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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
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俺の戦いはまだ続いている 『テメェ』

 大量のゾンビがやってきたが、全て退治した。

 これでとりあえず一休み──とは、いかない。


 どうやら、釣りに成功したようだ。


 イリア達には、事前に指示を出してあった。

 その指示というのは、『敵わない相手がいたら、引き付けるか情報だけを持ち帰れ』と、いうもの。

 少し離れた場所ではあるが、イリア達を追う魔力を感じられる。


『うまくやったようだなー』


 デュカインが、嬉しそうに念を飛ばしてきた。

 活躍して、崇められる未来を夢想しているのだろう。

 かなり機嫌がいい。


 だが、俺は気分が悪い。

 なぜなら──


「……大物すぎるだろ」


 距離があり過ぎてボヤけた感じではある。

 だが、イリア達を追うデカイ魔力が感じられる。


 これから面倒なのを、相手にしないとならないようだ。

 そう考えると気分が悪い。

 だが、嘆いているばかりもいられないか。


「少し隊列の変更をお願いできますか?」


 隣に立つ兵士長に、隊列の変更を申し出ることにした。


 *


 イリア達は走る。

 背後を蠢くゾンビから逃れるために。


「アァガァァァァ……」


 地に響くような低い呻き声。

 人の姿をした異様に相応しい不気味さ。


 だが問題は、呻き声を上げる鈍重なゾンビではない。

 呻き声を上げない、ヤツが問題だった。


「来るっ!」


 背後を警戒するラゼルの耳に聞こえるのは足音。

 地を蹴る音は人の足音ではなく、死人を使ったゾンビの足音とも異質のものだと分かる。


 聞こえる音。

 その正体は、ひづめ


 2人を追いかける馬に鳴き声は無い。

 当然だ。頭が無いのだから。


 首なし馬が、一気に迫る。

 猛スピードで迫る馬の巨体は、人間など容易く押し潰せる凶器だ。

 例え障壁を張ろうとも、その結果は変わらない。


「ラゼルっ!」

「ああ!」


 僅かな言葉を交わすと、2人は左右に散った。

 首なし馬は、2人の間を駆け抜けようとする。

 が、それは叶わない。

 2人の間に差し掛かった時、背後から襲いかかる影があった。


 黒獅子だ。

 全身を黒い獣毛に包み込んだ獅子が、首なし馬の背を噛み千切ろうと嚙み付いている。


「急ぐぞ」


 ラゼルの言葉に、黒獅子が離れる。

 首なし馬を始末する必要は無く、今は一刻が惜しい。

 足をへし折り、追いかけられなくさえすればいい。


 彼らは再び走りだした。


 後少しだ。

 

 走る、走る、走る。


 通常のゾンビでは、子供の足であっても距離さえ空けば追いつけない。

 追いつくとすれば、デスナイトのような上位のゾンビ系モンスター程度。

 それと、4本足の動物を素材としたゾンビ。


 幸い、デスナイトクラスのゾンビに襲われることは無かった。

 2人を襲ったのは、犬や馬を素材としたゾンビではあった。


 ガリウスというリアルチートに、無茶ぶりをされ続けた2人だ。

 足が早いだけで、それを活かす頭を持たぬゾンビなどに後れをとることは無い。

 難なくやり過ごすことに成功する。


 走り、走り、走り続け、やがて明りが見えた。


 もう少し。


 そう口にしようとしたのは、どちらだったか?

 いくら訓練を行おうとも、気持ちをいくら強く持とうとも、いくら魔法が存在する世界であったとしても、限界という物は存在する。


 ゴールを目前にした2人の心には僅かな隙間が生じた。


 心は隙間を嫌う。

 だから心は、隙間が生じたとき、それを埋めようとする。

 

 特に隙間を埋めるのに好んで使うのは──弱さ。


 明りが見えた瞬間、2人は”疲労”という名の”弱さ”を思い出してしまった。

 多々の経験を積んだ戦士であれば、全てが終わる前に”弱さ”を見せることが、命取りだと本能で知っている。

 だが、2人は未熟すぎた。


(この臭いは?)


 心の隙間に疲労が入り込んだ瞬間だった。

 イリアは、臭いの変化に気付く。

 だが次の瞬間には、身に迫る危険により”この気付き”を放棄せざる得なくなる。


「グゥオオオオオォォォ」


 背後から──

 疾風のように近付いてきた強烈な気配が、叫び声を上げた。


 先ほどまで聞いていた、ゾンビ達の声に似ている。

 だが、けた外れの存在感を放つ声だった。


 知っている。

 この存在感を、この声を──。


 こいつは、デスナイト。


 ガリウスは一撃で葬っていた。

 だが、本能が訴えるのだ。


 あの出来事は、例外であったと。

 自分たちでは、絶対にコイツには勝てないと。


 恐怖を感じた体がひるもうとする。

 だが、これまでの訓練がそれを許さない。


 どうすれば良いのか?


