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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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メイド無双2? 『……私も怒っている』

 リーダー格の男の首を落すと、状況を確認する。


 この場所はTの字。


 T字の左側に4人の内、2人を斬り捨てた。

 T字の右側に4人が残っている。

 T字の下側に2人が道を塞いでいる。


 残り8名。


 数秒にも満たない時間で、思考を巡らせると、リーリアは再び動いた。


 手にした禍々しい大剣の重さを感じさせない軽やかな動きで。

 足音一つ立てずに、敵との距離を詰める様は、まさしく風が吹き抜けるかのようだ。


 男たちの目の前で、一層の加速をする。

 あまりにも素早い動き。

 目の前での行動とはいえ、脳が情報を処理しきれなければ対処など出来ようはずがない。


 次の標的となったのは、T字路の左側に取り残された男2人。

 目の前でリーダー格の男と、仲間とに振り掛った災厄に怯え、すでに動く気力すら失っていた。


 動かぬ人など、試し切りの巻藁でしかない。

 瞬く間に男たちとの距離を詰めたリーリアは、大剣を横に一振りした。


 それだけではない。


 久しぶりの殺戮に、これまでの乾きが一斉に押し寄せたのだろう。

 何度も──何度も────何度も大剣を振るう。


 おぞましき殺戮の光景。

 完成されたとも言える殺戮のわざは、まるで剣舞を見ているかのように美しい。

 もっとも、被害者からすれば迷惑極まりない所業ではあるが。


 一方的な展開。


 だが、リーリアにも懸念があった。

 それはコーネリアの存在だ。


 彼女が人質となれば戸惑う────かもしれない。


 男たちの体が肉片となり崩れる。と、同時にリーリアはコーネリアの方へと走った。


 リーリアは走りはしたが、さしてコーネリアのことは心配していない。

 彼女の実力を理解していたからだ。


 コーネリアは、護身のために魔法を使えば、過剰防衛が心配される程度には強い。


 それでもリーリアは、(物に釣られて)忠誠を(勝手に)誓ったクレスから依頼を受けている。

 良い神経をした、自称メイドではあるが職務には忠実なのだ。


 疾風の如き速さで走るリーリア。

 数十メートルあった距離を瞬く間に詰める。

 そしてコーネリアを掴むと──


「キャアッ」


 ──思いっきり後ろへと放り投げた。


「ちょっとーーっ!」

「はいはーい。下がっていて下さいねー」


 放り投げられたコーネリアは、風魔法を使い難なく着地をした。

 だが、このようなぞんざいな扱いをされれば気分の良い物ではない。

 それでも笑顔を絶やさないリーリア。

 本当に良い性格をしている。


 が、


 敵対関係にある男たちにとってその笑顔は、血肉を貪る悪鬼の笑みよりも恐ろしい物だったのだろう。


 ”ヒィッ”と、悲鳴にならない悲鳴が、男たちから聞こえた。

 だが、リーリアがその声に特別な感情を持つことはない。

 単に、斬りたいだけなのだから。


 |断罪刃≪お気に入り≫を試せる相手が手の届くところにいる。

 それも、どのような斬り方をしても問題のない悪党だ。

 己の奥深いところから湧き上がる熱に釣られ、自然と剣を手にする手に力が入った。


(いけませんねー。メイドは、スマイルを維持しないといけないのに)


 目に狂気に染まった悦びを表しそうになり自分を諌めた。


 リーリアはメイドではあるが、あくまで自称だ。

 それでも、メイドという在り方は自分で決めた。

 故に、メイドとしての自分がどうありたいのか、拘りを持っている。

 もっとも、己の背丈ほどもある禍々しい刃を手にして、嬉々と人を切り捨てるような仕事を、メイドが行うのかは疑問が残るが。


「ヒィッ」


 リーリアが斬り伏せるべき対象は、残り6名。


 次の犠牲者となるのは、T字路の右側に固まった4人。

 コーネリアを放り投げると、そのまま真っ直ぐに走り寄る。


 男たちは、恐怖と絶望の狭間に心が捕らわれて動けなくなっている。

 だが、暴虐の化身が慈悲の心を示すことなどない。


「ふふ」


 日常の中であれば、誰もが見惚れる笑顔を浮かべ、リーリアは断罪刃を頭上から振り下ろすと、容易く剣が男の体を通り抜けた。


 斬られた男の体がズリ落ち始めたのは、次の一歩を彼女が踏み込んでからだった。


 剣線をなぞるようにズレていく男の上体。

 落ち切るのを待たずに、更に一閃する。


 剣を横に構えて、再度の一歩を踏みこんだ。


 それは先ほどの一歩よりも、遥かに深い一歩。

 男の体が三度切り裂かれる。


 次は後方で怯える男。

 間合いを一足で縮めると、構えた剣を横一閃に振るった。


 男が振るえる手で、懸命に握る剣が意味をなすことは無い。

 剣もろとも、胴を両断したのだ。


 が、巨大な出刃包丁とも言える断罪刃を振り切ったリーリアには、大きな隙ができてしまう。


 断罪刃を右手一本で持ち腕を大きく広げている。

 男たちからすれば、断罪刃は背に隠れて見えていることだろう。


 圧倒的な強者が見せた、最初で最後かもしれない隙。

 己が生き残れる最後のチャンス。


 気付いたのは、この場に残された2人の男の内の1人。

 手を出そうとも、出さ無かろうとも斬り殺される。

 男の体は、迷うよりも早くに動いていた。


「あああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 生命を震わせているかのような咆哮と共に突進する。

