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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は賢いヤツポジションに立った 『コイツは、星穿ちかもしれんな』

 出航は太陽が昇ってすぐであった。


 乗っているのは最新式の魔導船。

 性能が恐ろしく高いらしいが、違いなどさっぱり分からん。


 他の魔導船に乗ったことがないのだから止むを得ない事なのだろう。

 決して、違いの分からないお子様だからというわけではない──多分。


 特にする事もない俺は、ボヤーっと海面を眺めていた。

 波打つ海面が太陽の光を反している。


 海面は揺れ続ける。

 ユラユラゆらゆらと。


 ボーっと眺めていた。

 だが、ひときわ強く陽光が反った瞬間、安穏あんのんとした時が終わりを告げる。

 船が大きく揺れたのだ。


 更に悪いことに、このとき足場が悪すぎた。

 お子様身長であるため、木箱を踏み台にして眺めていたからだ。

 重力から解き放たれ、体が海へと投げ出される。


 独特の浮遊感が体を包んだ。

 すると次の瞬間には、揺らめく海面のみが視界を埋め尽くしていた。


 だが、大人しく海に放り出される俺ではない。

 とっさに、船体へと短剣を突き刺すことで難を逃れた。


 刺したのは航海に影響のない箇所だ。

 大した問題ではない。

 船長は嘆いていたが。


 それからも魔導船は、荒波を物ともせずに突き進んでいく。

 普通の船では、考えられないスピードだと船員は言っていた。

 やはり俺には、凄さがさっぱり分からなかった。


 航海は3日間の予定だ。


 途中で港に立ち寄る。

 ケットシーが用意した探索メンバーを拾っていくためだ。


 だが、ほんの数名しかいない。


 ダンジョンを調査するのだが、最小限でこと足りる。

 シルヴィアとイザベラがいるのだ。

 ちょっと頭がアレではあるが、数十人分の仕事をする実力がある。

 認めるのは、心外であるが。


 ようやく中継地点の港に着いたのは、翌日であった。


 俺は着替えた。

 真っ白な仮面とコート風の黒いローブに。

 これで立派な不審者の完成だ。


「おんし、それで人前に立つ気か?」


 珍しくイザベラがドン引きしている。

 コイツにここまでさせるなど、俺も成長したものだ。

 だが、こんなことで自分の成長を実感したくは無かった。


 その後ろでは、シルヴィアがほくそ笑んでいやがる。

 海に突き落としたくなる顔だ。


 だが、突き落とすわけにはいかない。

 シルヴィアは優秀な協力者なのだ。


 生理的には、コイツを優秀だと呼ぶのは拒絶したいところであるが。


 魔導船へと帰る。

 すでに必要な資材は積み込まれている。

 だが人はまだ集まっていない。


 オーバーテクノロジーの一歩手前の最新技術を詰め込んだ魔導船。


 などと言ってみたが、剣と魔法の夢とロマンが溢れるこの世界の技術なのだ。

 コレに、テクノロジーという言葉を当てはめることにはチョット抵抗感がある。


 だが、気にしないようにしよう。

 俺の語彙力で適切な言葉を思いつけるハズがない。


 話しを戻す。


 技術が盗まれないように、人選は慎重にならざる得なかったのだ。

 まさか、こんな落とし穴があったとはな。

 勇者ギルドで魔導船を使おうと思っていたが、情報漏洩について考えておかねばならない。


 もちろん考えるのは、俺ではなくケットシーだ。

 アイツらなら金の力で何とでもするだろう。

 本当に金の力は偉大だな。


 などと金の偉大さを再認識したこの日。

 出航は夕方となった。


 とりあえずは、予定通りだ。


 これも金の力で集められた、優秀な船員のおかげだ。

 やはり、金の力は偉大である。


 それから更に1日が経つと、目的地に辿り着いた。


 島が集まった海域の真ん中付近。

 そこにある島。


 ここの調査が目的だ。


 ダンジョンの調査だと聞いており、危険は覚悟していたのだがな。

 予想外な状況となっている。


「……これは酷いわね」


 調査対象のダンジョンを見て、呆然とするシルヴィア。

 イザベラは、いつも通りのほほんとしているが、歳の功というヤツか。


 俺も中身はそれなりの年齢のハズだが。

 年の功が一切存在していない。


