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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第1章 凄い勇者は和の楽園を求める
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俺は巻き込まれるのを阻止した 『天結の氷剣』

 ここは炎の聖域にある窪地。

 足元に広がるのは、焼け焦げた大地。


 全ての準備を終え、ようやく試練が開始される。


 少し離れた場所まで下がった俺は、イリアの様子を眺めている。

 ファイアーエレメントと対峙するイリア。


 剣を握り直し、呼吸を整えて仕掛けるタイミングを見計らっている。


 ファイアーエレメントの見た目は、子ども程のサイズをした赤い岩。

 ただ剣を振るだけでは、刃が欠けるだけで終わりかねない相手。

 相手の魔力を削って倒すという方法しか取れない彼女は、かなりの緊張を強いられているハズだ。


 それでも、戦いを降りるという選択肢はない。


 彼女が手にした剣からは、淡く青白い光が放たれ始めた。

 その光は、剣に魔力を込めている証。斬撃によるダメージが期待できない今回の敵には、この魔力が勝利の鍵となる。


 そして、剣の光が安定したとき、イリアは動いた。


 地を蹴って走る。

 ファイアーエレメントは、魔法を発動させるため魔力を集めた。


 だが、イリアの方が早い!


「やあああぁぁぁぁぁぁっ」


 剣が振り下ろされて敵に触れる。

 その瞬間、剣の光が一層大きくなった。

 

「………………」


 物言わぬファイアーエレメントは、攻撃のダメージにより後ろへと後退する。


 見かけ上は傷一つけられていないが、実際には敵の魔力が削り取られており、あと3回ほど攻撃を通せば倒せるだろう。

 だが、相手は攻撃を受けるだけのまとでは無い。


「魔法が来るぞ!」


 ファイアーエレメントの色が、一層赤くなったように見えた。

 色の変化は、火属性の魔力によるものだ。


「!」


 一瞬だけ変えた表情に、動揺が見える。だがイリアは、すでに教えられている対処法を忠実にこなそうと動いた。


 イリアは魔法を発動させようと、手に魔力を集める。

 だが、魔法が発動する瞬間、彼女の姿は炎に飲みこまれた。


 まるで火炎放射機のように放射され続ける炎。

 それは、イリアの姿を隠したまま吐き出され続けている。


 周囲を明るく照らす炎は、対処を間違えれば大きな火傷に繋がったことだろう。

 ──魔法が発動してなかったのなら。


 やがて止む炎。


 赤い炎の中に、青い揺らぎのようなものが見えた。

 青い揺らぎの正体。それは、イリアが生じさせた体ほどの大きさのある青い盾。


 彼女は、炎が収まる前に盾を解除し、再び攻撃に移る。


 盾を必要としないほどまでに弱まった炎は、全身を守る障壁だけで十分に防げているようだ。

 イリアは炎の中を走り抜け、再び淡く輝く剣を振り抜いた。


 *


 問題なくファイアーエレメントを倒せたようだ。

 危うい場面もあったが、合格点といってもいいだろう。


 イリアが敵を倒したことを確認した俺は、ラゼルの方を見る。

 彼の姿は、最初に俺が作った石の槍を並べた作の先にあった。


 ラゼルは、心配する必要はまったくなかった。

 ガリウス作”地獄のトレーニングメニュー”に付き合わされていたせだろうか。

 動きに緊張は見られず、うまく立ちまわっている。


 では、2人に実戦を経験させた所で、俺も次の仕事をするとしよう。


「やるぞ」

『こっちの準備はできているわよ』


 ス○ホもどきを使って、シルヴィアへと連絡した俺は走り出す。


「とうっ」


 少し変なテンションになっている俺は、少しふざけながらファイアーエレメントの上へと着地した。

 そのまま、何体もの敵を踏み台にしながら移動する。柵で区切ったその場所に向かって──。


「マスター フレイム」


 目指すのは、窪地の中心部。

 走りながら、魔力を火属性を変えた。

 

