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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第4章 凄い勇者と流水の大精霊
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俺は大精霊の依頼を受けた 『強引じゃのう』

 流水の巫女。

 なんとも恐ろしい敵であった。


 母さんをお姉さまと慕う、我が妹(コーネリア)と巫女が手を組んだらエラいことになりそうだ。


 恋愛談が長時間続いて、それに巻き込まれた俺が貧血で倒れたまま、数時間放置される未来しか思い浮かばない。


 愛しき我が妹は、絶対にあの巫女には会わせないようにしよう。

 変なフラグが立った気もするが勘違いだと信じたい。


 強敵(巫女)から救ってくれた大精霊には感謝だ。


 この感謝の想いは、大切に胸の奥にしまっておこうと思う。

 2度と胸の奥から取り出すことは無いだろうが。


『まさか、あなたがニーナの子になろうとは思ってもみませんでした』


 そうだった。

 今は目の前の海蛇──じゃ、なかった。

 流水の大精霊の相手をしなければ。


「俺も母さんが、お前とここまで関係が深いとは思わなかったな」

『ふふ、そうでしょうね』


 コイツは普通の対応をしてくれるな。

 いつも俺の扱いが酷いから、まともに扱ってくれると新鮮に感じる。

 だが、いつまでも悦に浸っているわけにはいかない。

 早めに要件を伝えるとしよう。


 ただでさえ、俺の夏休みが瀕死の重傷を負っているのだ。

 今は時間が一秒とて惜しい。


「今日はある街の魔力を整えて欲しくて会いに来たんだが、その対価に何を支払えばいい?」


 街一つの魔力を安定させるのだ。

 大規模な仕事を大精霊にやってもらうことになるだろう。

 どんな対価を要求されることやら。


「対価ですか……そうですね。丁度良いので少し調査をしてきて頂きましょう」


 嫌な予感がした。

 また、平穏とかけ離れた何かを押し付けられるような。


 元大勇者の勘が働いて、一生懸命に警報を鳴らしている。

 だが、今回もこの勘は回避の役に立ちそうもない。

 いい加減、リストラしてやりたい。


「調査をする場所がどこなのか教えてくれ」


 この調査を受け入れたら、絶対に面倒なことになる。

 だが、受け入れないという選択肢などあるハズが無い。

 覚悟を決めることにした。


 *


 流水の大精霊から依頼を受けた俺は、準備をするべくある街へと足を運んだ。


 大神殿と同じくラヴァーユ国にある街。

 船が身近なこの国でも特に大きな港街であるウィシュトに。


 流水の大精霊から受けた調査依頼。

 調査対象の場所が少し厄介だ。


 そこは、いくつもの島が集まった場所。

 数ある島の1つが調査対象である。


 しかし、その近辺というのはこの時期になると海流が激しくなる。

 熟練の船乗りですら匙を投げ出すほどだ。

 と、イザベラが言っていた。

 さすが、腐り果てても校長だ。


 ウィシュトの街にて。

 まず足を運んだのは、ちょっと大人の雰囲気漂う酒場だ。


「早いな」

「甘味3年分が掛かっておるからの」


 酒場へと入ると、場違い甚だしい少女がいた。

 白金桃(プラチナピンク)の髪をした上品な顔立ちの少女。

 などと表現したら、吐き気を催したくなる例のロリババアだ。


 俺よりも早くに、イザベラは酒場に到着していた。

 ケットシーによれば、コイツとの契約は和菓子3年分で締結できた。


 和菓子を契約条件に挙げたら、アッサリと喰いついてきた大魔導師。


 ケットシー(アイツら)の交渉が巧みだったと信じたい。

 そうでなければ、この世界の魔導師の程度が下がっている気がして悲しくなる。


 他にも悲しくなる要素がある。

 それは、コイツが酒瓶を抱えている事だ。


 かなり飲んだのだろう。

 すでに出来あがっている。


 見た目は中学生。


 下手をすれば、小学生高学年にしか見えないロリババアだ。

 地球での感覚を引きずっている俺からしたら、お巡りさんにお伝えしたくなる光景である。


「とりあえず、ワシの酒樽をおんしのアイテムBOXに放り込んでおいてくれんか?」

「自分の中に入れろよ」


 堕校長が。

 生徒を自堕落な買い物に巻き込まないで欲しい。


「ワシの方は既に一杯じゃ」


 どれだけ、コイツは酒樽を買ったのだろうか?

