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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺は巻き込まれた 『あのな……』

クレスは、食堂でのできごとを完全に忘れています。


食堂での出来事

⇒俺はテンプレセットを見かけた 『なんだい?』

 日中の廊下に出来た人だかり。

 そこではラゼルが女の子を庇う形で、テンプレセットと対峙していた。


 ──このイケメンが!


 その後、なんだかんだあった。

 で、現在俺はテンプレセットに目を付けられている。


 *


 子どもが浮かべてはいけない笑顔を見せているマルヴィン。


 この歳で、このような迫力ある笑顔を作れるとはな。

 テンプレセットの1人として騎士学校を牛耳っているだけはある。


(さて、人違いで恨まれているようだがどうやって誤解を解こうか?)


 コイツは、俺に恨みがあるようだ。

 だが──平穏な生活を望む俺が何かするハズなんてない!


 なんとかしてテンプレセットの誤解を解きたい。


 誤解を解く良い手段がないか考えてみる。

 深く考えてみる。


 ………………

 …………

 ……


 更に考えてみる。


 ………………

 …………

 ………


 更に一層、考えてみる。


 ………………

 …………

 ………


 俺の頭に、良い案を要求すること自体が間違いだった。

 

(諦めよう)


 己の限界にぶつかり、俺は壁を乗り越えるのをやめた。

 人はこうして、自分の天井を知り大人になってゆくのだろう。


「………………」


 イザベラがコッチを見て、何かを言いたそうにしている。

 また顔に考えが出ていたのかもしれない。


 だが今の俺は、語るべき言葉など持ち合わせてはいない。

 銀髪少女の冷たい視線が少し辛いが、気付かないフリをしよう。


(俺は道端の石コロだ。石コロなんだ。ジッとしていろ)


 自分に石コロだと言い聞かせてひたすら待つ。

 ロリ校長が何とかしてくれるのを待って。


 だがこの状況を最初に動かしたのは、校長ではなかった。

 行動を起こしたのは、子どもとは思えない笑みを浮かべていたマルヴィン。

 どうやら狂気から解放されたようだ。


「イザベラ校長。ソイツの処分をして頂けますか?」


 いや、未だに狂気に捕われたままだった。

 それにしても最初の一言が、俺の処分とはな。

 人違いに気付いていないとはいえ、なんとも恐ろしいヤツだ。


「処分とな?」

「ええ、不敬罪の……それも公爵家への」


 マルヴィンの言葉を聞いて、イザベラはあからさまに呆れた表情になった。


 ロリババアの呆れ顔。

 一見するとロリっぽいが、年寄り臭さを表情の奥から感じる。

 そのせいか残念臭が微妙に──。


(あっ、こっちを睨んだ)


 そっと目を背けて、目を合わせないようにしておいた。


 勘のいいヤツめ。これも年の甲というヤツか。

 俺も前世と合わせれば年は近いハズだが、年の甲らしきものは一切見られない。

 何が原因なのだろう? 


「何をワケの分からんことを」


 一睨みしたイザベラは、何ごともなかったように会話を続ける。

 ふむ、俺に使ったスルースキルを目の当たりにして、初めてヤツに校長らしさを感じたな。


「ワケが分からないとは?」

「この学校では、生まれによる差別を禁止しとるからのう。不敬罪を生徒同士のイザコザに適用するなど、あってはならんのじゃよ」


 次に表情を崩したのはマルヴィンだった。

 一応貴族なんだから、ポーカーフェイスぐらい徹底した方がいいぞ。

 この国に生きるものとして、国の未来が心配になるから。


「でしたら、校則を変更なされることをお勧めしますよ。貴族との関わり方を知らぬ生徒が多すぎますから」

「貴族の子息や令嬢こそ平民との関わり方を学ぶべきじゃとワシは思うが?」


 さっきからイザベラの対応が、明らかに貴族に対する物ではない。

 裏で色々とやっているから、強気になれるのだろう。


「校長……ご自分の身を大切になされた方がいい。なにせ私は……」

「その先を言いたくば、覚悟を持つことじゃ。家名を持ちだすのなら、おんしの発言はビューロー家の言葉として受け止めざるえんからのう」


 安穏あんのんな物言いではあったが、イザベラの瞳の奥には鋭い何かが光っている。

 バカガキ相手とはいえ、子どもに向けて良い目付きじゃぁない。

 少しだが、マルヴィンが青褪あおざめている。


 さすが我らがイザベラちゃん。

 睨みつけた瞳の冷たさが半端じゃぁない。


「と、とにかく、ソイツの処分をお願いしたい」

「だから、さっきから言っとるじゃろ。不敬罪などこの学校には存在しないと」


 イザベラは、少しイラついているようだ。

 俺がつまらないイザコザに巻き込まれたから──ではないな。

 テンプレセットは、日頃から色々とやっているからその影響だろう。


 特権意識の塊みたないヤツらだからな。

 普段から、色々とやらかしている。


 ぜひ、将来の黒歴史を今のうちに積み重ねて欲しいものだ。


 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 イザベラはどのような形でこの場を納めるつもりなのだろうか?


 場合によっては、禍根を残しかねない。


 特権意識の塊であるマルヴィンが、引き下がることはないだろう。

 かといって、俺やラゼルが処分されるいわれもないし、イザベラもそのつもりはないハズだ。


 現状を見る限り、この場は平行線で終わる可能性が高い。

 だが落とし所がなければ、マルヴィンの派閥に俺が睨まれることになる。


(さて、どうするべきか?)


