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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第1章 凄い勇者は和の楽園を求める
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俺の仕事はこれからだ! 『すぐに終わる』

 前回のあらすじを書くのなら、ドキッ、イリアちゃん大参事を招く!

 と、あの事件にキャッチフレーズを付けることだろう。

 

 あの事件というのは、もちろん罪深きファイアーエレメント達の氷漬け事件だ。


 イリアめ、意外と大胆なヤツだ。

 まさか、あんなことをするなんて。

 人は見かけによらないというヤツだな。


 などと、イリアの意外な一面を強調した所で本題に移ろう。


 とりあえずイリアやラゼルの頑張りで、炎の大精霊が課した試練も無事に終了した。

 これで、2人は大精霊の加護を受けた武器を手に入れられるわけだ。


 試練の副賞的な出来事もあったんだ。

 なんと、炎の大精霊の部下? である人魂君が、あの事件後に大人しくなった。

 それに、イリアが近づくと人魂の火が奇妙な動きを見せるんだ──惚れたな。


 美少女とはいっても、年齢を考えるとイリアに惚れるのはどうかと思うが本人同士の問題だ。

 冷たい目で見ながら邪魔をしてやろう。


 まあ、冗談はここまでにしよう。

 試練を終えた2人は、さっそく炎の大精霊に報告した。

 人魂君もしっかりと活躍を伝えてくれたので、特に問題はなく話は進んでいる。


「2人ともご苦労だったな。おかげで聖域から目障りなヤツらが消えたわい」


 イリア達を労う炎の大精霊。

 相変わらず、親分と呼びたくなる顔をしていやがる。


「じゃあ、さっそく2人の武器に加護を与えてもらえるか」

「うむ。して、どの武器に加護を与えれば良いのだ?」


 なんか放っておくと、長い話を聞かされる羽目になりそうだから加護の催促をした。

 炎の大精霊が示した反応を見るに、危機は回避されたようだ。


「用意した武器を出してくれ」

「お前に預けてあったよな」

「……そうだったな」


 そう言えば、荷物になるからと俺が預かっていた。

 俺のウッカリさん テヘッ!


「………………」


 心の内でおちゃらけたら、また顔に出ていたようだ。

 数名の視線が冷たい。


「あ、あの。大丈夫ですよ」

「……そうか」


 何が大丈夫なんだイリア。

 それから周りにいる数名。生温かい目で見るな!


「クレスよ。武器を出してもらえんか」

「ああ、悪い」

「……ヤツが謝ったのか」


 炎の大精霊よ、お前もか。

 なんで俺が謝るだけで驚愕の表情をするんだ!


 前世を思い出しても──過去を持ち出すのは藪蛇やぶへびか。

 とりあえず、武器を出して話を終わりにしよう。

 後ろめたい前世かこしか思い出せなかったので、ごまかすことにした。


「この4つに加護をくれ」


 加護を付加してもらうために、地面に敷いた布の上に4つの武器を置いた。

 武器の内訳はこうだ。

 

 イリア

 玉鋼で作った剣

 玉鋼で作った短剣


 ラゼル

 指が動きやすいように加工した、玉鋼製の小手

 玉鋼で作ったナイフ


「ずいぶんと多いが、まあいいだろう。危ないから下がっておれ」

「ああ」


 大精霊に4つも加護をねだるヤツなんて滅多にいないだろう。

 なにせ、信仰の対象にすらなっているからな。

 俺のやったことは、神様に直接会って、いくつものご利益をおねだりするような所業だ。

 しかし、古い付き合いなんだから我慢してもらおう。


「ゆくぞ………………ふんっ!」


 両掌を合わせた大精霊が気合を入れると、4つの武器が眩い光を放った。

 光は赤く、炎の大精霊の加護というだけあって、とてつもない熱量が──燃えている!


 武器の下に敷いた布に引火した。

 これ、どうするんだ。

 武器まで焼けるんじゃないか?

 

 イリアの方をチラッと見ると、不安げな顔をしていた。

 正常な反応だよな。


 ラゼルの方を見ると、期待に目を輝かせている。

 演出か何かだと思っているのか。


 ひょっとして、ごまかせる?


 よし、ここは平然としておこう。


 前世では大勇者だったんだからな。

 この程度のアクシデントは、涼しい顔で乗り越えて見せる!


 燃えている。

 焼けている。

 炎の勢いが増している。


 大丈夫だろうか?

 涼しい顔でやり過ごそうと思ったが、心配になってきた。


 加護をもらった武器に、焦げた跡があったらショックだろうな。


 今からでも止めるべきか。

 いや、もう引き下がることなんて出来るハズがない。

 でも──。


 葛藤を繰り返しながら10分ほど経って、ようやく炎が収まった。

 加護の付与は完了したようだ。

 

「加護は与えた。武器をとれ」


 炎の大精霊の口から威厳ある声が響く。

 この瞬間、俺は見当違いのドキドキ感を味わっていた。

 下手をすれば、この声が処刑宣告になりかねない。


 イリア達は、武器に熱が残っているのを恐れているのか?

