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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は少し動いた 『肉片が散らばっているだろうな……』

 船に乗せて連れてきた連中──長くて面倒だ、スタッフさんと呼ぶ事にしよう。


 スタッフさんに丸投げしたまま、各階層の制圧が進んでいく。

 ダンジョンの奥から聞こえるのは彼らの戦いの音。


 鋭い金属の音や、気合のこもった声。

 それ以上に響くのがモンスターたちの悲鳴。


 少し罪悪感が──。


 だが、ダンジョン内のモンスターは人形のようなもの。

 決して殺戮を行っているわけではない。


 分かっていても罪悪感が──。


 いや、こんな所で踏み止まるわけにはいかない。

 罪悪感を抑え込んだところで状況を説明する。


 *


 1日目


 地下1階層に降りた付近で色々あったが、それからは順調に進んでいる。

 これも一重に、俺の勇者コレクションのおかげだ!


 音叉っぽいアレで地図を作れば、ダンジョン内は丸分かりだからな。

 だが、誰も褒めてくれない。


 少し悲しい。


 ロープを頼りに、地下2階層へと降りる。

 今度はイザベラは降ってこなかった。


 この辺りは、まだモンスターが弱い。

 イリアの経験値稼ぎをやってもいいが、もう少し先に進んでからにする。


 ダンジョン内での戦い方を経験させておきたいが──。

 いくらなんでも敵が弱すぎる。


 弱すぎて経験値稼ぎの意味がほとんどない。

 ここはスタッフさんに任せて、ダンジョンの攻略を急いだ方が良さそうだ。

 ダンジョン攻略は、しばらく速度を優先する事にした。


「慎重じゃのう」


 地面に落書き──ではなく、細工をしている俺に話しかけてきた。

 イザベラだ。


 もちろん、手に和菓子を持っている。

 いつの間にか、食いしん坊キャラに転職したようだ。


「ダンジョンにいるんだ。慎重過ぎるなんていうことはないだろ?」

「否定はしておらんよ。ちと、昔のおんしを思い出しただけじゃ」


 そう言われてみれば、そうかもしれない。

 スバルだった頃も、かなり慎重に動いていた気がする。

 などと、少しシンミリした俺が馬鹿だった。


「術式をメモさせてくれんか?」


 どうやら、術式目当てだったようだ。

 あの、ギラつくマッドな目で見ているのだから間違いない。

 イザベラは、俺のオリジナル魔方陣に興味津津だ!


「貸しだぞ」


 俺のオリジナルとは言え隠す必要もない。

 貸しにしておいた方が、後々利益になるだろう。


「体で払おうかのう」

「現金で払わせるぞ!」


 などとやり取りをした。

 だが、このとき既に術式をメモし終わった後であった。

 相変わらず手が早い。


「これは転移方陣の亜種じゃな」

「ああ。魔力が満ちたダンジョン専用で、陣同士を繋いで短距離の転移を行える。だいたい2週間程度で消えるがな」


 それなりに高価な道具が必要だから、使う予定はなかったが。

 星穿ちが相手となると、逃走手段を用意しておきたかった。


 アイツ、物凄くデカイからな。

 追われたらダンジョンが崩れそうで、どうしても心配になる。

 

 で、1日目は特に問題もなく地下4階層まで進むことができた。


 その夜、本格的な睡眠をとることになった。

 これは俺たちだけではない。

 他のヤツらもだ。


 通常のダンジョン攻略であれば、のんびり眠ることなどできない。

 だが、今回は組織的なダンジョン攻略。

 いや攻略というよりも制圧と称する方が良いかもしれない。

 各階層を制圧しているようなものだから。


 安全性をしっかりと確保しているため、しっかりとした睡眠が取れたのだ。

 おかげで俺のお肌もプルプルだ。


 もちろん俺達が眠っている間も攻略は進んだ。

 スタッフさんのおかげでな。


 俺らが起きるまでの間に、このさき3層の制圧を行えたようだ。

 だから地下7階層までモンスターはいないという事になる。


 *


 2日目


 更にダンジョンを進む。

 奥へ、更に深くへと。


 まだ大丈夫なようだ。敵はまだ強くはない。

 スタッフさんだけで、モンスターを駆逐できている。


 このため、俺のする事があまりない。


 暇だ。

 とても暇だ。


 イザベラは能天気に、また和菓子を頬張っている。

 それ以外に述べるべき事は一切ない。


 次にイリアだが──優等生だな。

 スタッフさんが制圧したとはいえ、周囲への警戒を怠ってはいない。

 剣をいつでも手に取れる位置においてある。


 ──気を休めるのも大切だぞ。


 などと言おうとしたがやめた。

 理想は、リラックスしながら警戒する事なのだがな。


 具体的には頭の中の一部を警戒に当てて、それ以外の部分を休ませるという形なのだが──今は難しいだろう。


 今は常時警戒し続ける位が、ちょうど良いと思う。

 

