表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
186/207

俺は悪友を得た 『それ以上バカにならねぇことを祈っといてやるよ』

 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!


 頭が痛い!!!!!!


 知恵熱か!

 盛大な知恵熱か!


「あまり動かない方が良いと思いますよ」


 目を覚まして最初に見たのは、朝日を返す白金の髪。

 どうやら、イリアに看病をされていたようだ。


 ここ、どこだ?


 なんで、屋根のない場所で俺は看病されているんだ? ってか、壁すらないんだが。

 柱だけの廃墟に、布を被せて無理矢理住めるようにしている感じなのだが。

 もう、建物じゃないだろ。


「やつら……痛ぅ……」

「なにもせず、眠っていて下さい」


 本当に頭が痛い。

 喋っただけで、恐ろしい痛みが来る。

 どういうわけか、回復魔法も通じんぞ。

 などと考えていたら、余計に頭が痛くなってきた気がする。


「う、ううぅぅ」


 魔王がどうなったのかを確認しようとしたが、質問などできそうにない。


 布団があったかい。

 口元にまで布団をもってきてみた所で、ダニが少し心配になった。


 なんで、俺はこんな事になっているんだ。


 知恵熱が悪化しているぞ。

 喋るのもキツイ程に。

 ところで、こんなレベルの知恵熱なんて存在するのか?


 頭が本気で痛い。

 なんか変な汗が出てきた。

 うん、寝よう。絶対に寝よう。


「……おやすみ」

「おやすみなさい」


 笑顔で、お休みと返してくれたイリア。

 きっと良い嫁さんになるだろう。

 こんな、まともな扱いをしてくれるのはイリアぐらいだ。

 コーネリアは少し怖いし、 バカ友(シルヴィア)は凶暴だし──学友は、結構まともだな。

 天敵マルテは除くが。


 いずれにせよ、プライベートではイリアが唯一の癒しかもしれんな。

 この関係を大切にしよう。


『おう、起きたか。聖玉を返せ』


 煩いのが来た。

 しょっぱなから病人に要求を出すとはな。

 心底腐っていやがる。


『ついでに魔力もよこせ』


 などとほざきながら、俺の顔面に乗って来やがった。

 そのまま魔力がジワジワと吸収され──。


「これ、ゾンビの群れにでも投げ込んで来てくれ」


 顔から引き剥がし、太い尻尾を掴んでイリアに譲渡した。


『テメェッ! 止めろ! 頭に血が上るだろうが!』


 足をバタつかせるデュカイン。

 コイツを国に返すだけのハズだった仕事が、いつの間にかゾンビ退治になっていたし、魔王にも目を付けられたっぽいし。

 デュカインは聖竜なんて言われているが、もう厄竜でいいと思う。


「森のゾンビは、ガリウスが一通り退治したようなので群れを探すのは難しいですよ」

『ヘッ、その通りだ。その程度の事も知らねぇなんてバカな奴だ。バーカ、バーカ』


 残念だ。

 丸々と太った高級食材を、ゾンビ達に御馳走してやれると思ったのだが。


「なあイリア。ドラゴンステーキって食べたことあるか?」

「いえ、私はありませんが……」


 イリアは尾を掴まれジタバタするデュカインを、そっと見た。


「通常のドラゴンでも超高級食材とされているんだが、幼竜っていうのは珍味扱いされているんだ。かなり肉が柔らか上に、半霊体という事もあり、口に入れると溶けるように肉がなくなるんだよ。だから肉が口から消えた後、タレの味が強く残らないように調整すると良いのだが、それが少し難しくてな……」


