俺は魔法少女と出会った 『じゃあね。クレス君』
深い闇の中。
俺は夢を見ているのだと気付いた。
そういえば知恵熱で倒れたんだったな。
……俺は頭をどれだけ使っていないんだろう?
知恵熱で倒れた自分が少し哀れに思えた。
だが折角、明晰夢とやらを見ているのだから楽しもうと思う。
※明晰夢というのは、夢を見ていると自覚しながら見ることを言うんだぞ。
だが明晰夢を楽しもうとする俺の眠りを妨げようとする不届き者が現れたようだ。
とりあえず、言うべきセリフは決まっている。
ふむ、アレしかないだろう。
周囲の闇は反転して一瞬だけ白い光に満ち溢れる。
そして白い光が消えると荒野が広がっていた。
「久し……」
「我の眠りを妨げるのは誰だ!!」
目の前にいる女性は呆気にとられていた。
俺の迫力に恐れをなしたか。
「なんで、勇者が魔王口調なのよ」
「魔王ではなく、破壊神口調だ」
「どっちも変わらないわよ」
「いや、変わるぞ。破壊神は俺の一撃を受けても2秒ほど生きていた」
「………魔王は?」
「聞かない方がいい」
「……………」
「……………」
「………そうみたいね」
魔王がどうなったか気になったか?
俺の攻撃を受けた魔王を描写すれば出版禁止になるレベルとだけ言っておく。
ちなみに俺が話しているのは『夢の大精霊』
髪は灰色で目は金色だ。
コイツは色々な奴の夢を行き来できる能力を使って、夢の中で生きている。
ただ服装がボンデージで目に毒なのが困る。
※ボンデージというのは鞭を持った女王様が着ているテカテカしたヤツだぞ。
「で、どうしたんだ?」
「2つ用事があったんだけど……」
「うん?」
「私の方は今度にしておく。今はどうしようもないことだし」
「そうか?」
コイツが言い淀むのは珍しいから気にはなる。
だが語らない理由もコイツを言い淀ませるほどの物ということなのだろう。
今回はスルーという形にしておく。
「で、もう一つの用事はなんだ?」
「うん。案内したのよ」
「案内とは……なんだ!!」
荒野だった風景が突然白一色に変わった。
そして俺と夢の大精霊を囲むかのように大量の蝶が舞っている。
赤に青、黄色、紫と様々な色の蝶が周囲を舞う光景は美しい物だった。
「これは精霊か?」
「ええ」
蝶の正体は精霊だった。
精霊には姿が無いため、見ている者の精霊へのイメージに合わせて姿を変える。
俺にとって精霊は蝶の姿というイメージが強い。
だから蝶として姿を現したのだろう。
俺が周囲を飛ぶ大量の蝶を見ていると一か所に集まり始める。
そして白い輪郭を作り人の姿となった。
「初めまして」
「あ、ああ」
俺は目の前に現れた者の姿に驚いていた。
「あなたが、そこまで驚くなんて珍しいわね」
「そう……だな」
夢の大精霊は嬉しそうに話しかけてきた。
だが俺には、その言葉に反応している余裕はなかった。
「この姿は、お気に召さなかったのかな?じゃあ、別の姿に……」
「そのままでいい!!」
俺は思わず叫んでいた。
その姿はスバルが幼少時代に見続けた少女の姿だった。
まさか実物を見られるとは……
俺の目の前にいる少女は、腰まで伸びる長い髪をしている。
そして瞳は吸い込まれるような黒。
カチューシャには猫耳のような物が付いている。
服装は短いスカートの黒いゴスロリ。
何よりも特徴的なのは、右手に持ったピンク色のステッキ!!
そう、彼女は魔法少女。
モニター越しの住人であり、決して出会えるはずの無い存在だ。
初めて俺が勇者召喚されたとき、魔法使いについて調べた。
だが少女の魔法使いはいたが、魔法少女はおらず落ち込んだのを覚えている。
「で、で用事があったのでは?」
「今回は挨拶しに来ただけさ」
俺は、ドモリながら用事について質問した。
だが帰って来たのは挨拶だけという言葉。
いや、それだけなら良い。
問題は魔法少女としての言葉がなっていないことだ!!
「そうか。挨拶に来たということは俺のことを知っているわけだ」
「元、大勇者スバルで今はクレス少年だよね」
くっ やはり口調がなっていない。
コーネリアの『お兄ちゃん』発言で萌えを知った俺には耐えられん!
「お前は精霊か?」
「一応は精霊なんだけど、存在が確定していないんだ」
存在が確定していないか……魔法少女に確定させようか?
「名前は?」
「とりあえず、君に合わせて『シロ』と名乗っておくよ」
ふむ、魔法少女シロか。微妙だが悪くは無いな。
「うん? 『君に合わせて『シロ』と名乗っておく』とはどういう意味だ?」
「それは色で君を現すと黒になる。黒の対は白だと言えるからだよ」
「黒というのは、俺の髪と目の色か?」
「いや、君は自分の能力をチート能力と呼んでいるよね?」
「ああ」
「僕にはチート能力が沢山混ざった感じが、黒い色みたいに見えているんだよ」
「そうか」
俺には大量のチート能力が付与されている。
チート能力を色に例えると、多くの色が混ざり合っている状態ともいえるだろう。
多くの色を混ぜ続けると濁ることを例えて黒と言ったのだろうな。
と、なるとコイツの『シロ』という名は『白』い色を表しているのか。
ふむ、魔法少女にふさわしい色だ。
「挨拶ということは、また会うということか?」
「そのつもりだよ」
「そうか、そうか……」
俺は考えた。
少しずつシロを魔法少女として完成させていこうと。
なら、最初にすることは……
「言葉使いを変えてもらえないか?」
「まあいいけど……」
「そうか、じゃあ」
………
……
…
シロとは多くを語りあったが別れの時がやって来た。
「じゃあね。クレス君」
「またなシロ」
「うん」
俺は1つの仕事を成し遂げた。
シロには魔法少女の大精霊になってもらおう。
シロは俺の深層心理に強い影響を与えている形として魔法少女の姿を選んだのだろう。




