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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
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俺は村についた 『あなたは?』

 準備を整えた俺達はレバイン聖王国へと向かった。

 転移方陣で近くの地域へと降りて、そこからは徒歩で行かざる得ない。


 レバイン聖王国のある大陸には、前世では行かなかったため転移方陣を最小限しか設置しなかった。


 まさか、その煽りを生まれ変わってから受ける羽目になるとは思わなかったな──。


 しかも、ここは瘴気に満たされた場所であり、ゾンビなどがウロウロする面倒な場所でもある。


 正直いえば、少し気が重い。

 アイツらは、しぶとい上に臭いヤツが時々いるからな。


 だが、これも仕事だ。

 止むを得ない。


 などと、俺のテンションが下がっている横で、張りきっているヤツがいた。


「くっくっく、ゾンビとは珍しい。アヤツらは人の体と似ているからな……久方ぶりに人を殺す感覚を思い出せそうだ」


 俺の後ろで物騒なことを言っているのは、今回の保護者役であるガリウスさん。

 ゾンビと勘違いして、生きた人間を殺めないように注意して欲しいものだ。


「ラゼルよ。お前も久方ぶりに人体破壊の武技を試すがよい。人と武で競うことは、生まれつきの強者たる魔物を倒すのとは違った面白さがあるからな」

「わかっているさ」


 良い返事を返す爽やかイケメン(ラゼル )

 やはりコイツにも戦闘狂の血が流れているのだな。

 物騒な話を嬉々として交わしていやがる。


「………………」


 そんな2人の会話を余所に、イリアは森の方を眺めている。

 真面目なイリアの事だ、きっと今回の仕事について考えているのだろう。

 中身は性悪であっても、一応は神として崇められているデュカインを送り届けるのだ。

 11歳という年齢であるにもかかわらず、仕事の重要性をよく理解している。

 どこかの脳筋リアルチートとは全く違う。


 などと考えていたが、俺の考えの間違いに気付いたのはすぐの事だった。


「デ、デスナイトです!」

「落ち付け!」


 イリアが興奮した様子で口にしたデスナイトというゾンビ。

 それは上位のゾンビ系のモンスターだ。


 見た目は赤く輝く宝石が目に入ったミイラが、ゴツイ鎧を身に付けている感じだ。

 身長が最低でも2mあるから、ミイラっぽい外見ではあるが迫力がすごい。

 コイツは軍隊とまではいかないが、数十人規模の討伐隊が必要になる魔物ではあるが──


「おおおぉぉぉぉぉっ!!」


 ガリウスの拳がデスナイトの鎧ごと胸を貫いた。

 小規模とはいえ軍事行動が必要になるはずの魔物とて、獣王の暴虐を前にしては雑魚にすぎなかったのだ。


 しかし一言だけ云わせてもらいたい。

 そこのリアルチートよ、少しは手加減をしろ。

 貫通して背中から手が出ているぞ。


「GgugooaaaaaaaAAAA」

「あ、あああっ!」


 デスナイトの体が崩れ去る。

 体を維持できないほどのダメージを受けたからだ。

 だが同時に、イリアの口からは嘆きの声が漏れた。


 落ち込むイリアに、どう声を掛ければいいのか分からない。

 だが、ここは声を掛けた方がいいだろう。


「大丈夫か?」


 ありきたりの言葉ではあるが、俺が思いつく中で精一杯の言葉だ。


「遠くから見ただけでしたのに……」


 美的感覚が少々アレな彼女は、もう少しデスナイトを見ていたかったようだ。

 デスナイトは、子供が見ればトラウマ物の顔をしているハズなのだが──これなら勇者となったとき、デスナイトと十分に渡り合えることだろう。

 などと賛辞を心の中で贈り、イリアの感性から目を逸らすことにした。


「1匹いたんだから、他にもいるかもしれないぞ。なっ?」


 とりあえず慰めることにする。

 項垂れるイリアの肩を後ろから叩き、声を掛けることにした。

 あまりにも珍しい原因で落ち込んだため、どのような言葉を掛ければ良いのか答えが見つからない。

 が、前世で昆虫を逃がした近所の子供にかけた言葉を伝えてみたところ、彼女から悲しみの色が薄らいだ。


「そうでしょうか?」


 そうとうショックだったのだろう。

 顔を上げた彼女の瞳は、少し潤んでいた。


「うっ!」


 純粋すぎる想いを感じる。

 ゾンビ系モンスターへの執着心というのがアレではあるが、本当に純粋な瞳だ。

 こんな目で訴えられかけられたら、いい加減なことは言えない。


「……ああ、うん。帰りにでも少し探してみようか」

「ありがとうございます」


 花が開くかのような笑顔とは、このことを言うのだろう。

 間違いなく美少女のカテゴリに入るイリア。

 彼女の笑顔は本当に絵になる。

 デザインの趣味がアレではあるが。


「そうか。帰りも訓練を積めるというわけか」


 ガリウスよ。

 なんで、お前がワクワクした顔をしているんだ?