 頭脳労働は苦手だが、今回ばかりは俺の脳が持つ潜在能力に期待する。


 俺は深い思考に没頭しようとした。

 だが、そのとき動いた者がいた。


 残念だ。

 珍しく頭脳労働を人並みに行おうとしたのに。


 だが仕方がない。

 ここは素直に引き下がることにしよう。


「では処罰の代わりに、決闘の許可を頂けませんか?」


 動いたのは、フローレンス。


 女帝と称するべき貫禄を持って、イザベラに提案した。

 コイツ何歳だ? と、思わずツッ込みを入れたくなる圧倒的な存在感。


 マルヴィンのヤツ、将来はてのひらの上で転がされることになるだろう──南無なむ


「ほう、こやつと決闘をのう」


 この学校では生徒同士のイザコザを、決闘で片を付けるという脳筋な伝統がある。


 貴族と平民が同じ場所で生活をするんだ。

 色々とトラブルもある。


 だから分かりやすい形で決着がつく、決闘という制度は都合が良い物だったのだろう。


 決闘で明確な決着がつけば、貴族であろうとも悪さを行うことはできなくなる。

 下手に手を出せば、貴族が決闘の結果を軽んじたと悪評が立つからな。


 ちなみにこの決闘だが、勝った方は負けた方に命令できる。

 もちろん学校が仲介する以上は、一定の制限はある。

 テンプレセットの取り巻きは、その命令権を罰に使おうと考えたのだろう。


 だが──


(面倒なことになりそうだ)


 ──そう、内心で溜息を吐きたくなる状況だ。


 今の校長と女帝の笑顔を見れば、誰でも俺と同じ心情に至ると思う。


 2人はとても爽やかな笑顔で向かい合っている。


 でもな、黒いオーラが立ち昇っている幻覚が見えるんだ。

 

 魔法を使っているわけでもなく、俺の目がおかしくなったわけでもない。

 野次馬どもも、俺と同じ何かが見えているのだろう。

 本能的な危険を感じたのか、警戒心を顕わにしている。


「まあ、決闘の許可を出せるかは、運営委員会が決めることじゃが……ワシの方から届け出があったことを伝えておこう」

「ありがとうございます」 


 清々しいまでに爽やかな笑顔の2人からは、未だに黒いオーラが立ち昇っている。

 これほどの邪念を抱きながらも、爽やかな笑顔を作れるとは──女性とは恐ろしい存在だ。


(なにを企んでいるんだ)


 黒いオーラを放つ2人。

 どちらからも、恐ろしい何かを感じる。


 だが俺の感じている恐怖の大半は、イザベラが原因だ。


 コイツは、絶対に俺を利用しようとしている。


 どのようなことに俺は利用されるのだろうか?

 それはまだ分からない。

 

 恐らくは、他のテンプレセットへの牽制か何かだと思うが。

 その程度であって欲しい。


 でもな、このとき思い出してしまったんだ。

 かつてロリババアが発した言葉を。


『猫ババじゃ!』


 ※俺は手紙を渡した 『ラブレターか?』参照


(まさかな……)


 途方もなく嫌な予感がする。

 この決闘を、学校の不正捜査に利用しようとかしていないよな?


(いや、あるはずがない)


 相手が公爵家と言っても、所詮は生徒同士の決闘だ。

 命のやり取りではないのだから、学校への影響力など無いに等しい。

 せいぜい、しばらく噂になる程度のハズだ。


(生徒同士のイザコザに、大人の世界を持ちこむなんてことはないよな)


 俺は頭をよぎった嫌な予感を、必死に振り払う。


 だが元大勇者の勘は、警報を鳴りやませる気はないようだ。

 悪い可能性を否定している間にも、嫌な予感はどんどん大きくなっていく。


「なぁ……」

「決闘の許可が降り次第、委細は伝える。今は教室に戻れ。次の授業が始まるからのう」


 俺の発言は見事にブった切られた。

 わざと──だよな。やっぱり。

 イザベラのヤツ、俺に発言させないつもりだ。


 この時点で俺の嫌な予感は確信に変わった。

 絶対に俺を利用するつもりだ。


「あのさ……」

「決闘の日を楽しみにしていろ」


 今度はマルヴィンに話をブッた切られた。


「だから……」

「お前こそ、足元をすくわれないように気をつけるんだな」


 次に話をブッた切ったのはラゼル。

 お前、実はマルヴィンと相性がいいんじゃないか?

 俺の話を遮ることに、見事な連携を見せているのだが。


「あのな……」

「ほれ、早く教室に戻れ。もう授業が始まる時間じゃぞ」


 最後に話を話をブッた切ったのは、イザベラだった。

 コイツだけは確信犯だと分かる。

 顔は笑っているが、頭の中では悪だくみをシミュレートしていることだろう。


 俺がどのような行動に出ようとも、全てを封殺する自信をコイツからは感じる。

 何を言おうとも発言は潰されるだろうし、行動を起こせば先回りをされる気がしてならない。

 だったら俺に出来ることは──


(準備をするか)


 ──決闘の準備を始めることにした。


 決闘に勝つことよりも、イザベラの悪だくみを躱す方がよっぽと難しい。

 だったら悪だくみを躱すことにかける労力を、決闘に向けた方が建設的というものだ。


 こうして、俺は決闘騒ぎに巻き込まれてしまった。

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