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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺は運ぶ 『あぁ……です』

「決闘は、おんしらの勝ちは決まったようなものじゃが……少しだけ悪さをして欲しいんじゃよ」


 ニヤリと口元を歪ませるイザベラ。

 彼女の言う決闘が何を意味するのか──それを語るため、時間を少しさかのぼることにしよう。


 あれは3日前のことだ。

 その日も、トランプでボロ負けした俺は、イザベラのお手伝いをさせれていた。


 廊下を歩く俺は、数本の黒い枝を抱えていた。

 今回のお手伝いは、コイツをイザベラの下に運ぶという物。


 ゲームで負けたのだから、手伝いをさせられるのは構わない。

 だがな──


「こんな物を未成年に運ばせるなよ……」


 運んでいるのは、呪木という木の枝。

 危険ではないが使用用途がアレなため、表に出ることのない品だ。


 その用途は、男性機能の改善や、夫婦の夜を燃えあがらせる薬など……。

 下半身的な使い道しか存在しない。


 周囲の目が気になる。

 自意識過剰になっているのだろうか?


 女子生徒が目を背けた気がする。

 男子生徒が鼻で笑った気がする。


 普段は気にしないような生徒達の仕草。

 今日はその一つ一つが、俺に向けられているような気がしてならない。


(早めに運び終えることにしよう)


 早く校長室に着くため、歩くペースを少し上げた。

 だがしばらく歩いた所で、俺の足は1人の少女によって止められることになる。


「なにやってんの?」


 廊下を歩く俺に向けられた声。

 それは赤髪の少女、ブリットからの物だった。


「校長のお手伝いだ」

「それは?」


 目を輝かせて、俺が抱える木材を見ている。

 呪木の用途を考えると、無垢な少女にイケナイことをしている気分になるな──いや、イカンイカン。


 変な妄想に駆られる前に、話を打ち切ることにしよう。


「さあな。薬の材料にするとか言っていたが、詳しくは聞いていない」


 実際は、コイツでどんな薬を作れるかを俺は知っている。

 だからイザベラが、詳しく俺に説明する必要がなかっただけではあるが。

 まあ、詳しく聞いていなという点では、嘘にはならないだろう。


「ふ~ん……少し貸しなよ」

「?」

「運ぶの手伝ってあげる」


 誰かに優しくされたのが、すごく久しぶりな気がする。

 凄く嬉しい。今にも涙腺が決壊しそうなほどだ。

 だが、この呪木をブリットに持たせるわけにはいかない。


 人生の中で、数えるほどしか向けられたことがない人の善意。

 それを無碍にするのは悲しいが、純粋な少女である彼女にコレを持たせるわけにはいかない。


 ますますイケナイことをしている気分になってしまうからな──絶対に!


「あ~大丈夫だ。校長室は遠くないからな」


 泣く泣く親切を断ることにした。

 でもな、その優しさだけで十分に俺の心は救われた。

 ありがとうブリット。お前の親切心で荒んだ俺の心は救われたよ。


「なにか隠していない?」


 また顔に出ていたか!

 だが今ならごまかせる!

 そんな気がしなくもないけど、たぶん勘違いだ。

 だが俺は勘違いでないと信じたい。


「そんなことはないぞ」

「本当に~?」


 ニヤニヤしながら、ブリットは俺の顔を覗きこんだ。

 目が合いそうになり、思わず目を背けたのがいけなかったのだろうか?

 一瞬、彼女の目が鋭くなったように感じると──


「スキあり!」

「甘い!」


 俺が手にした呪木の一本を抜き取ろうとした。

 だが俺とて前世かこには大勇者と呼ばれていた男だ。

 この程度の奇襲など容易く凌いでみ──あっ。


 カラン、カランと音を立てながら呪木が廊下に散らばった。

 ブリットの攻撃をかわすのに、勢いを付け過ぎたようだ。


「あ~あ。やっちゃったね~」


 廊下に響いた、虚しさを感じる音。

 なんか俺の気持ちまで沈んでしまった。


「はぁー。この木に興味があるのなら、校長に聞いてくれ」


 気分の低下により、自分を冷静に観察してしまう。

 するとブリットの手を借りまいと、一生懸命だった自分がバカらしく思えた。


(なにやってんだ俺?)


