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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
閑話 俺達の夏休み?はこれからだ!!
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閑話 脇役の夏休みはコレからだ! 『騎士として功績を上げられれば……』

夏休み?初期のお話です。

 騎士学校に通う生徒は遊具くな物ばかりではない。

、裕福でない者も多いのが現実だ。

 このため、学費の支払いに難儀する者も少なくはない。


 本来であれば奨学金制度を用意するべきだろう。


 だが、この世界は地球よりも死が身近だ。


 魔物という危険がある。

 病に冒されても対処ができない事も多い。

 逆に地球では治せない病や怪我であっても、魔法で容易く治せることもある。

 だが、やはり死は地球よりもずっと身近だ。


 故に卒業後を当てにして奨学金を出したとしても、完済前に死なれて回収できない事が多い。

 また、いつの間にか行方が知れなくなってしまう場合も──。


 このため、奨学金を出さない代わりに学費を安くする次案が必要となる。

 騎士学校の運営側もこのことを理解しており、次案作りに力を注いでいる。


 そんな次案の一つに、生徒が自らの手で金銭を稼げる制度がある。


 例えば、冒険者ギルドからの依頼。

 教員たちの手により、危険度の低い依頼が希望する生徒たちに届けられる。


 安全が保障されているわけではないが、それなりに危険度の低い依頼。

 とうぜん報酬は高くはない。


 だが、その依頼から発生する利益。

 これは決して侮れない。

 生徒、冒険者ギルド、騎士学校、いずれにとっても。


 利益が低いのは金銭面のみ。


 生徒が受けとるメリット。

 それは依頼の報酬と、騎士学校から支給される報酬。


 冒険者ギルドが受け取るメリット。

 危険度は低いが地味すぎるなど、残りがちな依頼を処分できる。


 それにギルドの仕事を生徒に知ってもらう機会にもなるのだ。

 騎士学校卒業後に、副業として仕事を受ける者も増えると考えられる。


 騎士学校側が受け取るメリット。

 まず、生徒が依頼を受けた地域との関わり合いを持てる。

 他にも、依頼を実地訓練代わりにして生徒が腕を上げてくれれば、優秀な生徒を抱えられる事となる。

 もちろん、冒険者ギルドとの関係も深まる事にもなるのは言うまでもない事だろう。 


 そんな、裏で大人が黒い笑みを浮かべていそうなこの制度。

 長いあいだ続いているのは、それを利用する者が多いからだ。


 クレスの友人にも、この制度を活用する者たちがいた。

 共に試験を乗り越えた、ブリッドとフェル。

 そして例の決闘騒ぎに参加したヒュージ。


 クレスという共通の友人がいるということで関わり合いを持つようになった3人。

 彼らは、共に冒険者の真似事をするまでの関係になっていた。


 今回、彼らはある依頼を受けていた。

 深緑が覆い茂り、視界を遮る山の奥深く。


「行ったぞ!」


 叫んだのは、金色の髪をしたヒュージ。

 重量感のある音にかき消されることなく彼の声は響いた。


 ミシミシと嫌な音が響いている。

 地面のあちこちに落ちた小枝は、音の主に踏み潰され木片と化していく。


 炎の球が飛んだ。

 尻に感じた熱に驚き、音の主はいっそう足を早める。


「ブリッド!」


 叫んだのは、茶色い髪をした少年フェルであった。

 先程の炎は彼が放った物だ。

 騎士学校で魔法を学び、炎をある程度なら操れるようになった。


 魔導師並──とは言わない。

 だが、それでも森の中で放とうとも延焼させない程度にはコントロールができる。

 威力が弱いだけとも言えるが、それでも十分に役目を果たした。


 尻を炎に焼かれたことにより、さらに勢いを増してソレは疾走する。


 あまりにも重量感のある体。

 一見しただけでは、岩が猛スピードで動いているようにすら見える。


 ソレはかつて、クレス達が試験の中で葬ったワイルドボアという魔物。