 剣を突きたてようと、己の肉体を最大限にまで酷使して。


 文字通り命がけの突進。


 この判断の結果は、殺るか殺られるか、どちらか一つしかない。

 いや──


「残念」


 ぞっとする笑みに、頭が冷めた。

 男は気付いたのだ。常識外の化け物が、常識的な隙を作るハズがない。

 この化け物にとって、こんな物は隙でも何でもなかったのだ。


 リーリアは、地を軽く蹴り体を宙に浮かばせた。

 すると、超重量級の断罪刃に生じている凄まじい遠心力に、彼女の体が持っていかれる。


 華奢な体は遠心力のままに回転し、体軸をずらすことで剣をかわす。

 と、足を大きく上げて男の剣を蹴った。


「はっ?」


 予想だにしない出来事が起こる。

 軽く蹴られただけにも関わらず、男の剣が折れたのだ。


 リーリアが蹴ったのは、目と呼ばれる部分。

 目と呼ばれる脆い部分に、鋭い衝撃を与えて折ったのだ。


「7人目」


 未だ、宙に体を舞わせて回転するリーリア。

 そのまま遠心力を利用して剣を振るう。


 石畳ごと切り裂きながら男の足元から迫る凶刃。

 この時点で、男に未来がないことは確定していた。


「ついでです」


 先ほどの男を真っ二つにすると、気軽な感じで剣を横に振ってもう1人を片付けた。

 男たちの命を、その辺の石ころ程度にも思っていないのだろう。

 本当に軽い感じでの一振りで、8人目を狩り終えた。


「残りはー。ふふ」


 リーリア達が使った裏道を塞いでいた2人の男。

 彼らは、この場から背を向けて逃げ出していた。


「鬼ごっこをなさりたいのでしょうかねー」


 リーリアは唇に指を当て、少し困っているかのように見える。

 だがその目は、獲物を追う肉食獣の瞳そのものだ。


 本心がどちらにあるのかなど、考えるまでもない。

 天使のような笑みの下に黒い高揚感を隠して、その足に力を入れる。


(この先は大通でしたよねー。でしたら、逃げおおせたと思ったところで声を掛けて………………と、いうのが一番斬り応えがあるのでしょうか? それとも……)


