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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺は事後報告をした 『おふう。素っ気なさすぎんか!?』

間が空いてすみません。

 あれから3日。

 ディルクは目覚めず、眠ったままとなっている。

 魔力を使い過ぎた反動らしいが、命には別条がないようだ。


 フローレンスが、平手打ちにして起こそうとしたり、少しトラブルがあったりもした。


 恐らくは、そんな理不尽がまかり通る環境にディルクはいたのだろう。

 この日常が嫌で夢の世界に逃げ込んでいるという可能性もあるが──面倒なので、その可能性は無視することにしようと思う。


 マルヴィンも、何も言わなかったし。

 きっと、第3者の俺が口にして良いことではないと思う。


 強く生きろよ、ディルク。


 *


 予想外のトラブルに対応を追われたイザベラ。

 彼女と話ができたのは、それなりに時間が経ってからだった。


「アーレスを1人で動かしたんじゃ。むしろ、この程度で済んで良かったと考えた方が良いじゃろう」

「そうなんだろうな、きっと」


 校長質での会話は、アーレスや契約に関連した物が中心となっている。

 いや、お互いの考えを合わせて、認識のズレを埋めている。

 だから、会話というよりも確認と言った方がいいかもしれないな。


 しばらく確認を続けた後、やがて契約へと話は切り替わった。


「して、おんしとの契約の件じゃが、今度はワシが約束を守る番じゃな」

「ああ、頼んだぞ」


 イザベラとの契約。

 今回の決闘騒ぎに乗じて、学校の予算を横領、特定権力者への過度な肩入れ、職権を使った公私混同など、様々な問題を抱えた教師を病院送りにすること。


 その教師というのが、あの審判を行った男。

 あの事故は意図したものだ──多少、手加減の仕方は間違えたが。


「おんしが、ちぃっとばかり派手に動いても、ワシが何とかしてやろう。もっとも、やりすぎればワシでも隠しきれんから気を付けろよ」

「俺も、目立つ真似をするきはないさ」


 俺の目的は平穏。心の休まる日常なんだ。

 魔王に殺されかけたり、魔人と戦ったり、あんな殺伐とした日常は、決して俺の求める物ではない。


「使い勝手の良い駒も、おかげで手に入ったしのう。できる限り手は貸してやるぞ」

「ものすごく悪い顔をしているぞ」

「それでもプリチーなのが、イザベラちゃんの凄いところじゃろ」

「勝手に言ってろ」


 使い勝手の良い駒。

 それは、あの教師だ。

 悪さしたヤツを手元に置いて、使い勝手の良い駒として飼い殺しする気なのだろう。


 人権という言葉が、小銭よりも安いこの世界で、あいつがどのような扱いを受けることか。


 イザベラの見せた表情が物語っている。

 あの教師が生き残れるように、せいぜい祈っておいてやろう。

 俺の頭では3歩も足を動かせば忘れるだろうが。


「俺も目立たない範囲でなら手を貸してやるから、本当に俺のフォローを頼むぞ」

「むっふっふっふ。ワシらはプリチー仲間じゃ。大船に乗ったつもりでおれ」


 なんだよ、プリチー仲間って。

 言いたいことは分かるが、納得はできんぞ。


「では、さっそく協力しようではないか。今回の件で相手が何を目的にしとるか分からん状態じゃからのう。とりあえず、情報交換といかんか?」

「そうだな……俺の情報網は当てにすんなよ」

「安心せい。おんしに情報を探す頭など期待はしておらんからのう」


 正しい判断だ。

 しかし、そういうことはオブラートに包んだ後で砂糖をまぶして、檄甘にした物を口にして欲しかった。


「じゃが、今回のことは学校外が関わっておる可能性が高い。僅かでも情報の入り口を増やしておきたいんじゃよ。それも今回の裏を知っても、外に漏らさん入り口をな」

「裏って、なにか……? いや……帰らせてもらう」


 これは、きっと聞いてはいけない情報だ。

 聞いたら強制的に、面倒事とエンカウントしかねない程の。

 だが、イザベラが俺の都合など気にするハズはなく──


「ディルクの杖に呪具が使用されておったんじゃ」

「それ以上話すな!」

「さらに高度な呪法を用いて杖と一体化されており、相当な資金力と超一級の呪術の腕がなければ、今回のようなことは不可能じゃろうのう」


 巻き込みやがった。

 その条件に当てはまるのは、ヤバいヤツらしかいないだろ。


「双方を揃えるのは難しい上に、ディルクの杖を怪しまれずにイジらねばならん。じゃから、何人も今回の件に関わっていると判断するのが妥当じゃ」


 次は追い打ちか。

 俺を逃がす気はないようだな。


「そういう顔をするでない。イジりたくなるではないか」

「……人を愛玩動物扱いするな」


 全く反省している様子がないな。

 むしろ喜んでいるようにすら見える。


「それに、知らぬよりも知っておいた方が対策もとれるじゃろう」

「対策うんぬん以前に、厄介事に巻き込まれたくないのだがな」


 これって、厄介事に巻き込まれるパターンだよな。


「安心せい。何者かが近づいてきても、子供のフリをして適当にごまかしとれば、大きな問題にはならんじゃろう」


 確かに、お前の言うとおりだ。

 だがな──


「俺が考えが顔に出やすいのを忘れているだろ」

「……あっ」


 やはり、忘れていたな。

 お前が俺をイジルとき、その特性を存分に活かしているくせに。


「………………」

「………………」


 それから、しばらく続いた沈黙は、居心地の悪い物だった。

 やがて、居心地の悪さに心が折れたのは、ソワソワと目を泳がせ始めたイザベラだった。


「ふむ。励めよクレスよ」

「何をだ!」

「もちろん青春をじゃっ!」


 片目を瞑りウインクをするイザベラに、少しイラっとした。


 間違ってはいない。

 自信はないが、生徒を励ますのは校長として間違ってはいないと思う。

 だが、それでもイラっとするのは仕方のないハズだ。

 それ以前に、話の流れが絶対におかしい。


「苦情は秘書を通すんじゃぞ」


 苦情を受け入れる気がないというわけか。

 さすがは、イザベラ。

 俺の気持ちなど微塵も気にしていない!


「おんしの方は情報なぞないじゃろうから、今回はココまでじゃが……愛でも語り合っていくか?」

「じゃぁ、なんかあったら連絡をしてくれ」


 無視してドアへと向かうことにした。


「冷たいヤツじゃ。旧友と語りあう気もないとは」

「俺らは語りあい過ぎている気がするぞ」


 事実、コイツとは結構な頻度で会っているよな?


「ふむ、言われてみればそんな気もするのう。じゃが、愛を育むのに語りあい過ぎなんぞないじゃろうから、安心せい!」

「そうか。安心したから、とっとと帰らせてもらうぞ。じゃあな」

「おふう。素っ気なさすぎんか!?」


 校長室は、防音設備がしっかりしているのだろう。

 彼女の声は、ドアを閉じると全く聞こえなくなった。


(金を掛けているな)


 防音性能を確かめた俺は、廊下を歩きだす。

 少し性能が心配な脳を働かせながら。


 これで一つの区切りはついた。

 あとは些事を片付けるだけだが、すでに準備は終えている。


 早めに網に引っ掛かって欲しいものだ。

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