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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺の決闘は幕引きとなった 『ちっ、しっかりキメろよ! リア充!!』

 イザベラは魔力の楔を打ち込んだ。

 すると、侵食するかのように地面を水晶のような膜が覆う。


 この膜が、ディルクとアーレスとを繋いでいた魔力を吸収しているようだ。

 おかげで、アーレスへと流れていた、ディルクの魔力が消え去った。


「クレスよ! 我を称賛せよ! 我を褒め称えよ! むっはーはっはっはっは」


 テンションが異常に高いロリババアが何か叫んでいる。

 130年の間に、アイツのキャラが崩壊しまくっているのだが──色々と残念すぎるヤツだ。


「じゃあ、俺たちも始めるか」

「……そうだな」


 イザベラのぶっ壊れ具合を残念がっていると、いつの間にかラゼルに仕切られてしまった。


「俺とヒュージで牽制けんせいする。華はお前に持たせてやるよラゼル」

「ああ、いいんだな。全力でやって」


 嬉しそうだ、全力を出せるのが。

 笑顔が獰猛過ぎて、これならファンの女子がドン引き──しないか。

 人気がますます高まりそうだ。


「ちっ、しっかりキメろよ! リア充!!」

「任せ……リア充?!」


 リア充への怨念が、掛け声に混ざってしまってしまった。

 まぁいい。俺は俺の役目を果たすだけだ。


「ヒュージ、行くぞ!」


 結界を解くと同時に、アーレスは魔法弾を放たれる。

 だが、先ほどまでとは攻撃パターンが違う。


 ディルクからの魔力提供を得られなくなったためなのだろうか?

