俺は獣人兄弟の家にお邪魔した 『気持ち悪い』
俺達はラゼル、セレグの家を訪れている。
どうして、2人の家に来たのか…礼をしたいと言われたからだ。
俺が何かをしたわけではないぞ。
2人の住む家は、王都から少し離れた場所にあった。
聞いた話によると、育ててくれた祖父が王都に用事があって借りたそうだ。
だが、祖父が病に倒れて薬代を稼ぐために露店を開いていたらしい。
勘違いしないで欲しいのだが、2人は貧しいわけではない。
むしろ裕福なくらいだ。なぜなら2人の祖父は有名な武道家だからだ。
そして『獣王』と呼ばれる程の猛者で多くの獣人族から尊敬を集めてもいる。
獣王とのコネクションを持つのは今後のイリアにとってもプラスになるだろう。
獣王に恩を売れないか俺は考えて、とりあえず病について尋ねた。
「爺ちゃんの病気には『世界樹の果実』が効くらしいが…高価なうえに今の時期には店に並ばないらしくてな…」
「世界樹の果実って…」
世界樹の果実というものが病に良いと聞いたイリアは心当たりがあるらしかった。
ちなみに俺も心当たりがある。
コーネリアも心当たりがあるはずだ。
「心当たりがあったら教えてもらえないか」
ラゼルはダメもとで尋ねているのが分かる…
俺らはオヤツ代わりに食っていたのだが。
世界樹の果実は、アイテムBOX内には大量に入っている。
疲労の回復を促進するのでトレーニング後には毎回、食べていた。
1週間ほど食べると飽きたので、焼いたりして色々と工夫した。
それでも飽きたので、現在は週に1度食べるかどうかになっている。
ちなみに世界樹の果実というのは、本当は世界樹の花の蕾を指す。
緑色の丸い球のような果実のような形のため、昔の人間が勘違いしたのだろう。
「兄ちゃん…お礼をするために呼んだんだけど」
「ああ、そうだったな。少し待っていてくれ」
ラゼルは俺達を置いて家の奥に入って行った。
どのようなタイミングで『世界樹の果実』を渡そうか…
俺が、世界樹の果実を渡す方法を考えているとラゼルが戻ってきた。
「またせたか?」
「いえ」
ラゼルの言葉にイリアが応えた。
隣に座るイリアの方を見ると出されていた水が、かなり減っている。
俺は、考え込んでいたようだ。
(俺は平和ボケしたのか?)
前世で勇者をやっていた時には、考え込む時間などなかった。
考える必要があるときでも、僅かな時間だけ考えて答えを出していた。
そうしないと、隙が出来てサクッと殺られていたからな…
(平和ボケできる環境というのは尊いな)
俺は平穏こそ宝だという初心を再び思い出していた。
「お兄ちゃん、顔がニヤついていて気持ち悪いわよ」
「そ、そんなことないです。クレスは、笑顔も…す、すてきです」
「…重症ね」
平穏への想いが顔に出ていたようだ。
コーネリアはストレートに物を言うようになった…
遠慮していたころに比べると良い傾向なんだよな?
一方でイリアは配慮が上手になった気がする…
貴族のたしなみか?それとも学校に通うようになったためだろうか?
どちらも俺の知らない所で成長しているようだ。
前世を思い出し、孫を見るかのような心境で俺は2人を見た。
今、俺の顔には孫を見る祖父の優しさが溢れているに違いない。
「「うわっ!」」
なぜか2人は顔を引きつらせ悲鳴のような声を上げた。
「話を続けてもいいか?」
「おう!」
妹と弟子の人との成長に心を和ませていると現実に戻すラゼルの声が聞こえた。
「コイツなんだが…」
「精霊石の腕輪か」
ラゼルが差し出してきたのは精霊石が埋め込まれた銀製の腕輪だった。
「練習で作ったヤツで悪いんだが、受け取ってもらえないか?」
「コレ、普通に売れる仕上がりだぞ」
「いや、コイツは刻んだ模様が雑なんだ」
「…そうか、ありがたく頂く」
これ以上、断ったら野暮というものだろう。
俺はラゼルから腕輪をありがたく受け取ることにした。
精霊石は中位ランクの術なら込められる。
だから力を抑えて戦う俺にとって、ありがたいアイテムになるハズだ。
こうして俺達は、しばらくラゼルとセレグの家にお邪魔をした。
~帰り~
「すっかり長居してしまったな」
「いや、今日は本当に助かった。よかったら、また来てくれ」
「ああ、そうだ。『世界樹の果実』についてなんだが、親に聞いてみようと思う」
「ご両親に?」
「俺の親は冒険者を、昔やっていたから変わったことを知っているんだ」
「そうか、頼めるか?」
「ああ、まかせておけ」
俺達は、こうして別れた。
『世界樹の果実』は高価だからな。
渡し方を考えないといけない。
………
……
…
3日後、俺はラゼルに『世界樹の果実』を届けた。
良い渡し方が思いつかなかったので拾ったことにした。
『昔、親と世界樹の森に行った時に拾ってアイテムBOXに放り込んだままだったよ。ハッハッハ!』
この言葉で押し通した。
ラゼルは唖然としていたが、まあ問題はないだろう。




