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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第3章 凄い勇者と聖竜(笑)
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俺の夏休みは聖竜と共に 『キュイ?』

 騎士学校にも夏休みがある。

 夏休みは、帰郷のために使う者が多い。

 だが、長期の休みに入ったら、学費を稼ぐために動きまわる者もいる。


 裕福な家庭であれば帰郷し、並以下の家庭であれば稼ぐという感じだな。

 もちろん例外もあるが──


 なぜ夏休みの話をしたか?

 それは、俺らも夏休みに入るからだ。


「えぇー。長期の休みに入るのじゃが、本校の生徒として節制のある生活を……」


 イザベラの校長演説。

 やはり、ヤツも権力を得た者は長話をしたくなるという運命に飲み込まれてしまったか。

 悲しいことだ。


 その長話も、一部のマニアや真面目な生徒は食い入るように見ているが、俺には無駄話にしか思えない。


(暇だ)


 このままでは夢の世界に、俺の精神は旅立ってしまうことだろう。

 辺りを見回し、暇つぶしの道具を探す。


 すると発見。

 ラゼルだ。


 とりあえず、元大勇者の祝福でも贈っておこう。


(禿げ……ヌオッ!)


 祝福を贈ろうとした所で、椅子の下から衝撃がきた。

 マルテだな。


 入学式と同じ席順であるため、本日も俺の後ろに彼女が来ている。

 さぞかし、俺の頭が目障りなことだろう。


 しかし、俺がラゼルに祝福を送ろうとした瞬間に、椅子へと蹴りを入れるとはな。

 彼女もまた、騎士学校で多くを学び成長をしているということか。

 とりあえず彼女にも祝福を──


(……グッ!)


 今度は2連撃。

 マルテは、俺の思考が読めるのではなかろうか?


 顔に現れやすいという俺の思考。

 だが、彼女は俺の後頭部しか見えていない。


 後頭部にまで、俺の思考が現れるなんていうことは無いハズだ。

 ──無いよな?


(大人しくしていよう)


 色々と不安を感じた俺は、黙ってイザベラの長話を聞くことにした。


 *


「よぉ、クレス」


 終業式を終えて廊下を歩く俺に、後ろから掛けられた声。

 振り返るまでもない。

 声だけで、あの失恋記録が間違いなく校内1のヤツだと分かった。


「………………」


 聞こえないフリをしてやり過ごそうとした。

 だが──


「暇か?」


 だが、猛スピードで回り込まれた。

 コイツは、とんでもないスペックを秘めているのではなかろうか?


「なぁ、これから暇か? 暇なんだろ? 暇だよな? 暇と言ってくれ」


 声の主たるマグニールは、俺の両肩を掴み必死に訴えかけている。


「離れろ、顔が近い、唾がかかる」


 とりあえず、マグニールの顔を遠ざけようと手を伸ばしたとき、聞き捨てならない声が聞こえた。


『モテなさ過ぎて、ついに男に走ったか』


 誰が口にしたかは分からない。

 だが、どうやら俺はヤバい状況にあるようだ。

 身の潔白を証明せねば、俺の趣向に誤解が生じてしまう。


 だが、この流れで女子が好きだとか言えば、間違いなくコイツと同類扱いになってしまう。

 コイツの誘いを断るに留める程度が安全そうだな。


「予定なら山ほど入っているぞ」


 やんわりと断る。

 中身は100歳を超えているが、一部で頭がアレだと有名な俺。

 だが、この程度のことなら出来る。


「宿舎の荷物がまとまっていないんだ。少しでいいんだ。荷物をまとめるのを手伝ってくれ。なっ!」


 俺の言葉など、全く聞いていないなコイツ。

 ましてや周りの様子なんて目に入っていないんだろ?