 おっかなびっくりと言う感じで、手を伸ばそうとする。

 2人の顔からは、妙な緊張感を感じるな。

 

「安心するがよい。武器に熱は残っておらん」


 炎の大精霊はそういうが、やはり怖いよな。

 先ほどまでよりもは、2人の緊張感が和らぎはしたが、それでも緊張しているのが分かる。

 

 イリアは、戸惑いながらも手を伸ばした。


 ゆっくりと伸ばされた手。

 だが、指先が武器に触れようとしたとき僅かに止まる。

 それでも勇気を出して、彼女は武器を掴んだ。


 ホッとした表情を隠すイリア。

 彼女の剣を見て俺もホッとする。


 どうやら焦げ跡はないようだ。


 よかった。

 本当によかった。


「力を感じる」


 俺が安堵している間に、ラゼルは両手に小手を装備した。

 装備したのは、玉鋼の板を何枚も重ねた上級の小手。

 殴ったときに手を保護できるような工夫が施され、なおかつ指も自由に動かせるというオーダーメイド品だ。


「炎の加護は攻撃的だからな。他の者の加護よりも個性が強く感じ取れやすいのだろう」


 大精霊の加護には個性が存在する。

 炎の加護であれば、イメージ通り攻撃的だ。

 そして虚像の大精霊の加護は、変態──実態の掴めない感じがある。


 ラゼルの小手を見るも、こっちも焼け焦げた跡はない。


 良かった。

 これで一安心だ。


「よかったわね」

「!」

 

 いつの間にか隣に来ていたシルヴィアが、そう耳元で囁いた。

 一番気付かれたくなかったヤツに気付かれていた!


「なにが目的だ」

「そうねーー。じゃあ、これをリーリアに届けてもらえるかしら」


 渡されたのは白い封筒。

 裏には緑の蝋印が施されている。


「明らかに、面倒事を呼び込みそうな封筒だな」

エルフうちの王女様からの手紙だからね」

「なんちゃってエルフからか」

「……それ、本人の前で言わないでよ。あとで面倒なんだから」


 130年前の戦争で、エルフの王女とは会ったことがある。

 なんと言うか────面倒なヤツだった。


「招集令状みたいな物だから、絶対に届けてね」

「絶対に届けないといけないような物を人に任せるなよ」

「私が渡しても受け取らないでしょうからね。それに王女も、あの子の身近な人間を通すように言っていたし……」

「なんで王女直々に召集令状をよこすんだよ」

「えっと……」


 おい、目を逸らすな。

 うちのメイド(自称)と何があったのか気になるだろ!


 むしろ、うちのメイド(自称)が何をしたんだ。

 俺から見ても、アイツの動きは只者じゃないぞ。


「いい加減、リーリアが何をしたか教えてくれないか」

「じゃあ、手紙をお願いね」

「おい!」


 逃げやがった。

 ますます、うちのメイド(自称)が何者なのか謎が深まった気がする。


 *


 無事に加護付きの武器が手に入った所で、他のメンバーには帰らせて俺だけが残った。


 俺には重要な任務があるんだ。


「西だな」

「ああ、西にまっすぐ向かえばあるはずだ。全て持っていってもいいぞ。どうせすぐに溜まるだろうからな」

「助かる」


 炎の大精霊に、俺の望む物がある場所を教えてもらった。

 望む物──その名は温泉。


 日本文化の至宝にして、俺が作る和の楽園に欠かせない存在!

 

「じゃあ、行ってくる」


 俺は黒獅子を呼び出してまたがり走り出した。


 初めて乗ったのだが、かなりのスピードだな。

 周囲が殺風景であるため、景観の変化は少ないが風がすごい。

 風魔法を使わねば、キツイほどだ。


 だが、乗り心地が悪すぎる。

 体が上下に跳ねるせいで、乗り心地が最悪だ。

 しばらくは頑張ったのだが、ものには限度というものがある。


 ヤバイ、リバースする。


 猫形の動物っていうのは、全身をバネにして走るんだっけか。

 瞬発力はあるが、持久力がないとかあるとか。

 しかし、黒獅子は魔力を供給すれば大丈夫だ。

 なにせ魔力で出来た使い魔だからな。


 だめだ、俺が持っている数少ない豆知識で気を紛らわせたが限界だ。


「………………」


 少し休憩した。

 休憩せざるえなかった。

 もうコイツに乗るのは止めようと心に誓った。


 *


 結局、目的の場所まで自分の足で走った。

 全力というわけにはいかないが、十分な速度を出せる。

 黒獅子に乗るよりも、自分で走った方が早いほどだ。


 なら、何で黒獅子にのったかって?