 巨大なイノシシだ。


 迫力があり過ぎるワイルドボアの移動。

 それを木の上から見下ろす者がいる。

 赤髪の少女、ブリッドだ。


「よっと」


 木の上から矢を放つ。

 これまたワイルドボアの尻へと突き刺さる。

 痛みに驚かされて更に走る速度を上げた。


 仕事は終了。


 しばらく経つと、ワイルドボアの悲鳴が森に響いた。

 同時に、巨大な岩が落下したかのような音を響かせ。


 過去の試験で使った例の作戦だ。


 走り出せば前にしか進まないワイルドボア。 

 背後から攻撃を与え続け、加速に継ぐ加速をさせる。

 そして急停止出来なくなった先にあるのは崖。


 最後は、その崖の下へと転落させるという、少々酷い仕打ち。

 なかなかえげつない手だ。


「これで7匹目だよね」


 ワイルドボアを転落死させた現場に集まった犯人たち。

 最初に声を出したのはブリッドであった。


「そう……だったと思う」


 答えたのは崖の下を覗くフェル。

 肉片で出来たグロい絨毯が敷かれていた。

 ドン引きしている。


 前回の試験の時に使った手を今回も採用した。

 なかなか効率が良い。

 と、いうよりも効率が良過ぎるほどだ。


「これなら、予定よりも早く仕事は終わるだろうね。でも、いったん魔核を回収しないかい?」


 フェルト同じく、崖の下を覗きながら語るヒュージ。

 年齢的な物もあるが、それ以上に彼の性格による部分が大きい。

 実質、彼がリーダーの役を果たしている。


「うーん。そろそろ回収した方がいいかもね。お肉もとりたいし」


 魔核は魔物討伐の証となる。

 今回は、討伐部位と呼ばれる部分の提出が求められていた。

 その部分が野生の獣に奪われたらたまったものではない。


 また、肉などの部位は、それなりの値段で売れる。

 干し肉に加工するなどすれば、その値段は更に上がる。

 高額にはならないにしても、臨時収入としては中々魅力的だ。


「よろしいですか?」


 考えがまとまった所で、ヒュージは後ろに控えていた男性に話を振った。

 男性は騎士学校の教師で、この依頼のあった村を故郷としている。

 このような縁で、ヒュージ達の依頼に付き添う事となった。


「そうだね……時間的にもお昼が近いし、確認を終えたらついでに少し休憩をとってもいいんじゃないかな?」


 太陽はすでに真昼の色へと変わっている。

 仕事を始めてからかなりの時間が経っていたことに、彼らはようやく気付いた。


 仕事内容としては、ワイルドボアを誘導して崖で転落死させるだけ。

 それでも疲れはたまるものだ。

 

 彼らは仕事が順調過ぎて自分の疲れに気付かなかった。

 このあたり、まだ彼らが未熟な証なのかもしれない。


「どうする?」

「賛成」


 ヒュージが訊ねると、すぐにブリッドが答えた。

 もちろん、ブリッドの意見にフェルが異議を唱える事などない。

 異議を唱えようとも握り潰されるのが分かっているから。


 *


 その日の夜。

 冒険者業を終えた3人は、村が用意してくれた民家で体を休めていた。


 誰もが疲れ果てている。


 当然だ。


 本来であれば、魔物退治というのは大人の仕事だ。

 彼らのような子供に任される依頼ではない。

 騎士学校生であろうとも、その事に変わりはない。


 本来は大人の仕事である故に、この依頼は騎士学校側で弾かれるハズであった。


 しかし、ブリッドとフェルには試験時の実績がある。

 ヒュージもまた、例の決闘騒ぎでの評価がある。

 また、ちょうど里帰りをする教員がいた。


 こういった事情があり、前回と同じ方法で狩りをおこなうのであればと特別に許可を得られたのだ。


 今回、彼らが受けた仕事はワイルドボアの間引き。


 ワイルドボアを野放しにしておくと、農作物に大きな被害がでる。

 また、農作物を奪う事に慣れると平然と人を襲うようになる。

 この辺りは、地球の害獣と同じだ。


 そして、山の近くにある村で共通する悩みとなるのも地球の害獣と同じと言える。


 だが、下手に全滅させれば生態のバランスが崩れかねない。

 そんな事態になる位なら、毎年間引きを行った方がマシ!

