俺はイリアの見舞いに行った 『大切……』
俺は悪魔や魔王のことをシルヴィアとガリウスに伝えた。
それから1日が経ち、朝早くに俺達はイリアとラゼルが眠る病院に向かった。
昨日は次元の狭間からの転移魔法で魔力が無かった。
更に病院が夜ということで閉まっていたため入れず1日置かざるえなかった。
残念なことに俺の完全回復可能な魔法は1日に1度が限度だ。
だから、まずはラゼルから完全回復魔法をかけた。
イリアが起きていたら自分よりもラゼルからと言うだろうからな。
だがラゼルはすぐには起きなかった。
完全回復魔法は傷などを無理矢理治す魔法だ。
だから肉体や精神、魔力、生命力など様々な面への負担が大きい。
1日~2日は眠ることになるだろう。
ラゼルに完全回復魔法をかけた翌日、イリアにも魔法をかけた。
イリアもまた、すぐには起きなかった。
このため、イリアとラゼルが目を覚ますまで俺達は待つことになった。
最初に起きたのは、やはりラゼルだった。
目を覚ましたラゼルにセレグは泣きながら抱きついた。
ラゼルは困り顔だったが、しばらく経ったらセレグの頭を撫でていた。
ガリウスはラゼルが目を覚ましたあと軽く笑い病室から出ていった。
誰もいない所で泣いていたのかもしれない。
抱き合うセレグとラゼルを、シルヴィアとコーネリアも嬉しそうに見ていた。
だが俺が感じた嬉しいという感情とは、少し違うことで喜んでいた気がする。
2人の目は凄くキラキラしていた……なぜか怖かった。
そしてラゼルが目を覚ました2日後にイリアが目を覚ました。
「よう」
「あっ その……おはようございます」
イリアの病室を訪ねた俺にイリアは恥ずかしそうに挨拶をしてくれた。
コーネリアとシルヴィアは、用事があるらしい。
ガリウスとセレグは、ラゼルをしばらく見てから来ると言っていた。
だから病室には俺とイリアの2人しかいない。
シルヴィアは『ごゆっくり♪』と嬉しそうに言っていた。
病室でくつろぐのは病人に神経を使わせるから良くないと思うのだが?
「これ」
「お花……」
シルヴィアが花束を持っていくようにアドバイスしてくれたから持ってきた。
だが黄色いバラやら何やらを持っていこうとしたら凄く怒られてしまった。
だから店の人に作ってもらった花束だ。
俺は花瓶をアイテムBOXから取り出す。
そして水っぽい物もアイテムBOXから取り出し、持ってきた花を挿した。
「ありがとうございます」
「いや」
イリアはベッドで起き上がり微笑んでいる。
弱々しさを感じるが、もう安心だろう。
「回復魔法の負担は消えていないハズだから無理はするなよ」
「ええ……あの、ヴァネッサ先生達は……」
「彼女達は無事だ」
俺はヴァネッサ達についてイリアに伝えた。
隠すわけにもいかないので魔王転生の儀式などについても伝えた。
悪魔や魔王と戦ったことを伝えたら落ち込んでしまった。
だがヴァネッサ達が無事だったことを伝えると少しだが元気を取り戻したようだ。
「……すみませんでした」
「気にするな。と、言っても無理か」
「……はい」
今回の件はイリアやラゼルは巻き込まれただけだから落ち度は全くない。
それに俺が動いたのも私的な感情からだ。
だがイリアの性格を考えると責任を感じるのは当たり前か。
「入学祝いを渡したときさ……」
「…………」
イリアは顔を上げ俺を見た。
「俺は警護兵に捕まりかけてイリアが助けてくれたよな」
「……ええ」
イリアは力なく答えた。
「ラゼルやセレグと会った時は、俺が誘導したせいで迷子になった」
「……そんなこともありましたね」
「俺は今までイリアに迷惑ばかりかけてきた」
「そんなことは……」
「馬鹿なりに迷惑をかけているのは分かっているんだ」
「…………」
「でさ、これからも俺は迷惑をかけると思う」
「はい」
「俺も迷惑かけるわけだから、イリアも俺に迷惑をかけてくれないか?」
「ですが」
「その方が罪悪感が少なくて済むからさ」
「……はい」
イリアの表情が少しだけ緩んだ気がした。
もう少し気のきいたことを言ってやれれば良かったのだが……俺にしては上出来か。
………
……
…
この際だから今まで隠していたことを告白しておこうと思う。
「あと、謝っておきたいことがあるんだ」
「なんでしょう?」
「初めて会った時のこと覚えているか?」
「森で迷っている私を助けて下さいましたね」
イリアは少し懐かしそうだ。
「霧を発生させて迷子にさせたのは俺だ」
「そうで……えっ?」
イリアは固まってしまった。
「あの頃、勇者の素質があって、勇者に興味のある人間を探していたんだ」
「それで私を見つけたと?」
「そうだ。だがイリアと話す機会が無くてな。強硬策に出た」
「そうだったのですか……」
何かを考えるようにイリアは口を閉じてしまった。
「勇者になれれば誰でも良かったということは?」
「あの頃は必死だったからな。だが今はイリアと会えて良かったと思っている」
「えっ」
イリアは一瞬驚いたような表情をしたあと顔が凄く赤くなった。
「イリアと会ってから俺は変わったと思う」
スバルだった頃の俺ならイリアが倒れた時どうしただろうか?
きっと自分の怒りを晴らすために戦っていたと思う。
だが俺は彼女が背負わせたくなくて生贄を助けることを優先した。
さらに魔人をガリウスに任せた。
イリアと関わる内に俺は変わったのだろうな……きっと。
「そ、そうですか」
「今回のことでイリアが大切な存在だってわかった」
「大切……」
イリアは毛布を抱き寄せた。
「イリアが本当に大切なんだって思ったんだ」
「本当……ですか?」
イリアは毛布を先ほどよりも一層強く抱き寄せ、顔は先程よりも赤くなっていた。
「ああ、イリアを本当に大切な弟子だって分かった」
「はい……えっ……弟子……」
なぜかイリアは元気が無くなった。
まだ疲れが残っていたのかもしれない。
「今はゆっくりと休んで……イリア?」
「そうですよね……いつものことですから……フフ…………フフフ……」
イリアは凄くいい笑顔を見せてくれた。
だが俺は、その笑顔に根源的な恐怖のような物を感じている。
「イ、イリア」
「……なんです? クレス……フフフ」
眩しい程の笑顔だが何でこんなに怖いのだろう。
「フフフ」
「あの……な」
「フフフ」
「なあ」
「フフフ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
俺は少しずつ後ろに下がり病室のドアにまで近づいた。
「じゃあ、また来る」
「クレス♪」
「な、なんだ?」
俺はイリアが怖くて背中を彼女に向けられなかった。
だから彼女の方に体を向けたまま後ろに下がる形となり、ドアに背を向けている。
「フェンリル」
「えっ」
イリアはなぜかフェンリルを呼び出した。そして……
「舐め回しなさい」
「ちょっ……」
「迷惑を少しだけかけさせて下さいね」
自分で言った手前、抵抗できなかった。
その後、俺はフェンリルから逃げられなくなり舐め回された。
体中がフェンリルの唾液まみれになる程に。
イリアは困難を乗り越えて少し強くなったようだ。
翌日、イリアは謝ってくれた。
だがイリアから何かを聞いたらしいシルヴィアからは俺の頭に全力で拳を落とされた。
なぜ殴られたかは教えてくれなかった。




