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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は遭遇した 『あれは、本当に生き物なのでしょうか?』

 歩いているのは地下23階層。


 一部、とてつもなく広い通路がある。

 そしてこの広い通路から、枝のように細い通路が伸びている感じの構造。

 

 これは、星穿ちのダンジョンが持つ特徴だ。


 しかし、少~し違和感がある。

 アイツが育つと、星の生命力が減退するのだがな。

 俺が知る限り、地上にそんな様子はなかった。


 ケットシー達からも、そんな報告が来ていない。

 情報が命ともいえる商人集団であるアイツらだ。

 星の生命力が減退している兆候を見逃すはずがない。


 この点が気になり、星穿ち以外の線も考えていたのだが。

 やはり最初の予想を肯定する証は見つかっても、否定する要素は見当たらない。

 よって、実際のところどうなのか、いまいち判断がつかずにいる。


 まあ、最深部に行けば分かる事であるが。

 星穿ちであれば、最深部で寝ているハズだからな。


 更に奥へと進む。


 25階層まで制圧して、眠る時間になった。

 だが、今日は眠る前にひと仕事しておこうと思う。


「切り裂け!」


 風魔法を用いて、モンスターを葬る。

 倒したのは鮫の姿をしたモンスター。


 夢と魔法と殺気が溢れている、ファンタジックな宙を飛ぶ魚だ。


 どんな原理で飛んでいるのか気になる。

 だが、それをイザベラに質問してはいけない。

 長話に付き合わせる事になるからだ。


 シルヴィアに聞くわけにもいかない。

 アイツに訊ねたら負けた気がする。


 イリアにも聞けない。

 彼女が知っていて俺が知らなかったら、俺の中で何かが砕け散る気がする。


 この魚型モンスターだが、かなり増えてきた。

 1体1体は強くないのだが、宙を飛んでいるため動きを読むのが少し難しい。

 スタッフさんが苦労している。


 特に剣なんかの物理攻撃を軸に戦うヤツだと、かなり手こずっている。

 魔法を使えるヤツの方が、少しマシといった感じか?


 5日目──25階層に到達。

  6日目──30階層に到達。


 通路を進む。


 狭くはない。

 しかし星穿ちのダンジョンは全体的に広い。

 このため、相対的に狭く感じてしまう。


 大分モンスターが強くなってきた。

 それでも、少し弱らせればイリアも倒す事が出来るレベルだ。


 中々の数を葬らせているため、彼女は血で濡れている。

 もちろんモンスターの血でだ。


 ──ふむ、返り血を浴びた女児か。


 こういうのが好きなヤツはたまらんだろう。

 故に俺は警戒をせねばならない。

 イリアをそういう目で見ているスタッフさんがいたら、速攻でぶん殴らねばならないからな。


 少なくとも今は、そういうやからは見当たらない。


 だが、油断はできない。

 あの手のヤツらは、突如として現れるものだ。

 周囲を警戒していると、スタッフさんの1人が走ってくる事に気付いた。


「死んでいる……か」


 スタッフさんに案内された場所。

 そこには、あり得ない光景があった。


 この場所に、俺たち以外はいないハズ。

 だが、先客がココにいた。

 死体となって。


 2人がは地面に倒れ、1人が壁にもたれたまま息絶えている。

 3人とも魔法でヤられたようで、大きな傷口はない。


 よく確認してみる。


 かなりの装備だ。

 1人は重装備で、1人は魔導師か。

 あと1人は軽装であるが、斥候職のようだから十分な装備と言えるだろう。


「ぬっ?」


 男たちを調べていると、イザベラの表情が変わった。

 コイツ好みの男でもいたのだろうか?


「この紋章はサクリファイスの物じゃのう」


 男の腕に、青い文字のような物が刻まれている。

 はて、サクリファイスってなんだ?

 イザベラに訊ねてみた。


 しまった!

 長話の危険性を忘れていた。

 自分の低性能な頭脳が恨めしい。


「サクリファイスというのはじゃのう…………はた迷惑な犯罪集団とでも考えればよいじゃろう」


 言葉に間があった。

 この間の中で俺への説明を諦めたような気がするのだが。

 気のせいではないだろう。


 長話の業を持つイザベラ。

 俺の頭脳の低性能ぶりは、彼女すらおののき語ることを戸惑う程らしい。


「少し調べてみるか」


 このような事はスタッフさんに任せればいい。

 だが、なんとなく気になったのだ。

 何でサクリファイスというヤツらが、このダンジョンで見つかったのかが。


 まぁ、犯罪集団と評される程だ。

 何が目的なのかを悟らせるヘマはしないと思うが。

 それでも調べた方が良いような気がする。


 ダンジョンの階層制圧をスタッフさんに丸投げだ。

 俺は、しばらく死体を確認することにした。

 案の定、目的が分かるような物は何も出てこなかったが。


「そう都合よくはいかない物だな」


 確認が無駄に終わったのを悟り、この場を去ろうとした。

 だが、俺はふと足を止める。


 彼が首から下げていたネックレスが気になったからだ。


 先程までは、ただのアクセサリーだと思っていたが。

 何故か無性に気になった。


 根拠は。危機回避に役立ったためしのない、元大勇者の勘だ。


 首元の鎖を引っ張り、ネックレスを確認してみる。

 服の隙間から出てきたのは、ネックレスに通された赤銅色のリング。


 壁に寄り掛かったコイツだけが身に着けている。


 コイツだけが特別なのでは?

