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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第2部×第1章 凄い勇者は和の楽園を求める
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俺は温泉……もとい、大精霊の加護を求める 『凄い場所ですね』

 ここはデーメグル火山地帯。

 炎の大精霊が住まう、聖域の1つ。


 しかし聖域とは名ばかりで、周囲を見回して目に移るのは、地獄と表現した方が良いと思える光景。


 地面は焼け焦げたかのような、赤茶色の岩盤に覆われ、少し遠くに視線を向けると、赤銅色に輝くマグマの川が流れている。

 

 なぜ、このような場所に俺はいるのか?


 それは、イリアとラゼルに、大精霊の加護が付いた武器を与えるためだ。


 数年前、イリアは代償を支払って加護付きの武器を手に入れたが、その武器も長年使い続けたことで限界が近づいている。

 ラゼルに関しては、加護付きの武器その物を持っていない。


 よって勇者を目指す2人に、加護付きの武器を与えようということになったんだ。


 最初は、虚像の大精霊に頼もうとしたが、涙ぐんだイリアが必死に拒んだのでやめた。彼女の表情を見た俺は、何かに目覚めそうになったが、今となっては良い思い出だ。


 *


「もう少しだ」

「はい」


 歩き続けて、体力を消耗しているであろうイリア。

 先頭を歩く俺は彼女に声をかけた。


 返ってきたのは、疲れを滲ませた声。

 その声を聞き、他のメンバーの疲れが気になり、後ろを振り返る。


 ラゼルの顔にも疲れが見えるが、爽やかな汗を流すだけで、大きな問題はないようだ。

 シルヴィアは、旅慣れていることもあり涼しい顔をして歩いている。

 ガリウスに関しては──このリアルチートなら、マグマの川に突き落としても平気そうだ。


「キツイな」


 ラゼルは汗を拭いながら愚痴った。

 その姿は、まさしく爽やかイケメン。まさしく男の敵。

 地球であれば、いずれは”リア充爆発しろ”という名言を授けられたことだろう。


 まあいい。そのイケメンぶりは、勇者ギルドの宣伝に役立つだろうからな。


「がんばってくれ」

「あ、ああ」


 ふっ、俺の励ましが、お前の将来に対してだとは思うまい。


「………………」


 なんかイリアが怪訝な表情で俺を見ていたが、そちらを見ると即座に顔を背けた。


(また、考えが顔に出ていたか)


 イリアが目を背ける程ということは、よほどのドヤ顔をしていたのかもしれない。

 そんなことを考えると、表情筋がムズムズしてきた。


「なにしているんだ?」

「表情筋のマッサージ」


 とりあえず、顔に手を当て表情筋をマッサージしてみた。

 マッサージしてほぐすと、考えに表情筋が反応しやすくなる気もするが、他にすることもないし頑張ろうと思う。


「………………」

「なんだ?」


 シルヴィアが俺をジッと見ている。今さら、俺の美貌に気付いたのだろうか?


「人と話す時は、顔のマッサージをやめなさい。イラっとするから」

「そうか」


 振り返ったとき、シルヴィアの眉毛がピクンと動いた瞬間に寒気がした。

 指摘通り、マッサージを終わりにした方が身のためかもしれない。


「で、なんだ」

「ほっぺたを引っ張らせて」

「なんでそうなる」

「柔らかそうだったから」


 なんか、目の前に新しいおもちゃを置かれた子どものような目で俺を見るシルヴィア──要求を飲むのは、危険な気がする。


「そろそろ、魔法をかけ直すか」

「ほっぺを……」

「さ、魔法をかけ直すぞ」


 シルヴィアの言葉を強制的にさえぎり、俺は魔法のかけ直しを開始する。

 かけ直すのは、”マスター フレイム”を応用した温度を下げるための魔法。


「冷気よ」


 魔法を発動させると、メンバーの障壁に冷気魔法が干渉する。

 そのことを証明するかのように、一瞬だけメンバーの障壁は青白くなるが、すぐに元の色へと戻った。


 これで魔法のかけ直しは終了だ。


 なぜ火属性になる”マスター フレイム”で、冷気魔法を使えるかって思ったか?


