俺は帰る 『揺れているな』
俺は知恵熱で倒れていた。
このことは夢の中で確認済みだ。
目が覚めたとき、フカフカ感が凄まじいベッドで横になっていた。
床には赤い絨毯が敷かれている。
そして周囲の家具は高価そうな物ばかりの部屋……多分、大長老の邸宅だろう。
俺が寝ていたのは3階にある一室だ。
その窓から外を覗いたら信じられない光景が広がっていた。
窓から見えたのは大長老の邸宅にある広大な庭。
そこには猫天国が広がっていたんだ。
300人は集まっているだろうケット・シー達が全員でラジオ体操?をしている。
色とりどりな毛色の二足歩行の猫が行うラジオ体操。
猫好きなら連シャメをしたくなる光景だろう。
よく見るとシルヴィアが混ざっている。
ラジオ体操をしているがテンポがずれていた。
……
……
……
俺は一つのアイテムをアイテムBOXから取り出す。
そのアイテムとは双眼鏡!!
コイツには特別な魔法など付与されていない。
だが俺の目的は十分に果たしてくれるハズだ。
俺は双眼鏡を使いシルヴィアを見た。
(ふむ、よく揺れているな)
俺は朝の爽やかな光景を楽し……目があった。
この後、笑顔で俺が寝ている部屋に来たシルヴィア。
彼女に双眼鏡が目の前で破壊されたのは言うまでもないな。
~大長老邸宅 面会~
俺とシルヴィアは大長老と再び面会している。
面会といっても今回は俺の回復報告と出発の挨拶だから和やかな物だ。
ちなみに先程の猫天国は、この街の慣習らしい。
街中のケット・シーが集まって運動した後で商売の話をしているとのことだ。
そう言えば、ラジオ体操を教えた覚えが……まあ、いいか。
問題はシルヴィアだ。
「ご機嫌がよろしくないようですが」
「コイツの馬鹿が死んでも治らなかったと確信しただけです」
シルヴィアは俺を睨みながら馬鹿だと罵ってきた。
「人間の本質など簡単には変わらない物さ」
「カッコ良さそうなことを言って誤魔化さないでよ」
「そうか?」
先程の双眼鏡が原因でシルヴィアは機嫌が悪い。
コイツは反応が面白くて、つい具体的な行動に出てしまうんだよな。
大概は後で俺は怒られるのだが……
「お話の続きをしてもよろしいでしょうか」
「ああ、よろしく頼む」
「……ええ」
彼は助け船を出してくれたのだろう。
大長老の提案に俺は同意する。
シルヴィアもまた機嫌が悪いままだが同意してくれた。
「勇者ギルドに関してなのですが……」
「ああ」
「専属の連絡係をご用意いたします」
「助かる……連絡係にはコイツを渡してもらえるか?」
「これは通話石ですね」
「そうだ。あった方が便利だろうからな」
「分かりました。渡しておきます」
連絡係がいるのなら細かい話はいらないだろう。
俺の頭では分かるはずもないし……
「そういえば、2つ頼みたいことがあった」
「なにか?」
俺は転移方陣の設置と街へ無条件に入る権利を頼んだ。
転移方陣を使えば一瞬で遠い街同士でも行き来できる。
だが他国の街に入ると密入国になりかねない。
だから街に無条件で入る権利を頼んだわけだ。
俺は転移石を大長老に渡し、かかる費用も俺が支払うと約束した。
費用は転移石設置と街や国に無条件で入る権利の費用だ。
大長老は要らないと言っていたが、スバルの遺産から出させてもらうことにした。
※スバルの遺産
アイテムBOX内にある金銭や換金可能なアイテムのこと(今、命名した)
「これで一通り話は終わったな」
「ええ、次に会うのは、いつ頃になるのでしょうね」
「さあな……」
「…………」
俺は天井に視線を向けながら答えた。
「私は130年待ちましたよ」
「?」
「あなたと取引ができるのを」
「……今回は馬鹿な提案しかできなかったがな」
「それでも待ったかいがありました」
大長老は笑っていた。
俺は彼の笑顔につられて笑った。
「今度は130年もかからないように気を付ける」
「そう期待していますよ」
そして俺と大長老は握手をして別れた。
~街を観光中~
このあと俺とシルヴィアは1日観光して行くことにした。
転移方陣の設置は1日あれば行えると言われたためだ。
キミは転移魔法を使えば良いと考えるかもしれない。
だが設置した転移方陣が正常に作動するか試したいという理由もあった。
これから観光なのだが最初にすることは……
「よしっ!お土産を探すぞ」
お土産を買ってもアイテムBOXがあるからかさばらない。
だから観光の最初にお土産を買っても大丈夫だ!
「オススメはあるか?」
「渡す相手はどんな人?」
「俺と同じ位の年齢が4人。男2人に女2人。あとガリウスだな」
「他には?」
「それだけだが」
「……トレーニングはどうしたの?」
シルヴィアが顔色を変えて質問してきた。
「ガリウスに任せてきた」
「……獣人族の戦士のトレーニングって見たことある?」
「えっ……いや……」
シルヴィアの言わんとしていることが何となく分かって来た。
「ガリウスのトレーニングは……」
「……一度も見ずに丸投げしてきた」
俺は自分の過ちに気付いた。
「……先に帰ってもいいか?」
「……それがいいと思うわ」
俺はトレーニングを行っている世界樹の森へと急いだ。
そこにはボロ雑巾と化したイリア達がいた。
「ごめんね♪」
俺が茶目っ気たっぷりに謝ったら被害者一同に睨まれた。
獣王は病気から回復してから、初めて弟子を鍛えるということで張り切り過ぎたと言っていた。