 このように考えると、他の2人の倒れ方に意味がある事に気付いた。


「コイツを守ろうとしたのか」


 リングを持っていたヤツがリーダー──違うな。

 ネックレスをつけたこの人物は、まともに戦った様子がないのだ。

 むしろ重要人物の護衛の2人と、警護されていた重要人物だと考えられる。


 警護されるヤツが、こんな危険な場所に来るなど矛盾している気がする。

 俺の中で疑惑が、徐々に膨れて行っていく。

 もう少し情報が欲しい。


「この素材が何か知っているか?」

「ふむ……」


 しばらく考えるも、イザベラから出たのは芳しい答えでは無かった。

 大魔導士であるコイツも分からないのか。


 俺自身も、魔法関連には詳しいつもりではあるのだがな。

 この指輪に関しては、全く分からない。


 素材も分からなければ、込められた術式が持つ意味も理解できない。

 俺の知る系統と外れた技術で、作られているという事なのだろうか?


「拝借させてもらおう」


 ここで話し合っても答えは出ないようだ。

 リングを奪い、アイテムBOXへと放りこむ。

 ふっ、俺にイザベラの手癖の悪さがうつっちまったようだぜ。

 などと感慨にふけった所で気付いた。


「……当たりだったようだ」

「どうしました?」


 イリアが疑問に感じるのも当然だ。

 シルヴィアやイザベラも、気付くことは出来ないハズだ。

 俺以外では、誰も気付けない事だろう。


「コイツ、魔人だよ」


 リングを外すと、死体の心臓部分。

 そこに開花した魔王の素質が見えるようになった。

 と、なるとこのリングは、素質を隠すための物ということか。


 だがこれだけの効果であれば、このダンジョン内で身に着けるメリットがない。

 街でなら着ける意味はあるかもしれないがな。


 別の効果を、このリングは持っているのか?


 だが、推測で語るのはココまでだ。

 これ以上調べても、何かが分かるとは思えない。


 俺らは先へと進むことにした。


 *


 7日目──34階層にてヤツに遭遇。


 予定であれば5日目には、ヤツの元に到着すると思っていた。

 しかし、前世からの憶測は見事に外れた。

 目的を達する事が出来たのは、7日目の昼ほどであった。


 俺の夏休みは、ご臨終が確定したな。

 帰る頃には、夏休みが終わっていることだろう。

 下手をすると始業式が終わっているかもしれない。


 そんなことになれば、我が妹に何を言われることだろうか?

 少し怖い。


「あれは、本当に生き物なのでしょうか?」


 ダンジョンの最深部。

 イリアが最もな意見を口にしている。


 当初の目論見通り、ヤツがいたのだ。

 星穿ちが。


 ヤツのデカさを見たら、生物か疑いたくなる気持ちも分かる。


 ここは、星穿ちのダンジョンということで間違いがなかった。

 途中で心配になったが、俺の予想があったのだ。

 それなのに誰も褒めようとしてくれない。


 褒められて伸びるタイプなのに、褒められないのは辛い。

 誰も俺の成長を望んでいないのだろうか?


 とりあえず、偉そうなことの1つでも言ってみよう。 

 そうすれば褒めてもらえるはずだ。


「イリアよ。おんしは運が良いぞ。モンスターの中には、あれ程でなくとも丘程度であれば出会う事もある。出会ったとき、大概の者はあまりもの大きさに冷静さを失うものよ。今回の事で、おんしは耐性が出来たハズじゃよ」