 次にシルヴィアだが、ときおり休憩をはさんでいる。

 見た目だけは良いから、鼻の下を伸ばした男共に色々とサービスをしてもらっているようだ。


 飲み物を渡されたり、軽食を渡されたり、飲み物を渡されたり、飲み物を渡されたり、飲み物を渡されたり、飲み物を渡されたり──飲み過ぎだな。


 トイレは、あっちだぞ。


 更に進む。

 次は第8階層。


 まだ、モンスターは弱い。

 先程と同様に、モンスターが一通り駆逐されたのを確認されて下へと降りた。


 楽でいいな。


 だが8階層を過ぎ、9階層を超えて、10階層まで降りたとき状況が変わった。

 少し制圧に時間がかかるようになったのだ。


 誤差の範疇ではあるが、近いうちに俺らが動くことになるかもしれん。


 と、考えていたが、結局地下13階層まで俺らが動く必要はなかった。

 ダンジョン攻略の2日目は、地下13階層の制圧をしたあと眠る事にした。


 思ったよりも敵が強くなるのが遅い。

 今のところ、良いペースで進めていると思う。


 だが、そもそも何階層まであるのか分からないダンジョンなのだ。

 この点が少し精神的にキツイ。


 それはともかく食事だ。

 うまい飯を食えば、多少のストレスは和らぐ。


 通常であれば、温かい料理をを出すわけにはいかない。

 臭いでモンスターを集めてしまう。


 しかし、通路は結界で封鎖中なのだ。

 モンスターがこの辺りまで来る事は無い。


 温かい食事を安心して口にできる。


 もちろん睡眠もしっかりと取るらなければならない。

 ”潰し”の良い所は、通路を閉鎖するため相手にするモンスターが少ないことにある。


 だから、通常のダンジョン調査よりも安全性が遥かに高い。

 とうぜん睡眠時間や食事時間も、しっかりと取れるわけだ。


 潰しによって安全を確保している。

 さらに俺の勇者コレクションで、制圧ペースを底上げできている。


 先に述べた、あの地図を作れる音叉しかり、転移方陣の亜種しかり。


 これだけではない。

 チョットした魔導具も用意してある。


 空間を捻じ曲げて、あらかじめ設定した場所と繋げるというアイテムだ。


 一見するとハリボテのドア。

 だが扉を開けると──と、いう青い猫型ロボットが使うアレに似たドアだ。

 性能は、コチラの方が数段落ちるのが残念である。


 貴重過ぎるアイテムである上に密閉された部屋としか繋げられないなど、様々な制約がある。


 今回は、ケットシーに用意させた公衆トイレに繋げた。

 隠語でも何でもなく、あのトイレだ。


 ダンジョンとかは、このトイレに困る。

 油断していると、モンスターに襲われるからな。

 そんでもって、大概は惨事になる。


 *


 3日目


 3日目に入った。

 地下14階層~15階層までは問題なく踏破。


 そして地下16階層。


 この階層から辺りの様相が変わった。

 水気が多くなったのだ。


 例えば、水溜りであったり壁を伝う水であったりな。


 こういった変化があったということは、いよいよ本番だ。

 モンスターたちが一気に強くなる。


「遠慮せずにいけ」 


 俺の声と共にイリアが前へと出る。

 彼女の隣を走るのは銀狼フェンリル


「フェンリル!」


 イリアの声と共に、銀狼の体がいっそう眩い銀色へと変わる。

 その姿は、まるで光り輝く風。


 光を放っているが、温もりは一切感じられない。

 温もりが無いのは、フェンリルが冷気を司る使い魔である故。


 まるで氷に光を通したかのように冷たく輝く風。

 それがイリアが手にした剣へと吸い込まれていった。


 剣に冷気を纏わせたイリアが、モンスターへと迫る。


 対するは、サハギンと呼ばれる魔物。


 頭は魚。

 体は人間。

 全身が青い鱗で覆われている。


 白目のない、黒い目がイリアを捉えた。


「IGyaaaaaaa」


 叫びとも鳴き声ともとらえられない、奇妙な声を発しながらイリアへと走る。


 手には何も持っていない。

 だが、青白い光が手に集まっている。

 あれは指先から伸びる鋭い爪を、いっそう鋭くするための魔法。

 今の爪は、並のナイフよりも良く切れることだろう。


 イリアの剣とサハギンの手がぶつかる。


 金属が触れ合ったかのような音は響かない。

 代わりに聞こえたのは、金属を石で叩いたかのような音。


 サハギンの手に集まった光は、手に生えた鱗の強度も高めているのだ。

 強度の高まった鱗との衝突が、この音を生じさせている。


 成人男性ほどの背をしたサハギン。

 対するイリアはサハギンの胸元にかろうじて届く背。

 リーチが全く違う。


 だが、剣の長さの分だけイリアが有利──とは限らない。

 腕の長さの違いもあるため、リーチの有利はかなり削がれている。

 それに素手である分だけ、サハギンは小回りが利く。


 現状では、サハギンの方が有利と言えるだろう。


 イリアの剣を、細かな動きで防ぐサハギン。

 何度も振るわれる剣は、何度もサハギンの手によって防がれる。