 どうやら、イラついた俺の精神が肉体を凌駕したようだ。

 頭に痛みを感じつつも、スラスラと口から言葉が流れ出る。


『おいっ、なにマジな目でグルメ談義していやがる。ドラゴン以外の話にするか、俺を離してからにしやがれ!』


 話しの意図は伝わったか。

 イリアも少し興味を持ったらしく、デュカインをジッと見ている。


『イリアッ! コイツを止めろ! 俺の尻尾ぐらい切りかねない目をしていやがるぞ』

「尻尾ぐらい問題ないだろ。少し経てば生えるんだから」

『切られたら、いてぇんだよ』


 ジタバタするコイツの動きが頭に響く。


「頭が痛い。少し一人にさせてくれ」

『聖玉返せ! 早く返せ! ついでに魔力をよこせ!』


 イリアに抱きかかえられて、遠ざかっていくデュカイン。

 このままだと、絶対にヤツは帰ってくるな。


「イリア!」

「はい」


 振り返ったイリアに、聖玉を投げ渡した。


『やっと返しやがったか!』


 すると、イリアに投げたハズの聖玉はデュカインが空中でキャッチ。

 強欲な聖竜が浮かべる、満面の笑みが腹立たしい。


『ついでに魔力を……なにしやがんだ!』

「聖竜よ、休ませてやれ」


 デュカインの尾をガリウスが掴んだ。

 再びジタバタするデュカイン。

 だが、リアルチートの手を振りほどけるはずがない。


「クレスよ。明日にはワシと聖竜とで、レバイン聖王国へと向かう。村の外壁は、無傷とまでは言わんが問題はないだろう。だが、何かあった時は頼むぞ」

「ああ、そっちは任せる」


 どうやら、おれば眠っている間に今後の方針は決まっていたようだ。


 イリアやラゼルは大した傷は負っていない。

 それに体力が削られているとはいえ、村の兵士たちもいる。

 ゾンビも、ガリウスがかなりの数を削ったようだしな。 

 これなら、俺に盛大な知恵熱っぽい何かが起こっていても問題はないだろう。


あれ程の力を使った(・・・・・・・・)のだ 、今はゆっくりと休め」

「そうさせてもらう」


 ガリウスの言葉に甘え、もう少しねさせてもらおうと布団へと潜り込んだ。


「どうした?」


 だが、ガリウスは俺をジッと見ていた。

 まるで何かを探るような目で。


「いや、なんでもない。しばらくすれば村人が膳をもってくるハズだ。養生することだ」

「あ、あぁ」


 気のせいか。

 ガリウスは、それ以上は何も云わずにこの場を去っていった。


 *


 それから丸1日をかけてガリウスとデュカインは、聖王国へとたどり着く。

 すぐさま城へと向かい、村での顛末を伝える。


 レバイン聖王国が動くのは早かった。


 神として崇める聖竜の帰還。そして獣王の名もあった。

 だが、魔王が動いていたという事実が、何よりも早く動いた大きな理由である。

 ましてや動いていたのが、”災厄の魔王”とも呼ばれたあの存在の腹心。

 一刻も早く情報を集めねばならない。


 この問題はすでに、レバイン聖王国だけの問題ではないのだ。

 村に向かう軍の編成から、周辺諸国への軍を動かす理由の通達までを終えたのは僅か3日。

 4日目の朝には村に向かって行進を始めた。


 部隊は軽装の兵士を中心とした構成。

 すでに魔王ブロフが去っているため、移動速度を重視している。


 情報は時間が経つにつれて失われていくのだ。

 今は、一刻も惜しい。


 このため、動いたのは兵士だけではない。

 諜報部より数人が先行してすでに動いている。


 まずは諜報部の人間が情報を集め、その後に遅れて到着した兵士に現場を保存させるというのが、国の計画である。

 そう、村人の保護は大して重要ではないのだ──本来であれば。


『村人をしっかりと守ってやれよ』


 だが、聖竜たるデュカインの一言で、国は村人の保護を優先させねばならなくなった。


 クレスからすれば、性悪ドラゴンである。だが、崇める者たちにとっては神というべき存在だ。デュカインの言動は、全て自分に帰依する物ではあるが、いずれも崇める者の心が中心となっているため、信者をないがしろにすることは滅多にない。


