俺は地下へと向かった 『あの時は急いでいたんだよ!』
俺達は魔王城『ラジ・アーシカ』へと入った。
この城は違う世界にあるハズの城だが、何故か俺らの世界にある。
考えても情報不足で分からんし、地下の調査だけ進めようと思う。
~魔王城 ラジ・アーシカ 玉座の間~
俺達は魔王城にある玉座のままで来た。
屋根には穴が空き、風雨に晒され続けたのだろう玉座はボロボロだ。
部屋もまた、あちこちが崩れている。
「どう?」
「大丈夫みたいだ」
シルヴィアが後ろで見守る中、俺は玉座の壁に立て掛けられた鏡を調べている。
この巨大な鏡に魔力を通すことで地下への道が開く。
「特別な加工をしてあったんでしょうね」
「そうだな」
セレグの言うとおり、特別な加工をしてあったらしく新品同様の状態だ。
玉座や部屋の状態と比べると違和感を感じざるえない。
「始めるぞ」
俺は後ろにいるシルヴィアとセレグ、あと数人の研究者に声をかけた。
「「ええ」「はい」」
俺が魔力を流すと鏡の表面に波紋が広がる。
そして鏡像は階段へと変わった。
「うまくいったようだな」
「もう少し派手なのを期待したのですが……」
「俺も初めて見たときにはガッカリした」
セレグが言うとおり、もう少し派手でも良いと思う。
魔王城は派手さで周囲をビビらせてなんぼだ。
だがココの主は機能性重視の魔王だった。
魔王の矜持という物が分かっていないヤツだ。
──勇者だった俺が言うのもなんだが。
「ここで魔王の矜持を語っても仕方ない。行こう」
「魔王の矜持ってなんですか?」
「クレスの言うことは、気にしちゃダメよ」
シルヴィアは俺の扱いが良く分かっているようだ。
「行くぞ」
俺が鏡に触れると、鏡像に波紋が広がる。
そして薄い布を全身で押すような感覚を味わいながら鏡の先に向かった。
………
……
…
俺達は鏡の先へと辿り着いた。
シルヴィアは鏡を通る前、研究者たちに安全を確認したら呼ぶと伝えたらしい。
だから俺とシルヴィアとセレグの3人だけだ。
「ここを降りるんですね……」
「そうだ」
「仕方ないわね」
鏡の先には金色の螺旋階段が続いている。
階段の先は暗くて見えない。
「足元に気をつけろよ。落ちたら痛いから」
「痛いどころか命に関わりますよ!」
セレグは必死の形相だ。
いつもとキャラが変わっているな。
「高いところは苦手か?」
「この高さが異常なんですよ~」
「そうか」
俺は螺旋階段の先を覗いてみた。
「昔は階段で降りるのが面倒で飛び降りたんだがな」
「やっぱり馬鹿ね」
「今は命に関わるからやらないぞ」
「命に関わらないとやるんですね……」
シルヴィアとセレグの目を見ると、俺を見下す視線となっていた。
あの時は、俺が奪う予定だったこの城を魔王が爆破しようとしたんだ。
急がないわけにはいかないだろ。
「あの時は急いでいたんだよ!」
「「はいはい」」
2人は俺の言葉を頭の悪い言い訳として受け流したようだ。
これ以上の説得は不可能だろうな……俺の頭では。
「じゃあ、行くか」
「ええ」
「そうだ……」
俺は2人の説得を諦めて先に進むことにした。
だが返事をしたシルビアを見て伝えておかないことがあることを思い出した。
「シルヴィア、1つ言っておくが……」
「なに?」
「高いところが苦手だからって、セレグで遊ぶなよ」
「……あっ」
今の『あっ』で、『遊ぶのを忘れていた』という心の声が聞こえてきたぞ。
「シルヴィアさん……」
「…………」
悲しそうな目でシルヴィアを見つめるセレグ。
シルヴィアは、その目をじっと見つめている。
数秒の間をおき……
「……クレス! 私がそんなことするわけないでしょ!」
俺を責めることで責任から逃れようとした。