 先を越された。

 俺を差し置いて、イザベラがイリアの師匠らしい事を言っている。

 いちおう、俺が師匠のハズなのだが。


 しかし、言っている事に間違いはない。

 こういうデカいモンスターと遭遇すると、動けなくなるヤツも多い。

 体がすくむなどしてな。

 その結果、逃げる事も出来ずに大概は潰される。


「……予想以上ね」


 シルヴィアも星穿ちの大きさに絶句している。

 デカいモンスターというのは多くない。

 ましてや、このサイズとなると尚更だ。


 当たり前だ。


 体がデカければ、そのぶん食べる量も増えてしまう。

 大きいというだけで強さに繋がる。

 しかし、限度を超えれば生存する力が弱まる。


 どんなに豊かな餌場であっても、食えばその分は無くなる。

 喰い尽くせば、食べ物は皆無となる。


 餌場を移動しようにも、体がデカければその分だけ移動で消耗する。

 圧倒的にデカい体であれば、それを維持できる餌が手に入る場所が限られてくる。


 そんな生物は満足に食えず、徐々に衰えて行くのは目に見えている。


 圧倒的にデカいモンスターは強い。


 しかし、圧倒的にデカいモンスターは生存力が弱いということだ。

 しかし、星穿ちは違う。


 星その物から生命を吸い取り、やがては星を捨てて何処かへと消える。

 仮にこの世界の生命を全て吸い尽くしても、新しい餌場へと移動できる。

 よって、喰い尽しても問題ないのだ。


 仮に星を殺してしまってもな。

 だから、星穿ちは通常の生物では無理なデカさでも全く問題がない。

 このこともあり、遠慮なく星を喰える。

 体もそういう風に進化している。


 ヤツは、暴食の化身とも言える存在なのだ。


「打ち合わせ通りに頼むぞ」


 しかし、星穿ちの生態がどうであるかは全く問題がない。

 これから地獄に送るのだ。


 シルヴィアに計画の実行を伝えると、辺りが騒がしく動き始めた。


 *


 設置した転移方陣の亜種を使い、あちこちでスタッフさんが準備を行った。

 星穿ちを地獄に送る準備を──。


 念のため、外では船がいつでも出航できるように魔導エンジンを動かしている。


 この島には、大型船が乗り付けられなかった。

 だから小型船で乗り込んだのだが、そちらもすぐに動かせる。


 星穿ちを起こすと、ダンジョン内の敵には執念深く襲い続ける。

 だが、ダンジョンから離れれば元いた場所へと帰る。


 このことを考えれば、やり直しがきくと言える。

 海へと出てしまえばいいのだからな。


 しばらく待つ。

 星穿ちを岩影から眺めながら。


 イリアの言った通り、デカすぎて生物だという実感がわかない。

 まるで小さな山だ。


 適当に休みながら星穿ちを警戒していると、やがて準備を終えたという知らせがきた。


 *


 今いるのは、ダンジョンの最下層。

 星穿ちの眠る場所。


 ヤツの姿は、全体的に白い岩のような重厚さを持った甲羅に覆われた怪物。


 頭部と呼べる部分は、白いカブトガニとしか言いようがない形状。

 もちろん、カブトガニとの違いもある。

 真ん中に、オレンジ色の宝石みたいなものがついているくらいか?

 ついでにカブトガニのような足も付いていないな。


 あとは、カブトガニの尾の代わりに太い蛇の胴体のような物が伸びている。


 蛇の胴体のようではある。

 しかし実際は、鋭い岩が無数に重なりながら伸びているという感じだ。


 この部分は根っこ。

 根に岩を絡めているため、このような見た目となっている。

 で、この根は当然だが星から生命力を吸うのに使われているわけだ。


 星穿ちの体というのは頭部に当たる部分しか存在しない。

 その頭部が、とんでもなくデカイ。


 一般民家を5軒ほど、縦に並べられるのではないだろうか?

 横は、デカすぎてよく分からん。

 縦の4倍以上ありそうだから、20軒程ではなかろうか。


 て、いうか気になっている事がある。

 コイツ、成体になる寸前だ!!


 成体になる寸前の星穿ちに会ったのは、俺とて初めてだ。

 しかし、頭の宝石がオレンジ色になると、生態になる寸前だと聞いた事がある。

 明らかに、目の前の星穿ちと特徴が一致しているのだ。


 だからこそ、星穿ちを葬る計画を立てた。


 しかし、こんな状況になるまで天軍が動かなかった事を考えるとな。

 星穿ちよりもマズイ事が起こっているかもしれん。

 このような状況で神が動かないはずがない。

 それなのに動かないのだ。


 後で確認した方が良いかもしれない。

 大精霊にでも聞いてみるか。


 ──また、平穏から遠ざかっていないか?


 いや、今回は止むを得ない。

 神に何かがあれば、世界全体が面倒な事になるのだ。

 平穏に生きられる場所が無くなりかねない。

 星穿ちの件も同じだ。


 今回の措置は、平穏に生きるのに必要な事なのだ。

 納得は全く出来ないが。


「準備が完了しました」


 思考に没頭していると、スタッフさんの一人が連絡に来た。

 ようやく準備が出来たか。


 連絡に注意をひかれてしまい、何を考えていたのか忘れてしまった。


 忘れる程度の事だ。

 大したことはないのだろう。

 そうあって欲しい。


 もっとも、何を忘れたかなど今は関係ない。


「了解した。10分後、行動を開始する」


 今から、星穿ちを葬る事に変わりはないのだから。

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