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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第4章-B 凄い勇者は王都を観光する
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俺は獣王と会った 『変わり身、はやっ!』

 ラゼルに世界樹の果実を渡してから5日後。

 イリアの迎えに行く前に、ラゼル達の家へと向かった。


 ラゼルの祖父である獣王が礼を言いたいのだそうだ。


 だが、病人の部屋に押し掛けるわけにもいかない。

 世界樹の果実が、獣王の病に効果を発揮するのは3日かかるとの事だ。

 だから、余裕を持って5日後に尋ねることにした。


 王都の中心街から少し離れた場所。

 俺がいるのは獣王の家の前。

 木製のドアを軽くノックする。


「来てくれたか」

「おう」


 ドアを開けたのはラゼル。

 どうやら俺の顔を覚えていてくれたらしい。

 忘れられていたらと不安だったが、チョット安心した。


「爺ちゃんは、裏で体を動かしているから呼んでくる」

「俺らが行っても問題ないか? 」


  獣王と呼ばれる程のヤツだ。

  体を動かす程度であっても、なんらかの工夫をしていることだろう。

  少し興味がある。


「ああ、問題は無いと思うが…近づき過ぎるなよ」

「? 」


 『近づきすぎるなよ』とは、どう意味なのだろうか?

 少し嫌な予感がした。


~獣王の家 裏~


 獣王が体を動かしているのは自宅の裏。

 リハビリ程度なのだろうと思っていたのだが──。


 そこに居たのは、どう見ても老人ではない。


 白い髪は老人っぽい(ラゼルも白髪だが)

 鋭さのある黒い瞳には生気が満ち溢れている。

 それに筋骨隆々とすら称せる体は、老人の印象からかけ離れ過ぎだ。


「ハアァァァァ」


 彼は騎士鎧を相手に戦っていた。

 いや、すでにあれは騎士鎧ではない。

 ”騎士鎧だった物”と、呼んだ方が良いかもしれない。


 打ち込まれた拳でボコボコにされ、鉄くず寸前になっているのだ。

 故に、あれを騎士鎧と呼ぶのはためらわれる。 


「さっき鎧を設置して始めたばかりだから、まだ時間がかかるがいいか? 」

「ああ…」


 ラゼルが俺達を気遣ってくれたのだろう。

 少し時間がかかると 教えてくれた……って、さっき鎧を設置した!?


「なあ、あの鎧って、新品を使ったとか…」

「よく分かったな。今日はリハビリということで新しいのを使ったんだ」


 新品の騎士鎧を拳でボコボコって、リハビリのレベルではないだろ。

 しかも残像を残して四方八方から鎧をボコっているし…


 俺が与えたのは本当に世界樹の果実だったのか?

