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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-A 凄い勇者と魔王転生の儀式
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獣王ガリウスと魔人 『ワシは力に狂っておるのかもな』

※残酷描写が、この話にはあります。

※叫び声とかばかりでごめんなさい。

遺跡にて魔王転生の儀式の生贄を助けたクレス。

彼はガリウスに大声で告げた。


「こっちは大丈夫だ!全力でやれ!!」


告げられた言葉にガリウスは不吉な笑みを浮かべていた。


「……やっと」

「なに笑ってやがる!」


殺気に満ちた笑みを浮かべるガリウスに魔人は臆すことなく叫んだ。

その叫びは、これまでの人を見下したものとは違う、本心からの感情がこもっている。


「お前らのせいで儀式が失敗した」

「ほう」

「そのせいで俺は悪魔に……」

「それがどうした?」

「なんだと」


ジェイクには焦りや不安が見られる。

一方でガリウスの瞳には強い怒りの感情が滲み出ていた。


「儀式の成否に関係なく、お主はワシが殺していた」

「ざけんな。テメーごとき…………お前も俺と一緒に死ね!」

「くだらん。ワシが引導を渡してやろう」


自棄を起こしたかのようなジェイク。

対してガリウスは激しい怒りを抱きながらも冷静だった。


戦いは、僅かな間をおくことなく突然に開始される。


猛スピードで相手へと駆けたガリウスとジェイクの拳がぶつかり合う。

ぶつかり合った拳は、肉や骨がぶつかり合ったとは思えないほど重い音を発した。


そして拳を合わせたままの姿勢で力比べとなる。

お互いにぶつけ合った右手の拳に全体重と力を込める2人。


「ヌオオォォォォォォ」


だが獣王の気合を込めた拳がジェイクの拳を押しのける。

ジェイクは後ろへとることとなった。


「ちっ」


ジェイクは相手の追撃を避けるため自ら後ろへ大きく後退する。

だが常人を凌駕する脚力のガリウスには問題にならない距離の後退だ。


ガリウスは、走り一気にジェイクの懐へと入りこんだ。

ジェイクは左手で拳を繰り出し牽制しようとするも……


「破ァッ」


ジェイクの拳を避け、ガリウスは脇腹に正拳突きを放った。


「ガハッ」


一瞬、意識が飛びかけるジェイク。

だが魔人の強靭な体を持つ彼は獣王の放った強烈な拳に耐え抜いた。


意識を刈りとれなかったことに気付いたガリウス。

彼は距離をとるため、ジェイクの腹部へと蹴りを放つ。


「そらッ」


叫びと共に放った蹴りは腹部へとメリ込み、ジェイクを大きく吹き飛ばす。

ジェイクの体は宙を飛び背中から石畳の上へと落ちる。


「ガッ」


ジェイクは背中から落ち、肺にあった空気を衝撃で強制的に吐き出された。

だが追撃を恐れたジェイクは、すぐに起き上がる。


「ハァ……ハァ…」


僅かな時間の攻防でジェイクは疲れていた。

肉体的にではない、精神的にだ。


魔人というポテンシャルに頼り切って好き勝手してきたジェイク。

彼にとって自分より格上の相手との戦いは未知の物だ。

故にガリウスとの戦いは、精神を削り取るのに十分すぎる物だった。


「魔人とは、こうも強いものなのか……」

「ヘッ 怖気づいたか?」

「フッ」


魔人の肉体が強靭であることに驚くガリウス。

対してジェイクは虚勢を張った……自分の心が折れないように。


「フッハッハッハ」

「!何がおかしい」


突如笑いだしたガリウス。

その顔は満面の笑みと言えるものだったが、底知れない恐ろしさがあった。


「お主に礼を言おう」

「狂ったか?」


皮肉を言うジェイク。

だが言いようのない不安を感じていた。


「そうだな。ワシは力に狂っておるのかもな」

「……………」


ガリウスの表情は真剣な物へとなっている。

ジェイクは表情の急な変化に警戒心を強めた。


「さて、より一層、己の力に狂うとしよう」

「なに?」


ガリウスの目に獣性が色濃く表れていた。


「ウオオォォォォォォォォォォ」


ガリウスが咆哮を上げると姿が変わっていく。


鍛え上げられた筋肉は一層盛り上がった。

骨格も変わっているのか骨が軋む音が周囲に響き渡る。

更に血のように赤い体毛に全身が覆われていく。


変化は数秒と関わらずに終わり、ガリウスは赤い人虎ワータイガーへと変わっていた。


人虎ワータイガーとなったガリウスの身長は2メートルを超えている。

そして全身に生える赤い体毛からは不吉さしか感じない。


「なんだ、その姿は」

「獣化だ」


この姿を変える能力が、獣人族を獣人たらしめるゆえん。


獣の姿となった獣人族は人間の姿だった頃に比べ大きく身体能力を高める。

ただし普通の獣人であれば理性が弱くなり敵味方を区別なく攻撃する。


「この姿になるのも久しぶりだ」


自らの手を見ながら喋り始めるガリウス。

その姿は獲物を狩る準備をしているかのようにすら見える。


「力加減が分からぬから、しっかりと防ぐがいい!!」

「なっ」


笑みとも威嚇ともとれない表情で叫びガリウスは襲いかかった。


一気にジェイクへ駆けるガリウス。

彼の脚力は人の姿だった頃を遥かに超えている。


ガリウスは右手の凶爪に力を込めた。

対してジェイクは全力で障壁を展開してガリウスの凶爪を防ごうとする。


「「ヌオォォォォォ」「チックショォォォ」」


次の瞬間、ガリウスの貫手ぬきてが障壁を貫き、ジェイクの左胸に深く沈んでいた。


「ガハッ」


口から血を吐くジェイク。

魔人の強靭な肉体であっても、このダメージは深刻だ。


「残念だな。ワシの見込み違いだったようだ」

「な、なん……で…俺は…魔人なのに」


彼は魔人となった自分が、なぜ圧倒されたのかとを理解できていないようだった。

だが、その答えは単純な物だ。


「お主よりもワシの方が強かっただけだ」

「そ…んな」


ガリウスは右手をジェイクの手から引き抜く。

彼の手には肉塊が握られていた。


その肉塊はジェイクの心臓。


生命力に特化した魔人を通常の攻撃で倒すには注意が必要となる。

その注意とは致死ではなく即死を狙う必要があることだ。


よってガリウスはジェイクの心臓を奪い即死を狙った。



「つまらん」

「……………」


ガリウスは心底残念そうにつぶやく。

彼の呟きが終わると同時に、ジェイクは力なく膝から崩れ落ちた。

ジェイクにガリウスが礼を言った理由。

彼が強すぎる己の力を受け止められるであろう強者であったことに対してだった。

もっとも見込み違いではあったが……

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