 まあ、シルヴィアの頭にも年の功は感じないし問題はないだろう。

 負け犬が傷を舐め合っているだけのような気もするが──。


 だが、今回は負け犬が傷を舐めあうような事にはならない。


 俺はこの状況の原因に心当たりがあるのだからな。

 よって、シルヴィアよりも俺の方が少しお利口ということだ。

 少し優越感。


「あの……」


 どうやらイリアも何が問題なのか分からないようだな。

 11歳で俺よりも賢いとの評価があるイリアよりも、この事に関しては俺の方が上のようだ。

 ここは、俺が説明して師匠らしい所を──


「ダンジョンにしては大きすぎるのじゃよ」


 あっ、イザベラに先を越された。

 いつもなら、このまま放置するのが俺のパターンだ。

 だが、今日の俺は手ごわいぞ。


「コイツは、星穿ほしうがちかもしれんな」


 あの珍しい生物をお前らは知らないだろう。

 今なら100%の肯定を持って言える。

 前世のバカみたいな数の勇者召喚は、決して無駄ではなかったと。

 今この瞬間、この優越感を与えてくれているのだからな。


「なんか必死なんだけど……それって何よ」


 やはり、シルヴィアも知らんようだ。

 いつも賢いヤツポジションに立つ、バカ友の背信者よりも今は俺の方が上だということだな。


 ますます、優越感が強まる。


 いや、いかんな。

 まだ悦に浸るのは早すぎる。


 最高の気分を味わうのは、全てが終わってからでなければならない。

 どこに落とし穴があるか分からんからな。


「星穿ちっていうのは星の生命を喰って育つモンスターだ」

「ムカつく顔だけど、いいわ。続きを話して」


 軽くディスられたが、今の俺は上機嫌だから見逃してやろう。

 バカ友の背信者よりも上に立てているし、本当に気分が良いのだ。


 そう言えば、イリアに勇者業に必要なことを教えなくなってからどれだけ経ったのだろうか?


 元々シルヴィアが色々と教えているし──今は学校で色々と教えているし──師である俺の存在が空気になっている気がする。


 少し昔が懐かしい。


「星に大穴を空けるから星穿ちなどと呼ばれている」


 だが、今は昔に戻ったような気分だ。

 ちゃんと教えている。

 俺は、賢いヤツポジションに立っているのだ!


「俺も数回しかみたことはないがな」


 悦に浸りながらも、顔には出していない。

 顔に出やすいと評判であるが、注意をすれば顔に出さない事も可能だ。

 少し油断しただけで、色々と出てしまうが。


「コイツの正体はダンジョン・コアが進化しただとか、異世界からやってくるのだとか色々と言われているが、いずれも憶測の域を出ていない」


 目の前に広がる巨大な空間。

 この奥に潜むダンジョンの主よ。


 お前には感謝をしよう。


 この悦はお前が与えてくれたものだ。

 礼に、キッチリと俺の手でお前を葬ってやる。


 などと、少し黒い部分を出しながらも話しを続ける。

 俺が賢いヤツポジションに立つなど滅多にないのだ。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。


「その他の面も憶測だらけなんだが、星穿ちが危険であることだけは確かだ。なにせ……」


 言葉を溜めて、注目を集める。

 今の俺は間違いなく賢いヤツポジションにいる。


 思わず封印した愉悦の感情がこぼれそうになる。

 だが、それは我慢だ。

 せっかくのいい気分が台無しになるからな。


 などと考えていたのがイケなかったのだろう。

 話の腰を折る愚か者が現れた。


「なぜなら……」

「早く言いなさい。溜められるとムカつくから」


 シルヴィアだ。

 やはりお前が、俺の前に立ちはだかるか。


 だが、ここは余裕を見せなければならない。

 余計な事を言えば、話しの主導権を持っていかれかねない。


「星穿ちが現れると天軍が即座に動く程だからだ」


 天軍、それは神の軍。

 神の手足となって管理している物を守る軍隊だ。


 強大すぎる程の軍隊であり、一般的な人間の軍隊では対抗することすら難しい。

 前世の俺とて、それなりに素質が増えるまでは戦えなかった程だ。


「それってマズイわよね?」

「かなりマズイ」


 星穿ちが現れると天軍が動く──それも即座に。

 それだけの脅威なのだ。

 だが、この星穿ちは放置されたままになっている。

 