 乱暴に辺り構わず放っていた先ほどまでとは違い、コチラに狙いを澄まし魔力の浪費を抑えているようだ。


 並んで走る俺たちに迫るのは、迫るのは12の魔法弾。

 躱し切れないのがあるか。


「炎よ! 撃ち抜け!!」


 ビー玉サイズの火球を7つ展開させ、即座に放った。

 火球が銃弾のようなスピードで、アーレスの魔法球を撃ち抜くと、黒い爆炎が広がる。


 当たる可能性がある魔法弾はもう無い。

 目眩ましが効いている間に、一気に距離を詰めた。


「ヒュージ!」

「はいっ!」


 アーレスを左右から挟むように、俺とヒュージは立つ。

 背は子供である俺たちよりも高く、見上げる形になっている。

 更に鎧を着こんだような外見であるため、迫力を感じるがどうでもいいことだろう。

 敵であるのなら、仕留めるだけだ。


「こっちだああぁぁぁっ」


 叫び、注意を引きつける。

 同時に、魔法剣で右腕を斬りつけると、炎が傷口から吹き出た。


『ウゴオォォォォ』


 傷口からは炎と共に黒い魔力が、霧のように溢れる。

 近接俺に対し、魔力弾を放とうと魔力を集めるも──


「こちらです!」


 ──ヒュージの剣がアーレスを切り裂く。

 深い傷は負わされなかった。だが、それでも注意はそちらに向く。

 魔法弾を放とうとするが、魔力を集める時間すら与える気はない。


「そら、こっちだ!」


 所詮は道具。

 人の手による操作を受けねば、柔軟な動きなど出来やしない。

 注意が俺から逸れた瞬間に追撃をかける。


『オオォォォッ』

「はぁっ」


 再びヒュージの剣が、アーレスを深く切りつけた。

 もはや、一方的な展開だ。


 このアーレスは遠距離用だ。

 近距離用に作られた物と比べ、近距離戦用のプログラムと呼ぶべき物が、お粗末と言わざる得ない。


 だから、プログラムの隙を着けば、簡単にハメられる。


 俺たちは、次々にアーレスを斬りつけた。

 一回、二回、三回──数十回と続く攻撃は、危なげなくアーレスを斬り続ける。


 攻撃を受けるたびに、ダメージを増やしていく。

 しかし油断をすると、辺りに散った魔力で回復してしまう。

 やはり大技を用いて、一気に仕留めるしかないだろう。


 だが、俺とヒュージの仕事は、注意を自分たちに向けさせ続けるだけで十分。

 止めはアイツの役目だからだ。


 離れた場所にラゼルは構えている。

 現在使える、最高の攻撃手段を用いるために。


「………………はあぁぁぁ」


 全身を覆う障壁の魔力を肉として、第二の筋肉として扱う。

 魔力で作られた筋肉は、魔力というエネルギーであるために質量とは比例しない。

 故に、薄い膜であろうとも、魔力の強さしだいでは本来の筋力をも上回る。


「ぁぁぁぁぁぁぁ」


 魔力は体内にも流れている。

 体内に流れる魔力は、筋肉や血管や臓器と一つとなり肉体の保護と強化をする。


「ぁぁぁぁぁぁぁあああ!」


 それは、異世界の獣王が編み出した奥義。

 身体と魔力を、同時に武へと用いる武技の一つ。

 技の名は──


身魔合一しんまごういつ


 見せてみろラゼル。

 獣人の武を更なる領域へと導くであろう、お前の新たな力を。


「行くぞ」


 ラゼルは全てを持って走りだした。

 強靭な獣人の筋力ですら及ばない、常軌を逸する脚力を持って──。


「クレスさん!」

「ああっ!」


 ラゼルを迎撃しようとしたアーレスに、俺たちは斬りかかった。

 これまで以上のスピードで、俺とヒュージは剣戟を繰り返す。

 アーレスが迎撃のために集めた魔力は、回復へとまわされ攻撃には至らない。


 せっかくできた、ラゼルの見せ場なんだ。

 邪魔をさせる気などない。


「おぉぁぁぁあっ!」


 アーレスとの距離はまだ3mほど。

 だが、戸惑うことなくラゼルは拳を振るうと、見えない拳がアーレスを捉えた。


『グウゥゥゥッ』


 身魔合一は、魔力を仮想の筋肉として使う。

 故に、魔力が質量を持ち、肉体の一部として扱える。


 体術が持つリーチの短さという欠点は、すでに意味をなさない物となった。

 小回りが効く、次のモーションへの隙が少ないなどの利点を残したまま──。

 

「らああぁぁぁぁぁぁぁッ」


 次々と拳を放つ。

 一撃放たれるたびに、アーレスの身体を削り取る。

 拳は、嵐のごとくアーレスを撃ち抜き、いっそう激しさを増していく。

 

『アアアァァァァァ……ア』


 あまりもの激しさに、アーレスの身体からは黒い煙が立ち昇っている。

 煙の正体は、削り取られた魔力だ。


 激し過ぎる攻撃は、アーレスの回復能力を優に超えたダメージを蓄積させていく。

 アーレスの身体を、拳が削り取り──削り取り────削り取り──────削り尽くし、やがて終わりが見えた。


「見つけたぞ」


 アーレスの身体が削り取られ尽くすと、黒い球体が浮かんでいた──それは核。

 魔力の塊である体を制御するための、いわば本体。


 ゴルフボールほどもない、漆黒のそれは己を守る|鎧<身体>を剥ぎ取られ無防備に浮いていた。


「はああぁぁぁぁぁ……」


 一瞬、拳の嵐が止んだ。

 乱打の音は消え、辺りに静寂が訪れたが、それも僅かな時間。


 一間とも言える静寂の中で、ラゼルは己の全てを拳に掛ける準備を行う。


 彼は、拳を強く握りしめた。

 彼は、拳を引いた。

 彼は、腰を深く落とした。

 彼は、敵を鋭く見据えた。

 彼は、呼吸を深く吸いこんだ。


 一瞬とも言える静寂は、重苦しく寒気すらする物だった。

 だが、静寂のときは、即座に崩れる。

 一瞬の静寂が、一瞬にて雷鳴のごとき喧騒へと転じたのだ。 


「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ラゼルは、雷光のごとき動きで更に間合いを詰める。

 コアとラゼルとの僅かな距離など意味をなさず、瞬きをする間もなく詰められた。


「ぁぁぁぁあっ!!!」


 全身全霊全体重を乗せた拳は、まさしく雷光。

 この場に彼の拳を捉えられた者が何人いることだろうか?


 拳は、一瞬の内に核を捉えて粉砕する。


 周囲にガラスが砕けたかのような乾いた音が響くと、この場にいる多くの者が表情を緩めた。


 勝負は決した。

 このように思った瞬間、最大の隙が生まれる。

 だからラゼルが緊張の紐を解いたことは、ガリウスにしっかりと伝えるとしよう。


 きっと、鍛え直してくれるはずだ。

 地獄の特訓でな。


 マルヴィン達も忙しくなるだろう。

 今回起こったのは、何者かに仕組まれたとはいえ身内の不祥事だ。

 しかも、130年前の魔導兵器が絡んでいる。


 イザベラが裏で立ちまわるだろうが、色々と面倒なことになるだろう。


 だが、今はこの余韻に浸るといい。

 俺やイザベラが手を出したとはいえ、この勝利は間違いなく、ここにいる全員で手繰り寄せた物なのだから。


 と、偉そうなことを考えてみたが俺のキャラじゃない。

 俺も勝利の余韻に浸るとしよう。


 ようやく、平穏な毎日に帰れそうなのだから。

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