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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は暇だ 『お前を連れてきてよかった』

後半にあるイザベラの長話は、読まなくても全く問題はございませんm(_ _ )m

 船から降りた者たちは、手際良く野営の準備を行った。

 一通りの準備を終えたのは、それから2時間ほど経った頃。

 中々の手際だと思う。


 やはりケットシー達が集めただけある。

 彼らの能力は一定の水準を越えているようだ。


 勇者ギルドでは、こういったサポート面を充実させる予定でいる。

 聞いたところ、今回の仕事はそのテストも兼ねているらしい。


 ケットシー関係者と思われるヤツらが、野営の準備を鋭い目で見ていた。

 ひょっとしたら、勇者ギルドの入社試験も兼ねているのかもしれんな。

 すでに勇者ギルドの仮運用は始まっているし。


 さて、今回のダンジョン攻略であるが、邪道に分類される方法を用いる予定だ。


 人数を集めて、ダンジョン調査を速攻で行う方法である。

 軍隊が危険なダンジョンを、速攻で攻略するときに行う方法と類似点が多い。

 先に冒険者が足を踏み入れていれば、ソイツらには絶対に迷惑がかかるほどの邪道。

 ”潰し”と呼ばれている方法である。


 実行すれば冒険者たちからは嫌われる。

 しかし、今回のダンジョンは誰も足を踏み入れていないと確認は取れている。


 冒険者ギルドや国に確認を取っているのだ。

 これで文句を言われようものなら、そいつらに十分な反論が出来る。

 それ以前に、ケットシーが裏から色々とするだろう。


 黒い権力に万歳だ。


 ついでに、イザベラとシルヴィアの名もあるしな。

 コイツらに喧嘩を売るのは相当なバカだ。 


 今回のダンジョンは、規模がそれなりに大きい。

 だが、潰しを行えば5日と掛らず攻略できるかもしれないな。


 攻略手順は──。

 野営地から食料を送る。

 そしてダンジョン内部で、攻略メンバーが数の暴力を振るいまくる。

 この辺りまでが通常のダンジョン攻略。


 潰しが通常の攻略と違うのは、必要のない通路の封鎖を行う作業が加わる点だ。

 ついでに、ダンジョン内で使うと大惨事になるような魔法や魔導具もバンバン使う。


 この方法は他の冒険者が先に入っていると、間違いなく巻き込まれる。

 だからこの方法は、”冒険者潰し”──略して”潰し”と呼ばれるのだ。


 *


 野営地の準備は完了した。

 これからダンジョンの攻略が始まる。


 ダンジョンに先頭を切って入るのは、俺とイザベラとイリア。


 どう見ても、お子様の集団だ。

 街中を歩けば、お姉ちゃんなイザベラに、俺とイリアくっついている。

 こんな状況だろうか?


 仮面をつけた俺のファッションが、少し不審者っぽい点から目を瞑ればだが。


 そんな俺達の様子に、船員たちから不安なり心配なりが出ると思った。

 だが、実際はそんなことにはなっていない。


 イザベラとシルヴィアの名前のおかげなのだろう。

 一部、俺を見ながらヒソヒソと話していたが。


「滑りやすいから気をつけろよ」


 星穿ちが作ったと思われるダンジョン。

 その入り口は、まるで坂であった。

 急な勾配であり、転んだら止まれそうもない。


「それは要望か?」

「いや、要望など欠片も入っていない」


 イザベラめ。

 変な気の回し方を覚えやがって。

 この世界で聞いたこともない、”フリ”の概念に気付いたようだ。


 坂を慎重に降りて行く。

 出入り口付近に固定された縄を頼りにしながら。

 

 奥へと進むにつれて徐々に空気が変わってきた。

 冷たくヒンヤリと、生気を抜き取られた死者の吐息のような空気へと。

 周囲から熱が失われるのに反比例して、俺の中では徐々に緊張感が高まっていく。


 呼吸で緊張感を調整する。

 普段よりも長めに息を吐き、吸う時は肺を冷やさぬように鼻から。

 このような──ぐおっ。


「すまんのう。足を滑らせてしまったわい」


 上からイザベラが降ってきた。

 なんでロープを掴んでいるのに降ってくるんだ?


