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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
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俺は獣王に丸投げした 『お前は村の中で俺の護衛な』

残酷描写?が、あります。

 俺が知恵熱で横になっている、長老の家にある一室。

 イリアやラゼル、ガリウスらが集まっている。

 ついでに、神を詐称するデュカインも。


 それにしても頭が痛い。

 よりにもよって、こんなときに群れるなんて。

 俺とゾンビどもの相性は最悪なのだろう。


『派手に暴れて俺への信仰心を集めろよ』


 俺の頭の横近くを飛ぶ性悪ドラゴンが、浅薄な悪だくみを念で伝えてきた。

 しかし、俺が戦う必要などない。


 確認できたゾンビの数は50体ほど。

 しかも他にも群れがあり、そちらも村に近付いていると報告を受けている。

 人手の問題があり、コチラの群れに関しては詳細が分かっていない。


 さらに悪いこととは積み重なるもので、迫っている群れにはデスナイトやリッチと言った厄介なモンスターが多くいるらしい。

 間違いなく、軍隊が出なければならないレベルだ。


 でもな、もう一度言わせてもらう。

 俺が戦う必要などない。


「ガリウス。結界を強化すると、しばらく村に入れなくなるが1人で無双してみるか?」

「うむ」


 もう待ちきれないという感じだな、このリアルチート。

 気持ちが高揚し過ぎて、無口になっていやがる。


 まあ、いいや。

 物騒なことで、コイツが本性を見せるのはいつものことだ。


「よしっ」


 ガリウスに対して色々と諦めていると、その横に立つラゼルから気合を入れる声が聞こえた。


「お前は村の中で俺の護衛な」

「えっ!?」


 なんで驚いているんだ。

 子供であるお前を、ゾンビの群れに突入させるはずがないだろ。


「ふ、若いな」


 ガリウスが、悟った様な目をしている。

 だが、俺はコイツほど物騒な煩悩にまみれたヤツなんて知らない。


 色々とガリウスには言いたいことがあるが、コイツの趣味とはいえ殺戮?を頑張ってもらうのだ。 

 何も言わないでおこう。


 *


 知恵熱による頭痛に耐えながら、村の中心部へと足を運ぶ。

 少しボーっとしていなくはないが、少しは症状もマシになった。

 結界の強化程度ならなんとかなるだろう。


「御子様。村の者は全て集まりました」


 村の結界は、子供の頭ほどの大きさを持つ宝珠を要として張られている。

 この宝珠は、村の地下に広がる大空洞に安置されており、その場所は村人の避難場所でもある。


 村人の多くがこの場所に避難をしており、なかなかの人数だ。

 この場所にいないのは、ガリウスと何とか動ける数人の兵士のみ。

 

 俺たち以外は、顔色はかなり悪い。

 用意した解呪薬を飲んだか飲まないかに関係なく、そもそも瘴気で体力そのものが削られていたのだから、止むを得ないことだろう。


 ゾンビの群れは50体ほど。

 だが、他にも多くの群れが近付いてきていると報告を受けている。

 残念なことに、まともに動ける者が村にいなかったため、把握できた群れは一部のみだ。

 ガリウスが無双をするだろうが、この情報不足が悪い結果につながらなければいいのだが。


 とりあえず200程度の敵は想定しておこうと思う。

 仮に予想よりも数が多くとも────いや、十中八九、敵の数は予想よりも多いだろう。


 が、動ける者が少ない現状では打てる手など限られている。

 数が多くとも、結界でゾンビの侵入を防ぎガリウスの帰りを待つのみだ。

 

