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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺は決闘の準備を進める 『クレスなのに、まともなことを言っている』

 テンプレセットの一人マルヴィン。

 あいつとの決闘前に、俺は水面下で動いている。


 後のことを考えると、権力者とのイザコザは面倒なものだ。

 昔は暴力はなしあいでなんとでもなったが、今は物理的な交渉を行うわけにはいかない。


 平穏を生きるとは、こうも大変なのか──。


 それはともかく、決闘そのものにも目を向けなければならない。

 1%未満の敗率ではあるが、負けの芽はキッチリと摘み取っておこう。


 ~校舎裏にて~


 校舎裏で俺はマルテと向かい合っている。

 決して”校舎裏にこいや”と、呼び出されたわけではない。


「どうぞ」

「ああ」


 校舎裏でマルテから封筒を受け取った。

 中を確認すると、マルヴィン達の情報が──。


「手間を掛けさせたな」

「……気持ち悪いですね」

「おいっ」


 無表情&ジト目の彼女は、気持ち悪いと暴言を投げつけてきた。

 なんで俺に対して、ここまで冷たく出来るのだろう?

 前世で、コイツの先祖に何かしたのだろうか?


 目を瞑り、前世かこを振り返ってみる。

 思い浮かんだのは、胡散臭うさんくさい微笑みを顔に張り付けたあの男。


(……コイツの親(カリス)か!)


 働かせすぎて、ヤツは目が死んでいたことが何度かあった。

 その恨みを親子で張らそうと考えたとか。


 いや、今は俺の前世をカリスは気付いていないハズだ。

 そもそも、マルテが俺に極寒の冷気のごときコミュニケーションを試みるのは、試験の時から変わらない。


 確か、あの頃のコイツは、俺の名前すら知らなかったハズだ。


 そこから導き出される結論は──俺の存在そのものが気に喰わないとか?

 

「利害が一致したので協力したまでです」

「そ、そうか」


 不吉な結論を導き出した俺は、ドモリながらもマルテが放つ冷気を避ける。

 だが、どこに地雷が埋まっているか分からない。

 慎重に話は進めていこう。


 それに、礼を言われるのが嫌なほど嫌われているわけでは──


「それに、あなたに感謝されると、手を貸したことを後悔したくなりますのでやめて下さい」


 ──嫌われているようだ。

 無表情のまま、淡々と毒を吐きやがる。


「では、私はこれで」

「あ、あぁ、じゃあな」


 なんとか、地雷を踏まずに会話を終えられそうだ。

 いや、ここで油断をするわけにはいかない。

 少なくとも、コイツの毒に悦びを感じる趣味が無い限りは──な。


「それでは」


 一言そういうと、この場を去っていく。

 後ろから見ると、普通の小学生ぐらいなんだが。


 言葉に毒が含まれすぎていて、年齢を間違っているのではと感じることがある。


「一応、あなたの働きには期待していますので、無様な結果にはなさらないようにお願いします」

「はっ……?」


 去り際に、こっちを見て何かを言ったのだが?

 俺の耳がおかしくなったのか?

 色々と進行して幻聴まで聞こえるようになったと?


 いや、俺の脳が必死に否定しているが確かに聞こえた。


 ありえん。


 マルテが──────────────デレただと!?


「で、では」

「………………」


 驚きのあまり、何も返せなかった。


 少し態度が軟化しただけとも言えるが、俺にとっては衝撃的過ぎるできごとだ。

 これまでの所業を考えれば恐怖しか感じない。


 そそくさとこの場を離れるマルテ。

 彼女の背中を、俺は言いようのない恐怖を感じながら見送った。


 *


 つづいての取り引き。

 取り引き相手はマグニール。

 コチラは、決闘後のために用意したい情報だ。


 今いるのは教室。

 気を利かせて、人目の付かない場所で取り引きをしようとしたのだが、俺の側の人間だと示したいと言われた。


 友情──と、いうわけではない。

 ヤツの家の都合で、どうもうちの親と縁を持ちたいらしい。


 うちの親は、どれだけの権力を持っているのだろうか?

