俺は帰って来た 『よう!』
~次元の狭間~
目を覚ました俺の目にはヒビ割れた空が映った。
数枚のガラス片を並べたかのような空。
ある欠片は昼、別の欠片は夜、別の欠片は雨……など別々の空が映っている。
(そう言えば次元の狭間にいたんだったな)
俺は自分が次元の狭間にいたことを思い出しながら起き上った。
周囲を見渡すと爺さん……時の大精霊が、ちびちびとグラスで酒を飲んでいる。
「よう」
「起きたか」
爺さんは口にグラスを運ぶ手を止め俺の方を見た。
顔は少し赤くしており俺に恋してい……じゃなく酔っているのが分かる。
「さっそく元の世界に戻るのを手伝って欲しいんだが……大丈夫か?」
「造作もないことじゃよ」
赤い顔を見ると不安しか感じない。
だが手伝ってもらわないと俺は帰れないから仕方ない。
まあ問題はないハズだ……昔は青い顔の状態で手伝ってもらったし。
「お主なら自力で帰れるはずじゃがな」
「勇者の素質を封じているから無理だな」
俺の能力は勇者の素質と連動している。
このため、今は前世で使えた能力の大半を使えない状態だ。
転移魔法の強化版ともいえる能力も使えない。
「お前さんから素質をとったら何も残るまいに」
「俺は平穏に生きたいんだよ」
今回は魔王や悪魔と戦ったが事故みたいな物だ。
俺は、これからも平穏に生きることを目指す。
イリアには俺の平穏のために剣や魔法を教えていく。
「まあ、お主の自由じゃな」
「ああ」
爺さんは俺がまた危険に飛び込むと思っているのだろう。
勇者をやる気はないがこれからも色々とあるだろうな……きっと。
「そうだ、悪魔と戦う時には手を貸してくれ」
「平穏に生きるんじゃないのか?」
「保険だよ。いざという時のな」
「良いじゃろう。悪魔はワシらにとっても厄介じゃからな」
俺は悪魔に対して虚像の大精霊の力を借りて戦った。
だが一度力を借りた大精霊からはしばらく力を借りられないなどの欠点がある。
いざという時、どの大精霊も力を借りられない状態だと困る。
このため時の大精霊である爺さんにも協力してくれるように頼んだ。
これで次元の狭間でやることは一通り終わったな。
「じゃあ、そろそろ頼む」
「次に来るときは、つまみも頼むぞ」
「ああ。当分先になるがな」
「楽しみにしとるからな」
爺さんは俺に笑いながら言った。
「我は天の門を開きて彼の地への道を求める。我の名はクレス。大地を歩きし人の子にして天の道を歩む資格を有す者。彼の地の名は『アルザリア』 星の門よ開きて我に道を示せ」
こうして俺は、時の大精霊の力を借りて次元の狭間から転移した。
~王都アルザリア~
俺は転移してアルザリアに着いた。
小さな家の中の隠し部屋に転移方陣は設置してある。
※アルザリアというのはロザート国の王都の名前
(さすが時の大精霊だな。酔っていてもキッチリ仕事をしてくれた)
俺は爺さんを見直しながら家を出ると外は夜だった。
とりあえず俺はシルヴィアに連絡を入れる。
もちろんス○ホもどきの通話石でだ。
2人はガリウスの家にいるらしく俺も向かうこととなった。
………
……
…
「よう!」
ガリウスの家に入った俺は片手を上げて2人に挨拶をした。
「どこ行っていたのよ!」
シルヴィアから俺に対して怒声が浴びせられた。
「少し次元の狭間に行っていた」
「はぁ?」
彼女の表情から『何この馬鹿は言っているんだ』という想いが伝わわって来た。
いきさつを話すため俺は悪魔と戦ったことと魔王に襲われたことを伝えた。
「魔王とはな」
ガリウスはうつむきながら言った。
なんとなく戦いたがっているのを感じる。
「その魔王はどんな特徴だったの?」
「そうだな……」
俺はシルヴィアに出会った魔王の特徴を伝えた。
「ヒルデ……かもね」
「知っているのか?」
「ええ」
シルヴィアは深刻そうな顔でヒルデという名を口にした。
「通称『銀光の魔王』」
「銀光の魔王か……」
銀色の髪と風のような剣技からついた通り名らしい。
アイツとの戦いを思い出すとピッタリの通り名だ。
「今回の件はヒルデが裏で動いていたのかもね」
「魔王が裏で噛んでいる……か」
シルヴィアの言葉にガリウスは呟いた。
ヒルデが関わっていたのは、十中八九間違いないだろう。
俺を襲った理由はいくつか考えられる。
1.魔の立っていた場所で光った何かを回収するため。
2.俺を殺そうとしたのは聖鍵のありかを知るか確かめるため。
3.悪魔を倒せる力を持つ危険な俺を葬るため。
だが聖鍵を探しているのなら、ヤツは何も情報を持っていないということだろう。
聖鍵について知っている俺は少し優越感に浸った。
「なにニヤニヤしているのよ」
「秘密だ」
俺は転生してから顔に考えが出やすくなったようだ。
「あなたは前世でも、考えが顔に出るから笑いを堪えるのが大変だったわ」
「俺は前世から、考えが顔に出ていたのか」
「えっ……気付かなかったの?」
シルヴィアは目を丸くして衝撃の事実を知ったかのように言った。
前世から俺は考えが顔に出ていたのか……顔に出やすい性質が魂に刻まれているということだろうか?
「1つ尋ねたいのだが」
「なに?」
ガリウスがシルヴィアに質問した。
「魔人は王都の結界から影響を受けないのか?」
「そこが分からない所なのよね」
そう、魔人は王都の結界から影響を受ける。
少なくとも侵入したことぐらいは察知されるはずなんだ。
なのにイリア達が襲われても兵士が誰も来なかったという。
「そういえば魔王が何かを拾っていた」
「何を拾ったの?」
「キラッと光る何か」
「具体的には?」
シルビアが満面の笑みで質問してきた。
「……具体的には分からない」
「だろうと思った」
シルヴィアは、呆れたような声を出した。
彼女の笑顔を見た時点でこの展開は予想できたがな。
「王都に入れたのは魔人の能力か魔王の協力があったか……」
「考えるのは任せたぞ」
「自分でも考えなさいよ!!」
「俺の頭に期待するな」
「……全く。そう言われたら納得せざる得ないじゃない」
俺の頭に期待できないことをシルヴィアは納得してくれた。
少し悲しくなったが。




