俺は夢を見た 『旅行に行こう』
朽ち果てた教会にて1人の女性が目を瞑り祈りを捧げていた。
月の明かりに照らされた金色の髪が時折吹く風に揺れる。
幾ばくかの時が過ぎると、彼女は目を開け祈りを終えた。
そして傍らに置いた剣を手に取って立ちあがる。
「待たせたな」
「もういいのか?」
「ああ」
女性は、後ろで壊れかけた椅子に座る若い男性に声をかけた。
「神様か……」
「私を笑うか?」
「なぜ笑う必要があるんだ?」
「お前が神殺しの勇者だからだ」
「好きで倒したわけじゃないんだがな」
男は笑みを浮かべながら言った。
神殺しを行った者にとって、神に祈る者の姿はどのように映るのだろうか?
滑稽だと笑うか、哀れに思うか……
「まあ、これからの事を考えれば、神について語っても無意味だろう」
「……そうかもな」
男性が真剣な顔で答えると、女性もつられるように表情を変えた。
月の冷たい光は崩れた教会の屋根から射し込んでいる。
真剣な表情で見つめ合う2人。
その顔には命を賭して何かに挑もうとする強い意思が映されていた。
………
……
…
「眠い」
「お兄ちゃん、目の下に隈ができているよ」
いつもと同じ時間に眠ったのに関わらず、眠りが浅かったのか疲れていた。
子どもにとって良質な睡眠の確保は重要課題であるに!
「変な夢を見てな」
「ふ~ん」
「興味が全くないみたいだな」
「普通は他人の夢に興味を持たないと思うよ」
コーネリアの言うとおり、他人の夢に興味を持つヤツは少数派だよな。
「……聞いて欲しいの?」
「わかるのか?」
「顔に出ているから……」
そういえば、俺は考えていることが顔に出やすいんだった。
「話してもいいか?」
「いいけど、ご飯を食べちゃってからね」
「分かった」
俺は朝食を食べ終わってから夢についてコーネリアに話すことにした。
もっとも、食べ終わる頃には夢の内容を完全に忘れていたのだが……
コーネリアに夢の内容を忘れたというと『そう』とだけ言った。
妹は俺が見た夢を忘れることを見越していた……なんていうことはないよな?
~世界樹がある森~
世界樹のある森には全員が集まっている。
「旅行に行こう」
「いきなり何を言っているんだ!」
ラゼルが俺にツッコミを入れた。
彼の中で、勇者以外の素質が少しずつ開花している気がする。
「欲しいアイテムがあってな」
「1人で行けばいいだろう」
寂しいだろ! と言ったらシルヴィアに何を言われるか分からない。
だから心の奥に本心はしまっておく。
「そのアイテムは、勇者召喚が行われる村にあるんだ」
「ひょっとして『始まりの村』のこと?」
「ほ~う」
シルヴィアが始まりの村という言葉を発した。
するとガリウスが興味深そうに唸った。
ガリウスは始まりの村に興味があるようだ。
「始まりの村ですか?」
イリアは始まりの村について知らないらしい。
数少ない俺の凄い所を見せるチャンスだ。
「しょ……」
「召喚された勇者が初めてこの世界に降りる場所だから『始まりの村』と呼ばれているの」
「その……」
「その村には勇者召喚を行える特別な人達がいるわ」
「ただ……」
「ただ周囲は砂漠で辿り着くのは凄く大変で、村に行こうとする人は少ないの」
「でも……」
「でも勇者達は砂の上を走る船に乗って村から出るって聞いたことがあるわ」
「その……」
「その船に乗って村に行こうというわけなのクレス?」
「あ、ああ」
何かを言おうとするたびに、シルヴィアは俺の言葉を遮り続けた。
俺の凄い所を見せる機会だったのに……
全部シルヴィアが持っていきやがった。
「詳しいですね。シルヴィアさん」
「始まりの村は冒険者の間で幻の村って呼ばれているの」
「そんなに珍しい場所なのですか?」
シルヴィアをコーネリアとイリアが褒めている。
俺に向けられるはずだった称賛が全てシルヴィアに……
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、なんでもない……話を続けてもいいか」
俺は考えていることが顔に出やすい。
だから話を切り替えて、シルヴィアへの妬みがバレないようにした。
その後、『始まりの村』に行かないか俺は全員を誘った。
始まりの村は勇者と関わり合いの深い場所だ。
特にイリアとラゼルは勇者の素質を持っているので見た方が良いと思う。
もちろん始まりの村周辺には結界が張られている。
だから喰らう者に襲われる心配もないだろう。
この後の話し合いの結果、全員で『始まりの村』に行くこととなった。
ちなみに始まりの村に行く日はイリアの学校が休みになる日に合わせた。
※前回、喰らう者が結界が張られているハズの王都に侵入した。
だから護衛にもなるガリウスとシルヴィアの2人が来ないのならイリアとラゼルは置いていくつもりだった。