「その場所は、熱の力失われし地。何人も凍えることなくとも、火が揺らぎを止めし場所。全てを静かなる安らぎで包みし氷河の象徴がそびえる場所」


 槍で作った柵を飛び越え、窪地の中心部へと到達すると、両手を地面へと手を付ける。


「凍てつく大地の象徴。そのよ、姿を示せ!」


 マイナスの方向へと成長した火の魔力が、白い光となり天へと伸びる。

 だが、この魔法はまだ完成していない。魔法を完成させるのは──


「発動しなさい、氷河の塔」


 窪地を見下ろす位置にいたシルヴィア。彼女の声が響くと魔銃から一発の弾丸が放たれた。


 弾丸は、この魔法を完成させる最後のピース。ただの光でしかない魔力を固定させる術式が組まれている。


 天に伸びた光が、魔銃の弾丸を飲み込むと、姿を変え始める。

 地面から伸びた光に青い線がいくつも入ると、不確かな存在だった光は確かな存在感を持つ氷となった。


 これこそが、氷河の塔。

 それは、氷の塔というべき、天を貫く存在。


 だが、氷河の塔が持つ力が示されるのはこれからだ。


 塔を中心に、蜘蛛の巣のように青い線が広がっていき、窪地全てを包み込む。


 これは、火属性の魔力を弱める結界。

 同時に冷気魔法の力を僅かばかりだが、高めることができる。


 そう、氷河の塔はファイアーエレメントにとって、厄介極まりない魔法なんだ。 


「火属性の魔力は弱めた。これで魔力の吸収による回復能力は弱まったハズだ」


 俺は魔法の効果をイリアとラゼルへと、聞こえるように大声で告げた。


 ファイアーエレメントとの実戦訓練はここまでだ。 

 これから試練の攻略を最優先にした行動が開始される。


 *


 氷河の塔のおかげで、ファイアーエレメントは回復できないハズ。

 だが、200体はいるからな。イリアとラゼルの体力がもつかが問題だ。


「ウォウッ!」


 イリアの後ろから、攻撃を仕掛けようとしたファイアーエレメントは、フェンリルによって倒された。


 少し得意げなその表情は、俺と一緒にいた時には見せなかったものだ。

 俺は嫌われていたのではと、少し悲しくなった。


 アイツがイリアの背中を守っている限り、大丈夫だとは思うが。


 イリアの体力を心配しながらも、ラゼルの方へと目を向ける。

 やはり、うまく立ち回っている。


「だあああぁぁぁぁっ!」


 ラゼルは、改良した小手を付けた右の拳を敵へと打ち込む。

 続いて左手の拳を打ち込み、さらに右の拳をと、次々に攻撃を加えていく。

 ガリウスに鍛えられてきただけあって、俺の目から見ても無駄が少なく良い動きだと思う。

 危なげのない動きであり、心配をするだけ損なほどだ。


 だが──。


 やはり体力が減ると、今のようにはいかなくなる。

 ガリウスなら、その辺りの対策も仕込んであるのだろうが。


 短期決戦に持ち込むか、それとも時間をかけて撃破していくか。


 どちらを選ぶべきかだが──────。


「イリアッ! 合図をしたら、俺に向けて大技を使え」

「えっ」


 長期戦は、数の上でも体格の上でもコチラが不利だ。

 なら、短期決戦を目指した方が良いだろう。


 *


 俺が指示を出すと、イリアがよそ見をした。

 嬢ちゃん、よそ見をしていたら危ないぞ──などと、ふざけたセリフを吐く間もなく俺は行動を開始する。


 俺が氷河の塔で行うべきこと。

 それは、餌をばら撒いて敵を集めることだ。


「マスター フレイム」


 炎の魔力を展開させ、周囲に魔力を広げた。


 氷河の塔の効果によって、この場に置ある火属性の魔力はかなり弱まっている。

 そして、炎の魔力を吸収して回復できる点から分かるように、ファイアーエレメントにとって火属性の魔力はエサのようなものだ。

 さぞ、ヤツらは火属性の魔力に飢えていることだろう。


「さあ、来い。俺の魔力はうまいぞ」


 やはり飢えていたようだ。

 ファイアーエレメント達は、ワラワラと俺の方に寄ってきた。

 しかし、柵のように張り巡らされた石の槍によって、一定以上は近づけずに押し合いのようになって……。


「はっ?」


 予想外の出来事が起こった。

 あまりにもファイアーエレメントが集まり過ぎたせいか、石の槍が悲鳴をあげ始めている。


 まるで、人気アイドルを目の前にしたファンが、柵を破壊するほど押し掛けているかのようだ──。


 しかも、イリアがいた場所にあった石の槍だけでなく、ラゼルがいる方の槍からも悲鳴が。


 これ、やばいパターンじゃないか?


 どうする?

 いますぐやめるか?

 それとも、続ける?


 元々は、イリアの区画にいたファイアーエレメントだけを、大技で一網打尽にするつもりだった。

 この場合は数が少ないので、逃げることも可能なハズだった。


 だが、現状はどうか?


 全ての槍が壊れた場合、前後左右360°から敵が押し掛けてくることになる。


 よって──

 全ての槍が壊れる→一斉に襲いかかってくる→イリアが大技を放つ→俺は逃げ場がなく巻き添え


 ………………

 …………

 ……


 よし、やろう!


「シルヴィア! 槍の解呪を行ってくれ!!」


 指示を出すと、シルヴィアは石の槍を無効化するための詠唱を開始する。

 こっちは、任せておけばいいだろう。


「イリア! ファイアーエレメントが俺に押しかけたら、大技を使って一網打尽にしろ!!」


 魔法を利用して声を届ける。

 声は──届いたようだ。大技の準備を開始したようだからな。

 