 お前が俺に必死になって訴えかけるたびに、おかしなことを言うヤツが増えているんだぞ。


 好奇に満ちた視線は当たり前だが、何かを期待しているような視線すら感じる。

 あと、一部からはドロッとした視線を感じるのだが、この視線の意味は考えない方がよさそうだな。


 とにかく、この状況をなんとかせねば。

 必死に訴えかけるマグニールを目の前にした状況で、俺は必死に脳を働かせる。

 すると奇跡が起きた。

 普段は人よりも多めに眠っている俺の脳が、奇跡のヒラメキを見せてくれたのだ。


「悪いけどな……そうだ。いっその事、この休みに学費を稼ぐヤツに声を掛けたらどうだ? 相手も喜ぶぞ」


 ナイスヒラメキだ俺の脳!

 普段眠っているくせに、今日はよく働いてくれた。

 あと一押しだ。


「それに、交友関係が広がるかもしれないしな」

「!!!」


 交友関係が広がかもと伝えた瞬間、目付きが変わった。

 先ほどまでは、心底困ったという目立ったのだが今は違う。


 コイツも貴族だから、人脈作りに興味があるのだろうと一瞬は考えた。

 だが、その考えはコイツの目を見たとたんに吹き飛んだ。


 濁り切った打算の色が、目に浮き出ているのだ。

 むしろ、打算の色しか見えない。


 これは、女子に頼む気だな。


「あのだな……できることなら男に……」

「サンキュー! さっそく頼んでくる!!」

「あ、あぁ」


 彼の目は濁りきっていたのに、同時にキラキラしていた。

 そうか──キラキラした目が濁ると、ギラギラした目になるんだな。


 廊下を走るアイツの背中を見ながら思う。


(あいつが、荷物をまとめ終わるのは当分先か)


 あんな目で迫られて、首を縦に振る女子がいるハズがない。

 明日になって、泣きながら荷物をまとめることになるだろう。

 

