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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は走った 『プレゼントだ』

 星穿ち討伐の準備中。


 最初に行動するのは俺。

 次にイザベラで、その後はシルヴィア。


 スタッフさんには準備を頑張ってもらう。

 いや、この場はスタッフさんと呼ぶのはやめよう。


 これから危ない事をするのだ。

 スタッフさんなどと読んでいたら、俺の力が抜けてしまう。

 敬意も表したい。


 そうだな──メンバーとでも呼んでおこうか。


 *

 

 岩影から、眠る星穿ちを観察している。


 銀色の懐中時計を開く。

 行動開始まで、あと2分。


 懐中時計には、針が音を立てないように手を加えてある。

 だが針の動きを見ていると、今にも音が聞こえてきそうな錯覚に陥る。

 集中すれば集中する程にな。


 だが、それ以上に心臓の音が強く出そうなのを感じている。

 意識を鎮め、緊張もまた鎮める。


 あと1分。


 星穿ちが目を覚ます様子はない。


 あと30秒。


 行動の時が近付いてきた。

 緊張感の調整は、既に終了している。

 おかげで、周囲の静寂すら感じられる。


 あと20秒。


 アイテムBOXから短剣を取り出す。

 それを掴む手は緊張とは程遠い。

 まるで、それが当り前であるかのように、自然に短剣を掴んでいる。


 あと10秒。


 完全に一つとなった。

 呼吸も、緊張も、意識も。

 見えているのは、これからの行動のみ。

 己の在り方だけ。


 ──────────あと5秒


 ──────あと3秒

 ────あと2秒

 ──あと1秒


 0秒


 走った。

 体に魔力を纏わせて。


<マスター フレイム>


 手加減など必要はない。

 いや、そもそも手加減などしている余裕はないのだ。


 相手は星の生命を喰うような怪物。

 前世の俺ならともかく、今の俺にとっては明らかに格上の存在。

 最初から、出来る限り高い火力で襲う以外の選択肢はない。


「焼き尽くせ」


 辺り一面へと炎が広がる。

 地面を覆い尽くすかのように。

 だが、それは一瞬。


 地面を覆い尽くさんほどに広がった炎。

 それは、星穿ちの巨体へと集まり白く輝く火球へと変わった。


 あの火球は、かなりデカイはずなのだが。

 星穿ちが、それ以上にデカイせいで、バスケットボール程度にしか感じられない。


 改めてコイツのデカさを実感した。

 やはり、まともに相手をするのは避けた方が良さそうだ。


『UGOOOOOoooooooooooo』


 ヤツの巨体に比べると小さな火球でしかない。

 しかし、十分な効果であった。


 ダンジョンが揺れる程の叫びが辺りに響く。


 星穿ちの叫びだ。


 気持ちよく寝ていた所に、かなり強い魔法が炸裂したのだ。

 気分が良いわけがない。


 星穿ちの頭部がバスケットボール大に抉れている。

 一瞬で炭と化したソコは黒い穴となり、大量の血液が流れている。


 デカいというのは、それだけで強みとなる。

 人間であれば全身が炭と化す魔法ですら、少し深い傷で済んでしまう。

 こんな相手を大火力を使って、一瞬で葬るのは難しい。

 なら、やれることは決まっている。


「降り注げ」


 再び魔法を放つ。

 俺の周囲に火の粉が広がる。

 それはやがて、遥か頭上の一点へと集まった。


 先程の火球よりもは大きい。


 それでも星穿ちの前では、遠近感が狂ったかのように小さく見えてしまう。


 火球が弾ける。

 熱線のように、オレンジ色の軌跡を描きながら無数の炎が星穿ちを襲った。


 だが、星穿ちは意にも返さず俺へと迫る。

 蛇のような動き。

 だが早い。


 それに迫るヤツには、その巨体ゆえに岩──いや、巨大な壁が迫ってくるような迫力がある。