「背筋にツ~ッと降ってきた水が伝わってのう。なんとかしようと慌てたら両手を離してしまったわい」


 そういう事ですかい。

 だが、今は──。


「どいてくれないか?」


 地面に這い蹲るかのように寝そべる俺の上。

 そこに馬乗りになって座り込んでいるイザベラ。


「すまんのう。じゃが、ワシの愛らしい尻を堪能できたのじゃ。許してくれんか?」

「とりあえずどけ」


 思わず言葉が荒くなってしまった。

 だが無理もないことだろう。

 コイツを性的な目で見たら、人生の汚点にしかならんのだから。

 気色悪い台詞を吐かないでもらいたい。


 イザベラがバカを言っている間に、イリアが到着。


 その目は珍しくジト目。

 なにか言いたいことがあるようだ。


「クレス。一つ質問があります」

「なんだ?」


 笑顔のイリア。

 いつもよりも、その笑顔が輝いて見えるのは気のせいだろうか?

 少しデジャビュを感じるが、何が原因かは分からない。


「お話をうかがった所、星穿ちというのはかなり危険な魔物のように感じたのですが?」


 確かに危険だ。

 だが、なぜだろう?

 ダンジョンの危険よりも、差し迫っている危険があるように感じるのは。


「私は初めてのダンジョンなのですが、なぜそのような危険な魔物が作った場所に入ることになったのでしょうか?」


 俺は理解した。

 イリアの笑顔は、我が妹のソレと被っていると。

 どうやら、あのスキルを身に付けたようだ。

 笑顔のまま怒るという、あのスキルを──。


 ダメだぞ。


 それは元大勇者()を精神的に追い詰めるスキルだ。

 魔王っぽいそのスキルは、勇者を目指すお前には相応しくない。

 元あった所に返してきなさい──俺の妹以外の所に。


「ズルをするから大きな危険はないから安心していい」


 とりあえず弁明して誤魔化しておく。

 後でイリアの教育方針を考え直すことを、しっかりと記憶に刻みながら。

 ついでに、この記憶が消滅しない事を祈りながら。


 妹の教育方針を間違えたが、イリアまで同じ道に進ませるわけにはいかない。

 アレは元々の素質のような気もする。

 だが、シルヴィアに任せたのが大きな間違いだったのは確かだ。

 色々と変な事を覚えさせてしまったようだからな。


 イリアまで同じ道に進ませるわけにはいかない。

 本気で、この記憶は消滅しないでもらいたいものだ。


「それは?」

「とてもイイ物さ」


 このとき、俺はドヤ顔だったと思う。

 シルヴィアが嫌な顔をしていたので間違いない。


 俺は仮面を付けている。

 それなのに俺の表情の変化に反応をするとは。

 最近は雰囲気だけで表情が分かるようになったのだろか?