「今から、デュカイン様に加護を頂き結界を強化させて頂きます」


 外はガリウスにまかせるとして、俺は自分の仕事をすることにした。

 デュカインの加護などでっち上げなのだが、こう言っておいた方が村人は安心するだろう。


「ゾンビと相対するのは彼の獣王。嬉々として戦に赴きました。私たちは彼が持ち帰る吉報を待つとしましょう。」


 ガリウスの名声を知る者も多いらしく、村人の中から安堵の声が漏れた。

 これなら大丈夫そうだ。


 騒がれると知恵熱を抱えた頭に響くからな──。


 *


 鬱蒼うっそうとした森の中。

 瘴気によってボヤけた景色の中、この世に在らざる者達が歩いている。


 その者達の名は、ゾンビ。


 死者が蘇り、魔物へと成り果てた存在とされている。

 だが実際は、死者の残留思念がその場所に染み込んだ結果として生じる魔物だ。


 1人や2人の思念程度では、ゾンビが発生することは無い。

 だが、戦争のように多くの死者を発生させる事態が起これば、十分にゾンビの発生条件を満たせる。


 ゾンビは死体が腐っていく過程の姿をしており、その体には生前の特徴が見られる。

 が、その意思は複数の怨念が混じり合った物で、常に混濁しており生者のような明確な意思など持ち合わせてはいない。

 しかし、例外はどこにでも存在するものだ。


「……ススメ」


 指揮を取るのは、2mを超える身長をしたミイラ。

 だが貧相な姿ではなく、全身を凶暴さを再現したかのような鎧で包んだゾンビ──デスナイト。


 稀に生まれるのだ。

 複数人の怨念が混じり合いながらも、統合された意識を持てる高位のゾンビが。


 その戦力は凄まじい。

 生者よりも耐久力が圧倒的に高い体に加え、高いと言えぬまでも知性を持っているのだ。

 危険度は、並のゾンビとは比べものにならない。


 付け加えるのなら、クレス達のいる村に向かっているのは戦場跡で生じたゾンビだ。

 その地に染み込んだ多くの戦士達の武技を見に付けており、他のゾンビの中で蠢く怨念に干渉することで、指揮能力を発揮する者すら見受けられる。

 間違いなく軍隊が必要となる事案であった。


「…………ァガッ」


 だが、その脅威は唐突に終わりを告げた。

 ゾンビの群れを指揮していたデスナイトの胸部から、1本の腕が生えたのをキッカケとして。


 呼吸を必要としない死者であろうとも、指示のための声を発するのには空気が必要だ。

 本来であれば指示に使われる空気は、胸部を手が貫く瞬間に押し出された。


 死者に断末魔など存在しない。

 己の存在を維持できぬほどの一撃を受けたデスナイトは、沈黙したまま倒れ込む。


 指揮されていた50ものゾンビに動揺は見られない。

 彼らに動揺するだけの知性など無いのだから。

 あるのは、過剰なまでの食欲と暴虐の意思のみ。

 それでも唐突に指導者を失ったゾンビ達の動きには、多少の混乱が見られた。


「お……ガア……アアァァァァ」


 ゾンビ達に見られた混乱。

 それには歓喜も入り混じっていた。


 飢えた彼らの前に、喰い応えのありそうな肉が来たのだ。


 ましてや並々ならぬ生命力を持った肉だ。

 飢え切った彼らにとって、この上ないご馳走だと言えるだろう。


「やはり、ゾンビは良い」


 おぞましい死者の雄叫びを耳にしながらも、その者は動じるどころか笑みすら浮かべている。

 気の弱い者であれば、間違いなくトラウマになるであろう獰猛な笑みを。


「少々、加減を間違えても、戦意を失わないでいてくれる」


 彼は喜びに打ち震えていた。

 これから、己の力を遠慮なく振るえる戦を始められることに。


 それだけではない。

 彼の血肉、細胞の1つ1つに至るまで思い出していたのだ。

 戦によってのみ得られる、あの満たされた高揚感を。


 彼が最高だと称するのは、自分が認めた達人との死闘。

 生涯を賭けて磨き上げた技と、己の業をぶつけ合う戦い。

 あの悦びには、どのような戦も及ばない


 このゾンビとの戦も、あの高揚感からすれば物足りないと言わざる得ない。

 だが、相手がゾンビであるが故の醍醐味と言うものがある。


 それは相手が恐怖を感じぬことだ。

 恐怖を感じない相手ということは詰まらない。

 生者が乗り越えるべき壁の1つが恐怖であり、これを乗り越えたかどうかで強者と弱者を隔てられる。

 故に恐怖がないことは、強者に至る条件を満たせないということだ。


 だが、ゾンビは別だ。

 すでに死者とも言える存在であり、己の全てを賭けて食欲や暴虐の心を満たそうとする。

 人のように何かを守ろうとする意思など欠片も無く、己の全てを暴力に込める


 それがいい。


 他のモンスターとは違う。

 人に近いが、人とは違う。

 しかし、モンスターに似ており、また人間に似ている。


 そのような者を相手にできる。

 これが、ゾンビを相手にする醍醐味だ。


 これから起こるであろう事を想うと、胸の奥から甘美な興奮がこみ上げてくる。


「良い。本当に良い……」


 大きな戦の前というのは、いつもこうだ。

 興奮を満たしたいという想いと、もう少し興奮を味わっていたいという想いとが、男の中で拮抗する。


