俺が戦う理由 『せめて勇者になるまでは……』
この世界では、地球のような医療と魔法を組み合わせて治療を行う。
当然のように病院も存在する。
俺はコーネリアと共にイリアの病室にいた。
俺はイリアのベットの横に立っている。
椅子に座ったコーネリアがイリアの手を握りうつむいていた。
「イリア……」
イリアはボロボロだ。
体中に包帯が巻かれてベットに横たわったまま眠っている。
「この傷は、俺の魔法で治してやれると思う 」
「……………」
俺は何も答えないイリアに話しかけた。
「でもさ、今日は魔力が必要だから少しだけ我慢してくれ」
「……………」
俺は自分の背負うはずだったものを全てイリアに押し付けるつもりだった。
だが情を持ちすぎてしまったようだ。
「コーネリアは、イリアを見ていてやってくれ」
「ええ……」
コーネリアは、イリアの手を握りながら悲しげな声で答えた。
「じゃあ、また来る」
~~
暗い廊下ではガリウスが壁に寄りかかって目を瞑っていた。
彼と一緒に病室に入ったセレグはいない。恐らくはラゼルの側にいるのだろう。
「そっちは、どうだった?」
「…ボロボロだったよ」
「そうか」
俺に話しかけてきたのはガリウス。
表情は暗く、いつもの活力に満ちた彼とは別人のようだ
「そっちは?」
「……同じだ」
「そうか」
ラゼルは、ああ見えてプライドが結構高い。
不必要に様子を見に行くのは避けた方が良いだろう。
俺ならボロボロの自分を見られたいと思わないから……
俺はガリウスと同じように病院の壁に背を預けた。
それから流れた沈黙はとても長く感じられるものだった。
「知っていることを教えてもらえないか?」
沈黙を破ったのはガリウスだった。
イリアはココに担ぎ込まれたときに一言いったらしい。
『魔人が魔王になる為に先生がさらわれた』と……
魔人が魔王になる為と聞きシルヴィアはすぐに動いた。
今は情報収集をしてくれている。
「魔王転生の儀式というのは知っているか?」
「いや」
魔王転生の儀式は汚らわしい儀式として隠匿されている。
だから知らない人間の方がはるかに多い。
「魔王転生の儀式は、魔人が魔王になるための儀式のことだ」
「!!………」
ガリウスは一瞬だけ驚いたような表情をするも黙ってしまった。
色々と思うことがあるのだろう。
「それとヴァネッサという教師が連れて行かれたのは、生贄にするためだろうな」
「生贄は、その教師でなければならなかったのか?」
シルヴィアはヴァネッサの名前を聞き勇者だったと言った。
そして魔王転生の儀式を実行するヤツに連れて行かれたのなら理由は1つ。
「それは、一定以上開花した勇者の素質が必要だったからだ」
「勇者の素質を狙ったのか……」
「勇者の素質を餌に異世界から悪魔を呼んで取り込む。それが、この儀式だ」
「……そうか」
ガリウスの顔には怒りの感情を押し殺している様子が見られる。
「その儀式では、勇者以外に6人の生贄も必要となる」
「……………」
「6人の生贄となるのは、素質を持たない10歳以下の子どもだ」
「……………」
「儀式が成功すれば、魔王転生後に子どもは魔王の眷属となる」
「どこまでもゲスな儀式だな」
「ああ……ゲスだ」
ガリウスと同様、俺の心もまた怒りに満ちていた。
その後、俺とガリウスは何も語らないまま時間が過ぎて行く。
静かな怒りを胸に秘めたまま……
どれ程、時間が経ったのだろうか?
シルヴィアが俺達の元へとやって来た。
「見つけたわ」
俺とガリウスは顔を見合わせ頷いた。
そしてシルヴィアもまた……
俺がイリアとラゼルをを引き込んだ。
だから俺に復讐だとか口にする資格はない。
2人も勇者を志した時点で傷つく覚悟は持っていたのだとも思う。
だが、儀式が成功すればイリアは重い物を背負うことになる。
俺が、これから行おうとしているのは身勝手な感情によるものだ。
それでも彼女に重い物を背負わせたくはなかった。
せめて勇者になるまでは……