 なんか、コイツとの繋がりが強くなっているようで凄く嫌だ。


 それはともかくとして、俺は手にした道具を使うことにした。


 使い方は単純。

 ダンジョン内で、コイツを鳴らすだけだ。

 こう、コーンと叩いてな。


「っぅ」


 一瞬、苦しそうな表情を見せたシルヴィア。

 即座に表情を戻すと、俺の頭を思いっきりぶっ叩きやがった。

 どうやら元気なようだ。


「なによコレ」


 そうでもないか。

 額へと手をあてる彼女は、顔色が少し悪い。


「水属性の魔力に干渉する音叉だが……エルフが近くにいるときに使った事はなかった。マジでスマン」


 エルフは、魔力を感知する能力が高いからな。

 俺らのように魔力で無理矢理に魔力感知を行っているヤツらとは違う。

 そんな体質の違いが出たのかもしれない。


 今度、反撃にはコイツを使ってやろう。

 反逆の手段を俺は手に入れたようだ。


「なんか船酔いしたみたいになるわね」

「少しお休みになられた方が……」


 顔色の悪いシルヴィアを心配するイリア。

 そこまで効いているか。

 フッ、コイツはシルヴィア対策の切り札になりそうだな。


「大丈夫よ。魔力に干渉させないようにすれば防げると思うわ。いくらクレスでも同じ事はしないハズよ」


 イリアに対して笑顔を向けているが、俺の方には怒気を向けている。

 器用な事をするものだ。


 しかし、残念だな。


 この音叉は両刃もろはやいばとなってしまったようだ。

 次に許可なく使ったら、間違いなく撃たれる。


「ダンジョン内でコイツを鳴らすと、色々と魔力が反響しまくらせて地図を作れるんだ」


 恐怖を隠すため、己の行いを説明した。

 決してシルヴィアを痛めつけるつもりではなかったという弁明の意味も込めて。


 俺の説明に間違いがないことを強調しながら、音叉から水晶のような小さな玉を取り出し、名刺サイズの金属板へと取りつけた。


「これがこの階層の見取り図だ」


 シルヴィアへと渡す。

 その顔に納得の表情が浮かんだのを確認すると、俺の中から緊張が抜けだした。

 どうやら俺は、無罪を勝ち取れたようだ。


「便利じゃのう」


 音叉の効果に、最も喰いついたのはイザベラであった。

 コイツは、マッドな魔導師の素養を持っているのだ。

 この反応に不思議はない。


「特定属性の魔力が極端に強い場合にしか使えないがな。だが、条件さえ揃えば役に立つのは確かだ」


 気付いたが、これも賢いヤツポジションだな。

 今日はツイている。


 などと油断していたら、イザベラが音叉に手を伸ばしていた。


 即座にヤツが目的としているブツを遠ざける。

 俺の反応に気付くと、即座に伸びていた手が収まった。


 横目でイザベラを見る。

 素知らぬ顔をしていた──手慣れていやがる!