 それは、本能が告げてくれた。

 同時に、木の上から見下ろす者も教えてくれた。


「全力で走れ!」


 残った体力全てを出しきるように2、人は走る。

 背後の恐ろしい存在は、きっと彼が何とかしてくれるだろうから。

 何も恐れる必要はなかった。


 走り抜ける2人の背後。

 彼は赤く輝く剣を手にし、木から飛び降りた。

 

 いや、飛び降りたという表現は正しくない。

 彼は、重力に引かれるまま地に降りたのではなかった。

 木の枝を蹴り、幹を蹴り、最小の時間で地へと辿りついていた。


 それだけではない。

 地に足を付けたとき、彼が手にした剣は役目を終えていた。


「ヴォ、オォォォォ」


 デスナイトの体が両断され、地へと崩れていく。

 切られた場所から紅色の炎が躍らせながら。


 これで脅威は去った。と、いうわけにはいかない。

 月明かりの下、大量のゾンビ達の影が見える。


 まだ遠く離れている──だが、丁度良い距離か。


 そう判断したクレスは、紅に輝く刃を振るい、地面を削った。


 途端に、地面から炎が吹き出る。

 クレスが手にする剣とは違う色をした炎。

 それは、魔法で作りだした火の色ではない。


 イリアが先ほど気付いた異臭は油が発したもの。

 すなわち地面に吸わせた油が燃えているのだ。


 炎は、地面を這うようにゾンビ達を瞬く間に飲み込む。

 だが、炎は家や木々をも飲み込んでいる。


 本来であれば避けられた村への被害である。

 だが、どうでも良いことだ。


 すでに、村の破棄は決まっている。 

 村人達は、ある程度の準備が出来次第、王都へと向かう手筈となっているのだから。


「ゥ、オオオォ」


 全身を炎に包まれたゾンビが、前へと踏み出た。

 放っておいても、機能を停止するだろう。

 だがクレスは──


「ァ……」


 一本のナイフをゾンビに向けて投げつける。

 胸に突き刺さったナイフが止めとなり、完全にゾンビは動きを止めた。


 もう、前へと出てくるゾンビはいないようだ。


 そう判断すると、クレスは拠点へと帰った。

 最後の敵を出迎えるために──。


 *


 やがて、ゾンビ達を包んでいた炎が鎮まった。

 ただの焼死体と化したゾンビ達が、あちこちに散らばっている。


『ちっ、俺が活躍する舞台をパクりやがって』


 さっきから、デュカインが不機嫌だ。

 俺が1人でゾンビを始末したのが、よほど気にいらないようだな。


 崇拝されたがりのデュカインが、色々と国民に恩恵を与えているとも言えるのだが。

 それでも、こんなのを神扱いしていて、よく国が滅びない物だと本気で思う。


「準備が出来ました」

「お疲れさまでした」


 避難場所であるこの建物には、とうぜん非常口とも呼べる抜け道がある。

 これからの戦いの規模によっては、村人達には抜け道を使って避難してもらわざる得ない。

 兵士長が、その準備を終えたのを伝えに来たのだ。


『向こうの準備も、出来たようだぞ』


 デュカインの言葉に、敵方へと目を向ける。

 先ほどゾンビ達を焼き払った場所には、予想外な事に少数の敵しかいない。

 だが、数を揃えられるよりも、よっぽど厄介な敵であるのはすぐに分かった。


「やはり、避難はさけられないようですね」


 俺の言葉に、兵士長もすぐに動く。

 どうやら、彼も敵の異常さを理解したようだ。


 敵方に立っているのは、スケルトンの群れ。

 人骨に魔力を宿らせて作られる、骨のモンスターであるスケルトン。

 ゾンビ系統モンスターの、代表格ともいえる存在。


 しかし、実際は違う。


 あそこに並んでいるスケルトンは、骨の表面が滑らかすぎる。

 それに、色は象牙質のような甘さを持った白色。

 竜牙兵と呼ばれる、竜の牙から生まれたスケルトンの一種か。


 だが、おかしい。

 竜牙兵に、骨しかない状態というのは初期段階でとても弱いハズだ。

 時間さえ経てば、強力な手ゴマとなるのに。

 魔力を見ても、この状態で固定されており、次の段階に至る事を捨て去っているように見える。


 と、なると──


「……絶対に何かを企んでいるよな?」

「?」


 心のつぶやきが、思わず零れてしまうと、首を傾げたイリアが不思議そうにコチラを見ていた。

 ラゼルの方は、”またか”と、呆れたような表情だ。

 大方、俺のバカが戻って来たとでも思っているのだろう。

 だが残念ながら、それはハズレだ。

 まだ俺の頭は、いつもよりも2割増しで頑張っている!


