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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第2章 凄い勇者は権力と戦う
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俺はロリババアとババ抜きをした 『むっふっふっふ』

 赤い絨毯が敷かれた校長室。

 そこで繰り広げられていた、俺とイザベラの激しい攻防が終わりを迎えようとしていた。


「くっ」

「むっふっふ、お主は弱いのう」


 トランプで勝利した銀髪少女風ロリババアことイザベラは、憎たらしい笑みを浮かべている。


「くっくっく、考えが顔に出やすいのは、昔から変わらんか」

「そんなに出ていたか?」

「ババにワシが触れた時、期待に目を輝かせておったぞ」


 そこまで顔に出ていたのか。

 ちなみに、やっていたのはババ抜き──ロリババアとババ抜きを! というわけだ。


「はぁ……こういうのは苦手だ」

「溜め息なんて吐いとると、幸せが逃げるぞ」

「幸せが逃げたのなら、また捕まえればいいさ」

「おお、カッコいい。さすが元大勇者。言うことが違う」


 抑揚のない声での称賛。

 自分の行動に冷静な対応をされると、己の行為を客観的に見られる。

 そのせいか、すっかり冷静になってしまった。


 現に、少し自分のセリフに酔っていた俺は、もの凄く恥ずかしいことを言ってしまったと後悔している。


「……今、自分のセリフに思いっきり後悔している」

「ふっふっふ。恥なんて若いうちにいくらでもしておけ。年をとってからの恥は、取り返しのつかんことも多いからの」

「おお、さすがイザベラ校長。偉大なるあなた様からの人生の訓示、恐れ入ります」


 俺もやり返してみた。


「もっと褒めてもよいぞ。いくら称えても足りぬ位に、わしは偉大じゃからのう」


 イザベラの表情からは、全くダメージを感じられない。

 それどころか喜んでさえいる。


 これが年の甲というものか。

 大人の余裕を見せつけられたようで、なんか悔しい。


 うん?

 前世の年齢を考えれば、それほど変わらないんじゃぁ──気のせいだよな。


「時間も時間じゃし、あと一戦してお開きという形でどうじゃ?」

「そうだな」


 いつの間にかトランプを切り終えていたイザベラ。

 彼女の言うとおり、壁の時計はお子様が帰らねばならない時間を指している。

 これが最後の一戦になるのだろう。

 配られたトランプを見る目にも、自然と力が入ってしまう。


「顔に出ておるぞ」

「演技かもな」

「その言葉がブラフだということも、顔に出ておるぞ」

「マジか!」


 それって誤魔化すことすら出来ないっていうことだよな。

 ヤバい、何とか感情を隠そうとするほど顔がムズムズする。

 

「むっふっふっふ」


 いや、俺が動揺させようとする策略かもしれん。

 ここは平常心だ。氷のように冷たい心を持て、俺!


「時間も押しとるし、ゲームをしながらワシの質問に答えてもらおうかのう?」

「質問? ああ、聖鍵のことか」


 ババ抜きをするにあたり、イザベラとは賭けをしていた。

 3回ゲームを行い、1度負けるたびに言うことを聞くというルールでだ。

 コイツの場合、セクハラまがいのことを命令してきそうで怖かったから、あらかじめ何を命令するかはお互いに確認しておいた。


「魔王の使いが嗅ぎまわっているようでのう。厄介ごとじゃろうから、聖鍵が何なのか教えてもらいたいんじゃよ」


 俺としても、聖鍵について教えるのは別にかまわない。

 イザというときに協力してもらえるだろうから、コイツになら教えておいた方が良いとすら思う。


「約束だから教えはするが、情報の扱いには気を付けてくれよ」

「もとより、無駄に情報を流す気などあらんよ」


 コイツは一見しただけでは信用できない。

 だが実際に接してみると、本当に信用ができないことが分かるヤツだ。


 もっともそれは、どうでも良いことに関してだけではある。

 真面目な話には、真剣に向き合おうとする──と、思う。

 だから多少なら、聖鍵について教えてもいいハズだ。


「そうだな。聖鍵について話すのなら、概念結界について知っておいてもらわなければならないが……概念結界のことは覚えているか?」

「当然じゃ、あの結界を貼るのには、ワシも協力したのじゃからな」


 概念結界。

 それは前世に置いて、数百名の魔導士を集めて張った結界。

 俺がこの世界から去る前に、最後の仕事として残した結界だ。

 ある意味、概念結界もスバルの遺産と呼んで良いかもしれないな。


「アレを貼った目的は覚えているか?」

「魔王や悪魔のオーバーロードを維持できる時間と、ヤツらの能力に制限を掛けることじゃったかのう」

「そうだ。もっとも、反動として勇者の覚醒状態の維持時間にも制限が付いたし、極大魔法が事実上使えなくもなったがな」


 極大魔法。

 それは最高威力を誇る魔法のことだ。

 もっとも、悪魔なんかの障壁が強力すぎて貫けなかったりと、案外役立たずな魔法だった。

 だから極大魔法が使えなくなっても、困る人間が少なかったという悲しい裏話がある。


「ほう、概念結界について確認するということは、聖鍵というのは……」

「想像している通りだ。聖鍵は概念結界を操作するのに必要だ」


 ここまで話した所で、イザベラの目が輝いたように感じられた。

 何か鋭い指摘がくる! そう思いきや──


「なるほどのう……あがりじゃ」

「くっ」


 ──ババ抜きで勝利したという合図だった。

 話すことに夢中になって、表情を隠すのを忘れていたせいか、これまで以上に早く決着がついた。


「これでワシの3連勝じゃな」

「わかっている。賭けにお前が勝ったら、質問2つに答えることと、お手伝いをするだったな」

「ほう、ちゃんと覚えておるではないか。生まれ変わって少しは記憶力が向上したのではないか?」

「俺を侮り過ぎだ」


 この程度の記憶力なら前世からあったさ──多分。


「話の続きをするぞ」

「うむ」


 えーと、なんだったっけ?

