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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
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俺の戦いは続いている 『クレスのヤツが、なんかやったんだろ』

 敵の増援というべきか。

 デスナイト、リッチ、それとあれは──ハイ・ゾンビか?

 少し豪華な集団が来た。


 あんなのが、村に隠れていればさすがに分かるハズだ。

 これは、高確率で人為的な原因で、ゾンビが発生していると考えていいだろう。


『雑魚ばっかだなー、おい』


 パタパタと翼を動かし宙に浮かんでいるデュカイン。

 その姿には余裕が見られる──コイツは、今のところ何もやっていないがな。


「このまま小出しにしてくれるのならありがたいが……」


 人為的にゾンビが発生しているのなら、発生場所があるハズだ。

 小出しにされているゾンビの動きを辿っていけば、発生源の発見は難しくないだろう。


 俺でもその程度は考えつくのだ。

 イリア達なら、問題なく行動してくれると思う。


 俺は、前世と含めれば中身は100歳を超えており、戦場経験も豊富なハズだ。

 そんな俺よりも、10歳ちょっとの子供の頭の方が信用できる点が少し悲しさを感じる。


 だが、現実という物は常に非常なのだから仕方がない。

 自分にそう言い聞かせ、目の前の問題と向き合うことにした。


 *


 村を小さな影が駆けていた。

 イリアとラゼル、2人を形で使い魔達が走っている。


「隠れて下さい」


 イリアが小さく声を出すと、建物の影に2人は隠れる。

 すると、木の影から数体のゾンビが姿を見せた。


 どうやら、これまでと同じらしい。

 クレス達が守る場所に向かって、すでに何グループものゾンビが向かった。


 同じ道を歩いてゾンビ達は、目的地に向かっている。

 だからゾンビの発生源は、全てが同じ可能性が高い。

 そう考え、ゾンビ達のあるいてきた方向の魔力を探っても、全く異常が無い。

 しかし、ゾンビの歩いて来る道を遡っていけば、やがては発生源に辿り着くハズだ。


 2人は、ゾンビが通り過ぎるのを確認すると、再び走り始めた。


 *


『わんさか来やがるなー』


 性悪ドラゴンは、勝てばチヤホヤされるとテンションを上げているが、俺のメリットなどほとんど無い。

 それどころか、目立ち過ぎれば平穏という宝から遠ざかることになる。


 すでに手遅れの気もするが、それは考えないようにしておこう。

 とりあえず、そんなわけだからゾンビが増えるたびに気分が沈んでいった。


「お前ら、腰を据えろ!」


 兵士長の檄が飛ぶ。

 現状、盾でゾンビの群れを抑えるしかない。

 兵士たちは、必死になってゾンビの侵攻を盾で受け止めている。


 盾にかけた魔法の効果もあり、兵士に掛る負担は多少だが減らせてはいるようだ。

 現に、12体のゾンビを食い止めている


「御子様、このままでは!」


 兵士長が弱音を吐いた。

 確かに魔法のおかげで兵士の負担は減っている。

 だが、兵士たちが少しずつ押されつつあるのが分かる。


 このまま食い止められるか?


