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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-A 凄い勇者と魔王転生の儀式
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俺は次元の狭間を歩いている 『フフフ』

転移魔法は魔力が安定した場所で使わないと事故が起こりやすい。

事故が起こると意図しない場所や異世界などに転移して帰れなくなることもある。


俺が転移魔法を使ったとき、悪魔との戦いや魔王との戦いで魔力が乱れていた。

この為、まともな場所に転移魔法で飛ぶのは、本来不可能だ。


で、無茶な転移魔法を使った俺はというと、次元の狭間という場所を歩いている。


ココは一言でいえば荒野だ。

むき出しの土の上に所々草が生えており、遠くには岩山が見える。

だが空はガラスがヒビ割れたようになっていて少し怖い。


そんな空に違和感を感じながら俺は歩いていた。

しばらく歩くと視界の端に1人の老人の姿が映った。


「よっ じいさん」


俺が声をかけると……


「飯はまだかの」

「さっき食べたばかりでしょ!」

「……スバルか」


このやり取りで俺がスバルだと納得する以心伝心のご老人。

俺の盟友ともいえる時の大精霊だ。


「相変わらずノリが良いな」

「年の功じゃよ」

「俺を拾ってくれたのか?」

「それを狙って魔法を使ったんじゃろ」

「バレていたか」


通常なら深い干渉を避ける大精霊。

だが時の大精霊は少しだけ助けてくれる。


俺が次元の狭間を指定して転移した為、俺の転移に気付いてくれたのだろう。

時の大精霊が気付いてくれるか運頼みの転移だったが何とか成功した。


「ところで……」

「なんじゃ?」

「なんで爺さんに回収されたのに、転移した場所がココから離れていたんだ?」

「転移させる場所を特定して回収するのは疲れるからの」

「面倒だっただけじゃないか?」

「フォッフォッフォ」


笑って誤魔化しやがった。

助けてもらったためキツイことは言えないのが悔しい。


悔しいが追及も出来ないので別の質問をしてみる。


「そういえば俺はドコを漂っていたんだ?」

「次元と次元の隙間に挟まっておったのう」


俺は変な場所に挟まって出られなくなっていたようだ。

壮大だが間抜けな気がした。



~~


時の大精霊は次元の狭間に住んでいる。


茶色いスーツを着て茶色い麦わら帽子を被っている。

黒い瞳で白い髭を口元に生やしたナイスシルバーだ。


ちなみに帽子の下は見たことが無い。


「帽子の下が気になるのか?」

「分かるのか?」

「視線が帽子に注がれとるからの」


相変わらず俺は、分かりやすいヤツのようだ。

時の大精霊は俺を見てフォッフォッフォと笑っている。


「そうだ。俺を拾ってくれたことに礼を言っておく」

「相変わらず無茶をしたのう」

「今回は特別だ。死にかけている所を魔王に襲われたんだからな」

「どうせ自分から危険に飛び込んじゃろ」

「否定はしない」


考えてみれば自分から危険に飛び込んだんだよな。

魔王が出てくるのは計算外だったが。


「元いた世界に帰りたいのだが協力してもらえないか?」

「大精霊は特定の人物に協力はしないのじゃがな(チラリ)」


時の大精霊が口先では協力しないと言っている。

だが、その目は『出すもん出せば手を貸してやるぜ』という物だ。


「コイツでどうだ?」

「ほ~分かっておるの」


俺は酒のボトルを一本差し出した。

前世で俺が手に入れたウイスキーだ。


「幻と言われる酒だ」

「そうか。それは楽しみじゃわい」

「じゃあ、頼めるか?」

「……と、言いたいところじゃが」

「問題でもあるのか?」

「休んでからの方が良いじゃろうな」


そう言えば体力も魔力も限界が近かったな。

命がけの逃亡を成し遂げた興奮で疲れを忘れていた。


「じゃあ、一寝入ひとねいりしたら頼む」

「ワシは、コイツを楽しむとしよう」


時の大精霊は俺が渡した酒を顔の近くまで持ち上げニカッと笑った。

その顔には僅かながらイタズラっぽさを感じる。


「俺が起きたとき、酔いつぶれていたなんて勘弁してくれよ」

「それは、約束できんな」


時の大精霊と軽く笑いあった後、俺は眠りについた。



~夢の中~


「レス……クレス…クレス君」

「シロか」


俺が目を覚ますと……いやココは夢の中のようだ。


「うん。久しぶり」

「ああ、久しぶりだな」


しっかりと魔法少女の喋り方は実践しているらしい。

感心なヤツだ。このまま魔法少女の大精霊を目指してもらいたい。


「シロは夢を行き来できるのか?」

「ううん。私は記憶を利用して、スバル君の夢に入ったの」

「そんなこと出来たのか」

「最近出来るようになったんだ」


あれ?一瞬カチューシャの猫耳がピクっと動いた気が。

俺の萌えに対する想いは幻想すら見せるレベルになったのだろうか?


「どうしたの?」

「いや何でもない」


猫耳について聞いてはいけない気がした。


「そんなことよりも、どんな用事なんだ」

「今日は記憶を通って移動できるようになったから試しただけ」


シロはイタズラっぽく微笑んだ。


(そう言えば、こんなシーンを見たことがあったよな)


俺は前世で見たテレビアニメを思い出していた。

一応言っとくが未成年の時に見たかのだからな。

大人になってからは少ししか見ていない。


(うん?また猫耳が……)


俺は少しピクっと動いた猫耳に気付かないことにした。


「ねえ」

「うん?」

「クレス君は前世で、何回勇者として召喚されたんだっけ?」

「ああ、43回だったと思う」

「……そう、43回だよね」


また猫耳がピクっと動いた。

体の一部ということはないよな?


「なあ、シロ」

「なに?」


俺は勇気を出して猫耳について聞くことにした。


「頭の猫耳なんだが」

「?」

「ひょっとして……」


俺は猫耳について聞こうとした寸前で我に返った。


(俺は何を気にしていたんだ。大精霊なら猫耳が動こうが問題ないハズだ。それに、萌え要素の可能性もあるのではないか?)


自らの狭量さから貴重な萌え要素を失う所だった。

体の一部のように反応する猫耳が萌えとなるかは個人差があるだろう。


だが、しばらく放っておいて萌え要素か判断してから指摘しても良いハズだ。


「そうだな……うん、そうだ」

「クレス君、なんか怖いよ」


少しシロが怯えたよ。

俺は相当真剣な顔で考えていたのだろう。


魔法少女は愛と笑顔がパワーの源だからな。

怖がらせてはいけない。


「いや、なんでもない」

「そう?」


俺は魔法少女の笑顔を守り切った。


………

……


「じゃあね。クレス君」

「1つ聞きたいのだが」

「なに?」


俺はシロについて気になったことがある。

もちろん猫耳のこと以外でだ。


「シロは記憶を辿って俺の夢に入って来たんだよな」

「そうだよ」

「記憶を覗いたりとかは……」

「ふふふ」

「…………」


シロの笑顔が答えなんだろう。

シロは初めて会ったとき、前世で俺が焦がれた魔法少女の姿を選んだ。

すなわち俺の記憶を覗いたということだ。


「じゃあな」

「うん」


俺は話を強制的に打ち切ることにした。

これ以上、前世の恥部を覗かれたくない……手遅れだと思うが。

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