 その時は、きまって興奮を少しでも長く味わうことを選ぶ。

 戦は、その時が来れば勝手に始まるのだから。


 今回も、しばらくは興奮を味わっているつもりであった。

 だが、彼は己の欲を抑えられても、相手はそう言うわけにはいかなかったようだ。


「ウガァッ」


 ゾンビ達が一斉に襲いかかってきた。

 元々、濁り切った意識しか持たない彼らに、己の欲を抑える術などあるハズがない。


 四方から襲いかかるゾンビ達。

 鈍重な動きではあるが、タフな肉体を持つモンスターだ。

 囲まれて襲われれば、並の者に防ぐ手立てなど無い。

 そう、並の者であれば──。


「そうか、待ち切れなかったか」


 穏やかな声だった。

 この場に相応しくないような、優しく幼ない子をあやすような。


 だが、それは嵐の前の穏やかさ。

 次の瞬間、彼の纏う空気が嵐へと変わった。


 彼は走った。

 正面のゾンビへと向かって。

 地を雷光が疾るかのような鋭い足運びで。


「うおおっ!」


 叫びと共に伸ばした腕は、一瞬でゾンビの頭部を撃ち抜く。


 飛散する肉片が、濁った血と共に森を彩る。


 地獄の一端は、血肉によって飾られているのかもしれない。

 そう、地獄の光景を夢想してしまう程に、残酷な光景だった。


 ゾンビとはいえ、人の姿をしている。

 頭部の、アゴから上を失った人の死体が、肉片の散らばる森に転がっているのだ。

 常識から外れた異様としか言えない、異常な光景と言えるだろう。


 しかも無残な死体となったのは、1体だけではない。

 1体目の頭が肉片となってから、次々とゾンビ達は同じかそれ以上の凄惨な最期を迎えている。


 秒刻みで起こる惨劇により、森が地獄のアートで飾られていく。


 2体目の次は3体目。

 そして4体目、5体目。

 6体、7体、8体、9体……。

 

 やがて、襲いかかってきたゾンビの掃討をあらかた終えると、男は動きを止めた。


「ふぅ……」


 溜め息なのか?

 一仕事を終えた男は、涼しい顔をして大きな息を吐き出した。


 彼の足元には、濃い深緑の草が生えている。

 だが、それ以外の場所に生える草は赤色。


 数分前までは、瘴気が漂う不気味と表現するべき森であった。

 だが今は、おぞましいと表現するべき場所となっている。


 飛び散った肉片があちこちに転がり、濁った血の池がいくつも広がっている。


 それだけではない。

 辺りに転がる死体の状態も酷過ぎる。

 ある者は頭を失い、別の者は胸部に風穴が空き、また別の者は上半身と下半身とが腰の部分で千切れかけている。

 おぞましいと表現しないのなら、地獄という言葉でしか表現できない光景だ。


「ふむ、少し張り切りすぎたか」


 やり過ぎたと口にはするが、褐色の肌をした白髪の男性──ガリウスは、眉一つ動かしていない。


 周囲を見回すと、残ったゾンビ達が体を震わせたように見えた。


 だが、気のせいだろう。

 死者に近い存在であるが故か、ゾンビには己の命を可愛がるという思考が欠落している。

 己の身に終わりが迫っていることを知ろうとも、恐怖を感じるハズなど無い。


 しかし、危険を察知することは出来たようだ。


 ゾンビの動きが、先ほどまでとは変わった。

 ガリウスから距離をとり、ジワジワと近付くという動きに。


(この程度の知恵は持っているようじゃな)


 ゾンビ達の変化を見たガリウスは、少々ではあるが感心していた。

 もっとも、少し感心しただけで、ゾンビに情けを掛けるなどということは無いのだが。


 ガリウスは周囲を見回す。

 一般人が見れば、卒倒して一生物のトラウマを植え付けられかねない光景の中で。


 歯応えのありそうな者は先ほど自らの手で粗方葬り去った。

 残ったのは雑魚のみ。


「いないよりもは、マシと言ったところか」


 ため息混じりの一言と共に、右腕を前に向けて構えをとる。

 足遣いに息遣い、己の纏う気配にすら意識を向ける。

 だが、それ以上の全てを無意識的に行っているため、動作は自然そのもの。


 武を知る者であれば、この動きから多くの学びを得ることだろう。

 そのような一つの極みとも呼べる動き。


 雑魚相手にも、一切の手加減をするつもりは無いようだ。


 獲物はまだいる。

 葬った以上の数が集まると聞いている。


 まだまだ楽しめそうだ。


 獣王は笑みを浮かべる。


 彼の笑みに宿っているのは獣性だけではない。

 更なる頂きを目指す武術家の性が、一種の鋭さとなって笑みに込められている。


 荒れ狂う獣の本性と、冷徹なまでに己の技を磨きあげる武道家の本質。

 相反する2つの性を抱えたまま彼は拳を構える。


 目の前の獲物がいなくなろうとも、見えぬ所に獲物はいるのだ。

 差し出された据え膳を、平らげてしまっても問題は無い。


 そのように考えると、ガリウスの笑みは更に質を変えた。

 獣でもなく武道家でもなく、全く別の笑みに──。

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