 と、いうわけでこの手の依頼は、毎年恒例の物となっている。

 それも全国各地どころか、全世界共通の恒例だ。


 日はすでに暮れている。


 この手の依頼は待遇がいい。

 村全体が出した依頼とはいえ依頼料はそこそこ。


 だが、村という場所は人出が都会に移ることも多く、空いている住居も多い。

 また農業の損失を防ぐための依頼なのだ。


 多少であれば、村の方で食料と宿を融通してくれる。

 時には格安、時には無料で。


 本来であれば、巨大な体躯をほこるワイルドボアの相手は骨が折れる。

 しかし、今回は転落死させるだけだ。


 3人にとって、中々うま身のある依頼であった。


 彼らに村が提供してくれた宿は民家。

 開けられた窓から、焼けた肉の香りと共に明るい光が漏れている。


 ブリッドお手製、肉の香草焼きだ。


 転落死させたワイルドボアの肉を使った、少々残酷な料理。

 だが、この世界は弱肉強食にして、美味しいこそ正義。


 野性的な料理ではある。

 しかし肉の臭みが、うまく香草によって隠されており中々のお味。

 誰も文句を言うハズなどなかった。


 村で借りた皿へと切り分ける。


 空腹というスパイスがよく効いている。

 上品な料理でなかったのも気軽に食べられてありがたい。

 早々に3人は平らげてしまった。


 食事を終えた3人。

 この場に付き添いをしてくれた教師がいないのは可哀そうだったな。

 そんな他愛もない話をしながら笑い合う。


 こんな田舎では、娯楽など期待ができないことは子供の彼らにも分かる。

 だから後は眠るだけだ。


 ワイルドボアを転落死させる方法は恐ろしく効率がいい。

 そのせいで予定よりも1日早く依頼を終えてしまった。


 だから、もう少しゆっくりすることも出来た。

 しかし、珍しい物のない田舎に長居する必要がない。

 一晩眠ったら、別の依頼をこなすために移動をすることにした。


 だから、この村での思い出は今日一日で終わり。

 今している会話が終わったら、この村で次の夜を過ごす事はない。


 彼らは名残惜しいという気持ちを知らない子供。

 しかし、名残惜しいという感情は確実に彼らの心のうちに在った。

 だからこそ、意図せずに会話を長引かせた。


「フェルってさ。卒業したら何をするの?」


 会話を続けていると、将来の話へとなった。

 騎士学校に通う者であれば、なんらかの将来への考えがあるものだ。


 クレスのように、勇者業を押し付けようだとか勇者ギルドをつくろうだとか、和の楽園だとか。

 そんな馬鹿な事を考えを、ましてや実行する者は珍しいが。


「俺は、故郷の街で衛兵をやりたいって思っている」

「へぇー」


 堅実でフェルらしい願望だ。

 それがブリッドの感想であった。


 衛兵なら、街を出る事は少ない。

 管轄は街の中であり、街の外であれば領主軍の管轄になる。

 この辺りは騎士学校で学んでいる。


「そっちはどうなんだよ」


 将来を訊ねられる事に気恥かしさがあったのだろう。

 少し顔を赤らめたフェル。

 これ以上訊ねられないように話を切り返した。


「うん? アタシは村で狩人をしながら、勉強を村で教えられたらなーって考えている」

「勉強を……ねぇ」


 意外な答えであった。

 彼女には目立つ場所に立とうとするイメージがある。


 目立ちたがり屋という意味ではない。

 向上心が強いというべきか。


 実力を示せる場所を求める。

 そして示した実力に見合った扱いを求める。

 このような印象が彼女にはあった。


 それに、コレが勉強を教えるなどと考えているとは──。

 普段の彼女を知る学友としては、まったくイメージが出来ない。


