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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺の決闘が始まった 『相変わらずじゃのうー』

ルーラの名前をルートに変更しました。

 ~決闘に関するルール~


 決闘は同人数で行う。

 事前に当事者同士で、勝利後の要求を決めておく。

 使用する武具は、訓練用の武具のみとする。

 

 今回、俺たちの決闘に関係するのはこんな所だろう。

 他にも決闘後には、遺恨を残さないという物なんかがあるのだが──無駄に高いプライドの堕貴族だきぞく相手に無茶な注文かもしれんな。


 *


 準備は万全ではないとはいえ、時が俺の都合に合わせてくれるはずもない。

 決闘の日がついにやってきた。


 会場となるのは闘技場。

 ルーレやマグニール達が、うまく人を集めてくれたようだ。

 多くの生徒が集まっている。


 だが、テンプレセットに目を付けられることを恐れているのだろう。

 俺たちを応援する声はない。


 かと言って、マルヴィン達を応援しているのかと言えばそういうわけでもない。

 誰もが沈黙を決め込んでいる。


 多くの人間が集まる会場に響いているのは、まばらな声援のみ。

 そんな歪な雰囲気を持つこの場所で、俺たちの決闘は行われる。


 闘技場の中心へと歩く道すがら、観客席に目を向ける。


 最初に目へと飛び込んできたのは、貴賓席にいる者たち。

 イザベラと騎士学校に入学したという王女。

 名は何といったか?


(今度、調べてみよう)


 話す機会があったら、名前を知らないというのはマズイ。

 調べて覚えていられるかは保証出来んがな。


 次に目に映ったのは、最前列にいるイリアとルート。

 そのやや後ろには、ブリットとフェルが座っていたのだが────フェルがブリットの口を手で押さえていた。


(なにやってんだ、アイツら?)


 必死に口を押さえるフェル。

 ブリットが暴れるも、彼が手を口から離すことはない。

 肘がフェルの腹にキまったりもしている。

 それでも手を離さない。


 必死だ。

 本当に必死の攻防だ。


 とりあえず、無視して先に進もう。

 足を止めて何をやているのか確認をしたかったが、今は決闘に集中だ。

 俺は今見たことを、見知らぬどこかに放り投げることにした。


 ちなみに、後で知ったことなんだが。

 この時、俺らを大声で応援しようとしたブリットを、フェルは必死に止めていたらしい


 俺が原因で誰かが不利益を被ったら気分が良いハズもない。

 今度フェルには、昼食でも奢ってやろうと思う────最安値のヤツを。


 闘技場の中心へと歩き続ける。

 俺らへの声援は未だに聞こえない。


 だが、協力してくれたヤツらは良くやってくれた。

 これだけの人数が集まれば十分だろう。


 観客達は、俺達を権力から守る盾であり報復をするための剣だ。

 この場にいる者たち全てが、決闘の立会人となり見届け人となり俺達を守る。


 決闘に不服があろうとも、下手な動きを見せたヤツがいれば、観客の口を通し方々(ほうぼう)へと散らばるだろう。

 プライドにこだわる貴族であるほど、誰もが避けたがる形で。

 学校の内外を問わないだけではなく、未来においても影響は与えられ続けられるハズだ。


 最初の仕込みは完了した。


 安堵の気持ちを胸に感じながら、会場への中心へと俺達は進む。

 同じようにマルヴィン達も会場の中心へと歩いている。


 やがて闘技場の中心で、俺達は対峙した。


 睨みつけられるかと思ったが、相手の目は冷静そのものだ。

 向き合ったまま静かに時間が流れる。


 たった数秒の間。

 しかし俺らが決闘の準備をしたように、マルヴィン達も準備をしたことを感じるには十分な間だ。


 この様子を見る限り、コイツへの評価を訂正しなければならない。

 決闘は俺らがどう勝つかだけが問題となる"蹂躙"ではなく、お互いに負けの芽が存在する"戦い"となりうる相手であると。


 準備を進める中で引き締めた心。

 目の前に敵を見据え、一層引き締める。

 そうして"戦い"に臨もうとする気持ちを高める俺に、マルヴィンが言葉を向けてきた。


「貴様には相応の報いを受けさせてやろう」


 なんか邪悪な笑みを浮かべている。

 "戦い"ではなくやはり"蹂躙"のままで良いのではないか?