 火属性というのは、熱属性だと考えてもらえればいい。熱を増やせば火になり、熱を減らせば冷気になる。


 だが、冷気魔法って、殺傷力が火魔法よりも低い傾向があるんだ。

 それに空気を冷やして動きを鈍くする方法もあるが、一定以上の障壁を張ると簡単に防がれる。


 だから、火魔法で温度を下げるよりも、別の方法で冷気を生じさせるヤツが多い。


「ほっぺを……」

「もうじき着くハズだ。行こう」


 シルヴィアは、プニプニほっぺに執着しているが、相手にしない方がいいだろう。俺は彼女を相手にすることなく、先に進むことにした。


 この場所が聖域であるため、モンスターはでなかったが、魔法をかけたとはいえ暑さとの戦いは避けられない。


 それにマグマが川のように流れているような場所だ。靴の裏から熱が伝わるため、足の負担が普通の地面に比べて大きい。


 よって、足が疲れる!


「俺もキツくなってきた」

「私も……」


 思わず出た俺の愚痴に、イリアが賛同した。

 足に熱が伝わるほど地面は熱されているため、足が疲れても座るわけにはいかない。


 大きめの氷でも作って、その上に座ろうかとも考えたが、お漏らししたように、ズボンが濡れるだろうからやめた。


「見えて来たわよ」


 シルヴィアが指差したのは、茶色い地面が続く遥か先。そこには、赤銅色の灯りが地面から広がっている。


 ようやくゴールが見えてきた。

 だが、平地で遥か遠くに見える場所だ。

 辿り着くには、あと何時間かかることだろうか?


 少し、気が遠くなった。


 *


 あれから1時間と少し歩いて、ようやく目的地についた。


「……凄い場所ですね」


 顔を引きつらせながら、目の前の光景の感想を述べるイリア。

 彼女の感想も無理はないことだろう。


 ラゼルも少しだけ顔を引きつらせている。

 だが、男心に来るものがあるのだろう、少しだけ嬉しそうだ。


 目の前には、赤銅色に輝く巨大な湖。

 ようはマグマの湖だ。こういうゴツイのは男が好きだからな。もちろん俺も好きだ。


 ついでにガリウスも、少しだけ嬉しそうにしている。ヤツもこういうのが好きなのだろう。大人になっても、子ども心を忘れないカッコいい大人と言えるかもしれない──戦闘狂ではあるが。


「結界は張っておくから、遠慮なく呼びなさい」

「おう」

 

 シルヴィアの言葉に、早速俺はヤツを呼び出すことにした。


 アイテムBOXから、黄金に輝く大精霊のネックレスを取り出す。

 コイツは大精霊に謁見を望む者が着たことを伝えるアイテム。


 右手に持ったそれを頭上に掲げると、目の前に広がる灼熱の色を放つ湖に渦が広がると、その中心部から渦が広がり、湖全体が激しく騒ぎだす。


 粘度を無視して水のように暴れるマグマ。

 それは、やがて湖から溢れだし、そびえる塔のように天に向かって伸びた。


 不自然に天へと伸びた物は、やがて重力に引かれて地へと落ちる運命にある。


 マグマの塔もまた、この例にもれず地へと落ちていったが、上空には1人の男の影が残っていた。


 ゆっくりと男の影は降りてきて、その姿がハッキリと認識出来た。

 髪は燃え盛る炎のように赤く、皮膚が赤銅色の強面の男性。彼こそが炎の大精霊。


 いや、今は彼の紹介など、どうでもいいことだろう。

 今の俺らにとって重要なのは、ヤツの紹介ではなく、先ほど塔のごとく天に伸びたマグマの副産物だ。


 先ほど、大量のマグマが空に上ったわけだが、その全てが湖にかえったわけではない。


 湖の外側に落ちるマグマもあるわけで──現在、雨のようにマグマが降り注いでいる。


「おおおおぉぉぉぉ!!」


 ラゼルが、後ろで騒いでいる。

 もちろん宙に飛んだマグマが、雨のように降り注いだからだ。

 赤く光る雨に当たれば、濡れるだけでは済まないからな。


「大丈夫よ。結界を張ってあるから」

「お?!」

 

