俺は魔王城に行く前に休憩した 『お母さん』
森で道に迷った俺達は何とか元の場所に戻れた。
シルヴィアに変な謝り方をさせられたせいで色々と失った気がする。
いずれ仕返しをしようと思う。
元いた場所に戻れた俺達は素直に道標に従い研究職員の拠点に辿りつけた。
拠点は魔王城がある崖……というか山のふもとに建てられた建物だ。
地球で言えばコンクリート製の建物っぽい外見になっている。
「ここだな」
「ええ」
「…………」
セレグは途中から全く喋らなくなった。
彼の体力を考えると目が死んでいるのは仕方ないことだろう。
「セレグ。これで休めるぞ」
「…………」
セレグは、ゆっくりと俺の方を見るだけだった。
目に生気を全く感じないのは怖いな。
「クレス。迷ったことを後で謝りなさいよ」
「……そうする」
俺達の会話はセレグに届いていないだろう。
すでに彼は限界を超えていて周囲に注意を払う余裕はないだろうから……
「じゃあ、入るか」
「ええ」
俺達は研究者達の拠点の中に入った。
………
……
…
「初めまして、オウリスと言います」
「初めまして、シルヴィアです」
オウリスという所長の話相手はシルヴィアがしている。
俺は子どもだからシルヴィアに任せると伝えておいた。
色々と尋ねられると面倒だからな。
俺はシルヴィアのいる部屋とは別の場所にいる。
何故なら所長と話している最中に限界を迎えたセレグが倒れたからだ。
俺はセレグの看病を別の部屋でしている。
セレグはベッドでグッスリと……息は……しているようだ。
少し心配になった俺は、セレグが息をしているのか心配になった。
だが僅かに体が動いているので大丈夫そうだ。
セレグは大丈夫そうなので魔王城の現状を軽くまとめておく。
この拠点は魔王城を調べるために作られた。
現在は一通り調べ終わり多くの研究者が去った後だ。
だが俺の記憶によれば目指す城の地下は魔法によって隠されている。
渡された資料にも載っていなかったため調査の手が届いていない可能性が高い。
ケット・シーの大長老に渡された資料。
そして遠目にだが見た城の外観。
この2つから考えて『ラジ・アーシカ』で間違いないハズだ。
あとは魔法で隠された地下へ行き装置が生きているか調べる作業が残っている。
大長老から渡された資料には地下の情報が無かった。
だから情報が隠されたか調べられていないかのどちらかのハズ。
まあ、ここはケット・シーの影響力が強い地域だ。
だから情報が隠されているような事はないと思うがな。
さて俺達の予定なんだが、今日はココに泊まり明日出発する。
セレグを連れていくかは明日の様子を見て決めた方が良いだろう。
後はシルヴィアが来るのを待つだけだ。
俺は待っている間にシルヴィアへの仕返しを考えることにした。
~30分後~
俺達は食堂へとやってきた。
セレグは眠ったままだ……大丈夫だよな?
「予定通り明日出発ということになったわ」
「そうか」
俺達は食事をしながら明日のことについて話し合っていた。
現在は研究職員も少ないが、それでも人はそれなりにいる。
職員の多くがシルヴィアをチラチラ見ている。
男性は魅力的な異性を見る目で、女性は羨望の眼差しで……
俺が予想した通り、人の多い場所だとシルヴィアは注目を浴びる。
ここで変な謝り方をさせられた仕返しをしようと思う。
「お母さん、セレグ大丈夫かな」
「ついに頭まで幼児化したの?」
シルヴィアは、俺が『お母さん』と言い間違えたと思っているらしい。
反応が呆れたような感じだ。
「明日出発なんだよね。お母さん」
「馬鹿なことをしていないで……」
シルヴィアは、ようやく周囲の状態に気付いたようだ。
彼女をチラ見していた職員達の反応は変わっていた。
どう変わったかは、ご想像にお任せしよう。
「ちょっ わざと!」
「お母さん。どうしたの?」
俺はシルヴィアへの仕返しに成功した。
だが……どのタイミングでこれをやめれば良いのだろうか?
とりあえず限界までやってみるか。
5分後、俺の『お母さん』はシルヴィアが笑顔で放った拳で終わった。