 それを知ったら、平穏が遥か彼方であると気付くことになりそうで怖く、未だに確かめられずにいる。


「ほら」


 教室にて、マグニールから差しだされた白い用紙。

 この世界では、紙と言うのは希少とは言えない程度には普及している。

 もっとも、一定の資産がないのなら好き好んで紙を使ってのやり取りなど行わないが。


「さすがテンプレセットといった所だな。人数が多い」

「テンプレねー。ま、その呼び名はしっくりくるよな、アイツらには……」


 テンプレセット達の行いでも思い浮かべているのだろう。

 呆れを含んだ苦笑いを浮かべている。


 俺が受け取ったのは、マルヴィンの派閥に属するメンバーをまとめた表。

 コイツを使うことになれば好都合なのだが──まあ、俺とは違うタイプのバカがいるだろうから、使うことになるだろう。


「お前は、俺の側について良かったのか?」


 やはり、この点が気になる。

 マグニールとて、腐っても貴族だ。


 公爵家と敵対とまでは言わないが、公爵家の跡継ぎ候補と決闘する相手の側に着くのはマズイだろう。


「家の意向だ。剣聖と大魔導師のせがれと縁を作っておけってな」


 俺に恩を売っても、あの両親を考えるとメリットは薄いと思うのだが。

 なにせ子供をほったらかして、1年の大半を新婚旅行の続きと称してドコかに行っているからな。

 俺に恩を売っても、あの2人が気付くとは思えない。


「それにな、あの家と距離を少し置きたいっていう考えもあるようだ」


 なんとなく、マグニールが言おうとしていることが分かる。

 案の定、黒い部分があるのだろう。

 マルヴィンの家には──。


「あと、お前がケット・シーと深い繋がりがあることも分かっている」

「ほう……」

「怖い顔をするなよ。お前の都合に悪いことをするのなら、こんな情報を伏せるさ。だから俺なりの誠実さだと思ってもらえないかは?」


 顔に出ていたか。

 ケット・シーとの繋がりは隠しているつもりだったのだが──いや、マグニールの家が持つ情報網が優秀ということか。

 一体、どこまで俺について調べているのか気になる所だ。


 それにしても自分を誠実と称するか。

 100人以上の女子に告白した男が──────全滅したから許してやるが。


「まぁ、いいさ。この情報はありがたく使わせてもらう」

「そうしてくれ」


 満足げに頷くマグニール。

 だが、少し悔しい。


 コイツだけ、俺について知っている点が特に。

 なにか意趣返しを──


「そう言えば……」


 コイツに情報で勝つとしたらコレしかない。

 そう、コイツがいくら臨もうとも手に入らない物。

 それは──


「そう言えば、マルテがデレたぞ」

「マジか!!」


 とんでもない喰いつきぶりだ。

 やはり女子関連の情報は、コイツに効果てきめんだな。


 この歳でコレだと、将来は腐った貴族になりそうで怖いが。

 コイツなら、普通に腐るのではなく発酵した貴族になってくれるだろう。


 *


 さて、マルテがデレてから2日後。

 俺とラゼル、ついでにルートは再びベンチに集まっていた。

 だが、今回は先日よりも人数が多い。


「僕にも手伝わせて下さい」


 俺に頼みこんでいるのは、金髪蒼眼のイケメン君。

 人生の勝ち組であるイケメンに、頭を下げられるのは気分が良い物だな。


 このイケメン君はヒュージ。


 決闘に参加したいらしい。

 ルートが人数合わせのために連れてきたのだが、ちゃんと助っ人に入るリスクを伝えたのだろうか?


「俺らに手を貸すことのリスクは、分かっているのか?」

「ええ、ビューロー家や彼の派閥の方たちと、敵対することになるのは理解しています」


 イケメンは滅べばいいというのが本心だが、実際に滅んでもらっても困る。

 ましてや、俺に巻き込まれる形で家族もろともというのは尚更だ。


「なんか、アイツらに恨みでもあるのか?」

「………………ええ」


 しばらく沈黙した後、ヒュージは覚悟を決めたような目をしながら口を開いた。

 なんか、凄く嫌な予感がする。


「ビューロー家は、僕たちを没落させたのです」


 ルートに目を向けると軽く頷いた。

 どうやら彼女は、このことを知った上で連れてきたようだ。

 

「僕の父は、王宮で財務官をしていたのですが……上司の不正を見つけて訴えようとしたところ、濡れ衣を着せられて……」


 それって俺らが聞いて良いことではない気が──────俺は現在進行形で、厄介事に巻き込まれているのでは?


