俺は原点を振りかえる 『立派な考えだと思います!』
~世界樹の森にて~
剣が交差し、金属音が森に響く。
放たれた炎と冷気の魔法がぶつかり合うと、周囲を突風が駆け抜ける。
俺とイリアは、実戦を想定した訓練をしていた。
「はぁっ」
再び剣を振るうイリアに、俺も剣を合わせ、再び森にが金属音響かせる。
「腕を上げたな」
「ええ」
鍔迫り合いとなり、剣を握る手に力が入る。
男性か女性かで、筋力の違いは生じるものだ。
しかし、俺とイリア程度のの年齢であれば、筋力に大きな違いはない。
ついでに言えば、チートを抑えてあるので素の力の身で俺は戦っている。
だから素の技術で、俺たちはぶつかり合っているわけだ。
「だが」
「?」
「足元が疎かになっている」
俺の言葉と同時に、足元の地面から光が噴き上がる。
足を使い地面の土に干渉しての魔法だ。
威力はないが、人間相手になら隙を作ることぐらいは出来る。
「……」
「俺の勝ちだな」
魔法で作った水色に光り輝く剣を、俺はイリアの首に当てた。
「いえ」
「引き分け……だったか」
吹き出ていた土が収まると、ナイフが俺の腹に向けられていた。
隙を作るために使った俺の術が利用されたようだ。
「やっと私の剣が届きましたね」
肩の力を抜き、イリアは笑顔になった。
チートを抑えているとはいえ、引き分けに持ち込まれるとはな。
ここまで育てた俺はさすがだ!
──と、言いたいところだが、さすがなのはイリアだ。
俺はあくまでキッカケでしかない。
そのキッカケをチャンスに変えて掴んだんだ。
イリアのこれまでを認めざるえないだろう。
「少し追いつかれたみたいだな」
「やっと遠くに背中が見え始めたくらいでしょうか?」
「そうだな……」
こっそり訓練を行って突き放そう。
師としての立場が危なそうだからな。
「こっそり訓練するとかは無しですよ」
「わかっているさ」
読まれていた。
さすがに付き合いが長いだけある。
「でも、やっぱりクレスは強いです」
「まあ、簡単に追いつかれたら俺の立場がないからな」
「それもあるのですが、クレスは目指していることにまっすぐに向かっています」
その目指していることって、勇者の仕事をイリアに押し付ける事なのだが。
一度も言ったことはないような気が──嫌な予感が。
「なあ、イリア」
「はい?」
ここは問いただしておいた方が良いだろう。
どうも、嫌な予感が抜けない。
「俺が何を目指しているのか、言ったことってあったか?」
「いえ、でも私はクレスをすっと見てきたので……い、いえなんでも」
「付き合いも長いしな」
「そ、そうですね」
「うん?」
周りを見ると、先ほどまで訓練をしていた連中が俺の方を見ている。
ニヤニヤした顔がムカつくのだが。
「な、なにかありましたか!?」
「いや、あいつらがニヤニヤしているのがムカつくな~と思ってな」
イリアは、”俺を見てきた”と、言った辺りから何故か慌てている。
慌てているせいか顔も少し赤い。
「気になさらない方がいいですよ!」
「そうか?」
ニヤついていたヤツらを見ると、再び訓練を開始していた。
だが、シルヴィアとコーネリアが、こちらをチラチラ見ているのが気になる。
(これ以上、考えても仕方ないか)
気になるのだが、これ以上の詮索は無意味かもしれない。
「え~と、何について話していたっけ?」
「えっ? あっ、クレスが何を目指しているのか話したことがあったか、です」
すごく勢いのある返事だ。
なにかを誤魔化そうとする時のような──。
そこは指摘しないようにしようと思う。
誤魔化そうと思うことを、ムリヤリ聞きだして嫌われるのは嫌だからな。
「そうだったな。そんな話をしてイリアが俺を見て……」
「い、いえ。それはもういいんです!」
バッサリと、話はもういいと言われてしまった。
ひょっとして、俺の目的に興味がないのだろうか?
少し悲しい。
「クレスは、勇者になった人が活動をしやすくしたいのですよね!」
「ああ、そうだ……な?」
確かに俺は勇者ギルドを作って、勇者の活動を支援したいと考えている。
勇者が活躍すれば、俺に仕事が来ることもなくなろうしな。
それに活躍しやすい場を作れば、イリアたちの仕事も安全性が増すだろうし。
「あと、私みたいに勇者を目指す人を育てているんですよね」
「うん? そうだ……な」
これが一番重要だ。
イリアが優秀な勇者になれば、俺の能力がバレても目立たないだろうからな。
と、いうかこれが最初の計画だったはずだ。
最近は忘れがちだが──。
「ですから、勇者の活躍を通して世の中を良くすることを、クレスは目指しているのですよね!」
「えっ」
あれ?
俺は勇者をやりたくないだけのハズ。
なんで、そんなに立派な目標になっているんだ?
「クレス?」
「……そうだ、勇者は特に目立ちやすいからな。彼らが活躍すれば影響力が高いんだ。だから勇者が活躍すれば世の中も良い方向に向かうのではないかと考えている」
「立派な考えだと思います!」
思わず、もっともらしいことを言ってしまった。
イリアが俺に向けてくれる、尊敬の念がこもった視線を失いたくなかったんだ。
(大変なことになったな……)
勇者の仕事を押し付けるという当初の目的。
それが、世界を変えるというとんでもない目的に変わってしまった。
普通に勇者をやっていた方が良かった気が──。
これで第一部は終了です。
ありがとうございました。
第二部は、このまま書き続けるか、気持ちを切り替えるために新規小説作成して書くか今のところ不明です。
新規作成する場合は、今回の話の後に別の話を投稿する形でご報告させて頂きます。
新規作成しない場合は、そのまま書き続けることに……(;´▽`A``