 そんな世迷い事が頭をよぎった。


 だが、俺の想いがどう変わろうとも、これは言っておかねばならない。


「前から思っていたんだが……」


 このまま一方的に恨まれ続けるわけにはいかない。

 権力者に睨まれるのは面倒くさすぎる。


「人違いじゃないか? 俺には恨まれる覚えなど全くない」

「キ、キサマ……」


 憎しみの色が一層強くなるも、必死に感情を押し殺している。

 それでも、内に収めきれない怒りや憎しみが漏れてしまっていた。


(やはり、子供がしてはいけない表情だな)


 ダメ元で勘違いを指摘したが、やはり理解されなかったか。


 権力者に睨まれたままの未来か──。

 思わず溜息を洩らすと、いっそう殺気が強まった気がした。


 *


 すでに決闘用の防具は装着済みだ。

 決闘と言っても、学校内のイベントでしかない。

 死人が出たり、後を引く怪我を負うのは学校側としては避けたいという思いがある。


 だから決闘で使われる道具には、少々細工が施されている。


 魔力を帯びない攻撃は、圧倒的な威力がない限り障壁を越えられない。

 そして障壁によっては、炎による攻撃などを弱めることが出来る。

 この原理を応用して、使用する武器は特殊な魔力を帯びるので安全だ。


 武器が相手に当たっても、障壁により簡単に防がれる。

 魔法もまた、特殊な魔力に変換される。


 代わりに身に付けている防具が威力に反応し、少しずつ赤くなるという仕組みだ。


 ちなみに現状の防具の色は白。

 なんとも味気のない色なのだろう。


 武器に妙な細工がされない配慮もされている。

 決闘が始まる直前まで、決闘の当事者は武器に触れられない取り決めがあるんだ。


 このルールに従い、決闘の直前になりようやく武器が運ばれてきた。

 決闘の会場の端から武器を運ぶのは数名の生徒。

 相手側が使う杖以外は、学校で使用されている物ばかりだ。


 俺は短剣を手にし、ヒュージは細剣を手に取る。

 ラゼルが手にしたのは、手を覆うグローブ。


 対してマルヴィンは剣。

 ディルクとフローレンスの双子が杖。


 双子が手にした杖は、包帯が撒かれたかのように白い布に覆われている。

 包帯のように見えるのは魔術布。

 布に術式が描かれており、描かれた模様により様々な効果が発揮される。


 なぜ双子の杖には、魔術布が巻かれているのか?

 未熟な魔導士は、普段と違う魔法の媒体を使った場合、術式を描くなどの作業がうまくいかない。


 よって俺らのような学校の備品ではなく、自分の使いなれた杖が必要だ。

 このため包帯のような道具を使い、安全性を確保したうえでなら自分の杖を使用することが許可されている。


 受け取った短剣を俺は軽く振り、手に馴染むかを確認してみる。


(案の上か……)


 短剣を手にして予想が当たったことを確信した。

 これなら取り引きを、遠慮なく完遂できる。


「ラゼル、ヒュージ。気をつけろよ」


 俺の言葉に2人は頷く。

 この言葉は、予め決めておいた合図。

 武器にルール以外の細工が施されているという言外の伝達手段。


 短剣には、相手の鎧を赤く染める効果が最小限になる細工が施されていた。

 通常の武器1回分のダメージが、3倍分のダメージが必要となるようだ。


 細工を施したのは誰か?

 マルヴィン達かそれとも──。


 犯人は分からない。

 だが決闘の審判を行う者は、武器の確認が義務付けられている。

 このため審判がグルであるのは確かだろう。


(審判は間違いなく黒ということか……)


 全員が同じように何らかの動作を行っている。

 この事態になる可能性は、すでに伝えており2人とも何も文句は言わない。


 ただひたすら、決闘の始まりに向けて己を調整していく。

 少しばかり体を動かし、緊張をほぐれた所で決闘の開始が告げられる。


「双方、準備は良いか!」

「「はいっ」」


 会場の中央で向き合う6人。

 決闘の準備が出来た俺達に、小太りとも言える審判が声をかけた。


 同時に返した返事と共に、会場全体に緊張感が走る。

 先ほどまでとは打って変わり会場からは声が消え、その時が訪れるのを誰もが待つ。


 これは学校が許可した決闘だ。

 それ以上の意味はない。


 だが貴族と平民がぶつかり合う以上、見ている者達は特別な意味を持たせたくなる。


 貴族達は己の誇りを。

 平民達は特権階級への不満を。


 様々な想いを持ちながら、戦いの始まりを見守っている。


 だが、観客が何を想おうとも、俺らのやることに何ら変わりはない。


 すでにやるべき事はやった。

 あとは結果に結びつけるだけだ。


 審判が双方のチームに視線を向ける。

 徐々に近付く始まりのとき。


 敗率は1%にも満たないハズだ。

 だが1%以下のの確率であろうとも、敗率があることに変わりはない。

 決して油断はしない。


 今回の戦いは個別撃破。


 俺が押さえるのはフローレンス。

 ラゼルがマルヴィンを相手にして、ヒュージがディルクを押さえる。


 その目論見がバレぬように、俺の視線はマルヴィンへと向けて視界の端で獲物をとらえ続ける。

 

 短剣を逆手に、深く構える。

 全身のばねを活かし跳び出せるように。

 深く──深く腰を落としながら全身のバネを限界まで引き延ばす。


 呼吸が乱れないように、長く息を吐き出しながら待つ。

 緊張し過ぎないように、わずかに体を弛緩させる。


 数秒の時が研ぎ澄まされた集中力によって、長く感じられる中その時は来た。


 審判が両腕を大きく挙げる。

 いっそう増した会場の緊張感。

 それは──審判が手を振り下ろすと共に一気に弾けた!