 いや、俺の見立てが甘かったようだ。

 予想以上に兵士たちは消耗していた。

 できることなら、もう少しゾンビを集めてからにしたかったが──止むを得ない。


「デュカイン」

『おう、派手にしろよ』


 俺は右手を頭上高く掲げ、魔力を集める。

 なるべく平穏の夢を壊さない程度に加減しながら、だが十分な魔力を集めていく。


「いいぞ!」


 俺の言葉と共に、デュカインが俺の作った魔力の球体を喰う。

 前世で戦友となり腐れ縁となったせいなのだろう、ときおりヤツからイラっとするような感情が伝わってくる。


 今回も、デュカインから喜悦の感情が伝わってきた。


 決して俺と久々に一緒に戦えるとか、そんな可愛らしい理由からの感情ではない。

 コイツは、これから派手なことをするから、チヤホヤされるであろう事が嬉しいだけだ。


「グオオオオオォォォォォォォォ」


 幼竜の姿に似つかわしくない雄叫びと共に、白い光がゾンビ達を襲う。

 それは、ブレスと呼ばれる竜族の象徴とも言える攻撃手段。

 体内で練り上げて吐き出した魔力を、魔法へと転換させて使用する竜族が得意とする攻撃手段。


 白い煌めきを放つ聖竜デュカインのブレスは、ホーリーブレスと呼ばれている。


 眩いまでの煌めきは、目の前に純白の炎が壁を成したかのように広がり視界を奪い去った。

 圧倒的な熱量は、後方にいる俺にまで伝わってくる。


「グゥゥ……」

「ア、アァ」


 ブレスが止み、周囲が夜の闇を取り戻すも、あちこちで炎が揺らいでいる。


 あちこちで揺らぐ人を包み込める程の白い炎。

 ゾンビ達の呻き声が炎の中から聞こえるが、完全に動けなくなるのも時間の問題だろう。


 ゴクッ


 兵士長が唾を飲み込む音が聞こえた。

 彼の顔を一筋の汗が流れている。

 兵士たちに檄を飛ばしていた時とは全く違う表情。

 彼の視線は、炎に包まれるゾンビに向けられている。


 俺は思った。

 ”やりすぎた”と。


 そんな俺の想いなど関係なく、上機嫌にしているデュカイン。

 コイツに、少しイラっとしたのは仕方の無いことだろう。


 *


 大きな魔力を感じ、イリアは自分たちが走ってきた場所を振り返った。


「クレスのヤツが、なんかやったんだろ」


 ラゼルがそう告げると、彼女は頷き前を見る。

 月明かりで足元は明るい。


 だが、遠くに目を向ければやはり夜の闇が視界を隠す。

 獣人であるラゼルの目は、普人と呼ばれるイリア達の目よりも闇夜の視界は広いが、それでも遠くは見通せない。


「やはり、クレスのようにはいきませんね」


 闇の向こうに目を向け、イリアが溜め息混じりに呟いた。

 魔力を使い、周囲の状況を確認する魔力視という技術を使ったが、望むような結果を得られなかったためだ。


「そういう技術をアイツと比較するだけ、時間の無駄っていうものさ。そもそも、アイツの頭を考えてみろ。頭で勝っているんだから、それで充分だろ」

「ふふ、そうですね」


 どうやら、この場に馬鹿クレスをフォローする者など、この場にはいない。


 あまり遠くは見えないが、どうやら近くにゾンビはいないようだ。

 そう判断すると、軽く言葉を交わすと、再び2人は走りだした。


 *


 ふむ、少し手加減を間違えたようだ。

 さっきから、兵士も兵士長も全く喋らず、嫌な沈黙がこの場を支配している。


 とりあえず俺の出来ることは──


「さすがデュカイン様です。幼竜でありながら、あれ程の力をお持ちとは」


 ──誤魔化すことにした。


 どうやら、普段よりも数割増しの働きをしている俺の頭脳(当社比)が導き出した答えは、間違っていなかったようだ。

 嫌な沈黙は去り、空気が少しではあるが和らいだ。


『ハッハッハ。いいぞ、その調子だ。俺が崇められるように、ジャンジャン俺の凄さを強調していけ』


 性悪ドラゴンが調子に乗ったのは予想外だったが、これは諦めよう。

 相手にしても疲れるだけだ。


「デュカイン様が、ゾンビを焼き払って下さったが、すぐに次が来るだろう。それまで各自、体を休めておけ」


 一区切りは付いたか。

 次に来るゾンビの魔力は、かなり遠くにある。


 兵士長の言葉に従い、兵士たちは座りこそしないが水を口にするなどして休んでいる。

 