 俺は走る。

 星穿ちへと攻撃を加えながら。


 地面を蹴り、後ろへと跳び。

 時には横へと避けて相手を翻弄する。


 巨体であるが故に、ヤツは広い範囲を攻撃できる。

 ただ体を動かすだけで、人間程度なら押しつぶせる。


 幅が広すぎて躱しきれない。

 初見であればな。


 だが、俺には経験がある。


 相手の行動は直線的。

 どこに攻撃を仕掛けるのか、簡単に読めてしまう。


 それにヤツの攻撃は大雑把だ。

 巨体による体当たりしかないため小回りが利かない。

 よって避けるのは難しくない。


 星穿ちが攻撃の準備をしたとき──

  星穿ちが俺の横を通り過ぎたとき──


 攻撃を仕掛ける。


 剣は邪魔でしかない。

 魔法での攻撃。


 最初のような強い魔法を放つ余裕はない。


 ヤツが攻撃を始めた時点で、超大型のトラックと戦っているようなものだ。

 蛇のような動きであっても、決して鈍重ではない。

 足を止めれば轢き殺される


 炎を、水を、風を、土を。

 様々な魔法を駆使しながら攻撃を繰り返す。


 足を止めるどころか、集中を切らす間もない。

 ひたすら走りながら攻撃を繰り返す。


 火球を放つ。

 星穿ちへとぶつかった時の破裂音は、地響きのようなヤツの移動による音によって掻き消される。


 攻撃が全く意味を持たない。

 しかし、星穿ちを苛立たせる事は出来ている。


 何十発も喰らわせた結果、動きが荒くなってきた。

 そのせいでダンジョンの揺れも、とんでもない事になっている。


 ヤツが動くたびに、俺のお子様ボディが浮き上がりそうになる程だ。


 転べば、轢死体れきしたいとなるのは目に見えている。

 それなのにこれ以上、早く走るわけにいかないのが辛い。

 ヤツを引きつけなければならないのだ。


 走る──走る────走る──────走り続けて、ヤツの眠っていた部屋から抜け出た。


 走りながら背後を確認する。

 追ってきているな。


 俺を自らの手で排除するべき敵と認めたようだ。

 明確な殺意を飛ばしながら、俺を追ってくる。


 徐々にヤツとの距離が縮む。

 いかに魔法を駆使しようとも、巨体故にヤツの方が移動速度が早い。


 小回りが利く状態なら問題はなかった。


 だが、今は通路を走っているのだ。

 直線的な動きが中心の現状。

 アイツの方が遥かに有利。


<マスター ウインド>


 攻撃を止める。

 風魔法を使いながら、移動に集中することにした。


 直線的な通路であれば、風魔法による背後で爆発で一気に前へと進む。

 急な曲がり角があれば、壁を蹴るため地面と水平になった体を風で支える。

 風魔法を駆使し、ひたすら走り続けた。


 だがダンジョンの通路を、巨体で削りながら進むアイツが遠ざかることはない。

 それどころか、ヤツとの距離はドンドン縮められている。


 やがて、一際大きな空間へと辿り着く。


 第一通過ポイントと言ったところか。

 その空間に入ると同時に、左手で火球を放つ。

 星穿ちにではない。

 空間の奥にだ。


 走る──走る────走る──────走り抜けて空間を出たとき、巨大な爆発音が響いた。


 星穿ちの出す、大騒音をも飲み込む爆発音が。

 爆風が俺の横を通り抜ける。

 熱波とも言える、熱い風を感じた。


『UGuOOOoooooo』


 星穿ちの叫びすら、爆音の中に消えて行く。

 耳を守っていなければ鼓膜が破れていたかもしれない程の大音量。


 トラップだ。

 シルヴィアとメンバーに用意させた。


 ダンジョン内のあちこちに用意させた、本当は使ってはいけない魔導具。

 魔力に反応して、時限式の爆弾として起動するという危険物。

 このダンジョン内に満ちている魔力を集めて大爆発を起こす。

 いうなら、ダンジョン限定の爆弾。


 だが──ヤツは生きている。

