俺の魔王な妹がデレた 『お兄ちゃん』
夜が開け朝が訪れ、外では雀達が鳴いている。
俺はカーテンを開け部屋に太陽の光を招き入れた。
今日も俺の親は新婚旅行に出かけている。
考えてみると自宅にいることの方が少ない気がする……気のせいでは無いだろう。
だから俺は義妹のコーネリアと2人暮らしのようなものだ。
当然、朝食も一緒にとることが多いのだが……
「おはよう」
「お、おはよう……」
今日のコーネリアは元気が無い。
朝食を一緒にとるようになり2ヶ月程度だが元気が無いことぐらい分かる。
「どうしたんだ?」
「いえ……じゃなかった……なんでもない」
「?」
なぜか戸惑っているように見える。
気まずい……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一端、話さなくなったら沈黙が続くようになってしまった。
この空間の気まずさが増していっている。
「今日のトレーニングはな……」
「は、はい……うん」
今日のトレーニングについて話そうとすると挙動不審になった。
俺とコーネリアの共通点といったらトレーニングしかない。
だからトレーニングの話で場の空気を変えようと思ったのだが……
「…………」
「…………」
再び気まずい空気が爽やかなはずの朝食の時間を乗っ取った。
俺は、どうすれば良いのだろうか?
前世では妹や弟がいなかった。
だから前世の知識は役に立ちそうもない。
気まずすぎる……
「……ねえ!」
「お、おう」
「……敬語は使って欲しくないのよね」
「えっ……あ、ああ」
先日の兄妹喧嘩で俺が言ったことについてだろう。
『まあ、敬語をやめて素の言葉で話してくれないかな~と……』
などと俺はコーネリアに言ったな……!!
そうか、コーネリアは……
「素のコーネリアがいいかな……」
「そ、そう……じゃあ、敬語は使わないから……」
「うん、そうか……ありがとう」
「お礼なんて言わないでよ。恥ずかしいから」
コーネリアは敬語をやめるタイミングを朝から探していたのだろう。
今まで敬語でやってきたから、かなり恥ずかしかったのだろう。顔が真っ赤だ。
「そうだな。分かった」
「コッチ見るな!」
どうやら顔が赤くなっている自覚があるらしい。
俺はコーネリアの方を見ずに食事にだけ視線を向けるようにする。
「それから……」
「うん?」
「見るな!」
「わるい」
思わず俺は視線を上げコーネリアを見てしまった。
俺は、すぐに視線を食事に向ける。
「そのまま聞いて」
「ああ」
俺は食事に視線を向けたままコーネリアの話を聞くことにした。
ふむ、パンに目玉焼き&ベーコン、それにスープ。栄養バランスは、どうなんだ?
「話、聞いている?」
「もちろんだ」
俺は思わず顔を上げてコーネリアを見そうになりながらもこらえた。
これ以上は怒られたくないしな。
「その……ね。どっちで呼んで欲しいの……?」
「うん?」
反射的に顔を上げようとする自分を再び俺は抑えた。
ちゃんと相手の顔を見て話す習慣が身についている。人間として正しいぞ俺!
俺は自分のヒューマンスキルを称賛しながらコーネリアの話を聞いている。
ところで『どっちで呼んで欲しいの?』って何のことだ?
「どっちとは?」
俺は目玉焼きと睨めっこしながらコーネリアに質問をした。
「だ、だから……クレスと、そ、そのお兄ちゃん……」
「……おにい……ちゃん?」
俺はコーネリアの口から出た『お兄ちゃん』という言葉に絶句した。
コーネリアが頬を赤くして言った『おにいちゃん』という言葉は破壊力があった。
むしろ、破壊力がありすぎると断言したい。
前世で俺が若い頃の友人を思い出した。
ソイツは『妹に萌える奴は、妹がいない奴だけだ!』と言っていたな。
俺はアイツの間違いを確信した。
なぜなら自分に芽生えた『妹萌え』という感情に気付いたからだ。
ここでクレスと呼ぶように言ったら俺は後悔するだろう。
だから俺は……
「お兄ちゃんで頼む」
「そ、そう……わかったわ。……お兄ちゃん……」
やはり破壊力がある。
ヤバい顔を合わせたら何かヤバい気がする。
「しばらく、お互いに顔を見合せない方がいいよな……」
「そ、そうね」
俺の提案にコーネリアはスグに乗っかってきた。
彼女自身も精神的にキツイ物があったのだろう。
その後、俺達は沈黙のまま朝食を片づけた。
今日の朝食は味を全く感じなかったのは言うまでもない。
………
……
…
コーネリアのおかげで俺の中で変な扉が開いてしまった。
このせいで俺には1つ重大な問題を抱えることとなる。
それはイリアの前で『お兄ちゃん』と呼ばれたら……
情けない顔をさらして師としての威厳が崩壊しかねないということだ。
この日の夜、俺は『お兄ちゃん』という言葉への耐性を身に付けると決意を固めた。