「はじめ!!」


 静寂は消えた。

 マルヴィンの派閥に目を付けられるのを恐れてか、俺らに声援を送るものは微々たるものだ。


 だが感じる。

 俺らに向けられる視線を。

 敵対的ではない、何かを期待する視線を。


「打ち合わせ通りに行くぞ!」

「ああ!」


 声と同時に俺達は走った。


 指示を出したのは俺──ではなくラゼル。

 そして指示に応えたのはヒュージ。


 俺の存在を無視して、戦いが進んでいくような気がしてならない。


 いや、大丈夫だ。

 俺には俺の役割がある。


 短剣を逆手にこの場の紅一点、フローレンスへと向かって俺は走る。


 ラゼルやヒュージが他の相手を押さえているのだろう。

 フローレンスをサポートする者は誰もいない。

 彼らの戦う音が耳へと入ってくる。


 一対一の戦い。


 魔法を放つのに集中が必要な魔導士は、素早く動ける俺のようなヤツ相手というのはやりにくいハズだ。


 だが己の腕に自信があるのだろう。

 動じることなくフローレンスは術式を組み上げる。


(中々のスピードだ)


 この状況で慌てないだけのことはある。

 彼女が術式を構築する速度は、他の生徒と比べても早い部類に入る。


 コチラに向けた杖の先に、赤い魔方陣が広がる。

 一層膨れ上がる魔力が魔法の完成を告げる。


「燃えなさい!」


 魔方陣から炎がはしった。

 放たれたのは、渦を巻くかのように激しく燃える炎。

 術式の構築速度だけでなく、魔力を込める能力も高いようだ。


 だが──!


「なっ」


 炎が霧散するとフローレンスの表情が固まった。

 俺が何をしたかは見えなかっただろう。

 彼女が見たのは結果のみ。


「くっ」


 気持ちを切り替え、再び炎を疾らせるフローレンス。

 今度は手を変え、3つ程の火球が俺を飲み込もうと襲いかかる。


 だが結果は同じ。

 3つの火球は俺へと辿り着く前に、同時に小さく破裂して消え去った。


「だったらーーーー!」


 フローレンスは、魔法の属性を切り替えた。

 次に描かれたのは冷たい光を放つ魔方陣。


 先ほどと比べると術式の構築が僅かばかり遅い。

 それでも他の生徒達に比べると早いと言える構築スピードだ。

 冷たい光を放つ複雑な魔方陣が、すぐさま構築される。


 魔方陣の感性と共に放たれたのは3本の氷柱つらら

 一斉に俺へと襲いかかってきた。


「甘いっ!」


 姿勢を低くし1本目の氷柱を避ける。

 目の前に迫った2本目の氷柱は、短剣で切り裂く。


 最後の3本目。

 それは俺を素通りして、後ろへと遠ざかっていった。


「しっかり防げよ」


 距離は十分に詰めた。

 次はお前が苦手とし、俺が得意とする近接戦だ。


「くっ」


 逆手に持った短剣を、フローレンスの腹部を狙って振るう。

 だが盾にした杖に短剣は受け止められる。


 武器同士がぶつかり合って生じた一瞬の硬直。

 それを見逃すほど俺は甘くない。


「俺の左手が残っているぞ!」


 魔力を集めた左手を全力で振るうと、紅蓮の火球がフローレンスを襲った。


 *


 ~イザベラ視点~


「相変わらずじゃのうー」


 呆れたような表情でクレスを見守るイザベラ。

 溜息と共に漏れたのは、表情に見合った呆れの言葉。

 古き友の戦いに彼女が抱いた感想は『エゲツない』だった。


「魔導士としては興味深いのじゃがのう。あれは未熟な者に使って良い術ではないじゃろ……」


 クレスが使っているのは、彼が独自に作り上げた針の魔法。

 様々な術式を魔法で作った針に込めて飛ばす。


 フローレンスの放った魔法へと針を打ちこみ、術式を破壊して魔力へと還している。


 高速で放たれる極細の針は、目で捉えるのが難しい。

 その上、整った術式でなければ針による干渉を防ぐのは不可能に近い。


 罰が存在する決闘なのだから、この術の使用も止むを得ないのかもしれない。

 だが、訳も分からず自慢の魔法を無効化され続けたら、幼い心など簡単に打ちのめされることだろう。


 あまりにも大人げない、元大勇者の仕打ち。

 呆れの感情に懐かしさを感じるという微妙な気持ちで、彼女は決闘の流れを見守っていた。

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