 その影を確認すると、俺は再び走り始めた。

 土煙りの中から、いっそうの怒りを宿したヤツが姿を見せたのだ。


 動きに乱れがある。

 多少はダメージを喰らってくれたようだ。


 魔法で背後に攻撃を仕掛けながら走る。


 いっそうの殺意を抱いてくれた。

 計画通りに。


 34階層から始まった命懸けの追いかけっこ。

 33階層を走り抜け、32、31、30と駆けて行く。


 ”潰し”のおかげで、道中にモンスターなどいないのだ。

 最下層までに掛った時間が嘘のように、短時間でダンジョンを駆け上がっていく。

 途中で何度も、トラップを作動させながら。


 星穿ちは、俺の挑発がお気に召したようだ。

 どんなに痛い目に合っても必死に食らいついてくる。


 だが、残念な事に選手交代の時間だ。


 通路の先。

 視界の向こうには、杖で肩を叩いているイザベラ。

 そして手前には魔方陣。


「頼んだぞ」

「年寄りは、労わって欲しいのじゃがのう」


 などと、軽口を叩いて魔方陣へと飛びこむと、辺りが静寂を取り戻した。

 俺は静寂に包まれた場所へと転移したのだ。


 先程の魔方陣は、ダンジョン内に仕掛けた転移方陣の亜種。

 別の階層へと俺は移動したのだ。


 しばらく休憩だ。

 イザベラの後はシルヴィアが、星穿ちとの追いかけっこに興じる。

 その後は再び俺の出番。


 命懸けの追いかけっこはまだ続く。


 *


 俺の鬼ごっこが再開された。

 後ろから追いかけてくるのは、通路を塞ぐほどの巨体をした星穿ち。

 イザベラやシルヴィア、それとトラップの影響もありかなりの傷が付いている。


 ヤツの尾にあたる根も、かなり削り取れているハズだ。

 ここからは確認できないがな。


『KISYAaaaaaaaaaaaa』


 かなりの怒りを感じる。

 安眠を妨害しただけでなく、手傷も与えられたのだ。

 寝起きで機嫌が悪いというのもあるかもしれない。

 通路の壁や天井を破壊しようとも、お構いなく迫ってくる。


 走る──走る────走る──────走り抜ける。


 終わりだ。

 目の前には、無限の深さのある青。


 出口だ。

 急な坂の先は、青い空が広がっている。


 長かった鬼ごっこはここで終わる。

 そして鬼ごっこの次は、鬼退治が始まる。


 始まりの狼煙のろしを上げよう。


 ”マスター ウインド”から”マスター フレイム”へと切り替える。

 同時に走るスピードを緩める。


 一気に狭まる、俺と星穿ちとの距離。

 天井や壁を壊す轟音と、ヤツの怒りに満ちた鳴き声との距離も狭まる。


 俺を捉えた。

 そう考えたのだろう。


 憎き侵入者を始末しようと、巨大な顎を開いた。

 赤色が全くない口内は、岩のような灰色。

 無数の牙が隙間なく並んでいる。


 星の生命を吸う事に特化したヤツの体は、捕食による栄養補給は必要としない。


 あの口に入れば、待っているのは無意味な死。

 捕食者の糧にもなれない無意味な死が待っている。

 だが、俺にはどうでもいい話だ。


「プレゼントだ」


 足元に置かれていた白い箱を蹴飛ばした。

 大きすぎる程の口に。


 あの大きさだ。

 届きさえすれば、中に入らない方がおかしい。


「燃えろ!」


 白い箱を追いかけさせるように火球を放つ。

 ”マスター フレイム”の火球だ。

 中々の熱さであろう。


 白い箱を追いかけた火球。

 それが、どのような結末を生み出すのか確認する気はない。


「引け!」


 掴んだのは、ダンジョンへと降りるときに使ったロープ。

 最初に衝撃を感じ高と思うと、次の瞬間には無重力感が体を襲った。

 ロープによって体が外へと引き上げられていく。


 空との距離が、どんどん近付いていき、もうじきダンジョンの外。

 外の風を僅かに感じたとき、足元から激しい熱風が吹き去った。

 爆風だ。


「IGIIIYAaaaaaaaaaaaa」