 コイツのアイテムBOXも中々の容量のハズだが。


「後でケットシーに言って船にまで届けさせるから後回しにしてくれ」


 コイツのペースに飲まれてはいけない。

 ウダウダになって、絶対に色々と面倒なことになる。

 なによりも疲れる。


「そう言えば、シルヴィアのヤツは先に造船所に行くと言っておったぞ」


 それは、最初に言うことではなかろうか。

 だが、話している相手はイザベラなのだ。

 非常識の塊のようなコイツに、常識を説いた所でストレスが溜まるだけだ。

 平常心を保とう。


 一瞬、お前が言うな(ブーメラン)という言葉が思い浮かんだ。

 だが、平常心を保とう。


 *


 酒場を出た俺達は、目的地である造船所に向かって歩く。

 ときおり、俺らをに主婦が温かな目を向けていた。

 カップルか何かだと思われたのだろう。


 人生の汚点が、大量生産されているようだ。


 傷ついた己の心を誤魔化すため、停泊している船を眺める。


 地球の金属で作られた船とは違った、別の趣のある木製の船。

 停泊しているのは、一隻や二隻ではない。


 街の一部を覆い尽くすほど大量に並んでいるのだ。

 船には詳しくないが、それでもこの光景が圧巻なのは分かる。

 マニアにとっては垂涎すいえんの光景だろう。


 だが、用があるのはコレらの船ではない。


 燦々(さんさん)と輝く太陽の下、停泊している船を眺めながら歩く。

 流れる汗に触れる潮風が心地よい。


 だが、イザベラと歩く俺の姿を見てニマニマする主婦の視線が、心地よさを完全に台無しにする。


 恥辱にまみれながらも歩いていると、木造船に紛れて異質な影が見え始めた。


 帆のない2隻の船。

 木の代わりに金属を使って作られており、重厚感が他の船の比ではない。


 魔導船。

 それがこの船の名前。


 この世界の船は、帆に風を受けて進むのが一般的だ。


 一方で魔導船には帆が無い。

 魔力を使ったエンジンのような物で動く。

 推進力が凄まじく、大概の荒波を乗り越えられる程だ。

 今回の調査では、この魔導船の推進力が必要になる。


 魔導船は、現役なのは2隻しか存在しない。


 数が少ないのはやむを得ない。

 なぜなら、魔導船はつい最近作られ始めたばかりだからだ。

 

 男のロマン。

 空飛ぶ城ラジ・アーシカの技術を転用して魔導船は生まれた。


 とうぜん所有者はケット・シーだ。


 アイツらは、海の向こうにも魔の手を伸ばす気なのだと俺は確信している。

 きっと魔導船はヤツらの野望の尖兵となることだろう。


「興味深いのう」


 先程まで酒に飲まれていたイザベラであるが、今は目をキラキラさせて魔導船を眺めている。

 こうやって見ると、好奇心豊富な中学生にしか見えない。


「分解させてくれんかのう」

「ダメにきまっているだろ」


 キラキラした目は、中学生の好奇心とはかけ離れた物であったようだ。

 純粋だが他人の迷惑を一切省みない、道義も何もかも捨てた好奇心。


 これは、マッドサイエンティストの好奇心だな。

 いや、この世界であればマッドマジシャンとでも呼称するべきか。

 急いでこの場所を離れた方が良さそうだ。

 変な事をされたら面倒だ。


「強引じゃのう」


 このままだと、魔導船を実力行使で分解しかねないのだ。

 イザベラの手を引くなど不名誉極まりないが止むをえん。


「ワシを物影に連れ込んでイタズラをしようというわけか」

「誰がするか!」


 久しぶりに、SLB(セクハラロリババア)の本性を見せやがった。

 このまま海に突き落としてやろうか?


