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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺の決闘騒動は一区切りついた 『緑茶もセットでの』

凄い勇者の設定集を作っています。

http://ncode.syosetu.com/n4870dk/


※まだ、メインキャラの設定しかありません。

 マルヴィンとの騒動が終わってから更に時が過ぎた。

 すぐに、アイツの派閥やら取り入りたいヤツが動くと思っていたが、行動はゆっくりした物だったのは意外だ。


 犯行が遅れたせいで、妹とメイドに迷惑料として色々と奢らされてしまった。

 だが、和の楽園でモンスター狩りをしているおかげで俺の懐は暖かい。

 

 そのせいか、高い物を2人は毎日のように食い続けた。

 最近、あの2人のアゴ下がタプついた気もするが、それは口にしてはいけない事なのだろう。

 自衛のため、このことは俺の胸の奥にしまっておこうと思う。


 色々と尊い犠牲(俺の財布と2人の体重的に)はあった。

 だが、最終的には不埒な輩から情報を引き出すことに成功する。

 護衛の仕事を終えて帰ってきたリーリアが、妙にスッキリした顔をしていたが、あれは俺に負担を掛けない為の演技だったのかもしれない。


 いくら剣の腕が化け物じみているとはいえ、あれでも女性だ。

 話を聞けば、ロクでもない男たちに囲まれたと聞く。


 だが、あの日に見た2人の笑顔が、物凄く怖かった。

 笑顔の理由を知ったら、2人との付き合い方を考え直さなければならないのでは?

 そう感じた俺は、笑顔の理由は訊ねるのは避けた。


 この判断に対して、元大勇者の勘が俺を褒めまくってくれた。

 きっと、正しい選択をしたのだろうと思う。


 それから5日後。

 俺のス○ホもどきに連絡が入った。


『彼らが釈放されました』


 連絡を入れて来たのは、ケット・シー一族の一人。

 期待していた通りの情報を伝えてきてくれた。


「裏で動いたヤツはいたか?」

『ええ、動いた者についてはすでに調べが付いております』


 普段尻尾を出さないヤツでも、動けば何らかの痕跡を残す。

 痕跡を消そうとしても、不自然な行動のあとを消すのは難しい。

 ましてや、相手が行動をすると分かっていれば、不自然な点を見逃す方が難しい。


 コーネリア達に悪さをしようとして返り討ちにあった男たち。

 ヤツらは、牢屋送りとなった。


 だが、ヤツらの依頼人が動き、男たちを釈放させた。

 その行動を、ケット・シーの裏方が待っていたとも知らずに。

 ケット・シーの黒い勢力には、頭の下がる思いだ。


「そうか、なら今からそっちに行く」

「お待ちしております」


 ス○ホもどきを切ると同時に、俺は行動を開始する。


 *


 貴族とは人脈を持たねばならない。

 だが、貸し借りだけで成り立つ関係を人脈と称するのは三流だ。 

 真に権力の意味を知る者は、お互いに倒れては困る関係を作る。

 