 彼らは、ただでさえ疲弊しているのだ。

 そこにゾンビの群れを盾で押さえ、更にはそのゾンビが顔見知りという精神的疲労も加わっている。

 ハッキリ言って、分が悪過ぎる状況だな。


 思わず溜め息を吐きそうになった所で隣を見る。

 そこには、パタパタ羽根を動かすデュカインが──何故かイラっとしたので、おかげで溜め息を吐くことはなかった。

 しばらく経つと、再びゾンビがやって来た。


「………………」


 近付いてくる魔力を感知して絶句した。

 デスナイトやリッチの次はコレか。


「なんていう数だ」


 やってきた大量のゾンビを見て兵士長が驚いている。

 さっきはデスナイトやリッチだったが、今度は量で来たか。

 いや、違うな。


「揺さ振りか」


 さすが兵士長と言うべきか。

 分かっているな。


 敵は、質と量を交互に繰り返して、こちらを揺さぶる気なのだろう。

 こんな知恵を混ぜてくる所を見ると、ゾンビを作ったヤツは自分の存在を隠す気はないようだ。

 と、なるとマズイかもしれん。


『なに、しけた顔をしていやがる。さっさと俺の偉大さを見せるために働きやがれ!』


 デュカインよ、嫌なタイミングで念を飛ばすな。

 さっきまで何を考えていたのか、忘れてしまっただろ。


「ゾンビは、油を使って焼くことにしましょう」

「先ほどの魔法は?」

「あれはデュカイン様への負担が大きすぎます。続けて使えば、デュカイン様の身を焼く結果になりかねません」


 さっきの魔法は、デュカインが成体だった頃の力を無理矢理使わせるようなものだ。

 そんなのを連発すれば、幼竜であるデュカインの身がもつハズが無い。


『なに言っていやがる。人間っていうのは傷つきながらも、必死に自分を守ってくれるヤツを尊敬するもんだろ。さぁ、とっとと、次を撃たせろ』


 コイツ。

 崇拝されるために、体を張り過ぎだろ。


 *


 ゾンビの歩いてくる方向に、原因はあるハズだ。

 そのように考え、イリアとラゼルは走り続けた。


 やがて、周囲の空気が変わった。


 この墓場が墓場だという事だけが理由ではないだろう。

 濃密な死の気配と言うべきか、生命が根本の部分が知る死という概念を濃密に含んだ空気が、辺りに満ちていた。


 先ほどまで、このような気配など無かったのに。

 疑問を抱きながらも、2人は墓守が使っていたであろう小屋の影に姿を隠す、が──


「チッ」


 ラゼルは突如として影から現れた影に拳を振るった。

 水袋を叩いたかのような、くぐもった音が周囲に響く。


 地べたに倒れたのはゾンビ。


 2人は周囲を見回す。

 ゾンビが来たとき、作為的な動きを感じた。

 そもそも知能の低いゾンビが、隠れている者にこっそりと近付くハズなど無い。


 イリアは剣を構え、ラゼルは拳を構える。

 周囲を警戒しながら、緊張によって乾く喉を唾で潤す。


 敵には見つかった。

 なら、自分たちの力量を考えるのなら、ここは撤退の2文字以外は存在しない。


 少なくとも、ゾンビを大量に作れるであろう者を相手にするのだ。

 作ったゾンビに囲まれれば、生き残れる可能性は低い。


 周囲を警戒する2人。

 些細な音にすら敏感に耳が反応する。


 決して状況の変化を取り逃がしてはいけない。

 そのように考え警戒を続けていた2人であったが、変化は全く意図しない形で現れた。


『出会いがしらにいきなり殴りつけるとは、最近の子供は礼儀を知らないようですねぇ』


 声の下方向へと、すぐさま視線を向ける。

 視線の先にあったのは、先ほどのゾンビ。


 このゾンビが話している──と、いうわけではないようだ。

 恐らくは、ゾンビの口を通じて何者かが話しているのだろう。


『それとも、これが最近の子供への教育方針という物なのでしょうか』


 皮肉を込めた言葉が止まることなく溢れてくる。

 声の主は意図して、皮肉を言葉にしているのではないのだろう。

 意図して悪意を向けるのであれば、皮肉であれ何であれ、声などに緊張が出るものだ。


 しかし、そのような緊張は声から一切感じられない。

 すなわち声の主は、皮肉を自然に垂れ流せる良い性格をしているということだ。


「ゾンビに対する礼儀作法など、見つけたら始末するということを覚えておけば十分だろ」


 足元に転がるゾンビに対し、冷徹に言い放つラゼル。

 子供に似つかわしくない冷めた目は、ガリウスの教育の賜物かもしれない。

 この場合、教育を狂育と言いかえられる点が微妙ではあるが──。


『クックック。そうかもしれませんねー。ゾンビの人間への礼儀も、見つけたら喰うというだけで十分なのですから』


 まともな神経の者であれば、ドン引きしたかもしれないラゼルの発言。

 だが、どうやらゾンビの主の心は掴んだようだ。

 ゾンビから伝わる声は、皮肉を交えながらも喜色に富んでいる。


 ラゼルとゾンビの会話。

 少し気が合いそうな気もする2人の間を引き裂いたのは、イリアの声だった。


「氷結の天剣!」


 イリアの声が空気を震わせると、次の瞬間には辺りに霜が降りた。

 剣に纏わせて振ったフェンリルの力による物だ。

 霜は真っ直ぐに一つの方向に進んでおり、その先ではゾンビ達は氷像と化した。


「走って下さい!」


 イリアの声に、ラゼルが走った。

 霜で出来た道は、ゾンビの間に活路として伸びている。


「追いなさい」


 ゾンビの主が、会話の最中に集めていたゾンビに指示を出す。

 鈍重な動きしかできないゾンビでは追いつけない。

 だが、先ほどの少女たちが行く先は1つしかない。


 自分がゾンビを作る死体を調達している場所がバレたのだ。

 これまで通り、ジワジワと相手の戦力を削る方法では、なんらかの手が打たれる可能性がある。

 なら、最大戦力で一気に攻め込んだ方が、目的を叶えられる可能性が高い。

 それに──


「ほう、この感じは…………念には念を入れておくべきでしょうねぇ」


 異国風のローブを纏った男が、氷漬けにされたゾンビを眺めながら呟く。


 これまでと変わらぬ、ゆったりとした口調。

 だが、黄色く濁った目には明らかな敵意が宿っていた。

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