閑話 校長の夏休みはコレからだ! 『ビバ、フリーダムじゃーーーーーーっ』
”と、いうか逃げ込んできた少女?の話だ”のように、?のあとで空行を空けていない箇所があります。
ですが、これは読みにくくなるのを避けるための仕様です。
気になさらずに読んで頂けると幸いです。
和の楽園。
そこは元大勇者の狂気を感じるさせる場所。
和の楽園があるのは、新たに開拓された土地に生まれた街。
まだ開拓されてから1年と経ってはいないのだが、ケットシーの無謀とも言える投資により急速に発展している。
とは言っても、今は住人よりもこの地に根を張っていない者を見かけることの方が多い。
住人が増えてこそ、街は真の意味で街となる。
冒険者や旅の商人を多く見かける現状では、ここが真の街となるのは当分先と言わざる得ない。
今回するのは、この街に根を張っていない者の話。
と、いうか逃げ込んできた少女?の話だ。
和傘で日を遮った赤い布をかけた長腰掛。
すなわち時代劇の団子屋に出てくるアレ。
ここに座る少女がいた。
見た目は中学生、頭脳は老婆、精神年齢は小学生以下。
プリチーロリババアこと、我らがイザベラちゃんだ。
彼女の脇には、団子を乗せてあった皿が3枚ほど重ねられている。
皿3枚もの団子を食えば腹も十分に膨れるハズだ。
だが、彼女はなおも団子を頬張っていた。
傍から見れば小柄な少女でしかない。
口に入った団子はどこに収納されているのだろうか?
そんな疑問を抱く者がいてもおかしくはない光景である。
しかし、誰もそんな疑問を口にすることはなかった。
満面の笑みで団子を頬張る彼女の姿が眩し過ぎたのだ。
だれも、彼女の幸せを邪魔するような無粋な行動をとることはできなかった。
これ程までに眩い笑みを浮かべられるのは何故か。
老婆の風格と美少女のあどけなさが組み合わさっているせいだろうか?
まさしく見た目詐欺である。
「ふむ馳走になった。会計を頼む」
尊大な物言いではあるが、店の物が不愉快な表情を見せることはなかった。
中身は数百歳であるが見た目のせいで、背伸びをしている少女にしか見えないせいだ。
微笑ましくこそあれ、嫌悪感を持つ者は少ない。
仮に文句を言おうとも、暴力で解決できるから問題はない。
会計を済ませて外へと出ると、青い空へと目を向けた。
(あやつらも、この空を見ているのじゃろうか?)
青い空の向こうに見るのは、騎士学校の部下たち。
勢いに任せて、あの仕事地獄から逃げ出してしまった。
だが、仕事の振り分けに関してはメモを残してきたのだから大丈夫だろう。
などと、無責任極まりない想いを抱く。
それだけで一分程度もなかった罪悪感は、霧散して完全に消え去ってしまった。
もうイザベラの後ろ髪を引っ張る物は何もない。
頬を撫でる風のなんと優しいことか。
決して手が届かない空の高さがなんと愛しいことか。
全身に震えとして自由という名の喜びが駆け巡る。
もう自分を縛りつける物など何もないのだ。
今の自分は自由。
そう──
「ビバ、フリーダムじゃーーーーーーっ」
突如、奇声を上げたイザベラ。
5日ほど徹夜しての逃走だったせいで、頭のネジが数本吹き飛んでいるようだ。
周囲は奇異な目を向けている。
だが徹夜続きで限界を超えたテンションになっている彼女に、そんな視線など痛くも痒くもない。
いや、もともと厚顔無恥極まりない彼女だ。
平静時であっても、そんな目など気にするハズが無い。
際限なく高いテンションのまま、彼女は盟友が作った楽園を満喫するために動き始めた。
この14分後、彼女は力尽きた。
*
自業自得な仕事の詰め込み過ぎで倒れた彼女。
通りかかった者たちの手によって宿屋へと担ぎ込まれた。
それから2時間後のお話。
「うむ、世話になったのう」
ロリババアが満面の笑みで、宿屋の主人に礼を言う。
お肌はツヤツヤしており、テカって見える程だ。
中身は老婆どころの騒ぎでないのに、肉体だけは中学生程度である証なのだろう。
色々と納得はできないが、現実なのだから仕方がない。
担ぎ込まれた宿を出ると、イザベラは歩きだした。
目指すのは和食横町などと、どっかのバカが名付けた地区。
あのバカが切り開いた街であるため彼の権限は大きい。
表には立っていないが、ケットシーを通じて色々と行っている。
この和食横町だが、かなり良い場所に作られている。
趣味100%の施設をこのような場所に置くのは街の設計上明らかにおかしいのは確かだ。
だが、その事に突っ込む者は誰もいない。
案内板を頼りに大通りを歩いていくと、徐々に建物の様式が変わってきた。
それまでレンガ造りなど、西洋のテイストだったが木造の三角屋根が所々に見られる。
だが、完全な日本の建築様式というわけではない。
西洋と日本の建築様式とを混ぜた微妙な仕上がりだ。
絶妙ではなく微妙。
この言葉の違いは、多くの者が分かることだろう。
一言でいえば、少々残念な仕上がりとなっているということだ。
どうしてこんな結果になったのか?