 *


「休みに入る前に、ワシに挨拶とは殊勝な心がけじゃのう」


 毎度おなじみな、イザベラの校長室へと来た。

 とりあえず、用事を済まさなければ後でうるさい。


「前に約束した、味違いの羊羹と最中をセットだ。ついでに緑茶を3袋」


 アイテムBOXから出すと、結構な量になるな。

 山のようになっている。


「ほうほう。これが新作か」


 その山を見て目を輝かせる様は、見た目通りまさしく子供。

 だが騙されてはいけない。コイツはロリババアだ。

 中身は百歳を超えている。

 下手をすれば、二百歳以上の可能性すらある。


「用はすんだから俺は帰るぞ」

「……ぬし。最近、酷くないか? ワシの扱いが雑になっとるぞ」


 イザベラは不満げだが、今はお前の相手をしてやる気にはなれん。

 さすがに、机の上のアレを見てしまったからな。


「お前、机に積み上げられたあの書類を見たら、俺以外でも気を使うぞ」


 イザベラの机の上には、とんでもない量の書類が積み上げられている。

 この世界でも、パルプを使った紙が地球ほどではないが普及はしてはいるが、それでも紙は貴重なはずだ。


 にもかかわらず積み上げられた、書類の山。

 貴重な紙を使ったこの書類の山が持つ意味が、地球の物よりも遥かに重いのは俺にだって分かった。


「あのボンクラのせいで、仕事が滞ってしまったんじゃよ」


 ボンクラ。

 俺が決闘騒ぎで血祭りに上げた、あの嫌われもの教師のこだろう。

 ちなみに、俺の脳内メモリからは、名前などは消去済みだ。


「ヤツの汚職関連か?」

「大半がそうじゃ。が、根が深かったようで、他の学校からもヤツの仲間が芋づる式にのう……」


 名も知らないあの教師は、変な方向に努力をしていたようだ。

 イザベラも、あいつの変な方向の努力は予想以上だったみたいだな。


「じゃあ、俺は帰る」

「ま、待たんか。話だけでも聞かんか!」


 これ以上、面倒な話は嫌なので、早々に帰ろうとしたが再び呼びとめられてしまった。

 話を聞けと言ったが、面倒くさい気配しかしない。


「20文字分だけ話を聞くから、うまくまとめてくれ」

「ふむ、そうじゃのう……」


 無茶な要求を叶えようと真剣に考えている。

 この字面だけを見れば良い教師といえるが、実際は面倒事に俺を巻き込もうとしているのは分かっているので、心が動かされることは一切ない。

 それから2分ほど考えたあと、イザベラは答えた。


「手伝って。お・ね・が・い♡」


 両手を合わせて、ウインクをした桃白金髪の少女。

 神秘的な雰囲気と聡明さとを持つ彼女が魅せた愛らしい仕草に俺は──


「ま、待たんか! バカでかい魔力を本気で練るでない!!」


 ──本気の殺気と共に、魔力を練ってしまった。

 これほどの殺気を抱いたのは、どれ程ぶりだろう?


 俺の記憶が確かなら、温泉好きな人魚が和の楽園を穢したときぶりだったと思う。


 もし、見た目相応の年齢である女の子が、同じことをしてもココまでイラッとはしなかったとだろう。

 だが、ロリババアにやられると殺意すら感じるのは、きっと仕方のないことだ。


「……思わずな」


 終業式で長話を聞かされたりしたから、色々と溜まっていたようだ。

 沸点が低くなっているな。


「思わずで練っていい魔力ではなかったのじゃが」

「俺も迂闊だったと思う」


 こんな魔力を練るのがバレたら、平穏など簡単に吹き飛びかねない。

 校長室に結界が貼られているのに、救われた感じだな。

 結界がなければ、誰かに魔力を感知されていたかもしれん。


「おんし、少し疲れておるんじゃないか?」

「色々とあってな……」


 終業式の長話に付き合わされただけではなく、色々と疲れていたのかもしれない。


 思い返すと、数日前だな。

 精神的にキタのは──


 *


 終業式を終えた俺は、そのままケット・シーの長老であるミハエルの下へと向かった。

 ケット・シーから依頼があると聞いたからだ。


 だが、途中からドラゴンステーキについてしか考えられなくなった。


 ドラゴンステーキ。

 名前の通り、ドラゴンのステーキ。


 竜の劣化版という意味で、亜竜とも呼ばれるワイバーンの肉ですら高級食材とされている。


 本物のドラゴンの肉であれば、超高級食材であるのは言うまでもないことだろう。

 もし、珍しい子竜の肉であれば、そのお値段は──。


「クレス様。お願いします」


 ケット・シーの長老宅。

 長老であるミハエルが俺に頭を下げている。


 なぜ頭を下げているのか?

 それは俺の頭に乗っかっているヤツが原因だ。


「キュイ?」

「かわい子ぶるな。性悪トカゲが」

『チッ』


 俺の頭に乗っかっているのは、子型犬サイズの白いトカゲ。

 クリッとした青い瞳をしており、何も知らないヤツが見たら庇護欲がそそられ、ハグをしたくなることだろう。

 だが、ハグることはオススメしない。

 コイツは、性悪ドラゴンなのだから。


「いい加減、俺の頭から降りろ」

『文句の多いヤツだ。俺が乗ったおかげで、空っぽで軽い頭が、ようやく人並みの重さになったんだ。喜んだらどうだ?』


 この性悪ドラゴンは、先ほどからこの調子だ。

 そのせいか、ついついドラゴンステーキのことを思い浮かべてしまう。


「クレス様。デュカイン様を崇める地域もあるので、手荒なことはなさいませんようにお願いします」

「俺は依頼を受けるなんて言っていないのだが……」


 ケット・シーの依頼を受けるのは、一向に構わない。

 と、いうか色々と手を貸してもらっているから、借りを返さなければ後が怖い。

 だが、性悪ドラゴンを相手にするのであれば、俺のストレスが半端なく高まるから、依頼を辞退したいのだが──我慢するしかないようだ。


『光栄に思えよ。俺の御子になれるんだからな』


 と、俺に伝えると、頭に乗ったドラゴンステーキ──もとい、性悪ドラゴンがペシペシと叩いた。


 デュカインと呼ばれる、この性悪ドラゴン。

 コイツが、なぜ俺の頭に乗っているのか?