 いや、ダメだ。

 水も滴るいい女じゃろ? などとホザきながら、俺にセクハラもどきをしてくる未来しか見えん。

 不本意であるが、ここは我慢だ。


「よかろう、受け切ってやろう」


 やっぱり、海に突き落としてやろうか?


 *


 イザベラのセクハラ発言を浴びながら街道を歩く。

 潮風が俺の心を癒してくれる。

 ロリババアのセクハラ発言が、風の吹く音で妨げられるからな。


 校長の、健全な青少年の耳に優しくないセクハラ発言はずっと続いた。

 道中、海に校長を突き落としたい衝動に耐え続けて20分。

 ようやく造船所に辿り着く。


「ほう、これは外にあった物よりも立派じゃのう」


 造船所内部で一隻の船を見上げるイザベラ。

 見上げているのは当然だが魔導船だ。

 しかし、コイツは他の2隻とは違う。


「外にあるのは元々あった船に手を加えて魔導船に仕上げたものだ。だが3隻目のコイツは最初から魔導船として作られている。性能を100%とは言わないが、それに近い性能は引き出せるからな。魔導船の完成系と言ってもいいだろう」


 魔導船は、全体が赤い金属で出来ているかのよな見た目だ。

 この重厚感が何とも言えない。


「おんしは変わらんのう」

「何がだ?」


 魔導船の重厚美?に魅入られていた俺を、現実世界に引きずり戻したのはイザベラであった。

 たまには、まともな行動をとるようだな。


「昔もおんしは、金属の塊が好きじゃったという話じゃ」

「大概の男がそうなんじゃないか? 魔導バカのお前には分からんだろうが、機能性のある金属の塊が好きなヤツは多いと思うぞ」


 好きではあるが、別に設計しようとは思わんがな。

 そもそも、設計できる頭など持っていないが。


「まぁ、遠くから見る分には楽しいが、実際に自分で作ったり動かしたりすれば飽きる程度の憧れだ」

「その位が一番楽しい物なのかものう」


 しみじみと魔導船を眺める。

 前世で、金属の巨大ゴーレムを奪ったことがあったな。

 震動が酷過ぎて、とてもではないが乗っていられなかった。


 あの時は、魔王討伐よりもゴーレム操作の方がキツかったのを覚えている。


 しかも、魔王の部下にゴーレムが簡単に壊されたし。

 何のために、俺はゴーレムなどに乗ったのだろう?