 話が逸れて、内容を思い出せない。


「………………」

「………………」


 空気が重い。

 ああ、そうだ。聖鍵だ!


「で、聖鍵っていうのはな、概念結界を操作をすることができる訳なんだがな、色々な使い方が出来るんだ」

「魔王に掛った制約を解いたりか?」


 先ほどの沈黙は、無かったことにしてくれたらしい。

 見かけは少女だが、中身は歳を喰っているだけある。

 これぞ年の甲。


「それをやれば勇者側の制約も解かれるが、もちろん可能だ。ただな他にも特別な使用方法が、概念結界にはあるんだ」


 魔王側に、概念結界の制約に引っかかる存在が生まれたのなら、魔王自身の制約を解こうとしている可能性が高いだろうな。


「聖鍵を使うことによって、大精霊や神に制約を課すことができるんだ」

「役に立たん機能じゃのう」

「世界を巻き込んで自殺しないヤツには、重宝されそうだがな」


 大精霊は、魔力やマナの流れを整えるという仕事をしている。

 だから大精霊の力が弱まれば、マナの流れが狂い生態系がおかしくなるだろう。

 神の方は、人間社会なんかへの影響が出るだろう


「聖鍵はおんしが持っておるのか?」

「いや、俺は持っていない。それどころか、持っているとか以前にどこにも存在しない」

「ふぅむ。聖鍵の話が、何かを隠すためのデマ……と、いうこともなさそうじゃのう」


 聖鍵を隠すために、色々なデマを広めはした。

 だが聖鍵は実在する。 


「降参か?」

「競っているつもりはなかったのじゃが……よい、ワシの負けじゃ。降参するから答えを教えてもらえんか」


 ババ抜きで3連敗したからな。

 これで少しは憂さが晴れた。


「聖鍵っていうのは、概念結界に干渉する儀式を行うことで作れるんだよ」

「ほう、概念結界アレを張るとき、そんな話は聞いていなかったのじゃがな。それには理由があるのか?」

「あんな危険な物は、誰の手にも渡らない方がいいからな。作り方は伏せさせてもらった。それに、必要になれば気付けるようにヒントは残したぞ」

「必要になるとは、どういうことじゃ」

「さっき言っただろ……」


 初めての『仕方ないから教えてあげよう』的なポジション。

 このとき、俺の心には熱い物が込み上げていた。


「……大精霊や神と戦う時だ」

「戦う可能性など……いや、外側のヤツらか」

「そうだ。この世界の大精霊や神が大人しくても、外側には悪どいヤツらもいるからな。ああいうヤツらは概念に強く縛られていると、前世むかし言ったはずだぞ」


 もっと感心してくれ。

 この優越感、クセになりそうだ。


「あぁ、そうじゃクレス。優越感がおんしの顔に出ておるから、こっちは笑いを堪えるのが大変じゃ。少し控えてもらえんか」

「……すまん」


 反撃されてテンションは急下降だ。

 くそっ、調子ずいていたぶん、恥ずかしさまで感じる


「むっふっふっふ。どうしたんじゃ? 顔色が優れんようじゃが」

「ほうっておけ!!」


 これ以上、俺の羞恥心を突つかないでくれ。

 恥ずかし過ぎる。


「聖鍵については、こんなものでよいじゃろう。どうせ、聖鍵の作り方を訊ねても話さんじゃろうしの」

「あぁ、絶対に話さん」

「そう意固地になるな。そんな顔もプリチーなだけじゃぞ」

「男にプリチーとか言うな!」


 こいつ、的確に俺の羞恥心を()つきに来やがる。

 

「いやいや、子どもの内は男児もプリチーぐらいがちょうどよいぞ。おんしなら女児の恰好をしても似合うじゃろう」

「………………」


 ああ、確かに似合うだろうさ。

 クレアとして冒険者をしている俺には、変なファンが付いているほどだからな。


「この話は終わりだ。次だ次!」

「ほぉー。触れられたくない話題だったのかのう」

「子どもは帰る時間なんだよ」

「おぉ、そうじゃったな。女装・・・・・・の話は、これで終わりにしよう」


 イザベラよ。なぜ、女装の部分を強調したんだ。

 お前、まさかクレアとしての活動を知っているのでは──。


「ワシにとっては、これが本題じゃ」


 さっきまでの流れをブッた切って、別の話をし始めた。

 俺としてはありがたいのだが、何となく解せない。


「テンプレセットとの話か」

「テンプ……アールロセットじゃぞ」

「わかっているさ?」


 なんとなく、語尾に?を付けてしまったが、そこにツッ込まれることなく話は続く。


「決闘は、おんしらの勝ちは決まったようなものじゃが……少しだけ悪さをして欲しいんじゃよ」


 このとき、イタズラを企てる子どものように、桃白金髪ロリが目を輝かせていた。

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