 イリア、タイミングを間違えないでくれよ。

 アレに巻き込まれたら、俺もキツイからな。


 *


 周囲にいた全てのファイアーエレメントが、俺の下に殺到したため、イリアは安心して全力を出す準備を始めた。


「フェンリルよ、その意思を私と一つに」


 イリアがフェンリルへと語りかけると、銀色の魔狼はその体を青い光へと変えた。


 それは使い魔を構成する魔力が、狼の形に留まるための拘束を解いた証であり、使い魔に使われている膨大な魔力を、攻撃に転用する合図でもある。


「知りなさい魔狼が示す極寒の世界を。真なる氷河の世界を」


 一層の青く冷たい光を放ったフェンリルの体は、光そのものとなりイリアの剣へと吸い込まれていく。


 剣へと吸い込まれた魔力は、強力な冷気の魔力。

 周囲は冷やされ、空気中の水分が雪となって舞い落ち、徐々に足元を白く変えていく。


「天を焼く太陽すら凍え、温もりを失いし世界は、永遠に時を止める」


 瞳を閉じて唱えられる言葉。

 敵の無い戦場では、その言葉を止める者は誰もいない。

 

 イリアの剣に集まったのは膨大な魔力。

 本来、人が目にすることすらあるはずのない、恐ろしいまでの質を持った魔力。


「行きます」


 彼女が目を開くと、剣の光は激しい物へと変わる。

 

「天結の氷剣!」


 横一線に剣を振り抜くと、極寒の風が大地を走り、青い光が空を照らした。

 形無き脅威はそこで(つい)え、形有る脅威が姿を見せる。


 形有る脅威。

 それは氷。


 透き通った氷が、広大な大地を喰らい尽していく。

 焼け焦げた大地も、辺りを埋め尽くしていた敵も、何もかもを喰らって成長を続けていく氷。


 最後に、氷の大地だけが残った。


 大地の上に在った全てが氷に閉ざされた。

 ファイアーエレメントもまた、大地を覆い尽くす氷の下に閉じ込められている。



 その恐るべき威力に、イリアは思考を凍りつかせて呆然と立ち尽くしていた。


 *


「天壊」


 イリアの恐るべき攻撃を前にしながらも、襲い来る魔力の一部を斬ることで、俺は巻き込まれるのを阻止できた。


 空へと跳んで降りると、靴に触れたのは氷。

 辺りは氷に包まれており、百体近くのファイアーエレメントが飲み込まれている。

 遠くでは、剣を振り抜いた状態のイリアが硬直していた。


 自分の作り出した惨状を、頭が受け入れることを拒否しているのだろう。


 イリアよ、自分の作り出した惨状の受け入れを脳が拒むのは、チートの特徴だ。

 お前もリアルチートガリウスの世界に片足が突入したな──ご愁傷様。


 とは言っても。


 本来であれば、これほどの威力は出ない。

 この惨状が生じたのは、氷河の塔が持つ効果もあるが、ここが炎の聖域という点も大きいのだろう。


 炎の聖域に満ちる火属性の魔力。

 それを熱の魔力として扱えば、冷気魔法に使えるからな。

 

「やっぱ、凶悪すぎるよな」


 俺が見下ろす氷の中には、赤い色を失ったファイアーエレメントが多く存在している。


 ヤツらにとって赤い色を失うことは、魔力の喪失を意味する。


 イリアの大技を喰らった影響もあるだろう。

 しかし、止めは間違いなくこの氷の特性によるものだ。


 この氷には触れている者の、魔力や生命力やらをドンドン奪っていく特性がある。しかも、この氷は結界のような働きもするから、閉じ込められたヤツの魔法を封じてしまう。


 このため、魔法で大技を防いでも、体も動かなければ魔法も使えないという状況になる。対応策があるからこそ、俺ごと大技の餌食にしろと言ったのが、大概は凍えて死ぬことになる。


 でもな、俺が使っていた頃には、魔法を封じるなんて効果はなかったんだ。

 なんで、イリアが使うようになって凶悪ぶりが増したのだろうな。


 イリアの本性が技に出ているとか──。


 チラッとイリアの方を見ると、ようやく動き出した彼女が見えた。

 肩で息をしているのは、大技の疲労が原因か、惨状を作り出したことへの精神的負担ゆえか?


 考えるのはやめておこう。


 とりあえず、彼女の才能が技の威力を高めたことにしておこうと思う。

 日々、酷い扱いを受けることの多い俺にとって、イリアの優しさは数少ない癒しなんだ。彼女の本性を疑ったら、俺の頭皮が心配なことになる。


「っ」


 などと、勝手に結論を出そうとしていると、シルヴィアに足元を狙撃された。

 思わず睨むと──ヤツは手をバタつかせて踊っていた。


 なにやってんだ、アイツ。


 不審な行動をするバカ友。

 その様子を見ていたら、次にヤツがとった行動で何を言いたいのかが分かった。

 

「忘れていた」


 シルヴィアは魔銃で、ラゼルに群がるファイアーエレメントを牽制したんだ。

 そうか、踊っていたのは、ラゼルのことを知らせようとしていたんだな。


 いや、感心している状況じゃない!


 群がっているヤツの数が多すぎる。

 このままだと、ファイアーエレメントにラゼルが押しつぶされかねない。


「イリア、息を整えたらラゼルの方に!」

「は、はい!」


 さすがに大技を使った彼女を、今すぐ動かすわけにはいかない。

 俺はラゼルを援護するために走り出した。

これで戦闘回は終了です。

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