「手はず通り頼む」


 もちろん音叉の方は、早々にアイテムBOXへとしまった

 イザベラに悪さをさせないために。


「便利ねー」


 金属板から、地図が浮かぶように中空へと描かれている。

 腐り果てても大魔導士ということか。

 シルヴィアは、渡した金属板をさっそく使いこなしている。


 彼女の姿を見て、俺への怒りが収まったらしい事に少し安心した。

 そんな自分を、チョット情けなく感じた。


「潰しは出来そうか?」

「これなら大丈夫そうね」


 しばらく地図を眺めていたが、判断を下してからの行動は早かった。

 シルヴィアは、即座に連れてきた連中に指示を出し始める。


 洞窟の奥へと向かう武装した集団。

 20名にも満たない人数であるが、数が少ないぶん動きは迅速。


 個人の力量もあるが、なによりも連携が流れるかのようだ。

 次々に、ダンジョンの奥にいるモンスターを退治していく。


 おかげで、俺達は暇だ。


 することがない。

 集まった連中が優秀すぎた。


 イザベラの方を見る。

 どこからともなく和菓子を取り出して食べ始めていた。

 コイツは和菓子の魅力に憑り付かれたようだ。

 いい金蔓になりそうだな。


 次にシルヴィアだ。

 アイツは、冒険者たちに指示を出しているからココにはいない。


 今回、ヤツは裏方だ。

 一階層程度なら仕事を丸投げしても大丈夫。

 なにしろモンスターが強くないからな。


 ダンジョンは、下の階層に行くほどモンスターが強くなる。

 この辺りはゲームっぽい。


 ダンジョンのモンスターは普通のモンスターとは違う。

 コアなどが作った人形のような物。

 それが魔力やらなんやら取り込んで活動している。


 この魔力だが下の階層ほど濃い。

 強い魔物ほど、基本的に強い魔力が必要となる。


 よって下の階層ほど強い魔物を用意できる。


 ダンジョンの魔力は、質が地上とは違う


 全なるマナに個なるオド。

 マナと呼ばれる物とオドは同一線上にある物。

 このオドが魔力と呼ばれる事が多い。


 だが、マナ寄りの魔力もあれば、オド寄りの魔力がある。


 灰色と一言でいっても、黒よりもあれば白よりもあるのと似ている。

 魔力にも色々とあるのだ。


 ダンジョン内のマナは、地上よりもマナよりの物が多い。


 と、イザベラがイリアに講義をしていた。


 和菓子を食い続けて腹が膨れたのもあるのだろう。

 ”食う”という暇つぶしを失って暇になったか。


 それにヤツは、長話の業に取りつかれているのは明白だ。

 始業式なんかで、活き活きと壇上で長話に興じていたからな。


 案の定、イリアに対してずっと講義を行っていた。


 そんなヤツを見て俺は思った。


 ダンジョンの入り口付近とは言え、本来であれば危険である事に変わりはない。

 そんな場所で、ここまでボーっとする事になるとは思わなかったと。


 前世の俺もビックリだ。


「イリア」

「はい」


 笑顔に、先程の威圧を感じられない。

 どうやら機嫌が治ったようだ。


 考えてみれば、イリアの夏休みもご臨終なされたんだよな。

 俺一人が夏休みを台無しにするなんてと巻き込んだ。

 しかし、今考えると可哀そうな事をしたな。


 しかし、彼女を連れて来たのはイザベラの提案だ。

 それにシルヴィアも賛同した。

 だから、俺一人の責任ではないハズ。


 などと罪悪感から目を逸らした所で、今回の仕事道具を渡すことにした。


「ダンジョンの中では、コイツを使ってくれ」


 渡したのは、腰に下げられる程度の革袋。

 イリアに任せる仕事の道具だ。


「使えば対象者の魔力を回復させられる。それとイザベラ、お前にはコイツを渡しておく」


 渡したのは黒い紐。

 ただの紐にしか見えないが、もちろん魔導具の一種。


「手足のどこでもいいから巻いておけ」

「うむ」


 素直に巻いてくれた。

 いつもこんな感じなら楽なんだがな。


「イリアに渡した革袋に入っている石なんだが、あの紐を着けているヤツに向かって魔力が飛んでいく。だから、後ろに下がるような事があったら、そいつで魔力を回復させることを優先させて欲しい」


 大魔導師とは言え、持っている魔力には上限がある。

 イザベラであれば、魔力が空になった時の戦い方も持っているだろう。

 だが、魔力が僅かでもあった方が戦い方の幅は広がるハズだ。


「これも、昔使っていた道具なのですか?」

「いや、最近作った」


 今の俺は勇者の素質を封印されて、思いっきり弱体化している。

 しかも魔王に何度も殺されかけているのだ。


 生き伸びる可能性を少しでも高めねば、そろそろマズイ気がしてならない。

 このアイテムは、そんな俺の足掻きから生まれたアイテムの1つである。


「ほう。コイツは面白いのう」


 イザベラが興味津津だ。

 どうやら、コンセプトは間違っていなかったようだな。


「イリアよ。コレの優れている点は分かるかのう?」

「え、と。そうですね。魔力の回復を自分以外に対して行えるという点でしょうか?」


 その通りだ。

 さすがはイリア。

 このアイテムの最大の利点を見事見抜いて──


「100点中60点と言ったところじゃな」


 ──ふっ、イリアもまだまだ未熟だな。

 このアイテムの本質を見抜けぬとは。


「現存するアイテムは、自分の魔力を回復させるというのが基本となっとる。しかも液体を飲むなど、隙の多い動きが必要じゃ。ポーションの形であれば頭から掛けるという手もあるがのう。しかし濡れてしまうことで、視界が妨げられる可能性がある。もちろん、その石のように魔力を蓄えた物から吸い出すという方法もあるのじゃが、コレが残念な事に高度な技術でのう。そうとう集中せねば難しいのじゃよ」


 うおっ、長い!

 イザベラの説明好きの業が目覚めたか!!


「じゃが、このアイテムであれば本人以外が使えるからのう。仲間同士の意思伝達さえしっかりできとれば、これまでにない戦い方が出来るじゃろう」


 やばい。

 コイツ、まだ話すつもりか。

 俺は禁断パンドラの箱を空けてしまったのかもしれない。


「例えばじゃが……ワシが魔物を狩る仕事をしておったとしよう。アイテムを持ち歩くにしても、持ち運べる量には限りがあるのは分かるじゃろ? ワシのアイテムBOXとて入れられる量には限りがある。じゃから同行者にその石を持たせて、ワシは魔法の使用に専念するじゃろう」


 まだ続くのか!


「魔法を使うたびに、コレを持った同行者が魔力を回復させてくれるというわけじゃ。このため、魔力ぎれを心配せずに魔法を放てるのじゃが、他にも……」


 イザベラの説明が遮られた。


「この階層は終わったわよ」


 彼女の声で。


「お前を連れてきてよかった」


 シルヴィアよ。


 普段は破壊神の類だが、今だけは救いの女神に見える。

 今ほど、お前に感謝した事は無かったような気がしなくもないぞ。

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