 なんか、酷いことを考えている。

 まるで料理の味付けを考えるように、人の斬り方をシチュエーションしていた。


 だが、気分が高揚しすぎていたのかもしれない。

 リーリアは致命的な見落としを犯していた。


「うぎゃああぁぁぁぁぁっ」

「あぁぁっ!!」


 男たちの野太い悲鳴が上がると同時に、リーリアのか細い悲鳴が上がった。


「ふぅ」


 男たちの後ろには、杖を構えたコーネリアが立っている。

 杖の先端についた宝玉からは、魔力の残滓を煙のように立ち昇らせながら。

 その様子は、地球人であれば狙撃手(スナイパー)が銃を使った情景を思い浮かべたことだろう。


「私の楽しみを奪らないで下さいよー」


 先ほどまでとは雲泥の差がある程、ゆっくりとした早さでコーネリアへと駆け寄るリーリア。

 この時ばかりは、笑顔が崩れており素の感情が出ていた。


「……私も怒っている」


 少し焦げた男たちへと視線を向けながら、不愉快そうに自分の感情を告げる。


「子供、子供って言われて、女性の魅力がないといわれたことですかー?」

「むっ」


 真実、そうであった。

 さすがに下卑た思いを向けられたいとは思わない。

 それでも、子供だと言われ女性的な魅力がないと言われることはイラっとする。

 自分が、子供であると分かっているからこそ尚更に。


 コーネリアは子供以上で女性未満。

 難しい年頃なのである。


「まーまー。怒らないで下さい。コーネリア様も大人になれば、スタイル抜群になりますよ…………多分」


 多分という部分は、とてつもなく小さな声だった。

 こればかりは、(自称)優秀なメイドであるリーリアにも分からないからだ。


「もう少しでお仕事は終わりですから、後でクレス様に美味しい物をたくさん奢ってもらいましょうねー」


 話を切り替えるついでに、さりげなくクレスにたかるように促す。

 彼女がクレスに誓った忠誠とは、食い気で維持される類なのかもしれない。


「ふふ、もう少しでお仕事は終わりますので、ちょっとだけ待っていて下さいねー」


 と、告げて取り出したのは白い板。

 それは、お馴染のス○ホもどきこと、通話石を加工した板だった。


「準備が終わりましたので、よろしくお願いしますねー」


 笑みのまま、ス○ホもどきを使って連絡を入れた。


 *


 もうじき太陽の恵みに変わり、月明かりの安らぎが地上を満たそうとする時分、リーリアは先ほどと同じ場所にいた。


 だが、コーネリアの姿はどこにもない。

 既に自宅へと帰されたからだ。


 代わりに、リーリアの背後に3人の男が控えている。

 いずれも筋骨隆々で、子供が見れば泣いて逃げる厳つい容姿。

 絶対に堅気ではない。


 だがこの場に置いて最も危険な存在は、彼らを背後に控えさせる可憐なメイドなのは確かだ。

 この事実を考えると、リーリアはとても残念な存在かもしれない。


「ようやくお目覚めのようですねー」


 笑顔で男に声を掛けるリーリア。

 先ほどまでの狂気は、すでに消えている。

 この状況でなければ、安心感を周囲に覚えさせる人懐っこい笑顔だ。


「なにが……」


 対して男が漏らしたのは、絶望しきった声だった。

 目の前に自分を斬った化け物がいる。

 それだけでも絶望に値する状況といえるだろう。

 だが、男が漏らした絶望の声には、困惑の色も見られる。


 男は考える。

 考えているとは言えないほどに混乱している頭を、無理やり働かせて自分の置かれた状況を理解しようとした。

 だが、思考が答えに行きつくことはない。

 何度も、何度も考えては、終わりのない思考を繰り返す。


 いや、彼は思考を繰り返しているのではない。

 本人は気付いていないが、思考を別のことに逸らすことで、自分の体の状態を考えないようにしているだけだった。


 だが目を逸らしている現実は、無情にも告げられることとなる。

 己をこのような体にした、目の前の少女によって。


「頭だけで生きているのって、どんな気分ですか?」


 男の脳は理解してしまった。

 目を逸らそうとしていた現実を。


 自分の状況を嘆くか、悲鳴を上げて現実から目を背けるか、自分をこのような体にした目の前の女に怒鳴り散らすか、このとき男がとれた反応はいくらでもあったハズだ。


「……どうして俺は生きている」


 多くの選択肢のある中、男の反応は最も意外な物だった。

 男がとった反応。それは自分の置かれた状況を確認するために、情報を集めること。


 人間というのは、自分が受け止めきれる以上の情報を受けると思考を止める。

 男もまた同じ状況だ。現実離れし過ぎた状況に、男の頭は冷めたのだ。


「ふふ、話が早くて助かりますねー。ご褒美として質問に答えて差し上げますねー」


 全く崩れない笑みで答えるリーリア。

 身内であれば得意げな表情に気付きイラっとする所ではあるが、この場には身内などいない。

 誰にも話を遮られることなく、彼女は話を続けた。


「この剣は便利なんですよー。普通に人を斬ることもできますし、細切れにしても死なせないなんていうこともできるんですよー」


 どこか得意気だ。

 身内が近くにいたのであれば、イラっとしてツッ込みの1つも入れた所であるが、残念なことに身内は近くにいなかった。


「それに、殺さないように斬った場合は、空間というか存在を一時的に切り離すとか聞きましたがー、詳しい説明は省きますねー。そんなことを説明してあげる義理なんてありませんからー」


 リーリアは、いっそう饒舌になって説明を続けていく。

 ときおりクルリと体を翻しながら、まるで何かを演じているかのように見える。

 だが、このワザとらしいのがリーリアの平常運転だった。


「一時的に切り離された体は、もちろん元通りに繋げることも簡単なのですよー。それに簡単な手品も行えましてねー」

「がああああぁぁぁぁぁっ!」


 地べたに置かれた男たちの頭部。

 先ほどから会話をしているのとは別の男から断末魔の悲鳴が上がった。


「こんな感じで、斬られたときに感じるハズだった痛みを与えることができるんですよー」


 拷問まがいのことをしながら、何のこともないように話を進めていく。

 相変わらず、顔に崩れない笑顔を貼り付けたまま。


「さて、あなた達はどなたに頼まれたのですか? 素直に行って下されば、治して差し上げますよ」


 男は己の耳を疑った。

 先ほどまで、嬉々として自分たちを解体していた悪鬼が、甘言を弄したのだ。

 裏があるとしか思えない。

 だが、そんな疑惑はすぐに晴れることとなる。


「ですが嘘を吐いたり、答えなかった場合には繋げ直してから、普通に斬らせて頂きますねー」


 相変わらず笑みを貼り付けたまま語っいる。

 だが、圧倒的な恐怖を経験させられ、感覚が敏感になっている今の男たちは気付いた。

 リーリアの目に一瞬だけ宿った光を。

 そして、男たちは総じて理解した。


 コイツ、嘘を期待しているな──と。

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