 一生懸命に逃げようとしていたラゼルだったが、シルヴィアの言葉で我に返った。

 

「お、おぉ」


 恥ずかしそうに、ラゼルは衣服を正すのだが、その姿すら絵になるから俺は軽く嫉妬を覚えた。

 だが、嫉妬心に流されるわけにはいかない。ラゼルには、勇者ギルドの看板になってもらわないといけないのだから。


(沈まれ、俺の嫉妬心。沈まれ、俺の嫉妬心。沈まれ、俺の嫉妬心。沈まれ、俺の嫉妬心。沈まれ、俺の嫉妬心。沈まれ、俺の嫉妬心……)


 厨二っぽい言葉を心の中で何度も唱え、俺は嫉妬心を抑え込むことに成功した。


(暴走する嫉妬心を抑えるとは、俺も成長したものだな)


 己の成長に満足した俺は、周囲の状況に意識を向ける。

 すると、先ほどイリアは、マグマの雨が降り注ぐ状況で、声一つ上げなかったことに気付いた。

 

(俺が思っている以上に、イリアは胆力があるのかもしれないな)


 と、感心しながら、イリアの方を見ると──


「………………」


 涙目だった。

 シルヴィアの服の裾を掴み、小刻みに震えている。

 どうやら恐怖のあまり、声一つ上げられなかっただけらしい。


(まあ、これが普通の反応か)


 続いて、ガリウスの方を見ると。


「ふむ」


 平然としていた。

 コイツなら飛んできたマグマを、素手で何とか出来たかも知れない。

 だが、ガリウスのようになったら、人間として色々とダメな気がする。


「なんだ?」

「いや、なんでもない」


 少し、人について考察する時間が長すぎたようだ。

 時間を忘れて、リアル・チートガリウスを熱い視線で見つめすぎた。


「ほら、取引相手を待たせちゃだめよ」

「そうだな」


 この中で、シルヴィアだけが常識人的なポジションになっている気が……。

 そのことが少し気にいらないが、炎の大精霊との話に入る。


「ガッハッハッハ。大精霊の我を前にして、身内の会話を優先するとは、相変わらずのようだな。スバルよ」

「お前も、変わっていないようだな! ……っ


 豪快な大精霊おっさんに、俺も裏表のない言葉で返す。

 そんな俺の頭に走った衝撃。それはシルヴィアの振り下ろした拳によるものだった。この拳は大精霊に敬意を示せっていう意思表示だろうか?


「それで、今回は何の用できたんだ?」

「この2人に、お前の加護を与えた武器を与えて欲しくてな」

「……ほう、素質が中々成長しているようだな」


 2人の顔を覗き込みながら、素質について語る炎の大精霊。

 その目には、興味の色が見える。


「俺のダンジョンにでも挑戦させるか?」

「焼け死ぬから、それはナシだ」


 炎の大精霊に限らず、他の精霊たちも多くがダンジョンを持っている。

 この炎の大精霊のダンジョンは、普通の人間が挑戦すれば、焼け死ぬか干物になるかのどちらかの未来しかない。


「2人の武器に加護を与えて欲しいだけだから、もう少し難易度を下げてもらえないか?」

「そうだな……なら、モンスター退治でもしてもらおうか」

「倒すのは、どんなモンスターなんだ」

「あの火の麓で、ファイアーエレメントが大量に発生してな。ソイツの討伐を頼みたい」


 炎の大精霊が指を向けた先には大きな山。

 その麓からは、距離があるにも関わらず、多くの魔力を感じられた。

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