 このため、聖竜信仰はレバイン聖王国において、大きな影響力をもっている。

 その影響力は、聖王国の上層部が歯痒さを感じようとも覆ることはない。


 諜報部員が村に辿り着いたのは、ガリウス達が聖王国について1日と半日以上が経ってから。


 更にそれから1週間が経った頃、ようやく兵士たちが村へと到着した。


 ガリウス達が1日で村から聖王国に辿り着いた時間を基準にすれば、動きが遅いと感じられるかもしれない。

 だが、これはガリウスの移動速度がバカげた物であったからにすぎない。

 むしろレバイン聖王国の動きは、優秀と言っても良い程である。


 *


 村に大量の兵士がやってきた。

 どうやらガリウス達は、無事に辿りつけたようだ。

 しかし、いらぬ客まで来た。


『よぉ、顔を見せに来てやったぜ』


 デュカインだ。

 面倒なことに帰って来やがった。

 ついでに、今代の聖竜の巫女まで連れて。

 彼女は、俺のようななんちゃって御子ではないせいか、清廉さを感じる少女であった。


「初めましてクレス様。私は今代、聖竜の巫女を務めさせて頂いているサーシャと申します」


 俺のような一般市民にも礼を尽くそうとする彼女の姿勢には好感が持てる。

 でもデュカインは目障りだ。

 消えろ。


「デュカイン様の警護のみならず聖玉の奪還まで成して下さったこと、レバイン大神殿を代表してお礼申し上げます」

『いいんだよ、コイツは。適当にこき使ってやりゃぁ』


 性悪ドラゴンめ。

 巫女に聞こえないように、俺にだけ性悪な念を飛ばして来やがる。


「お礼のお言葉、ありがたく頂戴いたします」


 敬語はこれでよかったか?


「本日は急ぎのため言葉だけのお礼ではありますが、後日レバイン大神殿からお礼の品を届けさせて頂きます」

ってぇ姉ちゃんだろ? もっと気楽に話してぇんだけどな。これじゃあ、俺も聖竜っぽくしなけりゃならねぇんだよな』


 デュカインよ。

 わざわざ巫女の言葉に合わせて話すな。

 どう対応していいか混乱するだろ。


 だが、念を俺にしか飛ばしていないため、巫女は全くデュカインの本性に気付いていない。


 彼女の中でデュカインは、神聖で偉大な存在のままだろう。

 なんか悔しい。


「ケット・シーの長老から、レバイン大神殿の方に渡すようにと封筒を預かっています。侍女の方に渡せばよろしいでしょうか?」

「いえ、私がお預かりいたします」


 こういうのは、毒物が塗られている可能性もあるため、侍女などを通して渡すハズであるが。

 デュカイン効果で、結構な信頼を得られているようだ。


「それではコチラを」

「はい、確かにお預かりいたしました」


 これで、ようやく一段落だ。

 封筒の中は、勇者ギルドの話しと商売のことだろう。

 俺が口を出さない方が良いハズだから、中身の詮索はしない。


 この後の話だが──。


 魔王ブロフと直接接触したため、兵士たちに色々と質問攻めされることにはなる。だが、レバイン大神殿の後ろ盾やケット・シーの黒い権力のおかげで面倒なことは避けられた。

 だから、わりと早く俺達は解放されることとなる。


『クレス』


 ここ最近のことを思い返しながら帰り支度を行っていると、デュカインが念を飛ばしてきた。


『色々とあったが、お前のおかげで俺の崇拝者どもが無事だったんだ。礼はいっておくぜ』


 性悪ドラゴンは、やはり性悪ドラゴンだ。

 最後まで上から目線で話してきやがる。

 だから俺は最後に──


『久しぶりにお前と旅が出来たのは、悪くなかったぞ』

『テメッ! 念話が出来るのを隠していやがったな』


 デュカインの戯言に付き合うのが面倒で隠していた、念話の能力を教えてやった。

 これで少しは意趣返しが出来たハズだ。


『クソッ、分かってりゃあ、もっとからかってやれたのによぉ』


 こうして今回の仕事は、予定の場所に辿り着く必要もなく終わった。


 前世の友に出会えて嬉しかった、戦友との別れが悲しかった。──などという気持ちは一切ない。


 一緒にいる間は、憎まれ口を叩きあって適当に喧嘩している。

 離れていようとも、特段懐かしむ事もない。


 そんな俺達の関係を、共に戦場を駆け巡った前世であれば戦友と呼べた。

 だが、今生では環境が違う。

 ゾンビと少しだけ戦いはしたが、戦友とは呼びあえるほど長くは戦っていない。


 なら、何というべきか?


 友達などと言ったら気持ちが悪い。

 ヤツの首を絞めたくなる程に。


 だから、そう。

 悪友とでも言っておこうか。


 前世では戦友だったが、今生で俺達は悪友となったのだろう。

 悪友に、湿っぽい別れの挨拶は似合わない。

 

『ま、それ以上バカにならねぇことを祈っといてやるよ』

「なら俺は、ドラゴンステーキにならんように祈っておいてやろう」


 罵り合う程度が、俺らの別れには相応ふさわしいのだと思う。












 ま、ムカつくことに変わりは無いのだがな。

投稿が遅く数ヶ月掛ったこの章は、これで一区切りです。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