俺は、平穏の為に恩を売ることにした 『迷子になりましたね』
俺とコーネリアとイリアは王都を回ることになった。
俺らが住む国はロザートという国で肥沃な大地が特徴だ。
だが他にも色々と良い物がある…多分!
俺は基本的に田舎に住んでいるため王都などの情報に疎い。
これも地球と比べて情報の便が悪い為だ。
8歳児の俺が調べた範囲では比較的良い国だと思うぞ。
教育環境も食べ物も商売も悪い状態では無いと思う。
※クレスは最近8歳になりました。
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で、俺達は市場を見て回っている。
だが俺達は大通りにある普通の店を見ようとしたが迷ったようだ。
舗装された地面に布を敷いた店や荷台を地球の屋台風に使った店などが目立つ。
どうやら普通の店が並ぶ場所ではなく露点が多い場所に来てしまったようだ。
「迷子になりましたね」
「お兄ちゃん……」
2人とも責めるような目で俺を見ている。
俺の『あっちの方が近道じゃないか?』という、お約束のセリフで迷子になった。
だから、俺は反論が出来るはずもない。
「せっかくだ、見て回らないか?帰りは転移魔法で移動すれば良いだろうし」
「そうですね……」
そう、いざとなったら転移魔法で移動すれば良い!
迷子になったことで、俺の威厳が失墜すること以外には問題はないはずだ。
(俺って、前世と合計すると100歳程度だったよな?迷子ではなく…)
などと俺が考えているとイリアが露店で何かにくぎ付けになっている。
変な物を売り付けられなければ良いのだが…
と、思って店に近付くと『精霊石』があった。
大精霊の住む場所に生じる鉱石を特殊な加工をしたのが精霊石だ。
それなりに高額な宝石としても扱われることがあるほど美しい。
だが、魔法に関連した道具に使われることの方が多い。
それに置いてある精霊石は品質が良かった。
なんで露店で販売しているのか疑問に感じる程の品質だ。
この品質なら普通に店を構えて売れるレベルだぞ。
「良い精霊石だな」
「あ、ありがとうございます」
俺の言葉に返答を返したのはフードを被った少年だった。
精霊石が置かれた露店には、2人の少年がいる。
どちらもフードを深く被っており妖しいとしか思えない状態だ。
(訳あり…なんだろうな)
フードを深く被った少年達…
少年に訳があるか、商品に訳があるかのどちらかの可能性が高い。
商品には手を出さない方が良いかもしれない。
「行くぞ」
「えっ……」
俺は店を離れるように促す。
するとイリアは精霊石を名残惜しそうに見ていた。
多少の加工なら俺もできるし今度、加工してやろうと思う。
虚像の大精霊以外の所から精霊石の素材を持ってきて…
こうして俺達は露店から離れた。
だが、しばらくすると後ろから大声が響いた。
「獣人が!誰に断って、商売してんだ!!」
どうやら獣人族を差別する人間の声らしい。
この世界では、獣人と呼ばれる者達を獣人族と呼ぶ。
これは『獣人は人種の一種』という考えに基づいているためだ。
表面的に、獣人は人種の一種だと捉えるのが一般的だが…差別は残っている。
それはさておき、声の聞こえた方を見に行こうと思う。
イリアとコーネリアも気にしているようだしな。
俺達は人だかりを縫うように声の聞こえた方へと向かった。
子どものように背が低いと下手をすれば目に着かず蹴られることもある。
だが、鍛えている俺達にとっては背の低さは便利な道具となる。
大人の足を押しのけるように人混みの奥へと入っていくと…いた!
どうやら先程、精霊石を売っていた露点でトラブルが起こっているようだった。
深くフードを被っていた2人の内の1人はフードを外している。
フードを外した少年は白い髪に蒼い瞳。
特徴的なのは耳が猫のように…いや、トラのような耳だということ。
その少年と向かい合って鎧を着た冒険者風の男が3人いる。
何の特徴もないチンピラという感じだ…それ以外に表現できない程のチンピラだ。
恐らく彼らよりも獣人族の少年の方が強い。
魔力や体の動かし方が鍛えられた人間の物だ。
だが。拳を強く握り抗議するだけにとどめていた。
喧嘩することを必死に避けようとしているようにも見える。
それをチンピラは弱腰だと受け取るだろうな…チンピラだから。
(少しだけ、恩を売っておくか)
俺はイリアとコーネリアに動かないように言って人ごみに紛れた。
恩を2人に売ろうと思った理由…それは勇者の素質を持っていたからだ。
獣人族は、一般的に魔力は高くない。
代わりに筋力の高い者が多い。
うまく取り込むことが出来ればイリアとは違う育て方が出来そうだ。
そうなれば俺の平穏が、一層盤石な物に!!!!




