俺は大長老と面会した 『なんで!』
遂に大長老と面会をする時間となった。
面会は大長老の邸宅だ。
俺とシルヴィアは執事服を着たケット・シーに邸宅内を案内されていた。
ケット・シーの外見は長靴を履いた猫をイメージしてもらえればいい。
彼等は人間と同じような服を着ている。
だが僅かに違いがあり、ズボンには尻尾を出せるように細工がされている。
身長はというと……一般的には成人男性より頭一つ分小さい程度だ。
8歳児の俺を案内するケット・シーの尻尾は丁度、俺の目の前にあった。
フヨフヨ歩くたびに動き飛び付きたくなる。
尻尾に飛び付くべきか迷っているとシルヴィアが冷たい目で俺を見た。
その瞳の奥から『ヤメテおきなさい』という言葉が聞こえた気がした。
「コチラで、お待ちください」
俺を案内していたケット・シーは部屋のドアを開け頭を下げている。
執事服を着た猫……童話の世界のようだ。
案内された部屋に入った俺達はソファーへと腰掛けた。
「いよいよね」
「ああ」
シルヴィアは俺に話しかけてきた。
彼女自身も緊張しているのだろう、声に緊張が感じられる。
室内にも赤い絨毯が敷かれ、周囲には高価そうな家具が並んでいる。
「どう説得するの?」
「考えていない」
「はぁ?……何言っているのよ!」
シルヴィアは俺に小声で話しかけてきた。
「俺に説得なんて行えると思うのか?」
「まあ、そう言われると何もいえないけど……」
「そこは嘘でもフォローしておくのが大人のマナーだぞ」
「あなたの口からマナーという言葉が出るとは思わなかったわ」
「俺も成長をしているんだ」
「体は縮んでいるけどね」
シルヴィアは前世と比べて縮んだ俺の体のことを指摘した。
ふむ、腕を上げたな。
俺達が小声で話していると金属の擦れるような音が聞こえる。
その直後にドアがノックされた。
ドアが開けられ入って来たのは車イスに座った巨大なペルシャ猫だ。
先程の金属が擦れる音は彼の車椅子が発した物なのだろう。
彼は毛が長くモフモフしたら気持ちよさそうな雰囲気が漂っている。
だが目は鋭くモフモフしたら怒られそうだからやめておこうと思う。
「私の名前は、ミハエル・ローザンス。あなたが我らのメダルを所持する少年ですか?」
ペルシャ猫は鋭い目付きには似合わない丁寧な言葉で話しかけてきた。
その声を聞いた俺は前世の記憶にあるメダルをくれたケット・シーが彼であると確信する。
「はい。クレスト・ハーヴェスと申します」
そしてケット・シーの大長老との面会が始まった。
~面会開始~
俺とシルヴィアはエーブルを挟み車椅子に座った大長老と向かい合っていた。
彼の手には俺……いや、スバルが受け取ったメダルが握られている。
大長老は懐かしむような目でメダルを眺めて何かを考えているようだ。
あのメダルをスバルだった頃の俺に渡してから、どれだけの時が経ったのだろう。
前世の俺がこの世界から地球へと帰ってから何年経ったか調べたことがある。
勇者スバルについて調べたら簡単に分かった。
130年……これが答えだ。
メダルは長い時をかけて再び元の持ち主の手に帰った。
そう思うと感慨深いものがある。
大長老はメダルを眺めるのをやめて俺に視線を移した。
「このメダルが、君の手にある理由を教えてもらえるかな?」
彼は微笑みながら質問してきた。
百戦錬磨の商人集団であるケット・シー。
その大長老である彼に嘘は通じないだろう。
「今から言うことは真実です。ですが突拍子もないことですから、信じるかどうかはアナタが決めて下さい」
俺は、自分の記憶が戻った時から現在に至るまでの事を彼に伝えた。
俺が話し終えると大長老は目を瞑り考えていた。
寝ている……わけではないよな?
イビキが聞こえたら、俺はどう反応すれば良いのだろうか?
「生まれ変わりとは、信じがたい話ですね」
「そうでしょうね」
良かった寝ていなかった。
「それはともかく……」
「?」
「私が寝ていたらどうしようか考えていたのでは?」
「うっ」
見抜かれていた。
だが、これは彼のメッセージだと俺は気付く。
「すまん。あまりにも気持ち良さそうに目を瞑っていたから」
「ちょっ クレス!!」
「……………」
大長老は黙ってしまった。
だが僅かに大長老の肩が震えているのが分かる。
シルヴィアも俺と同様に大長老の方の震えを察知し……
「す、すみません!この子は礼儀の欠片も知らない馬鹿でして!!」
シルヴィアは、ここで俺に対する本心を暴露した。
その言葉は覚えておこう。
「……………」
「大長老……さま?」
シルヴィアは心配そうに大長老に話しかけた。
「………フッフ」
「あの」
シルヴィアは困惑した顔になっている。
美人の困る顔もなかなかだ。
「フハッハッハッハ」
「えっ?」
大きな口を開き大長老は笑いだした。
「お久しぶりです。スバル様」
「なんで!」
大長老は俺をスバルだった人間だと確信したようだ。
一方でシルヴィアは困惑している。
前世で俺と彼とで同じやり取りを行ったことがある。
大長老が眠っているのか心配になり『起きているか?』と質問した。
機嫌を悪くした彼に先程と同じ言葉で俺は謝り、後で笑い合った。
このやり取りを知らないシルヴィアは目を丸くし驚いている。
ハトが豆鉄砲を喰らったような顔というのは彼女がしている顔を指すのだろう。
シルヴィアにはしっかりと前世でのやり取りを説明した。
彼女が暴露した本心を覚えておく旨と共に。
大長老が信じたのは、俺という人間か人を見極める自分の目なのかは分からない。
だが勇者ギルド(仮)を提案できる状況となったのは確かだ。




