俺は遺跡の奥へと走る 『お楽しみだ』
俺とガリウスは森の奥にある遺跡の前に辿り着いた。
壁は、あちこちが崩れ落ちており長い時間放置されていたのが分かる。
だが膨大な魔力が集まっていることから人為的な何かがあるのは分かった。
この魔力は魔王転生に使うための魔力なんだろう。
「間違いなさそうだな」
「ウム」
俺達は遺跡を見上げながら話している。
「良いのだな」
「何がだ?」
「魔人の始末をワシに譲ることだ」
「構わない」
俺も魔人に手を下したい気持ちはあった。
だが生贄とされる者達を助けないと、イリアとラゼルは自らを責めるだろう。
俺の目的は2人に背負わせないことだ。
だから魔人との戦いはガリウスに任せることにした。
「行こう」
「ああ」
俺達は遺跡の奥へと入って行った。
~遺跡の奥深く~
遺跡の奥には1人の男が瓦礫の上に座っていた。
男がいる部屋は屋根が崩れており空が見えている。
「やっと治ったか」
忌々しげに呟く男は、茶色い髪に赤い瞳をした魔人だった。
シルヴィアが調べた情報によると魔人の名はジェイクという名前らしい。
「あのガキ……」
フェンリルに喰いちぎられた首の肉はすでに再生している。
ジェイクは首を撫でるように触れて状態を確かめていた。
「あのガキは、タダじゃおかねえ。だが……」
ジェイクは視線を部屋の中央に並ぶ石櫃へと移す。
石櫃……石の棺桶は全部で7つ用意されており中には人が眠っていた。
中央の石櫃には大人の女性が眠っている。
そして女性が眠る石櫃を囲むように、子ども達が眠る石櫃が置かれていた。
「どうするかは、魔王になってからのお楽しみだ」
ジェイクは邪悪な笑みを浮かべながら未来を思い描いていた。
最悪の刺客が迫っていることに気付かず。
………
……
…
それから数十分が経った。
ジェイクは儀式を行うのに最適な時が訪れるのを待ち続けている。
月が最も高く上る時を……
「そろそろか」
ジェイクは空を見上げた。
雲の切れ目からは満月が顔を覗かせている。
「さてと」
ジェイクはニヤケながら瓦礫から腰を上げる。
そして石櫃の中で眠る女性の元へと歩いて行く。
「お前も、俺の役に立ってくれよ」
ジェイクは女性の頬に触れながら、過去に喰った心臓の味を思い出していた。
~クレス視点~
俺達は遺跡の中を走り続けている。
遺跡内部は空間を歪められていた為、長い時間、走らされていた。
多くのモンスターと戦いながらの移動となったが足を止める必要はなかった。
俺とガリウスは迫るモンスターを通り抜けざまに始末している。
「雑兵が……」
俺らにとって、遺跡内のモンスターは片手間で葬れる雑魚でしかない。
しかしガリウスの顔には焦りの色が浮かんでいた。
彼の表情から俺らが進む先で大きくなった魔力を気にしているのがわかる。
恐らくは儀式が開始されているのだろう。
俺が、このように考えていると魔力の質が変わるのを感じた。
「これは!!」
「次元の穴が空いたようだ」
「それでは……」
「いや、まだ儀式は完了していないハズだ」
「そうか」
俺とガリウスは、今まで以上に走るスピードを上げて先を急いだ。
~ジェイク視点~
魔王転生の儀式が行われている部屋。
その部屋の空が見えていた天井部分には黒い穴が開いていた。
「ハッハッハ もう少しだ」
ジェイクは心底愉快そうに笑っている。
魔王転生の儀式を行うのは魔人の本能だ。
人間で言えば生命維持や種を残すことと同等の行為。
よって、今のジェイクは根源的な欲求が満たされつつある状態と言える。
「グウゥゥゥゥゥ……」
「来たか!」
黒い穴の奥から響く、この世のものとは思えない低い呻き声。
普通の人間にとっては不快極まりない声だ。
だがジェイクには心を満たす素晴らしい歌声のように聞こえている。
何故なら彼が待ち望んだ存在の声なのだから。
「さあ、来い!」
歓喜に満ちた声で、頭上の穴に語りかけるジェイク。
だが乱入者によって歓喜の時は砕かれた。
「ヌオオオオォォォォォ」
部屋にある唯一の出入り口から侵入した白髪の男性がジェイクに襲いかかった。
男性は右手を引き雄叫びを上げながらジェイクへと猛スピードで駆けていく。
「なっ」
突然の乱入者に驚くジェイク。
白髪の男性は一気に間合いを詰めてジェイクに拳を叩きこんだ。
「破ァッ」
ジェイクは両腕で乱入者の拳をガードする。
だが威力を殺しきれず体は大きく吹き飛ばされた。
「テメェー」
片膝をつきながら白髪の男性を睨みつけるジェイク。
だが乱入者は、冷たい目で魔人を見下ろすだけだった。
乱入者の名はガリウス・アルゼノン。
獣人達は武の頂きを求め続ける彼を『剛錬の獣王』と呼ぶ。