「アレは、マズイですね」


 兵士長が、竜牙兵に目を向けながら呟いた。

 ヤツらの不自然な様子にすっかり忘れていたが、竜牙兵そのものがデスナイトと並ぶヤバさなんだよなぁ。

 作られたばかりのようだから、本来の実力は出せないだろうが。


「魔法を使える者と弓兵で遠距離から攻撃して相手を引き付けましょう。そして盾隊で少しの時間で良いので敵を足止めして下さい。あとはデュカイン様のお力で敵を掃討します。その後は……」


 これが、ベストな選択だろう。


 別にデュカインだけが、俺のカードではない。

 その気になれば、切れるカードなどいくらでもあるからな。

 すでに見せたカードを、出し惜しみする必要はない。


「ええ、予定通りに」


 言葉を受け入れた兵士長は頷き、覚悟を決めた表情でゾンビの群れへと再び目を向けた。


 高まる緊張感。

 この場にいる誰もが分かっているのだ。

 最後の戦いが始まる事を。


「弓隊、魔法隊、攻撃準備!」


 兵士長の言葉が響くと、少な過ぎる兵士たちが攻撃の準備を開始する。


 彼らも思わなかっただろう。

 こんな小さな村で、これほどの敵と対峙することになる事など。


「盾隊、守備準備!」


 兵士長が次の指示を出すと、今度は盾を構えた兵士たちが準備を開始した。

 盾を持つ兵士たちの多くを後方へと回したため、その数は先ほどよりも少ない。

 わずか3人しかいないが、盾に施した結界の効果で多少なら足止めは可能だ。

 

 圧倒的に不利と言えるこの状況で、よく士気が落ちなかったものだと思う。

 兵士長が優秀なのか、それとも村が良過ぎて兵士たちが強い愛着を持っているのか、それは分からない。

 だが、最後まで戦う彼らに称賛の想いを抱かざる得ない。


 俺が大勇者スバルだった頃であれば、言葉で彼らに敬意を表しただろう。

 が、今の俺が持つ聖竜の御子などという、詰まらない肩書で語る言葉など欺瞞に過ぎない。

 だから、俺は結果で彼らに報いよう。


「攻撃始め!」


 兵士長の合図とともに、矢と魔法が一斉に放たれた。

 

 高位のゾンビ相手では、かすり傷を付けるのが精々な攻撃。

 しかし、戦場に動きを与えるのには十分だ。


 竜牙兵たちが動き始めた。


 通常のゾンビであれば鈍重な動きしかできない。

 だが、竜牙兵ほど高位の存在であれば、並の人間よりも遥かに機敏な動きが出来る。

 

 その動きを活かすのが、本来の在り方だ。

 しかし、竜牙兵は人並みの動きで俺達の方へと迫ってきた。


(やはり、何かがおかしい)


 いや、今はヤツらを倒すのが先決だ。


 敵に向かって振らせ続ける、火弾と矢の雨。

 それらを意に介すことも無く、平然と歩く竜牙兵たち。


 油断でも何でもない。

 ましてや強者の余裕でもない。

 ヤツらは、そう命令をされているのだろう。

 指示したヤツにどんな意図があるにせよ、これは都合がいい。


 わずか3人の盾隊と竜牙兵が衝突したのを見計らって、俺とデュカインは最前線へと飛び出した。


「デュカイン!」


 魔力球を頭上へと発生させると、デュカインがそれを飲み込む。

 この動作から発動する攻撃手段はただ一つ。


「グゥオオオオオオオォォォォォォォォッ」


 閃光のごときホーリーブレスが、竜牙兵へと襲いかかる。

 眩い光は不浄なるモンスターを飲み込んだ。


 ホーリーブレスが止むと、地面を白い炎が燃やしていた。

 竜牙兵たちは、自らを動かすための魔力を焼き払われ、さらには骨の体に刻まれた術式も焼失している。


 完全なる勝利と言える。

 上位のゾンビたる竜牙兵をここまで叩き潰されれば、持ち主の心情は決して良いものではないだろう。

 だが、違った。


「ふふふ、素晴らしい力ですねぇ。さすが聖竜デュカイン様と、言うところでしょうか」


 勝利したハズのこの場が、その声によって書き換えられた。

 予定調和とでも言うのか?