 剣を振るう。

 だが、石を叩いたような音と共に防がれる。


 頭上から剣を振り下ろすという型は使えない。

 相手の身長が高すぎるのだ。


 ここまで身長差がある状態だと、隙ばかりが大きくなってメリットがあまりない。


 イリアも分かっている。

 距離を一定に保ちながら、上段の構えは使わずに戦っている。

 何度も剣を振るう。


 石を剣で叩いたような音の数は、彼女が剣を振った数。


 振った剣に返ってきた全ての音が、石を打ったかのような音。

 攻撃が通らず、音だけがダンジョンに響き続ける。


 このままであれば、イリアが追い詰められる事になるであろう。


 体力が違うのだ。


 モンスターと人間の違いもある。

 だが、それ以前にイリアは子供だ。

 長引けば体力の違いから押し負けることは明白。


 早めに決着をつけたいところであるが──。


 更に剣を振るう。

 何度も、何度も。


 剣に乱れが出始めている。

 どうやら懸念していた事が出始めたようだ。

 イリアに息切れが見られる。


 しかし体力では負けたが、攻撃ではまさることができた。


「GYiiiee……」


 サハギンの手には霜が降りている。

 動きも鈍い。

 腕の中も凍りついているのだろう。

 とうぜん、血液も冷えてしまい臓器にも過剰な負荷がかかっているハズだ。


 氷の使い魔であるフェンリルを宿したイリアの剣。


 あんな物を素手で受け止め続けたのだ。

 無事で済むわけがない。


 ましてや、水に由来する魔物なのだ。

 水分の多いアイツらにとって、冷気による攻撃は天敵とも呼べる。


 まともに動く事の出来なくなったサハギン。


 決着はアッサリとした物であった。

 イリアは情けという言葉を何処かに置き忘れてきたようだ。

 サクッと剣を腹に突き刺して、戦いを終えた。


 トドメも忘れてはいない。

 キッチリと首を刎ねた。


 残酷なようだが、間違った行為ではない。

 1度の油断で人間は死ねるのだ。

 敵は倒せる時に、確実に葬らなければならない。


 だが、イリアが少し遠くへいってしまったようで少し寂しかった。


 *


 更に奥へと向かう。

 モンスターの強さだが、まだイリアを前に出していても大丈夫そうだ。

 この調子で地下21階層までは、イリアの経験値稼ぎが出来た。


 そして地下24階層。


 この階から、俺の手でモンスターを弱らせてからイリアに回すようにした。

 ダンジョンの深い場所に来た事もあり、モンスターが強くなったのだ。

 イリアに丸投げするのは、少し危険な気がする。


「過保護じゃのう」


 などとほざくイザベラ。

 その横にはシルヴィア。


 ヤツらは生温かい視線を俺に向けていた。

 少しイラっとした。

 

 それしても、このダンジョンは何層あるのだろうか?


 入口の大きさを考えると、相当な深さのハズだ。

 それでも過去というか前世の経験からすると、5日もあれば攻略は可能であるとは思うが。


 それ以上は、夏休みがマズイから勘弁して欲しい。

 今のところ成績が優秀な生徒で通っている。


 だが、自分の頭の性能くらい分かっているのだ。


 油断していると、いつか落とし穴にはまりかねない。

 だから、なるべく欠席は避けたいところである。


 しかし、夏休みを過ぎて探索を続けていたとしても、悪い事ばかりではない。


 校長無しで始業式が始まるからだ。

 長話が無くなるのだから、生徒は喜んでくれることだろう。


 星穿ちも、生徒の幸せに貢献する事があるようだ。

 キッチリ始末してやる予定だから、二度と貢献はさせないが。


 俺らが休んだ後も、ダンジョンの制圧は進んでいた。


 もちろん、眠りながら剣を振り回していたわけではない。

 スタッフさん達が頑張った。


 頑張った。

 彼らは頑張った。


 だが、俺らが眠っている間に制圧出来たのは1層のみ。

 かなり制圧のペースが遅くなってきたな。


「凄い音ですね」


 ダンジョンの奥から響いた音。

 スタッフさんが、本当はダンジョンで使っちゃいけないアイテムや魔法を使ったようだ。


 モンスターが強くなったせいもあり、少し前から高威力の攻撃を使う機会が増えてきた。


「肉片が散らばっているだろうな……」


 向こうは、大惨事になっていることだろう。

 生肉や赤い液体のグロいオブジェとかで──。

 もっとも”潰し”はコレが出来るからダンジョン攻略が早いのだがな。


 ふぅ。


 一つ溜め息を吐いてイリアの足元を見る。

 そこにはサハギンの胴体。

 頭は無い。

 

 イリアを見る。


 頬に返り血を付けても平然としている。

 これは、戦士としては正しい姿なのだろう。

 だが、勇者を目指す者として正しい姿なのか?


 最近、そんな不安が頭をよぎるようになった。

次回、最下層に到着予定です。

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