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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
閑話 俺達の夏休み?はこれからだ!!
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閑話 天敵の夏休みはコレからだ! 『まぁ、お嬢様ったら今日も』

短めです(;´▽`A``

 すでに夜を迎えた王都。

 この国の経済と政治の中心故に贅をこらした建物が立ち並ぶ貴族街。

 貴族街と言っても、政治への影響力を持つ程の者であれば居を構える事を許可される。


 この場所で一際古い歴史を持つ白い建物がある。

 冒険者ギルドの最高責任者であるグランドマスターが住む家だ。


 その家の一室。

 ピンク色の絨毯にフリルを連想させる白いカーテンという、少女趣味が前面に押し出された部屋がある。


 家の主であるカリスが、義娘のために用意した部屋。

 貴族達が娘に与えるような可愛らしくまとめた部屋。

 また、家具は可愛らしさだけでなく、使いやすいように家具などは徹底的に配慮されている。


 唯一残念な所は、部屋の主の好みとは正反対である点ぐらいだ。


 本当は、もっと落ち着いた雰囲気の部屋が好み。

 だが部屋の衣替えには、相応の手間が掛るのだ。

 故に部屋の主は諦めている。


 主の趣向とは大きくかけ離れた部屋。

 そこに用意されたベッドに彼女はいた。


 当然ベッドは、天蓋付き。

 物語に登場するお姫様が使いそうなベッド。


 もちろん、彼女の趣味ではない。


 だが義父がせっかく用意してくれたのだと、喜んだフリだけはしておいた。

 真実を知ればパパは悲しむだろうが、わりとよくある悲劇。

 彼女はその部屋で、彼女は枕に顔をうずめて唸っている。


「ぅー」


 またやってしまった。

 深いため息の理由は、彼女の後悔の念にある。


 気になる少年──と、いっても色恋の話ではない。

 義父であるカリスから、観察するように言われたため気にかけているという意味だ。


 誰がというまでもなくクレスの事だが、マルテは彼と話すたびに帰ってから必ず自己嫌悪に陥っている。


 友人になりたいというわけではない。

 だが、嫌っているわけでもない。


 剣や魔法の能力は認めている。

 また、わりと女子からの人気も高いのだが、それがおかしくないと思う程度にはクレスを認めている。

 

 だが、話すたびに悪態を突いてしまうのだ。


 特に今回は酷かったと思う。


 休日が続いたせいで、止め所が掴めなかったせいだ。

 また若干ではあるが、八つ当たりも入っていたかもしれない。

 

 父であるカリスの仕事が忙しく会えなかった。

 この時期に休日となるように調整をしていたそうだが。

 急な仕事が入ったらしい。


 詳しくは教えてもらえなかったが、カリスの古い友である聖竜絡みらしい。


 間違いなくクレスが関わっている。

 だが、その事を知らないため、マルテ自身にとっては八つ当たりだとしか感じられない。


 今日の暴言を思い返してみる──


『どぶ沼にはまって死にかけている牛ガエルのような顔をするのは止めて下さい。汚臭がコチラまで漂ってきそうなので』


『なにか失礼な事を考えているようですね。まぁ、いいでしょう。ですが一つ訂正させて頂きます。あなたへの暴言に磨きがかかっていると感じるのは、きっと勘違いですよ。だって、そんな物に磨きをかけた所で人生の汚点になるだけですから。磨くハズがないと思いませんか? あっ、同意なんて求めていないので答えなくてしいですよ。同意されても気持ち悪いだけなので』


 ──酷過ぎる。


 自分は、なんていう事を言っているのだろう。

 しかも、こういう時に限って饒舌になる。

 この饒舌ぶりを普段の会話で発揮したいものだと自分でも思う。


 今日の出来事を思い返すと、顔から火が出るような思いになる。

 自己嫌悪と羞恥の入り混じった複雑な感情。


 もう少し大人になれば、この感情の処理を行えたかもしれない。

 だが、幼い彼女はこの感情を処理する術などあるはずもなく、悶々と無駄に時間を浪費するしかない。


 どうして、こんな馬鹿な事をしてしまうのか?

 答えは分かっている。


 出会い方が悪かったのだ。


 騙される形でパーティーに参加させられた。

 あれで、良い印象を抱くハズがない。

 

 もし、あのような形で接触したのでなければもっと違った態度で接する事が出来たハズ。


 あと、敬愛する父が気にかけている自分と同年代の子供でもあるのも、悪態を突きたくなる理由のひとつだ。


 僅かではあるが嫉妬心も感じるし、ライバル心のような物もある。

 だからこそ、彼を認めている事が悟られるのが嫌なのだ。

 その本心を隠すためにクレスを遠ざけようとして攻撃的になってしまう。


 しかし、マルテはそんな自分に気付いていない。


「ぁぅー……」


 枕へといっそう頭を押し付けて苦悶する。

 罪悪感もあるが、それ以上に自分の行いが恥ずかしくて堪らない。

 

 どうしようもない感情を胸に、彼女の夜は過ぎていく。


 *


「まぁ、お嬢様ったら今日も」


 彼女の気付いていない事がある。

 マルテの部屋の前を通りかかったメイドが、足早にその場を去っていく。


 中の様子を盗み見たわけでも、盗み聞きをしたわけでもない。

 ただ単に、マルテが部屋にこもっているのを確認しただけ。

 しかし彼女(・・・)にとっては、十分な情報である。


 騎士学校に通うようになり、クレスの事で悶々とするようになった日々。

 もちろん恋愛感情など皆無。


 だが、世の中には勝手な思い込みで物事を考える者も多い。

 そして思い込みというのは、おかしな方向に膨らむ宿命のようなものを持っている。


 例えば、クレスに暴言を吐き部屋で自己嫌悪しているマルテの呻き声を、部屋の前を通りかかったメイドが聞いて、同僚に話したら”お嬢様もお年頃なのね”と、優しげな瞳をした翌日に、他のメイドたち全員がその情報を共有し合っていたり、翌日のマルテの食事が豪華になっていたり、メイドたちが彼女に対して気持ち悪い位に優しかったりしても全くおかしな事ではないのだ。


 娯楽に飢え場所にいる年頃の女性というのはすごい。

 思考に恋愛フィルターをかけた場合、暴走しない方がおかしいとすら言える。


 何が言いたいのかというと、彼女の住む屋敷ではそういう噂になっているという事だ。


 噂を知ったカリスパパは動揺しまくり。

 マルテは一層の暴言をクレスに吐くようになる。


 その日も近い。

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