 お互いに倒れては困る関係に入れぬ貴族の生涯は1つしかない。

 生涯を通して軽んじられ続ける。


 そのような状況を、プライドの高い者が甘受するはずがない。

 例えプライドの高さに己の実力が見合っていなくとも──。


 クレスが通う騎士学校の生徒に、リエル・オズラートという少年がいる。

 彼の親は、お互いに倒れては困る関係に入れぬ貴族だった。

 それに実力に見合わないプライドを持った貴族でもある。


 親が治める領は、ワインで有名だ。

 しかし、彼のプライドはそれ以上を望んでいる。

 プライドゆえの上昇志向。


 理由が野心であるにせよ、成長に結びつくのであれば咎められるべきではない。

 しかし、欲にまみれた向上心は、見えるハズの物を見えなくする。


 故にリエルからビューロ公爵家の跡取りが平民と揉めたと報告を受けたとき、触れてはならない物に触れることとなる。


 平民の1人が獣王の息子であるラゼルであることは、騎士学校周辺では有名な話であり、リエルの親もまた聞き及んでいた。

 彼を敵対するには、あまりにも危険すぎた。


 だが、もう1人は違う。

 ラゼルとともにマルヴィン・ビューローに噛みついた少年クレス。


 彼は平民であり、貴族に抵抗する牙を持たない者だ────と、言う設定だ。

 クレスの血筋については、彼自身から要請を受けたケットシー一族やイザベラ校長によって秘匿されている。


 だが、少し力を入れて調べれば分かる程度の秘匿でしかない。

 この程度の情報を掴めないのなら、その程度の器だということだろう。


 己の器を見極められなかったオズラート家

 彼らの転落はここから始まった。


 *


 リエル・オズラートの親が、手を出してはいけない相手に手を出した3週間後。

 彼の一家は生活環境が大きく変わることになる。


 始まりは一通の手紙だった。

 その日、授業を終えたリエルは同程度の家柄の生徒と話していた。

 気取った言葉を使った、他者を笑い物にする会話。

 ”またか”と、考えながら周囲の者は帰り支度を進めている。


「リエルはいるか」


 リエルの談笑を遮る男の声が、教室に響いた。

 声の主は、日頃からリエルが見下している平民での男性教師。

 見下している相手に談笑を邪魔され不機嫌になる。


「なにか御用でしょうか先生?」


 機嫌を損ねたリエル。

 彼は教師に近付くと、皮肉を込めた口調で話す。


「お前に急ぎの封書が届いている。受け取りのサインをしてくれ」


 差し出された1枚の紙にサインをし返し、それ確認すと教師が封書を渡す。

 サインを確認すると、教師は何を言うこともなく去っていく。


「はは、お使いの出来た先生(ワンちゃん)に、ご褒美でもあげるべきだったかな?」


 リエルがおちゃらけた仕草で、フザケルと彼を囲んでいた仲間たちから品のない笑いが上がった。


 それは良くある光景。

 立場の弱い者を笑うことで、自分たちを輝かせようとする行動。

 権力という盾に守られた自分に、先ほどの教師のような平民の手は届かない。

 だから、いかに侮辱しようとも自分に不利益が生じることなど無い。


 そう信じていた。


 だが、彼は封書を開いたとき知ることとなる。

 権力が、いかに脆い物であるかを──。


 *


「無茶をしたもんじゃのう」


 緑茶をすすりながら、ようかんを食べるイザベラ。

 手土産に、和菓子をくれてやって少しずつ和の文化に馴染ませてきたが──だいぶ、和の文化に洗脳されてきたようだ。

 いずれ、和の菓子無しでは生きられない体にしてやろうと思っている。


「あの一家を路頭に迷わせなかっただけ優しいと思うが?」


 コーネリア達に手を出そうとしたのは、リエル・オズラートという騎士学校生の親だった。

 手を出そうとした理由は、公爵家の嫡男に楯突いた俺を傷めつけることで、ビューロー家に近付こうとしたと考えていたようだ。


「そうとも言えるがのう。あれ程の額を貸し与えられたんじゃ、領主は傀儡にならざるえんじゃろう」

「あとは、甘い汁を吸わせ続けて依存させるだけだ」

「道具としての価値を、おんしに見出されたのが運のつき……か」


 と、ここで再び羊羹ようかんを口へと放りこむイザベラ。

 認めたくはないが、コイツは西洋風の人形と見間違うほど整った顔立ちで、悔しいことに見た目だけなら美少女と呼ぶに値する。


 それなのに、羊羹ようかんを茶請けにして緑茶を飲むのがよく似合う。

 これは、中身が数百歳のロリババア故の業か。


「なんじゃ?」


 美味しそうに羊羹を頬張るイザベラを見ていると、怪訝な表情をされた。

 セクハラ発言が飛び出そうだな。


「羊羹はうまいか?」


 セクハラ発言を封じるため、先に発言をすることにした。


「うむ。おんしの街の羊羹は格別じゃのう」

「ケット・シーが良い仕事をしてくれているからな」


 和の楽園を置いた街は、ケット・シーの支配の元、急速な発展をしている。

 俺が求める和の文化もまた、街の発展とともに成長を遂げている。

 とうぜん、食文化の進歩も目覚ましい。


(ふっ。いずれは、地球の和の食文化をこの世界で追い抜いてやろう)


