

 砂船へと乗った後、イリアは自分の手を気にしているが……

 強く手を握りすぎたのだろうか?

 

 話しかけて砂船のデザインについて尋ねられるのが怖い。

 だから謝るのは後にしようと思う。

 

 俺は砂船の中央部にある帆のような部分に魔力を込めた。

 ここに魔力を込めることで砂船は自動的に『始まりの村』へと向かうんだ。

 

「出発だ!」

 

 俺の声とともに砂船は白い砂漠を走り始める。

 

 砂漠には砂を巻き上げない程度の僅かな風だけが吹いていた。

 照りつける太陽は少し眩しい。

 

(懐かしいな)

 

 俺は前世で初めて砂船に乗った時のことを思い出していた。

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