 先程、星穿ちにプレゼントした白い箱。

 あれはダンジョンのあちこちに設置した、あのトラップ。

 ヤツの口の中で見事に爆発してくれた。


 これまでにない、悲痛に満ちた叫びが響き渡った。


 体が爆風に押し上げられる。

 そのせいなのだろう。

 ロープを引くスピードが早くなった。


 空へと体が投げ出される。

 と、すぐに地面へと引っ張られて転がった。

 だが即座に起き上がる。


「来るぞ!」


 叫んだ。

 星穿ちはまだ死んでいない。

 先程のプレゼントが、アイツの怒りのメーターを振り切らせた。


 巨体が生むダンジョンを進む震動。

 これにすら、怒りの感情が憑り付いたかのようだ。

 立っているのすら困難に感じる程の振動が、足元から脳天にかけて突き抜ける。


 全身を揺らす振動は、この島そのものが乗り物になってしまったかのような、変な違和感を感じさせる。


 この振動を生み出しているのが一匹の生物だと言えば、出来の悪い冗談だと感じる者もいるハズだ。

 しかし、冗談でも何でもない。


 ヤツは──星穿ちはココにいる!


「GUGAaaaaaaaaaaaaa!」


 巨体に押し広げられた、ダンジョンの入り口が砕け散る。

 地面もまた砕けて土の塊が空へと舞う。

 音はヤツの叫びによって支配される。


 まさしく破壊の化身。

 星の生命を喰い散らかす最悪の魔物。

 星穿ちがその姿を地上に表した。


 化け物とすら表現できない。

 巨大すぎて生物だと、脳が捉えられないのだ。


 そんなヤツとこれから戦わねばならない。

 神すら警戒する相手なのだ。

 まさしく絶望的な戦い。


 だから────念入りに準備はしてある。


「下がれ!」


 メンバーに命じるとともに、火球を放った。


 声が聞こえたかは分からない。

 だが、打ち合わせ通りに彼らは動いてくれた。

 一斉にメンバーは下がる。


 ダンジョンの入り口周辺を囲むトラップ。

 たった1つでも大爆発を巻き起こすそれは、20を優に超えている。


 メンバーが、安全な場所に下がるのに合わせて火球が届いた。

 凄まじい爆発が巻き起こる。


 ヤツの砕いた以上の地面を抉り、ヤツの叫びを掻き消す程の爆音を響かせ、ヤツに俺ら以上の絶望を与える。


 あまりもの轟音に、ヤツの悲鳴が俺らの耳に届くことはない。

 だが、アイツは死んでいない。


 落ちてくる。

 山のような影が、舞いあがった土埃の中を。

 ヤツの尾は千切れているが、まだ十分な魔力を有しているのが分かる。


 だが、準備はコレだけではない。


 俺は腕輪に込められた魔力を取り出すと、拳に集めて影を襲撃した。

 それは、マスタークラスの4つの属性を集めた魔法。

 神の目を欺き、大勇者()の存在を隠すための秘術。

 

<魔女の匣庭(まじょのはこにわ )>


 土埃の中へと飛び込んで殴りつける。

 手に伝わるのは、岩を砕いたような感触。

 だがヤツの巨体故に、かすり傷程度の価値もないダメージでしかない。


 それでも、今は十分だ。


 殴りつけると同時に世界の色が変わった。

 並行する世界に、俺とヤツとを移動させたのだ。


 周囲の景色は同じ。

 違うのは空が血のように赤いこと。

 それと、俺と星穿ち以外の生物が消えたこと。


 マスタークラスの魔力を4つ集め、ようやく発動できる魔女の匣庭。

 発動のキッカケとなるのは、集めた魔力と対象の魔力とをぶつけること。

 星穿ちの障壁にぶつけて、今回は発動させてもらった。


 ここでなら、全ての力を出そうとも神に俺の存在を悟られることはない。


<マスター エレメント>


 久しぶりに、全力で行かせてもらう。

魔女の匣庭の匣は誤字ではございませんm(_ _ )m

雰囲気重視でコチラの漢字を使わせて頂きました。

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