 ルートに抗議の意味を込めて、再び目を向ける。

 すると彼女の顔は青ざめ、目が泳ぎまくっていた。


(お前、ヒュージの事情を知らずに連れてきやがったな)


 コイツは、非平穏ひへいおんへの道連れにしてやろう。

 そう心を決めると、もう1人の非平穏への道連れ候補(ラゼル)へと目を向ける。


「………………」


 耳を押さえて、聞かないようにしていやがる!

 俺とルートだけ、厄介事の渦中に放り込む気か!!


 くそっ、耳を押さえてもイケメンなせいで憎みきれん。

 つい、”耳を抑えるラゼルくん、おちゃめさん♪”とか萌える女子を思い浮かべてしまったじゃないか。


 いや、今もっともムカつくのはヒュージだ。

 俺の心情などお構いなしに、話を続けていやがる。


「父の上司だった男は、ビューロー家に泣きつき僕の家を……ぅ」


 涙を堪えるのが限界になったのだろう。

 ヒュージの話は、ここで途切れた。


 俺も泣きたい。

 なんで、知りたくもない大人の汚さを聞かされたのだろう。

 平穏を求めているハズなのに──。


「親は今回のことを知っているのか?」


 知らないと言え! 知らないと言え! 知らないと言え!

 深く関わらなければ、今聞いたことをウヤムヤにすることが出来る!


「……いえ」


 ヒュージの言葉を聞き、心の中で拳を強く握りしめガッツポーズを作る。

 だが、ここは平静を装い話を進めた方がいいだろう。


「だったら、親に知らせてからにした方がいい。親に知らせて許可が降りたら参加してもらう」


 親が許可を下さないことを願いながら、あとは天に任せることにした。

 だが3日後、俺は自分の考えの浅さを見せつけられることになる。


『父も母も許可してくれました。それどころか頑張れと応援まで!』


 ヒュージは、憎たらしい程に爽やかな笑顔で参加できる旨を伝えてきやがった。


 何でも親からは──


 『すでに貴族として失う物は全てを失っているから、今さら子供の決闘によって目を付けられる程度は大した問題ではない』


 ──このようなことを言われたそうだ。


 それもそうだという感じではあるが、爽やかな笑顔がムカついた。


 だが、落ち込んでばかりもいられない。

 なにはともあれ、これで3人揃った。

 今は、決闘について考えよう。


 若干、現実逃避が混ざった発想のような気もするが──今は決闘について考える方が大切だ、そう言うことにしておこう。


 それに現実問題として、一つ困った問題が出ている。

 テンプレセットのデータは集めた。

 マルヴィンの派閥についても調べた。

 実力も俺らの方が間違いなく上。


 だがな────決闘が明日とはどういうことだ!

 ヒュージの参加決定が、よりにもよって決闘の前日とは!!


 俺は、なんであの場で参加を認めなかったんだ。

 明らかに訓練不足といえる状況で、決闘に臨むことになってしまった。


 この状況では、連携の訓練など出来るハズもなく選べる戦い方も限られてくる。


 だからこそ俺は選ばざる得なかった。

 熱いおとこが大好きな、古来から存在する脳筋戦術を!

 

 その戦術の名は、個別撃破(別名、力尽ちからずく)。


「ラゼルはマルヴィンを相手にして、ヒュージはディルク、俺はフローレンスを相手にする。倒すのが難しいと思ったら足止めを中心に行い、他のヤツが相手を倒して手を貸してくれるのを待つ。こんな感じでいいんじゃないか?」


 今さら連携の訓練を行っても、お互いの足を引っ張り合うだけだ。

 ならいっそのこと、連携など捨てて個人の技能で闘り合った方がマシだろう。


 俺だって必要な時はしっかりと考える。

 しかしラゼルは『クレスなのに、まともなことを言っている』などと呟いていた。


 このイケメンは、いつか禿げればいいと思う。

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