 思い返すも、確かに世界樹の果実だったはずだ。

 少し自信がない。


「なあ、俺が渡した世界樹の果実は役に立ったのか? 」

「アレは凄いな!爺ちゃんが食ったら、みるみる元気になった」

「そうか、他の物を口にしたとかは……」


 役に立って良かった。

 だが、気になるのはそこじゃない。


 世界樹の実は俺とイリアも飽きるほど食ったんだ。

 こんな回復をする食い物が、まともな物であるはずがない。

 むしろ、危険物に分類した方がしっくりくる。


「いや、効果を高めるには世界樹の果実のみを口にした方が良いらしくてな」

「…そうか」

「ベッドから離れられないほど弱っていたのに……お前には感謝している」

「……………」


 どうやら、俺らが食っていた世界樹の実で間違いないようだ。

 俺達は、病人が鎧をボコボコにするほど元気になる物を食っていたのか。

 大丈夫なのか? 俺達の体は……。


 俺とコーネリアは獣王のリハビリが終わるのを待った。

 自分とイリアの体に一抹の不安を抱きながら…


~獣王のリハビリ? 終了後~


「すまない、恩人を待たせてしまったか」

「いえ、獣王のトレーニングを拝見でき…」

「敬語などよい。お主はワシの命を救ってくれた恩人だ。本来ならコチラが敬語を使わねばならんが…立場もあってな。お互い、敬語は無しということでどうだ」

「そうか、助かる」

「えっ(変わり身、はやっ!)」


 コーネリアは俺の素早い対応に驚いているようだ。

 ふっ、勇者とは臨機応変、柔軟に物事に対処していくものなのだよ。


「まずは自己紹介をさせて頂こう。ワシの名はガリウス・アルゼノン。ガリウスと呼んでくれ」

「俺はクレスト・ハーヴェス。こっちが妹のコーネリア・ハーヴェスだ。よろしく頼む」

「コーネリア・ハーヴェスと申します。お見知りおきを」

「お主も敬語は使わなくてよいぞ」

「ですが……」

「コイツは人見知りする方でな。少しずつ慣れると思う」

「そうか? 今後を楽しみにしておこう」


 俺とコーネリアは、こうして獣王と会った。



~獣王の自宅にて~


 俺、獣王、コーネリア、ラゼル、セレグは獣王の自宅にてテーブルを囲み紅茶を頂いている。

 この世界で紅茶は高価な物だ。

 恩人として気を使ってくれているのだろう。


「改めて礼を言わせてもらう。ありがとう」


 椅子に座った獣王は両手を拳にしテーブルに当てた体勢で頭を下げた。


「偶然、持っていた物だ。気にしないでくれ。それにコイツを貰ったから、お礼みたいな物だ」


 俺は腕に付けた精霊石の腕輪を指さし獣王に見せる。

 これはラゼルに礼として貰った腕輪だ。


「そうか、だがワシに出来ることがあったら何でも言ってくれ。獣王の名にかけて恩には応えたい」

「…1つ伝えておきたいことがあるのだが」

「何でも言ってくれ」

「その前に、俺とガリウスだけにしてもらえないか? 」

「分かった。コーネリア殿も済まないが…」

「ええ」


 ラゼルとセレグと共にコーネリアは奥の部屋に移った。


「まず、俺のこともクレスと呼び捨てにして欲しい」

「では、クレスと呼ばせてもらう。で、伝えたいということは? 」

「単刀直入に言う。ラゼルは勇者の素質が開花しつつある」

「なんと!」

「俺は勇者の素質を見ることが出来る。だからラゼルの素質が開花しつつあることも分かった」

「そうだったか……」

「素質が開花した人間を旅に連れて行くのがマズイというのは分かるよな? 」

「…『喰われる』のだろう」

「そうだ」


 『喰われる』というのは勇者の素質を喰われることをいう。

 勇者の素質を喰われた者は死を迎える。


 特定の場所では結界が張られており喰うヤツの侵入を阻害している。

 王都であったり、貴族の屋敷であったり、聖域と呼ばれる場所であったりな。


「ラゼルの今後を考えるのなら、飛びかかる火の粉を払える力は必要だ」

「そうだな…トレーニングを厳しくするか」

「それがいいだろう」


 俺は先程見たリハビリ?でラゼルを育てることは諦めた。

 彼の事は獣王に任せた方が良いだろう。


「では、ワシも1つ尋ねたい」

「俺のことか? 」

「そうだ。勇者の素質を見抜き…隠しきれないほどの力を秘めている」

「…アンタには隠しきれないだろうな」


 俺の両親に素質を見破られてから同じように見抜ける人間に会うのは覚悟していた。

 この人物になら、ある程度バラしても問題ないだろう。

 ガリウスには、そう思わせる雰囲気がある。


「俺には前世の記憶がある」

「そうか」

「その記憶の中で俺は勇者をしていた。ついでに勇者だった頃の能力も持っているんだ」

「なるほどな」

「疑わないのか? 」

「疑えないほど、お主の隠そうとしている力が異常ということだ」


 俺とガリウスはお互いに目を向け笑った。

 このあとラゼルの事を話し合い2人で鍛えることとなる。


セレグに関しては獣人族には珍しく魔法に秀でている。

だがガリウスは魔法を得意としないため俺が教えることとなった。


………

……


 俺、イリア、コーネリア、ガリウス、ラゼル、セレグ。

 今後は、この5人でトレーニングを行う。


 イリアとラゼルを喰わせるわけにはいかない。

 だから神域ともいえる世界樹の森を使う。


 『喰われる』…その危険性を、どのタイミングで伝えるべきか。

 特にコーネリアへ伝えるのは避けたいものだがな…


 ついでに、世界樹の実を食うのも禁止だな。

 これは徹底しよう。

空気と化した人物が数名…

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