 己の行為を振り返ると、ここまで一生懸命になる必要はなかった気がする。

 それでも俺の口から、呪木について語るのは避けたい。


 俺は羞恥心があるが、イザベラなら大丈夫だ。

 だが、SLB(セクハラ・ロリババア)なら喜んで説明することだろう。


校長先生イザベラちゃんって、滅多に会えないじゃない」

「イザベラちゃん!?」


 あのSLBセクハラ・ロリババアを"ちゃん"付けとは──。


「イザベラちゃんって私達と年が近いじゃない。だから校長先生じゃなくて、イザベラちゃんって呼ぶ子が多いよ」

「……あいつの年齢って知っているか?」

「私たちよりも少し年上ぐらいでしょ」


 どうやら知らないようだ。

 ヤツが、130年以上前に成人した女性だったことを。


「違うの?」

「俺も詳しい年齢は知らないから、聞いてみただけだ」


 女性というのは、20歳を過ぎたら年を取らなくなるらしいからな。

 だからきっとヤツは、20歳の扱いで良いハズだ。

 うん、そうだ。きっとそうだ。


「イザベラ……ちゃんっていう呼び方は、はやっているのか?」

「周りの子もそう呼んでいるし、先輩も呼んでいたから、はやっているんじゃないかな」


 イザベラの性格を考えると、”ちゃん”付けで呼んだら喜びそうだ。

 まさかとは思うが、自分で広めたなんて言うことは──十分に考えられる所がアイツの怖い所だ。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 これ以上、アイツのことを考えるのはやめよう。

 前世むかしのアイツとのギャップが激し過ぎて、頭が痛くなってきた。


 *


 呪木を校長室の前まで運んだ。

 両手がふさがっていた俺は、ブリットにノックをしてもらう。

 返事はノックのあと、すぐに返ってきた。


「入ってよいぞ」


 イザベラの声だ。

 すぐに返事をかえしたということは、よほど暇だったのだろう。

 この暇人め!


「持ってき……ました」


 いつも通り敬語無しで! と、いうわけにはいかない。

 なにせ後ろにはブリットがいるのだから。

 さすがに校長相手にタメ口だと、色々と勘繰られてしまう。


「ご苦労じゃったな。そっちは、ブリットじゃったか?」


 俺の背後に立つブリッドに気付いたようだ。

 だが、まさか名前を知っているとは──まさか生徒の名前を全て覚えているなんてことは?


 コイツならあり得るが、深く追求したら頭の出来が違うことを突き付けられそうだ。


「は、はい! ……です」


 珍しくブリッドが緊張している。

 普段のいのししみたいな性格を知っているからな。

 レアな光景を見たようで、少しお得感がある。


「お主もご苦労じゃったな」

「いえ、私はなにもしていない! ……です」

「緊張せずともよいぞ。気軽にイザベラちゃんと呼んでくれさえすればな」


 やはり、本人コイツが”ちゃん”付けをはやらせているのではなかろうか?

 今の発言で、俺の中に渦巻いていた疑惑が一層深まってしまった。


「さすがにそれは~……です」


 無理矢理”です”と付けて、言葉を敬語にしようとしているが、もはやボロが出尽くしてボロの塊と化している。


 ブリットを助けてやりたいが、俺には敬語について語る資格すらない。

 頑張れブリット。俺は見守るだけだ。


「では、呪木はコッチの部屋に運んでくれ」

「ああ……です」


 ──うつってしまった。


 *


 校長室の隣には、ガラスで作られたかのような様々な実験器具がおかれている。

 ここで日々魔法の研究をしているのだろう。


 だが一つ気になることがある。

 それは天井だ。

 なんか焦げ目が付いている。


(この上って、教室だったよな?)


 イザベラの研究に関して、前世の記憶を引っ張り出してみる。

 思い出されるのは、鮮やかな閃光と、大地を揺るがすかのような轟音──すなわち爆発。


「………………」


 天井に着いた焦げ目が、不吉な未来を俺に伝えているようだ。

 周囲の壁には結界が施されているが──後で補強しておいた方が良いかもしれない。


「クレスよ。乙女の部屋をジロジロ見つめんでくれんか」

「あ、あぁ……です」


 未来の恐れおののく俺の口から、ブリット式偽敬語が出てしまった。

 本格的に感染し始めたのかもしれない。


「下着を探しとるのなら、履いているのを見せてやろう」

「断る! ……です」


 口かられ続けるブリット式偽敬語。

 恐ろしい感染力だ。


「そこの木箱に放りこんでおいてくれんか」

「わかった……です」


 普段通りの言葉が出てしまったが、ブリット式敬語でごまかせた──案外便利だな。


 流行り病のごとき感染力を持ちながら、敬語の失敗を誤魔化すことにも使える。

 ブリット式敬語恐るべし……です。


 とりあえず、呪木を指示された木箱に放り込んだ。

 危ない素材でもないし、適当に扱っても大丈夫だろう。

 だから、少しだけヒビは入ったが大丈夫なハズだ。


「呪木については、校長に聞いてくれ」

「ちょっと!」

「じゃあな」


 ヒビ割れが発見される前に脱出しよう。

 こうして俺は、ブリットを置き去りにして校長室から脱出した。


 当然、翌日の教室では──


「なんていうことを、イザベラちゃんに聞かせるのよ!!」


 ──叱られてしまった。


 と、まあ無駄話はここまでだ。

 問題が起こったのは、俺がブリットに叱られた日の昼休み。

 俺は廊下を歩いていたのだが、先の方に人が立ち止まっていたんだ。


 まばらな人だかり。

 その先からは、聞き馴染のある声が辺りに響いていた。

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