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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺は話し合った 『うぅ……酷いです』

 ──回想終わり。


 と、こんなわけで決闘騒ぎに巻き込まれたわけだ。


 人違いに気付かず、決闘を申し込むなど貴族というのは何と横暴なんだ!

 やはり俺は、平穏こそが1番だと再確認した。


 では、回想が終わった所で、イザベラに取り引きを持ちかけられた所に帰ろう。


 *


「決闘は、おんしらの勝ちは決まったようなものじゃが……少しだけ悪さをして欲しいんじゃよ」


 校長室でソファーに座って向かい合う俺とイザベラ。

 目の前に座るロリババアは、イタズラっぽい目で俺に訴えかけている。


 だが俺は分かる。

 あの瞳の奥で、イタズラでは済まない事を考えていることが。

 決して見た目がロリだからと言って、気軽に返事をしてはいけない。


 一歩間違えれば、これは悪魔との取引に── ? ──悪魔なら大丈夫か。倒したことあるし。


 いや、そういう話ではない。

 うかつに返事をするとヤバいという話だ。

 だが、取り引きというのなら、コチラへのメリットを用意するハズだ。

 とりあえず、話だけでも聞いてみようと思う。


「取り引きというのはなんだ」

「うむ、話が早くて助かるわい」


 桃銀髪のロリは、満足そうに頷いている。

 見た目だけなら、ロリが背伸びしているようにしか見えない。


(この姿に騙されて泣いたヤツも多いのだろうな)