 探すのはイリアのためだからな。

 少しは自重しろ。


 *


 デュカインが助けたいと言った村は、しばらく森を歩いた場所にあった。

 道中は、ゾンビ系のモンスターがうろついており危険だ。

 しかし、戦闘狂爺ちゃんと半戦闘狂孫とが大喜びで襲いかかるおかげで、かなり楽が出来た。


 それに我らが美少女勇者(予定)も、好みのデザインをしたモンスターを大量に見れて、喜んでくれている。

 腐りかけは好みではないようだが、それ以外はイケる口らしい。

 少し将来が不安だ。


 俺達は、それから何ごともなく歩き続けた。

 周囲では爺ちゃんと孫が無双をして、美少女勇者(予定)がゾンビを見て目を輝かせながら、俺達は何ごともなく歩き続けた。


 やがて村が見えてくる。

 と、俺の頭に乗ったデュカインが頭を叩く。

 小さな爪が当たって地味に痛かった。


『よしっ、着ろ』

「はいはい」


 デュカインの指示通り、アイテムBOXから白一色の服を取り出して身に付ける。

 ヒラヒラし過ぎていて動きづらい服だ。


『頭に付けるのを忘れているぞ』

「お前が乗っていると着けられないんだよ」

『おう、そうか』


 デュカインは、イリアの元へと飛んでいき抱きかかえられた。

 こうやって見ると、太った子犬を連想するな。


『なんだよ』


 性悪ドラゴンを見ていると、不機嫌そうにコッチを睨んできた。


「イリア、重かったらゾンビに投げつければいいぞ。キレイに処分してくれるだろうから」

『ふざけんな!』


 投げつければ、ゾンビが大喜びすることだろう。

 食べ応えがありそうだからな。


「さて、準備はできたし行くとするか」


 詰まらない会話をしながら服装を整え終えると、俺達は村へと進んだ。

 騒いでいた性悪ドラゴンも、村が近付くにつれて言葉が少なめになっていく。

 猫を被ったようだ。


 ちっ、変な知恵ばかりつけやがって。


 *


 近付くと村を囲っている防壁が、木を使った物であることが分かった。

 一見すると強度に不安を感じるが、実際は防壁を聖属性の魔力でコーディングしてゾンビ用の対策が施されているようだ。

 これだけの加工が出来るということは、相当な使い手がいるのだろう。


 丈夫な防壁に守られた村。

 かなりの安全が確保されていると言える。

 少なくともモンスターに対しては。


 だが、おかしい。

 村が静かすぎる。


 この感じは、人がいない静けさではないようだ。

 人がいるのにこの静けさ。

 ひょっとすると、予想以上に事が進んでいるのかもしれない。


 村の中に繋がる門へと向かう。


 門の前には1人の兵士。

 顔色が良くない。

 このような状態の者に守りの要である門番をさせるとは──中はかなり酷い状態なのだろう。


 兵士は疲れた目をコチラに向けると、仕事をするために歩き始めた。

 疲れを感じさせる足取りだ。


 兵士として舐められぬよう、なんとか威厳を保とうと姿勢を正すも痛々しさしか感じなかったが、デュカインの姿を確認すると全てが変わった。


 兵士の目には生気が宿り、足取りからも疲れが消える。

 まるで死にかけの人間が、活力を取り戻したかのような変化だ。 


「デュカイン……様」


 小さな羽で宙を飛ぶデュカインに対し、片膝を地に付ける兵士。

 彼のこの姿を見ると認めざる得ない。

 この性悪ドラゴンが、紛い物とはいえ神として扱われていることを。


『クレス、言葉を伝えてやれ』


 念を使って俺へと言葉を伝えてきた。

 仕事だからな。 ちゃんと伝えてやるよ。


「はい。今は力を失われておられますが、この方は紛れもなく聖竜デュカイン様です」


 デュカインは、念を使って人と会話をする。

 だが、その念を受け取れる者は限られており、基本的に聖竜の御子以外はデュカインから念が送られることはない。


 と、いう設定になっている。


 念を受け取れる人数を限定することで、自分の発言にありがたみが生まれるから、このような面倒なことをしているらしい。

 そのせいで、俺が御子っぽく敬語を使って話さざる得なかった。


「あなたは?」

「申し遅れました。私は聖竜の御子としてデュカイン様と共に行動をさせて頂いている、クレストと申します」


 兵士の問いに、敬語を用いて丁寧に答える。

 とりあえず、声の抑揚を最小限にしてゆっくりと敬語で話す。

 あとは服装さえそれらしい物を着れば、それっぽく見えるらしい。


「お、おぉ。あなたが今代の御子様でしたか」

「この旅の中でのみ……と、いう形ではありますが、御子をさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」


 かつて、俺がこれほど長く敬語を話したことなどあっただろうか?

 記憶力には全く自信はないが、無かったと断言できるような気がしなくもない。


 俺も成長したものだと、悦に浸ろうとしたところで、良い気分を台無しにするヤツらがいた。


 少し聞こえているぞ。

 後ろの、祖父と孫。

 必死になって堪えているつもりだろうが、少しだけ笑いが漏れているからな。


 俺の敬語は、そんなに面白いか?

 それとも、デュカインの御子などという不名誉な役のために用意されたこの衣装がか?


 ヒラヒラした純白の神官服に金色の額当て。

 微妙に似合うせいで、普段とのギャップが出過ぎて酷い状態になっている。


 笑いを堪えるマナーを知っているのなら、ついでに記憶から抹消してくれ。

 もし、その気が無くても、手伝ってやるから安心しろ。

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