 いや、そうなんろうな。


(相変わらず・・・・・・不愉快な声だ)


 思わず不愉快な目で、病弱な雰囲気の男を睨んでしまった。

 デュカインもまた、俺と同じ気持ちなのだろう。

 不愉快な気持ちが伝わってくる。


「おやおや、嫌われてしまいましたか。全く残念に感じないのが、非常に残念ですよ。クックック」


 陰気な笑いを見せながらも、その目は明らかにコチラを警戒している。

 それどころか、負の感情すら目に宿っており、周囲に歪な魔力が溢れ出てすらいる。

 

「残念に感じないのは、その魔力のせいでしょうねぇ。ぜひ知りたいところですよ」


 笑いが止み、コチラを見る目に明確な意思が宿った。


「あなた……いいえ、あなた達とあの男の関係をねぇっ」


 男の眼に宿ったのは殺意。

 平然と死者を操り、そのために死体を作る男には、最も遠い感情。


 殺意に流されるまま、男は俺へと襲いかかってきた。


 盾兵が反応できないほどの早さ。

 男の通り抜けざま、盾兵の首へといつの間にか伸びていた黒い爪が伸びる。


「さて、何のことだろうな?」

「本当に忌々しい。そっくりですよ、アナタは……あの男に」


 だが、盾兵の首へと伸びた爪は、俺が持つ魔法剣によって防いだ。 


 ぶつかり合った爪と魔力の剣は、金属質な音を放つ。

 と、同時に俺の手へと掛る衝撃。


 剣へといっそうの力を込め、相手が押し返そうとする反動を利用し、後ろへと飛ぶ。


「燃えろ!」


 さっきまで俺が立っていた場所に魔法を放つと、柱のように高く炎が立ち昇った。

 その場所には骨の手がが見える。

 足元から伸ばしたアレで、俺の動きを封じるつもりだったのだろう。


「ふふふ。あぁ、忌々しい。こんな不愉快な想いは久しぶりです」


 距離を空け、魔導士である相手に合わせようとも攻撃をする様子は見られない。

 だが、濁った黄色い目に宿った殺意は、攻撃とは別の嫌な予感を俺に抱かせる。


(予感……じゃないな)


 予感なんかじゃない。

 これは確信だ。


 最初に、動いたのは俺だった。


 手にした短剣に、いっそう強い火の魔力を宿らせ斬りかかる。

 だが、遅かった。


「くっ」


 再び俺は、後退することになる。

 辺りに腐臭が立ち込め、足元には奇妙な液体──いや、これは液体などではない。


「腐肉を組み合わせて作った新種のゾンビですよ。私の作品としては出来が良くないのですが、あの男にそっくりなアナタは、ぜひこのゾンビの一部にして差し上げたいと思いましてねぇ」


 そう。

 足元に沼のように広がっているのは、腐りかけた肉。

 不気味に脈動し、言いようのない気持ちの悪さを感じる。


「作品名はスヲール。いにしえの言葉で”飲み込む者”という意味ですよ」


 あのまま感情に流されていていてくれれば、対処しやすかったんだが。

 冷静さを取り戻してしまったか。


「ほぅら。まずは小手調べです」


 男の合図とともに、スヲールがボコボコと膨らみ始めた。

 どう対処するべきか? この動作が面倒事であるのは分かっても、その意図が分からない以上は、迂闊に手は出せない。

 止むをえず、相手の出方を見ることにすると、すぐに行動の意図は理解できた。


「見なさい。竜牙兵にスヲールの肉を付けた、特製ゾンビです」


 なるほどね。

 竜牙兵が骨のまま変化出来なくなっていたのは、これが目的だったのか。


「デュカイン!」


 再びデュカインにホーリーブレスを放たせる。

 何者も邪魔をすることのなかったその攻撃は、問題なく辺りを白炎で包みこんだ。


『テメェ』


 白炎が止んだとき、デュカインは忌々しげにその場所を見ていた。


「素晴らしいでしょう。スヲールは倒されたゾンビを蘇らせるのですが、チョットした条件に基づいて耐性を得るのですよ」


 竜牙兵を骨格として用いたゾンビ達は、平然と立っている。

 無傷とまでは言わないが、動きが鈍くなるほどのダメージではない。

 アイツの言葉が本当なら、得た耐性は火か光。もしくは両方か。


 面倒な相手だな。


 それに自分の手の内を、なんの警戒も無く語っている事も気になる。

 まだ、何かを企んでいるのだと考えた方がよさそうだ。

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