 コイツの姿を見て孫や子供のように感じた男が、取り引き後に大泣きしている光景が目に浮かぶ。


 路上でorzのポーズをした男がシクシクと──あまりにも哀れな姿だ。

 同じ目に合わないように気を付けよう。


「若いのー。報酬としてワシに何をさせるか、夢中で考えおって」

「……それはお前の妄想にすぎないが、話が進まないからツッ込まんぞ。早く取引とやらの内容を教えてくれ」

「せっかちなヤツじゃ。慌てんでも据え膳は逃げんのにのう」

「お前のような据え膳が目の前にあったら、俺の方が逃げるがな」


 クソッ、思わずツッ込みを入れてしまった。

 セクハラ話をして、SLB(セクハラ・ロリババア)を喜ばせるのは悔しいというのに。


「いいから、話を進めろ」

「ふーむ。仕方ないのう」

「いや、仕方なくはないだろ。日はもう沈みかけており大半の生徒は帰っているんだぞ。校長なら生徒である俺を早く帰らせるように努力して欲しい」


 もう、校内に残っている生徒は数えるほどしかいないだろう。

 時間的に、お子様な俺は帰らねばならん時間だ。

 俺も、いいかげん帰りたい。


「そうじゃのう。人がいなくなったのなら、そろそろ良いか」

「別に大丈夫なんじゃないのか? この部屋には結界が張ってあるようだし」


 この校長室には結界が張ってある。

 過剰とも言えるほど強固な結界をな。

 国と戦争をしても、この部屋を占領するには時間がかかることだろう。


「おんしがそう思うのなら、ワシはマズイ状況かもしれんの」

「何がだ」

「ワシの知らぬ間に結界の術式が書き換えられておるんじゃよ。手順を踏めば、部屋の音を自由に聞けるようにな」


 イザベラは不満そうに表情を歪めている。

 彼女の言葉に周囲を探ってみると──


「……言われてみれば」


 ──これまで気付かなかったが、結界に余分な術式が書き込まれているのが分かった。


「おんしの目を欺ける程の者が、ワシの周りで動いておるということじゃ」

「面倒だな」


 数少ない俺の長所である魔法で、俺の目を欺くとはな。

 俺のアイディンティティ崩壊の危機だ。 


「まぁ、今は音を拾われてはおらんようじゃしな。本題に入るとしよう」

「ああ」


 ここまでコイツが話を引き延ばしたのは、情報を拾われるのを恐れたから──────などと、言うことはない。


 俺をからかっているうちに時間が過ぎてしまっただけなのだと思う。


 *


 イザベラの悪だくみに乗ることにした翌日、決闘の許可が下りた。

 その時、勝利後に何を相手に命じるのかお互いに確認し合ったのだが、少しうるさかった。


 テンプレセット側は、前日の双子以外の取り巻きもセットで来たのだがな。

 ヤツらが本当にうるさかった。


 退学しろとか、テンプレセットのとりまき共が騒いだんだ。

 なんというか、怒りを感じるよりもドン引きしたくなるような表情で。

 もっとも、体育教師の一睨みで黙らされたが。


 ふっ、根性のないヤツらめ。


 それはさておき、決闘の方式は3対3のチーム戦。

 向こうは、マルヴィンと双子がチームで出るらしい。


 だが、コチラは俺とラゼルの2人しか参加することを伝えられなかった。

 ラゼルに庇われていた、ルートという少女が出るのが道理なんだけどな。


 テンプレセットと決闘をすれば、色々なヤツから目を付けられるだろう。

 このことを考えると、ルートを出すわけにはいかない。

 あと、足手まといという理由もあるが──。


 そのような理由から、決闘に参加する最後の一人が決まらない。

 だから、この点をどうするか決めるため俺たちは翌日集まることにした。


 集まったのは、グランドから少し離れた位置にあるベンチの近く。

 この場所は、人通りも少なく話し合うにはもってこいの場所だ。


「すみません。私のために……」


 ベンチに座ると同時に、ルートが謝罪した。

 本当に申し訳なさそうにしている。


「いや、気にしなくていい。悪いのは全部ラゼルだ」

「なんでだよ!」


 ラゼルは俺の言葉に、全力で噛みついた。

 だが俺はハッキリと言っておきたい。


「お前が出なければ、ここまで大事おおごとにはならなかっただろ」

「うぐっ……」


 頭のどこかでは分かっていたのだろう。

 俺に対する反論が出来ず、喉を詰まらせた。


「い、いえ。私が……」

「いや。クレスの言うとおりだ。考えなしに俺が飛びでなければ、こんな事にはならなかった」


 チッ。素直に己の非を認めるとは──どこまでイケメンなんだ。

 俺の中で、ラゼルのイケメン度数が上がり放題ではないか。


「あと、クレスがアイツに悪さをしていなければ、こんな事にはならなかったんだ」

「俺は何もしていないぞ」


 まったく、人違いであそこまで怒るとはな。

 テンプレセットとは、心の狭いヤツの集まりなのかもしれない。

 迷惑な話だ。


「絶対に、お前が忘れているだけだ!」


 俺が嘘を吐いていると考えず、忘れるという言葉を使ったあたり、ラゼルは俺の頭を理解していると思える。

 だが人違いだ──多分。


「誰が悪いかは、決闘が終わってからにしよう。今は考えるべきことがある」

「あっ、ごまかした」


 ルートが何か言った。

 だが、最近上達しまくりのスルースキルで無視だ。


「そうだな。問題は……」

「あぁ、問題になるのは……」


 今回の件で、最も考えなければいけないことがある。

 それは──


「「勝った後、チョッカイを出してくるヤツらだな」」

「勝つことが前提ですか!!」


 意図せず声が重なった俺たちに、ルートが叫んだ。


「他に何を考えろっていうんだ」


 本当に、ルートは何を驚いているのだろう?

 

「マルヴィン様たちは、上級生で成績もトップで……」

「と、言ってもなー」

「あぁ、所詮はな」


 目が合うと、同じ想いを共有していることを理解出来た。

 一瞬、かつて見たシルヴィアやコーネリアのキラキラした瞳が脳裏をよぎったが、それは今は関係ないと思う。

 少し不愉快になったが。


 話を戻そう。


 テンプレセット共の中には、上級生で成績がトップのヤツも多くいる。

 マルヴィンも貴族として舐められないために、剣術や魔法を学んでいるようだ。

 でもな、所詮は子供だ。


 圧倒的に経験も、鍛える時間も足りない。

 それに貴族故に、危険な環境での訓練など行えるハズがない。


 対してコチラはどうか?

 俺には前世から溜めこんだ経験やチートがあるし、ラゼルはガリウス監修の地獄の訓練を耐え抜いた実績がある。

 

 正面からぶつかり合えば、コチラが有利なのは言うまでもないだろう。


 だが問題もある。

 それは──


「問題は、あと1人だな」


 ラゼルの言った通り、あと1人が見つからない。

 俺ら2人だけでも勝てるだろう。

 だが相手が納得しない可能性が高い。


 俺らが勝ってから、”2人を相手にしたから手を抜いた”などと言われかねない。

 このような事態になれば、遺恨を残しかねないからな。

 できることなら、あと1人を見つけたい。


「私も出ます」

「却下」

「考える間もなく却下された!!」


 この調子でルートは、決闘に参加しようとしてくる。

 だが足手まといだ。


「俺もクレスに賛成だ」

「えっ、戦力外通告のダメ押しですか!!!!」


 ラゼルも分かっているようだな。


「うぅ……酷いです」


 残酷な現実ではあるが、受け止めてくれ。

 俺に説得など不可能だ。

 だから納得してもらえねば、ラゼルがお前の説得に苦労することになるからな。


「どうせ私なんて顔も地味ですし、勉強も普通ですし、実技も普通ですし、全部普通で個性が全くないなんて言われますけど。私なりに頑張っているんですよ。それで普通なんですから、救いがないっていうことじゃないですか。それは、成績がトップのお二人には敵わないかもしれませんよ。でも戦力外通告をのダメ押しなんて酷いじゃないですか。私だってね……」