それは、クレスが街づくりに飽きたから。
中途半端な所で街づくりに飽きて、ケットシーに丸投げしてしまったのだ。
ケットシーに和の文化への情熱も知識もあるはずがない。
このため、クレスの和への執念とケットシーの無知が重なり中途半端な状態となった。
「ようやく着いたのう」
微妙な通りを過ぎると、三角屋根に瓦という日本様式の建物が立ち並んでいた。
ここが和食横町だ。
通りの入り口を見上げるイザベラの口元が緩んでいる。
この先に待っているであろう甘味への想いが彼女の理性を緩めている証だ。
今にもスキップを始めそうな自らの足を戒めながら、彼女は和食横町の赤い門をくぐった。
ちなみに、赤い門というのは我らの身近に存在するアレだ。
神社で見かけるアレ。
すなわち鳥居。
鳥居には、清浄なる神域と不浄なる俗世とを分ける結界や境界線の意味がある。
だがあのバカは、見た目が和っぽいという理由だけで設置した。
しかし意図しなかったとは言え、鳥居は境界線としての役目を果たしていると言えなくもない。
元大勇者の妄執に満ちた世界と俗世とを分ける境界線としての役目をだ。
鳥居をくぐるとイザベラは目的の場所に向かった。
和食横町という名前に相応しい日本を連想する木造建築がどこまでも並んでいる。
ここは最近出来たばかりの歳の若い通りだ。
誰の手垢も付いていない狩り場を求めてやって来た冒険者。
または、その冒険者をカモ──観光客として囲い込もうとやってきた商人たち。
このような者が多く歩いている。
だからであろう。
行きかう人々はファンタジックな出で立ちをした者たちばかりだ。
西洋鎧や剣を持った者はまだいい。
問題は魔法使いだ。
魔法使いらしい三角帽子をかぶった者は、日本人がこのような建築様式の場所で見かけたらコスプレにしか見えないことだろう。
しかも周囲にある建築物の雰囲気を無視したかなり痛い部類のコスプレにだ。
だが、この世界の者にとっては周囲の建物の方がコスプレっぽいかもしれない。
和食横町の建築様式は、他ではスメラギ領のような一部でしか見られないのだ。
不思議な印象を抱くなという方が難しい。
まるで異世界に迷い込んで、街を歩いているような不思議な感覚。
これこそが、和食横町を観光する醍醐味と言えるだろう。
イザベラは歩く。
せっかく仕事を部下に押し付けることで得られた休みなのだ。
常人であれば、後の事を考えると頭が痛くなることだろう。
だが、彼女にそんな繊細な神経など備わっているはずもない。
100%全力で遊びまくる所存だ。
「ふむ」
買い食いをしまくり、口に放り込む和菓子をせわしなく変えながら歩いていた。
だが、突如として彼女は進む方向を変えて店に入った。
次の瞬間、ザアァーーと、辺りから細かな水の打ち付ける音が響いた。
突如として降り出した雨。
通りの人々は一斉に屋根のある店へと逃げ込む。
だが、いち早く雨の気配を察したイザベラは、すでに店の中に入り新しい和菓子を物色している最中であった。
雨の勢いが凄まじい。
わずか数m先の建物が見えない程だ。
雨が降り始めてから逃げた者たちは、もれなくずぶ濡れになってしまったことであろう。
「おかしな天気じゃのう」
突如として曇った空を眺めながら、ロリババアはそっと呟いた。
誰に告げるというわけでもない言葉。
だが、近くにいた店主が言葉を拾っていた。
「最近、天気が突然変わるようになりましてね。家から外に出るのにも気を使うありさまなんですよ」
「ほぉー。最近……のう」
何か思う所があったのか。
先程よりもいっそう濃くなった雨雲を眺めながら、イザベラは意味ありげに言葉を返した。
──クレス。いや、今回はケットシーに伝えるべきか。
スメラギ領から取り寄せられる和菓子も多いが、この街にしかない物も多い。
今回のような、天候が突然に変わるようなことが続けば、街全体の売り上げが落ちて和菓子の発展に陰りが生じかねない。
打算まみれの頭脳で、少しだけ動くことを決めた。
「店主よ。この天候について、ちーっと伝えたいことがあるのじゃが上の者に取り次いでもらえんかのう」
これは夏休み初期の話。
ケットシーへと伝わったイザベラの言葉。
やがて、この言葉がクレスへと面倒事を運ぶこととなる。
ようやく次章の流れが決定しました(文章はまだ未完成)
次回から、本編を再開させて頂きます。