「なーんか納得していないっていう顔をしている」

「ま、まぁ、いいじゃん。ヒュージさんはどうなの?」


 心の内を覗かれたような気がした。

 少しの気恥かしさと焦りが、彼に僅かなパニックを起こさせる。

 だが、パニックから逃れようと僅かな理性が働いた。

 話をヒュージへと放り投げる。


「僕は…………僕は騎士になろうと思っている」


 まるで、自分に言い聞かせるかのような答えであった。

 それに瞳には決意が込められている。


 これ以上踏み込んではいけない。

 子供であるフェルにも、それは理解できた。

 だから話を丸投げした者として何か言葉をかけようとしたが、何も口から出てこない。


 少し気まずい。

 僅かに空気が冷えた気がした。

 だが、この状況はブリッドが打破してくれた。


「ヒュージさんなら似合いそうだねぇ。髪も金色でサラサラだし」

「騎士と髪の毛は関係ないだろ」


 夢見る乙女のようにウットリとした表情。

 彼女が口にした言葉は、フェルが鋭いツッ込みが浴びせた。

 内心では嫌な空気を払ってくれたことに感謝しつつ。


「カッコいいじゃん」


 確かに騎士と髪の毛は関係ない。

 だが夢見る乙女(笑)にとっては大切な要素なのだろう。


 ヒュージはブリッドの真意を察した。

 それでも、苦笑いを浮かべてるのみ。

 中々出来た12歳だ。


 彼の横で繰り広げられるやり取りは、まるでコント。

 しばらくその様子を眺めた後、コップに注いだ水を口へと運んだ。


『騎士として功績を上げられれば……』


 声に出したかどうかは、本人にすら分からない。

 だが、ヒュージの目は確かにそう告げていた。

 騎士として功績を上げられれば、貴族へと返り咲ける──と。


 昔の話だ。

 屋敷から追い出されたのは。


 ずっとあの頃の気持ちを引きずっていた気がする。

 だが、最近は嫌な気持ちにならなくなった。


 あの決闘騒ぎに首を突っ込んでから自分は変われたと思う。

 これまでは、顔では笑おうとも胸の奥に鬱積した感情が溜まっていた。

 それが今では、昔を懐かしむ余裕すらある。


 騎士を目指そうと昔も考えはしていたが、今とは想いの質が違う

 それまでは失った物を取り戻そうという感情で、今は未来を築こうという感情。

 純粋に騎士を目指せるようになれたのだ。


 用意された水を再び口へと運ぶ。

 先程の一口よりも美味しく感じた。


 ブリッドとフェルを見ていると、思い出されるのはクレス。

 いつかお礼をしなければと考えながら、決闘について思い返す。


 真っ先に思い出したのは筋肉痛。

 指の一本も動かせなかった。

 筋肉痛の印象が酷過ぎて、勝利を大喜びをしてくれた両親の笑顔を思い出せない程だ。

 あれは異常だったと思う。


 ──なんのために頑張ったんだろうなー。


 あの決闘は、自分の気持ちのためであった。

 だが、勝って親に喜んでもらいたかったという気持ちも半分ほどあったのは確かだ。

 それなのに、親の顔が思い出せないなんて。


 あの筋肉痛は、クレスが渡した剣が原因なのではと感じはしている。

 だが、恩を感じている相手にそんなことを訊ねるわけにはいかない。

 故に真実は闇の中だ。


 溜め息を吐くと、再び口へと水を運んだ。


 気持ちが落ち着き、周囲を見回す。

 まだフェルトブリッドは話している。


 窓へと目を向ける。

 すでに太陽の痕跡は無く、月が空を支配している。


 そろそろ明日の準備をしようか。

 2人にそう告げるとヒュージは旅立ちの準備を始めた。

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