 理由を全く思い出せない。


「なに年寄り臭いことをやっているのよ」

「お前も混ざるか?」


 過去を思い出を愛でていると声を掛けられた。

 バカ友のシルヴィアさんだ。


「責任者はもう来ているから早く行くわよ」 


 情緒のないヤツだ。

 ゴーレムでの思い出でも聞かせてやろうと思ったのだがな。

 もう、ほとんど覚えていないから創作が9割になるが。


「行く……ぞ。また食っていたのか」

「む?」


 声を掛けたら口一杯のどら焼きをほうばっていた。

 誰が、と聞くヤツはいないだろう。

 ロリババア一択なのは明白なのだから。


 *


 魔導船内の案内をされた後、責任者の話を聞くことになった。

 流水の大精霊の試練っぽい何かのために、変な調査をする旨は既に彼らに伝わっている。


 だから特別に話合うことなどない。

 せいぜい、航海中の食料や調査をする場所周辺の海流などを聞いた程度だ。


 ──これらが、重要な話であることは俺にも分かっているさ。


 だが、俺の頭で理解などできるはずがない。

 話合いが開始されて3分経った頃には、すでに俺の頭脳は活動を停止させていた。

 俺の体が最近になって身に付けた、知恵熱への防衛機能の一種なのだろう。


 だが、3分も保ったのだ。

 よく頑張ったと俺の頭脳を褒めてやりたい。

 などと、自己弁護をしているうちに話し合いは終わった。


「それで今回は誰を連れて行くの?」


 船室を使わせてもらっている。

 調査の方針を決めるためだ。

 と、言ってもすでにシルヴィアの方で話は進められている。

 俺がいようとも、頭を使う作業では役に立たないのは分かっているからな。


 クソッ。

 バカ友のハズなのに。

 なんでシルヴィアは、賢いヤツのポジションにいるんだ。


「ダンジョン探索になるじゃろうからのう。とりあえずは少人数で規模を探り、手に負えないと判断をした場合のみ人を集める形にした方がよかろうて」


 悔しがる俺を尻目に、イザベラが仕切りだした。

 俺がいなくても問題はないようだ。


「それが一番でしょうね。下手に人を集めると、クレスが動きづらくなるでしょうし」


 思考にふける2人。

 話に入れず、部外者と化した俺に出せる口などない。

 素直に事の成り行きを見守ることにしよう。

 その方が楽だし。


「むしろダンジョンに入る人数を増やすよりも、脱出経路の確保に人では割いた方がよいじゃろう。なにせ大精霊が気にかける案件じゃからのう。ダンジョンに大量の人員を投入して、緊急時に脱出が遅れるのが最も困るのではないか?」


 イザベラの言うとおりだ。

 並のダンジョンであれば、俺とイザベラ、シルヴィアの3人だけで過剰すぎる戦力になる程だからな。


 ちなみにガリウスはダメだ。

 山籠りをしているらしく、まったく連絡を取れなくなっている。

 俺の夏休みは、瀕死の重傷を負っているというのに──。


 ヤツは山籠りしたついでに、野生に帰ってしまえばいいと思う。

 ついでに、ラゼルは禿げればいい。


「のう、クレスよ」


 おっと、いかん。

 思考が異世界にトリップしていた。


「ダンジョンに入ることも勉強になるじゃろう。イリアと言ったか? あの娘も連れて行ったらどうじゃろうか?」


 イザベラの言葉を受けて少し考える。

 思考がトリップしていたことを悟られないように。

 それっぽく、口に手をあてながら。


 少しはごまかせたか?


 それはともかく。

 これはいい機会かもしれんな。


 俺やシルヴィアでは、どうしても身内びいきの評価になってしまう。

 だから、客観的な意見を聞いておきたい。

 などと少し賢いことを考えてみた。


「お前はイリアはどの程度の実力だと評価する?」

「そうじゃのう……」


 今度はイザベラが考える番だ。

 普段の能天気ぶりが嘘のようだ。


「おんしが与えた武具類を使う、フェンリルと連携をとる。この2点を前提とするのなら、訓練をつんだ騎士とも渡りあえるじゃろう」


 ほう。

 俺と同じ評価だな。

 コイツと考えが同じなのは少し悔しいが。


「じゃが、あくまで渡りあえるだけじゃ。時間を掛ければ経験の無さが表に出て、十中八九イリアの負けとなるじゃろう」


 まあ、そんな所か。

 あと体力の問題もあるからな。

 今は短時間の足止めが限度か。


「そうとも限らないんじゃない?」


 シルヴィアが話に入り込んできた。

 一見するとイリアをフォローするような言葉だ。

 だが俺の目はごまかされんぞ。


 放っておかれて寂しかったのだろ?

 お前はそういうヤツだからな。


「子供なんだから相手は油断するかもよ。その隙を突けば十分に勝算はあるわ」


 そうだよな。

 不意を突いて天結の氷剣を使えば、間違いなく相手は氷づけだ。

 並の騎士であれば脱出は難しいだろう。


 もっとも、二発目は使えないのだ。

 一対一の状況でなければ、勝ち目はないだろうがな。


「短時間であれば騎士と渡り合える上に、状況によっては勝てるのじゃ。育てるというのであれば、ダンジョンを経験させておくのも良いと思うぞ?」


 今回のダンジョン探索は、過剰戦力とも言える状態だ。

 イザベラはこの辺りも加味しているのだろう。

 それに俺自身、目立たないようにダンジョンに堂々と挑戦することはできないのだ。

 ダンジョンを経験させるのに、今回は都合がよいかもしれんな。


「そうだな……」


 口では考えているフリをしておく。

 その方が賢そうだから。


 だがこのとき既に、お一人様の追加が俺の中では決まっていた。


 俺の夏休みがご臨終仕掛けているのだ。

 済まないが、イリアにも道連れになってもらおう。

誤って一部の感想を消してしまいました。

すみませんでしたm(_ _ )m

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