「星穿ちは3000年ほどの時間をかけて星の生命を喰い続ける。そして成虫になると巨大な魔物になってどっかに飛んでいく」


 星穿ちが成長するのには、数千年の時間が必要だ。

 しかし、おかしいのだ。


 前世、別の世界で星穿ちと関わったことがある。

 成虫となった星穿ちとも戦った。

 また、星穿ちが去った世界に召喚されたこともある。


「星穿ちが成虫になる頃にはその体に見合った大きさのダンジョンになる」


 おかしいのだ。

 星穿ちが現れれば、神が発見して即座に討伐するハズ。

 だが──


「この穴のサイズは、数千年放置されなければあり得ないんだ」


 130年前。

 この世界の神と会った。


 俺が召喚される原因となった災厄の魔王。

 神は、アイツ以外の為に動いた様子はなかった。


 星穿ちが空けたこの穴。

 間違いなく数千年経たねば作られない大きさだ。


 俺が召喚されてから130年。

 この間に星穿ちが現れて、数千年分の成長を130年の間に一気にしたとでも言うのか?

 また、神が星穿ちに対し天軍を送り込んでいない理由も気になる。


 おかしいのだ。

 色々と。


 もちろん、星穿ちが何かをした可能性もある。

 生態がまともに分かっていないのだ。

 数千年分の成長を、130年で行える術を持っている事も考えられる。


 もっとも、そんなことが出来るようなら、別のおかしな点が出てくる。

 俺がかつて召喚された世界で、数千年も星に寄生しておとなしくしていた理由がなくなるのだ。


 神の方はどうなんだ?

 星穿ちがいるのに関わらず、天軍が動いた様子がない。

 もし星穿ちが何かしたのでなければ、嫌な理由しか思い浮かばない。


「また知恵熱で倒れるわよ」


 思考に没頭していると、シルヴィアが俺の頭をポンポンと叩いてきた。

 コイツ、俺の頭を椅子の肘掛け扱いしていないか?

 叩いた後、そのまま手を置いて体重をかけて来やがった。


 だが、知恵熱でぶっ倒れるのを止めてくれたのだ。

 文句は言わないでおいてやろう。

 反撃されたら面倒だし。


「良い状況でないのは理解できるけど、情報が足りな過ぎるわね」


 頭から伝わる体重で気付いたことがある。

 コイツ少し重くなっ──いや、なんでもない。

 シルヴィアの冷たい視線を頭部に感じた。

 どうやら顔に出ていたようだ。


「今できることは調査をするか、引き上げるかのどちらかじゃが…………悩むだけ時間の無駄じゃ。はよ選ぶが良い」


 ロリババアが、珍しくまともな表情をしている。


 出直すのであれば、流水の大精霊に報告してからになるな。

 星穿ちを相手にする可能性を考えると大精霊の力を────いや、無理か。


 もともと星穿ちは神の領分だ。

 大精霊が受け持っている仕事ではない。

 手を貸してくれることなど期待はできない。


 神に相談するわけにもいかない。

 これまでヤツに見つからないようにしているのだ。

 ノコノコと顔を出して、これまでの努力を台無しにしたくはない。


 それ以前に、神に相談するなど不可能なのだ。

 アイツの所に行くこと手段など、今の俺は持ち合わせてはいないのだから。


 大精霊や神の助力は期待できない。

 力を借りるだけなら、大精霊の方ならアテはあるが最終手段だ。

 あの手札を切るのは勿体ない。


 かと言って、星穿ちを放置するのは危険すぎるだろう。

 穴の大きさから、数千年分の成長をしていると考えられるのだ。


 他にも考えねばならない事は多くある。

 だが────全て憶測だ。


 考えてみると、なんのことはない。

 答えは、最初から決まっていたようだ。


「予定通り、ダンジョンに潜る」


 今やる事は、憶測を並べることではない。

 判断を下せるだけの情報を集めることだ。



 などと、久しぶりに賢いヤツポジションを経験できたのだ。

 調査の準備を、素晴らしい気分で行えたのは言うまでもない事だろう。

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