 まぁ、足手まといというのは冗談だ。

 人数合わせだけを考えるのなら、決闘会場の隅で盾でも構えて丸くなってくれるだけでも十分役に立つ。

 ルートを参加させられないのは、実力の問題ではない。


「決闘に参加すると、貴族連中に目を付けられるって分かっているのか? それもお前だけじゃなくて親も商売をしにくくなると思うぞ」


 今回の決闘は、この点が大きな問題なんだ。

 あのテンプレセットと取り巻きは、今回の件で間違いなく俺らに目を付けた。


 ヤツらが手を出してくるかは分からない。

 だが、それでも危険だ。


 アイツらが、どう動くかは分からない。

 動かない可能性も十分にある。


 でもな、問題はアイツの周りにいるヤツらだな。

 あの双子ではなく、ヤツの派閥にいる連中だ。


 特に決闘の許可が下りた時に騒いでいた連中。

 あの様子を見る限り、嫌がらせなりバカなことをするヤツがいてもおかしくはない。


「お前が決闘に参加すれば、親父さんは目を付けられるぞ。アイツらが手を出すかは分からない。でもな、マルヴィンに気にいられたいヤツは山ほどいるんだ。公爵家に好かれるためなら、平民ごとき……ってな」


 と、言ったのはラゼルだ。

 俺の代わりに物を言ってくれるから助かる。

 賢い10歳児だ──俺と一緒にいたせいで、しっかりせざる得なかったという事はないよな?


「よかった。戦力外通告じゃ……なかったんですか」

「いや、足手まといなのは確かだ」

「断言された!!」


 やはりルートは、ツッ込み体質なのかもしれない。


 貴重な戦力になりそうだ。

 ツッ込みコチラ方面では──。


 *


 あれからルートは、再びイジけた。

 普段は俺がイジられるポジションだから、イジレル側にいるのは新鮮だ。


「今回の決闘は、事後処理の方が大変になるんだ。だからルートには、そっちで頑張ってもらいたい」


 ルートを決闘に参加させない理由は、ラゼルが説明してくれた。

 俺もこれからは、足手まといだからと言うのはやめておこう。

 変わりに面倒だからという事にする。


「事後処理と、言いますと?」

「ちょっと待ってろよ…………あった」


 アイテムBOXから一枚の紙を取り出した。


「まず、決闘の許可が降りたら会場に1人でも多く観客を集めて欲しい」

「なんのためにか、聞いても?」

「えぇーと……これだな」


 わりと大きめの紙から、回答を探し当てた俺は音読を始める。


「決闘の結果を見届ける人間が多く欲しいからだ。決闘の結果を無視すれば、多くの人間がマルヴィンの家に悪い印象を抱くだろうからな。そうなれば、派閥の連中が俺らに悪さをすればマルヴィンが動かざる得ないハズだ(棒読み)」

「それでも動く人はいると思いますが」

「フッ……(メモ通りの演技)」

「うわっ、ドス黒い笑顔!!」


 この演技で合っていたようだ。

 実際、愚者が動いてくれれば見せしめにできるから、むしろありがたいとすら言える。


「で、あとはアイツらの戦い方に関する情報収集と、それと連絡だな(棒読み)」

「情報収集は分かりますが、連絡というのは?」

「俺が今から言うヤツらに、しばらく俺とラゼルに近付かないように伝えて欲しい。それと、後で手紙を届けてもらうことになると思う(棒読み)」


 以上が、イザベラが俺に書かせた計画の内容でした──と。

 字が汚いと笑われたのは、いい思い出だ。


「ところで、それはなんだ?」

カンニング・ペーパー(カンペ)


 ようやく、俺が手にした紙きれにツッ込みを入れてくれたのは、ラゼルだった。

 一時はルートはツッ込み体質なのではと期待したのだが──残念だ。


 今後もツッ込みは、ラゼルに期待しよう。

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