 そういう気分の日もあるということだ。


 リバースしてから2時間ほど走った俺は、ようやく目的の場所についた。


 そこは焦げ茶色の岩に囲まれた場所。

 温泉の湧いた場所には、広くないイメージがある。


 だが、ここは琵琶湖並みに広い。

 向こう岸に見える岩が物凄く小さいんだ。


 これだけの広さなら、全てのお湯を持って帰れば当分はお湯に困らないハズだ。


 肝心の温泉なのだが──かなり高温の湯なのだろう。

 ボコボコと音を立てている。


 ふむ、温泉の効用は、大火傷といったところか。


 まあいい。

 作業を早く終わらせよう。


 俺はアイテムBOXから、勇者コレクションの1つを取り出す。

 コレクションの名前は、”蓄水ちくすい宝珠ほうじゅ”。


 俺の頭ぐらいある水色の水晶で、名前の通り水を蓄える効果がある。

 今回は温泉だが、たぶん大丈夫だろう。


「だありゃああぁぁぁぁぁ!」


 結構重いので、チートを使って遠投する。

 琵琶湖並みに広そうな温泉だからな。

 全力で投げなければ問題はない。

 

「ギャアッ!!!」


 あっ、なんかに当たった。

 ゴンッ。いや、ドゴンッか。

 とにかく凄い音がしたと思ったら悲鳴が聞こえた。


 被害者は、プカ~って浮いている。


 うつ伏せに浮かぶ姿は、水死体にしか見えない。

 殺めてしまったか。


 だが上半身は人間っぽいが、下半身は魚だ。

 人魚は、殺人にカウントされないよな。


 などと考えているうちに、畜水の宝珠が発動した。

 中心部で巨大な渦を作り温泉を取り込んでいく。

 ついでに人魚っぽいのも渦に呑まれているが、今は様子を見よう。


 俺は温泉が無くなるまで、その様子を眺め続けた。

 温泉が人魚の血で魚臭くならないことを祈りながら。


 *


 温泉の全てを、畜水の宝珠が蓄え終わった。

 残ったのは、茶色い岩で出来た湖底と人魚っぽい何か。


 とりあえず畜水の宝珠を回収。


 ついでに、うつ伏せに倒れた人魚っぽい何かを確認した。

 桃色の髪は腰まで伸び、少しウェーブが掛っているな。

 クビレもあるし、体と岩に挟まれて潰れた胸が女性だと主張している。

 これで顔が魚だったら、泣くヤツがいるかもしれない。


 首に手を当てて動脈を確認すると──脈はあるようだ。


 怪我がないか体をチェックする。

 背中に傷はない。

 魚類の部分も大丈夫なようだ。

 

 ただ、頭が少しへこんでいる。


 記憶に障害が残りそうなんだが。

 完全回復魔法で治療をするべきか。

 それともとどめを──。


 ハッ! そうだ、ここは炎の聖域。

 ヤツも見えているハズだ。


「炎の大精霊! こいつをどうしたらいい!!」


 暗雲立ち込める空に向かって叫ぶ。

 ヤツなら、なにか良い方法を知っているかもしれない。


『ただの侵入者だ。止めを刺すなりして処分しておいてくれ』


 ふむ、冷酷な決定が下されたな。

 じゃあ、証拠隠滅といくか。


「来い、ファーウェル」


 名を呼ぶと共に、俺の手へと蒼く輝く剣が空間を超えて呼び寄せられた。

 俺が持つ剣の中でも、最強の剣である神剣ファーウェル。

 俺にできるのは、コイツを使って、お前の苦しみを終わらせてやることだけだ。


「……う、うぅ」


 この状況で意識を取り戻したか。

 無用な恐怖と苦痛を味わうだけだと言うのに。


 幸い、ここは炎の聖域。

 神の監視が届かぬ場所。

 全ての力を持ってお前の相手ができる。


 案ずることはない。

 恐怖は味わおうとも、苦痛は一瞬にも満たぬ瞬間ときで終わる。


「マスターエレメント」


 魔力を暴走状態にして、驚異的なまでに魔力を高めるマスターエレメント。

 確実にコイツの苦痛を消すには、必要な力だ


「……ぃっ、ぁ……た、すけ」


 意識は朦朧もうろうとしているのだろう。

 命乞いはするが、目は濁っており意識の所在は分からない。


「すぐに終わる」

「……ぁ、ぃ…………」


 濁った瞳から流れる涙。

 零れる涙の理由は痛みか恐怖か──だが、それもすぐに終わる。


「発動せよ。完全回復魔法」


 人魚の体を眩い光が包み込んだ。

 使ったのは、ファーウェルを媒体にすることで強化した完全回復魔法。


 これで、お前の苦しみも終わりだ。

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