 それは、ケット・シーの長老であるミハエルからの依頼だからだ。

 念のために言っておくが、性悪ドラゴンを頭の上に置いておけというのは依頼ではない。

 俺の頭にコイツが乗っているのは、性悪ドラゴンが自主的にやっているだけだ。


 俺への依頼。

 それは、性悪ドラゴンを故郷に帰すこと。


 デュカインという名の、この性悪ドラゴンは、本来であれば最高位のドラゴンだ。

 今は残念すぎることになっているがな。


 などということがあり、夏休みはデュカインの故郷に行くことになった。

 で、現地を見てきたんだが──


「なんだ、これ……」


 俺すら絶句する光景が広がっていた。


『悪化しているな』


 デュカインが、俺の頭に乗ったままそう告げた。

 すっかり俺の頭が、コイツの定位置になってしまったな。


『前は、もう少し視界が良かったんだがなー』

「そういう問題じゃないだろ」


 眼前に広がる光景が酷過ぎるのだが、性悪ドラゴンには真剣味が全くない。

 そのせいで、珍しく俺はツッコミ役に回らざるえない。

 頭が良くなった気分になれたから許してはやるがな。


「これ、普通の人間なら悶え苦しむレベルだぞ」


 周囲は薄暗い。

 一応は森の中だが、木は葉を全て失い枯れている。

 所々にある水溜りは不自然なほどに澄んでおり、口にしたら絶対にヤバイ。


『まあな。お前が帰ってから、人間同士でバカやってな。それで、自分らの手に負えない魔法やらに手を出してこのザマさ』


 人間の俺にとって、耳の痛い話だ。

 前世では、戦いで飯を食っていた俺には尚のことな。


『その後も色々とヤりすぎて、この辺りを呪いの海に覆われちまってな。今じゃ、あんなヤツらしか住めなくなっちまっているのさ』


 ”あんなヤツら”というのは、元気に歩きまわっている、あのゾンビ共のことだな。

 さぞ、この環境が気にいっているのだろう。普段の1.3倍速ほどのスピードで歩いている。


「で、ここにお前を置いていけば、依頼は達成か?」

『ふっ、相変わらずバカなヤツだ』


 あっつ、ドラゴンが鼻で笑った。


『ここに長くはいたが、故郷じゃねぇ。俺の故郷というのは、森の向こうに見える山だが、山の少し東側にレバイン聖王国っていうのがある。そこに連れて行ってくれれば、あの国の連中が後は頑張ってくれるはずだ』


 レバイン聖王国。

 ちょうど、俺が転移方陣を設置していていない国だ。

 と、なると徒歩で行くことになるのだが────面倒くさい。


『それとだ。この辺の村の連中は、バカをやった連中に巻き込まれただけだからな、瘴気の治療をしてやるからお前の魔力を借りるぞ』

「目立ちたくないのだが」

『諦めろ』


 俺の要望は一言でバッサリか。


「村と言っても3か所しかぇ。しかも2ヶ所は離れた場所にあるからな、実質1ヶ所だけだ。良かったな!」


 ペシペシと、俺の頭を前足ではたいている性悪ドラゴン。

 コイツを、故郷に送り届けるだけの仕事。

 だが、村人を助けるという仕事も加わった。


(なんか、面倒なことになりそうだな)


 少し遠い目をした俺は、性悪ドラゴンの故郷である山に目を向けた。

 かつて味わった、ドラゴンステーキの味を思い出しながら。

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