 いずれ訪れるであろう未来に、想いを馳せると良い気分になる。

 最近思うのだが、和の楽園が絡むと俺って黒くなるよな。


「話は戻るのじゃが、陥れるにしても他に方法はなかったのか?」

「と、いうと?」

「おんしが台無しにした、あそこのワインは中々の品質じゃったのじゃがな……今年は出回らんじゃろうなぁ」


 遠い目をして、今年は飲めないであろうワインに思いを馳せるイザベラ。

 未成年の見た目で、してはいけないことだと思う。

 それでも羊羹ようかんを口に運ぶ辺りが、コイツらしいところだ。


「施設をカビだらけにしてやったからな。今年どころか来年も出荷できるか怪しい所だな」


 オズラート領では、ワインづくりが活発だった。

 今回、ワイナリーなどを襲撃して魔物化させたカビをばら撒いた。


 魔物化させたカビは、生命力が恐ろしく強い。

 代わりに寿命が半日程度と短いという欠点はあるが、ワイナリーの壊滅程度なら十分にやってのける。


 事実、今回の仕返しで樽も施設も何もかもカビが侵食し尽くして、残念な状態になった。


 付け加えるのなら、犯人の割り出しは難しいだろう。

 俺のチートを用いた術式でしか、カビの魔物化は出来ないようだからな。

 世の中に知られていない魔法であるがため、俺の犯行であることは、バレないはずだ。


「更には、ワイン作りに関わる者たちに別の仕事を用意したと聞いたぞ?」

「生活できないヤツが出てくるだろうからな。俺なりの善意さ」


 ワイン職人や、ワインの設備を警備していたヤツらは、今回の件で食えなくなるだろう。


「破格な条件で仕事をまわしたようじゃからのう。確かに領民にとっては善意じゃろうよ…………領主にとっては悪夢でしかないじゃろうが」


 領地の人間に仕事を斡旋したのは、俺ではなくケット・シーだ。

 俺の提案に、黒い笑みを浮かべながら協力してくれた。

 本当に良い友に巡り合ったと思う。


 斡旋あっせんした仕事は、他領との関わり合いのある仕事だからな。

 来年あたりには優秀なワイン職人の多くが、新しい土地ででその技能を活かしていくことだろう──主に俺の街で。


「俺に悪夢を見せて、代わりに自分ら良い夢を見ようとしたんだ。俺が良い夢を見るために、悪夢を見てもらっても文句を言われる筋合いはないだろ?」

「おんしの言う通りなのじゃが……相変わらずじゃのう」

「なにがだ」


 呆れたようなロリババアの視線は、失礼なことを考えていることを如実に伝えている。


「偶然に良い結果を出すと、カッコイイ言葉を並べるところじゃ」


 バレていた。


「おんしは運が良いからのう。今回の件も、計画したものではなく偶然の産物か、ケット・シー辺りが頑張っただけじゃろう」

「………………」


 細めた目は、今回の深意を見透かしているようだった。

 事実、コイツの言う通りなんだが。

 だからこそ、認めるのが悔しい。


「ふっ、何を言って……」

「また、考えが顔に出やすいことを忘れておるじゃろ」


 ごまかす前に、ぶった切られた。

 コイツ、最初から勘付いていて俺を転がしていやがったな。


「くっふっふっふ。どうしたんじゃ、元大勇者? 目が泳ぎまくっとるぞ」


 心底嬉しそうに、俺の様子を観察している。

 コイツ、最近になってシルヴィアと似てきたのではないだろうか?


「ほれほれ、何か言ってみい」


 いや、シルヴィアとは違うな。

 ヤツは感情を爆発させて暴虐の権化となる。

 だがコイツは、俺の反応を観察して楽しんでいやがる。

 俺に、コイツを楽しませる義理など無い。

 この場で、俺がとるべき選択肢は──。


「お前が食っている羊羹なんだが、抹茶味もあってだな……五棹ごさおほどで話を終わりにしないか?」


 袖の下を渡して、話を終わらせることにした。


「小倉を2、こし餡を1、残りは新作で頼むぞ」


 ずいぶんと細かい指示が来たな。

 それ以前に、和菓子にはまりすぎだろ。

 だが、俺にとっては都合の良い状態だ。


「いいだろう。ついでに、あと一棹発売前のヤツを用意してやろう」

「ほう、それはずいぶん太っ腹なことじゃのう。して、対価として何を所望するのじゃ?」


 よく分かっているじゃないか。

 じゃあ、本題と行くか。


「2~3個ほど学校内に噂を流して欲しいだけさ」

「噂……内容次第じゃのう」


 もったいぶった言い方だな。

 目を細め、大人の余裕という物を演じているつもりだろうか?

 だが、ロリが背伸びしているようにしか見えない。


「オズラート家が、俺に手を出して痛い目を見たっていう噂だ。他はライバル貴族にオズラートが嵌められたという噂と、あと一つは……オズラートが敵を作って自滅したという噂なら何でもいい」

「ふーむ。その程度なら良いじゃろう。さしずめ、周囲の者に手を出させんための牽制と言ったところか」


 今回の噂は、周囲への牽制。

 貴族のような権力者が、平民をいたぶるのは良くある話だ。

 そこには、権力者が自分は安全な所に居るという錯覚がある。


 だからこそ、俺に手を出して痛い目を見たという前例があると噂を流す。

 己の安全を脅かす牙を持つヤツに、安易に手を出すバカはいないからだ。

 ついでに、様々な噂を一緒に流すことで、数多く存在する噂として俺の噂を処理させる。

 

 このようにすれば、俺に手を出そうとするヤツは、俺のことを調べるだろう。

 俺を調べれば、当然のごとく剣聖に大魔導士という馬鹿げた肩書きを持つ、あの親に行きつくハズだ。


 目立ち過ぎるのは避けたいが、周りが悪さされるよりもはマシといえる。

 と、まあ、ここまでが俺に出来る最大限の妥協だな。


「おんしのことじゃ。願望だけで話をしておるんじゃないか?

「当然だ」


 よく分かっている。

 色々と頭の良さそうなことを並べたが、そこに根拠などない。


 だが、大丈夫。


 俺は運がいいからな。

 きっと今回も、運の良さで乗り切れるはずだ。

 一応、保険は掛けておくし。


「そこまで自信に満ちた返答が来るとは思っておらんかったが。まぁよいじゃろう。噂の方向はワシの方で管理してやろう。が、分かっておるじゃろ?」

「最新の最中もなかも付けてやろう」

「緑茶もセットでの」


 *


 これで、マルヴィンたち高位貴族との揉め事は終わりとなる。


 今回の一件で公爵家との繋がりを作ってしまった。

 騎士学校を卒業をした後なんかに、面倒なことにならなければいいが──不安しかない。

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