俺は精霊石に腕輪に魔法を込めた 『クレスさ~ん』
セレグは美少年獣人です。
俺はセレグの家にいる。
ラゼルにもらった精霊石に魔法を込めるためだ。
俺よりもセレグの方が精霊石の扱いに慣れているので今回は任せた。
「クレスさんは、どんな魔法を込めたいのですか?」
「結界魔法を込めたいと思っている」
出来ることなら神の目を誤魔化しながら勇者の素質を使えるようにしたい。
だが、そんな効果のある結界魔法は知らないので別の魔法を込める。
「結界魔法は魔力が沢山必要だから難しいですよ」
「だから術式だけを込めて魔力は俺が込めるようにする」
「そうすると精霊石に込めるメリットが…………」
………
……
…
このようなやり取りがあり、最終的には俺の要望が通る。
それから30分ほどしてセレグは仕事を終えた。
「完成しました」
「ありがとう」
「!!」
なぜかセレグは驚いた顔をした。
「どうした?」
「いえ、クレスさんが『ありがとう』っていうのは意外だと感じて……」
俺は礼も言えない人間だと思われていたのか。
8歳で、そんなふうに思われるのは人間として終わっていないか?
これから、クレスには5割増しで礼を言うことにしよう。
そうすれば俺が礼を言える男だと分かるハズだ。
「ありがとう、セレグ」
「な、なにがです?」
なぜかセレグは怯えた表情を見せている。
俺の言う『ありがとう』が怖いと見える。
これは、もっと調き……教育せねば!
「本心を言ってくれたから、ありがとうと言ったのさ」
「そ、そうなんですか」
俺は周囲から光が溢れんばかりの笑みで爽やかに礼の意味を伝えた。
さっきよりもセレグが怯えているのは気になるが……
「精霊石だって、セレグのおかげで素晴らしい完成度だ。ありがとう」
「……(涙目)」
なぜかセレグが涙目になってしまった。
俺は『ありがとう』という言葉で精神攻撃が可能なのだろうか?
「セレ……」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!………」
セレグはダムが決壊したかのような勢いで怒涛の謝罪を始めた。
俺はセレグに何かで勝ったようだ。
~10分後~
「ううぅぅぅぅ」
「悪かった」
10分経ったら何故か俺が謝っていた。
今度は俺が負けたらしい。
何に負けたかは分からんが。
「酷いですよ~」
「ご、すまん」
『ごめん』と言いかけたが、また怯えそうだからやめた。
だが、俺は『ありがとう』と言っただけなのに、なぜ酷いと言われるのだろう?
「クレスさ~ん」
「!!」
顔を上げたセレグを見た俺の脳裏にシルヴィアの顔が横切った。
なぜか、泣き顔のセレグをシルヴィアに近づけてはいけないと感じる。
──なぜだろう?
「……………」
「クレスさん?」
何故、シルヴィアに泣き顔のセレグを近づけてはならないか理解できなかった。
本人に聞いてみるとするか……
「少し聞きたいのだが」
「はい?」
「シルヴィアに何かされたことないか?」
「えっ……」
セレグは驚いた顔をしたあと、顔を赤くして黙ってしまった。
言いようのない恐怖が俺を襲う。
「なあ」
「……した」
「えっ」
セレグは小声で何かを言った。
何を言ったかは聞き取れなかったが……聞くのが凄く怖い。
「女の人の服を……」
「ああ」
俺はセレグの告白を黙って聞くしかなかった。
いや、恐怖で声が出なかったと言った方がよいだろう。
「女の人の服をプレゼントしてくれました」
「……………」
「……………」
「……無理矢理着せられたりとかは…」
俺は勇気を振り絞りセレグに聞いた。
なぜか自分が同じ目に遭うのではという恐怖を感じながら。
「いえ……」
「そうか」
俺はホッとした。
自分の身が守られたと何故か感じている。
「……持っていれば、いつか役に立つって言われました」
「……………」
それって自分から着たくなるっていうことだよな。
無理矢理着せるのも怖いが、それとは別の怖さがある。
「……………」
「……………」
「その服、シルヴィアに返そうか」
「えっ」
セレグは何故か驚いている。
どこか名残惜しそうだが気のせいだろう。多分。
「助けてくれるんですか?」
「人ごとだと思えなくてな」
俺がそういうとセレグは泣き出してしまった。
どれだけ思い詰めていたのだろう……うん?
思い詰めるということは何かを悩んだということだ。
捨て方に悩んだのだろうか? それとも……考えるのはやめておこう。
俺の脳裏にはシルヴィアと再会した日の言葉がよぎっていた。
あいつは転生した俺に言った。
『なんで、そんなに愛くるしい生物になっているのよ』
愛くるしい生物って個所が妙に気にかかる。
本気じゃないよな……
※泣き顔のセレグをシルヴィアに近づけてはいけない理由は、ご想像にお任せします。
※シルヴィアの行為に、これ以上の発展はないのでご安心ください。
※シルヴィアは遠くから眺めているのが好きです。




